人口問題協議会・明石研究会  国連世界人口推計をどう読むか ―国連人口部「世界人口の見通し(2015年版)」―(前編)

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2015.9.15

世界人口は28年前の1987年に50億人に達し、2015年の現在73億人を超えています。今後世界人口はどのように推移していくのでしょうか。
国連は7月29日に「世界人口推計2015年版」を発表しました。今回の推計は国連がほぼ2年おきに発表している人口推計の最新版です。世界人口は依然として増加傾向にあり、特にアフリカ諸国が高い人口増加率を示しています。人口構成では開発途上諸国で巨大な若者人口を抱えつつも、どの国にも例外なく人口高齢化の波が押し寄せています。
2015年8月26日に開催した研究会では、国立社会保障・人口問題研究所名誉所長(人口問題協議会代表幹事)の阿藤誠先生に以下の内容でお話しいただきました。

  1. 世界人口の増加は終焉を迎えつつあるか
  2. 地球規模の高齢化の進行
  3. 人口転換-出生率低下が決め手
  4. 近年、世界人口推計の上方修正が続く理由

主要資料:
United Nations Population Division, World Population Prospects, the 2015 Revision (http://esa.un.org/unpd/wpp/)

講演の概要は次のとおりです。

1.世界人口の増加は終焉を迎えつつあるか

今回の「国連世界人口の見通し(2015年版)」は、国連人口部が2013年に発表した「世界人口推計2012年版」に続くもので、呼び方を「2015年版」としている。

世界人口は世紀末に110億人を超える
  1. 世界人口は2015年現在73億人。過去10年間で10億人増加した。今後15年で10億人強増加し、 2030年に83億人、2050年には97億人、2100年には112億人に達する。
  2. 2100年までの世界人口増加(38.6億人)のほぼすべて(38.4億人)は途上地域で起こる。
  3. 途上地域の中でも後発途上諸国(48カ国)の増加は大きく、2015年の9.5億人から2050年の19億人、2100年の32億人に増加する。
図表1.世界人口・開発水準別人口の推移と見通し(出生率中位推計による)

Source: United Nations Population Division, World Population Prospects, the 2015 Revision (http://esa.un.org/unpd/wpp/)

注:先進地域は北米、ヨーロッパ、日本、オーストラリア、ニュージーランドを含む地域、開発途上地域は先進地域以外の地域(UN Statics Division homepage)。後発開発途上諸国(LDCs)は、国連開発政策委員会(CDP)が3基準(内ひとつは1人当たり国民総所得が1035ドル(2015年))未満)に該当すると指定した48カ国(UN DESA DPAD homepage)。

図表2.開発水準別人口増加率の推移(出生率中位推計による)

①世界全体の人口増加の勢いは1960年代の後半(年率2.06%)をピークとして弱まってきており、直近(2010~15年)では年率1.18%(8300万人)である。
②世界人口は、今後世紀末までにゼロ成長に近づいていくが、後発途上諸国の増加率は大きく直近でなお2.38%である。

Source: 図表1と同じ。

図表3.出生率仮定値別世界人口の見通し

将来人口は出生率の違いによるところが大きい。
2100年における世界人口は、出生率中位推計の112億人に対して、出生率高位推計では166億人、出生率低位推計では73億人と大きな違いが出る。

Source: 図表1と同じ。

出生率の仮定値:
出生率中位の変化の方向としては、①置換水準を上回る国は、合計出生率(TFR)は低下を続け、一度1.8ぐらいまで低下し、その後置換水準に戻る。
②置換水準を下回る国は、TFRは上昇を続け、いずれ置換水準に戻る。
出生率高位=中位のTFR+0.5
出生率低位=中位のTFR-0.5

図表4.世界の主要地域別人口増加率の推移(以下はすべて、出生率中位推計に基づく)
アフリカの人口増加率が著しく高い
  1. 主要地域別には、アフリカの人口増加率は直近で年率2.55%であり、アジア、ラテンアメリカ・カリブ海地域(以下、ラ米と略す)を大幅に上回る。
  2. ヨーロッパはおよそ10年後、アジア、ラ米は2060年前後に人口減少が始まるが、アフリカは今世紀中人口増加を続ける。

Source: 図表1と同じ。

世界の主要地域別人口

アフリカは最大の人口増加地域である

  1. 最大のアジア人口(2015年で43.9億人)は2057年の52.9億人をピークに減少を始める。
  2. それに対して、アフリカの人口は直近の11.9億人から急激に増加を続け2100年には43.9億人に達し、アジア人口に接近する。
  3. ヨーロッパ、ラ米の人口は今後減少時代に入るが、北米の人口は増加を続ける。

アジアの主要地域別人口の特徴は次のとおりである
アジア人口の動向は多様であり、最大の南アジアは2069年まで増加を続けるのに対して、東アジアは2027年にピークに達し、その後大きく減少する。西アジアは増加を続ける。

図表5.世界の主要地域別人口割合

アフリカの人口シェアが増大し、直近ではアジアは世界人口の59%を占め、アフリカは16%にとどまるが、2050年には54%対25%、2100年には44%対39%となる。

Source: 図表1と同じ。

世界の人口大国の動向
  1. 人口大国の動向をみると、今日人口ランキング1位の中国(13.8億人)は2028年に14.2億人でピークに達し、以後2100年の10.0億人まで減少する。
  2. 2位のインド(13.1億人)は2021年中に中国を上回り、2068年17.5億人まで増加を続け、その後減少に転ずる。
  3. 今日7位のナイジェリアの人口(1.8億人)は2050年には 4.0億人で3位、2100年には7.5億人となる。
図表6.人口規模順位別国名および人口(1950;2015年;2050;2100年)
  1. 人口規模で世界のトップ10(トップ20)は、1950年には今日の先進国が日本の5位を含めて6カ国(9カ国)を占めたが、2015年には2カ国(4カ国)になり、2050年には1カ国(3カ国)になる。日本の人口は、2015年に11位、2050年に17位、2100年に30位となる。
  2. アフリカは、1950年に0カ国(2カ国)、2015年にナイジェリア1カ国(4カ国)、2050年にナイジェリア・コンゴ民主共和国・エチオピアの3カ国(7カ国)、2100年にはナイジェリア・コンゴ民主共和国・タンザニア・エチオピア・ニジェールの5カ国(10カ国)となる。
1950;2015年    (単位:100万)
順位 国/地域 1950年 順位 国/地域 2015年
1 中国 544 1 中国 1376
2 インド 376 2 インド 1311
3 米国 158 3 米国 322
4 ロシア 103 4 インドネシア 258
5 日本 82 5 ブラジル 208
6 ドイツ 70 6 パキスタン 189
7 インドネシア 70 7 ナイジェリア 182
8 ブラジル 54 8 バングラデシュ 161
9 英国 51 9 ロシア 143
10 イタリア 47 10 メキシコ 127
 
  11 日本 127
  世界 2525   世界 7349
2050;2100年    (単位:100万)
順位 国/地域 2050年 順位 国/地域 2100年
1 インド 1705 1 インド 1600
2 中国 1348 2 中国 1004
3 ナイジェリア 399 3 ナイジェリア 752
4 米国 389 4 米国 450
5 インドネシア 321 5 コンゴ民主共和国 389
6 パキスタン 310 6 パキスタン 364
7 ブラジル 238 7 インドネシア 314
8 バングラデシュ 202 8 タンザニア 299
9 コンゴ民主共和国 195 9 エチオピア 243
10 エチオピア 188 10 ニジェール 209
 
17 日本 107 30 日本 83
  世界 9725   世界 11213

2.地球規模の高齢化の進行

開発水準別メディアン年齢

現在地球規模の人口高齢化が進行している。

  1. 世界人口は一時若年化したが、その後は高齢化が続く。世界人口のメディアン(中位数)年齢(すべての人口を年齢順に並べ、ちょうど半数に分ける年齢)は1970年の21.5歳を底にして上昇し、2015年に29.6歳となった。今後も上昇を続け2100年には41.7歳になる。
  2. 先進地域はすでに相当高齢化が進んでいる(2015年で41.2歳)。後発途上諸国の人口はまだ著しく若いが(2015年で19.7歳)、今後高齢化が進む。
図表7. 世界の主要地域別メディアン年齢
アフリカの人口はなお著しく若い
  1. 主要地域別には、アフリカの2015年のメディアン年齢は19.4歳と低く、2050年でも24.8歳の若さである。
  2. アジア、ラ米は1970年代の若い人口から急激に高齢化が進み始めており、2050年を過ぎると先進地域に近づく。

Source: 図表1と同じ。

図表8.人口ピラミッドの推移
(1)世界人口:1950,2015,2050

Source: 図表1と同じ。

図表9.世界の主要地域別年少(0~14歳)人口割合
-アフリカのみ子ども人口の割合が著しく高い-
  1. 年少人口割合は現在先進地域(ヨーロッパ、北米が中心)で15~20%、途上地域で25%前後であるが、今後ともに15%前後に収斂していく。
  2. 後発途上諸国、アフリカはなお40%を超えるが、今後減少に向かう。
    この地域では、巨大な若者集団(youth bulge)の存在が大きな問題となっている。

Source: 図表1と同じ。

図表10.世界の主要地域別生産年齢(15~64歳)人口割合
-アジア、ラ米は現在人口ボーナス期-
  1. 生産年齢人口割合は、先進地域ではすでに低下が始まっているが、アジア、ラ米ではこれから高い時期(人口ボーナス期)が続く。
  2. 後発途上諸国、アフリカの生産年齢人口割合は低く、人口ボーナス期は今世紀半ば以降であろう。

Source: 図表1と同じ。

図表11.世界の主要地域別老年(65歳以上)人口割合
-アジア、ラ米では今後高齢化が急激に進む-
  1. 先進地域(ヨーロッパ、北米が中心)では老年人口割合(高齢化率)が15%を超えているが、今後も上昇が続く。
  2. アジア、ラ米では高齢化率はまだ低いが、今後急激に進行する。アフリカの高齢化率はなお極めて低い。

Source: 図表1と同じ。

世界の高齢化国と若年国のトップテン(メディアン年齢による)
  1. 世界の高齢化トップテンに入るアジアの国は、1950年ゼロ、2015年2カ国、2050年には5カ国となる。
  2. 若年国トップテンに入るアフリカの国は1950年に2カ国、2015年以降は10カ国すべてである。
図表12. 中国とインド:年齢3区分別人口割合の推移
-中国は人口ボーナス期のピーク、インドはこれから-
  1. 巨大人口国のうち中国は、現在、子ども人口割合が20%以下、老年人口割合が10%で、人口ボーナス期のピークにあるが、今後高齢化が急速に進行するため、人口ボーナスが急速に失われる。
  2. それに対してインドは、今後子ども人口割合がさらに低下するとともに、人口ボーナス期の最盛期を迎える。

Source: 図表1と同じ。

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