「母子継続ケアとUHC」研修 4カ国から9人が参加

2019年3月27日

  • 活動レポート
  • 人材養成

報告者:溝越けやき (東京女子医科大学5年生-ジョイセフインターン)
牧野祥子 (メルボルン大学2年生-ジョイセフインターン)

国際NGOジョイセフは、JICAの委託を受け、課題別研修「母子継続ケアとUHC*」を2019年1月17日~2月8日に実施しました。4カ国(アフガニスタン・ガーナ・タジキスタン・ミャンマー)から中央・地方政府の保健行政官、産婦人科医師や助産師など9人が参加しました。

これら参加国では、適切な医療を受けられないことが原因で妊産婦・乳児死亡率が高いという課題があります。その背景には様々な理由があります。例えば、保健医療施設が遠くにあるため、妊産婦健診を受ける回数が少なく、医師や助産師が立ち会わない自宅での出産が多いこと。緊急時の医療施設への搬送制度の未整備、保健医療サービスの質や治療を要する場合の高額な受診料などが上げられます。また、社会・文化的背景の下、女性は社会的な地位が低く、知識不足により、病院や診療所での受診が手遅れとなることがあります。そのため、本研修では、日本の母子保健・産前産後や乳幼児への医療サービス、母子継続ケアの強化対策、UHCの理念としくみを学び、参加国のUHC達成と母子継続ケアの向上に貢献することを目指して実施しました。

UHC:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを意味し、すべての人が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを享受することを目指しています。日本の国民皆保険制度、英国でのすべて税金を財源にした全国民対象の保健サービスなどがこのUHCのモデルとなっています。持続可能な開発目標(SDGs)においてもゴール3(健康と福祉)の中でUHCの達成が掲げられていますが、UHC達成のためには「保健医療サービスが身近に提供されていること」、「保健医療サービスの利用にあたって費用が障壁とならないこと」の2つが達成される必要があることから、2017年7月の国連総会では「必要不可欠の公共医療サービスの適用範囲」と「家計収支に占める健康関連支出が大きい人口の割合」をSDGsにおけるUHC指標とすることが採択されました。
しかし、とりわけ開発途上国では、財源不足、制度設計の難しさ、医療施設や保健医療サービスの質の偏在などのような医療格差が問題となっています。

UHCの達成には、以下、3つのアクセスの改善と提供されるサービスの質が高まることが重要です。
①物理的アクセス:地域の医療施設設立または維持のためのインフラ整備と保健人材、医薬品医療機材の確保や偏りの解消
②経済的アクセス:医療費が高くて払えない等、経済的理由から保健サービスを利用できない状態の解消、医療費負担による貧困化を予防するための医療保障制度の整備やシステム作成
③社会慣習的アクセス:サービスの重要性・必要性を知らない、家族の許可が得られない等の社会習慣や西洋的医療不信を解消する住民への働きかけ

※参考JICA Webページ:https://www.jica.go.jp/aboutoda/sdgs/UHC.html


研修第1週目に東京都内で日本の国民皆保険制度や母子保健の歴史と取り組みについて学び、自分たちが日々直面しているさまざまな課題を分析し、改善が必要な点を確認しました。第2週目は、地方視察を行いました。埼玉県志木市では住民主体による母子保健推進活動について理解を深めました。。岩手県では、民間のサポートセンターが実施している母子の視点に立ったケアサービスを見学し、岩手県が運営する周産期医療情報システム「いーはとーぶ」の活用、また、盛岡市保健所での1歳6カ月児健診からは集団健診の仕組み、盛岡赤十字病院ではクライアントフレンドリーサービスなどの知見を得ました。旧沢内村では、戦後間もない厳しい環境と経済状況の下で、特に乳児死亡削減など母子保健向上に尽力した村の保健行政について学びました。とりわけ、深澤晟(まさ)雄(お)村長(当時)の住民に寄り添ったリーダーシップによって乳児死亡が激減していく経緯と、それを支えた保健師の活動に感銘を受けました。

研修員たちは、資金と人材不足のなか、自国の母子保健の改善のために、何ができるかと自問自答を繰り返していました。しかし、この研修を通して、日本にもかつて戦後の厳しい時代がありながら、現在のように保健医療先進国となった経緯を学ぶ過程で、人々に寄り添う精神を大切にした体制づくりを進めるため、思いの詰まった活動計画を作成しました。

研修員の皆さんの感想と帰国後に計画している活動の内容を紹介します。

ミャンマー

シュウェ・ワー・ウィンさん
保健スポーツ省
ヤンゴン北部公衆衛生部
副部長
 私は、ヤンゴン北部の母子保健分野を担当し、主に保健スタッフの研修を行っています。今回の研修では日本の保健医療制度と参加国の保健についての情報交換によって、質の高い保健医療サービスについて知識を深めることができました。ヤンゴン北部の課題は5歳未満児のための診療所がうまく活用されていないことです。その背景には、地域住民の治療に関する知識不足により病気を軽く考えてしまうことや病院と利用者とのコミュニケーションが十分でないことが原因で、身近なはずの診療所が近寄りがたい存在になってしまう傾向があります。岩手県盛岡市保健所で母子保健行政について学び母親・乳幼児への様々なサービス、スタッフのコミュニケーション能力、そして地域の人々が心地よくサービスを受けている姿に感銘を受けました。私の担当するヤンゴン北部の住民にも安心して医療サービスを利用してもらうため、家庭に母子保健の意識・知識を深めてもらうとともに、対話を通じてより身近なサービスを実施したいと強く感じました。
タジキスタン

ヴィヒドヴァ・ノザニンさんドゥシャンベ市保健センター
産婦人科医

アブドゥラモノヴァ・ニゴラさん国立産婦人科・周産期科学 科学調査研究所
産婦人科医
 今回の研修を通して、日本の質の高い保健医療サービスが日本全国隔たりなく行き渡っていることに感動しました。また、志木市の母子保健推進員のボランティア活動に対する高い意識は大変印象的でした。素晴らしい精神性を持った母子保健推進員の活躍があって、戦後日本の質の高い医療や保健活動が成り立ったことを知り、感銘を受けました。
タジキスタンの課題は家庭の母子保健への関心が低いことで、特に地方では深刻です。そのため、弱い立場にある妊娠・育児中の母親や乳幼児が適切な保健医療サービスを受けることができていません。埼玉県志木市でお会いした母子保健推進員の方々は、家庭訪問などの活動を行い地域の母子を支えています。そして母子保健推進員自身がこのボランティア活動により地域社会での役割ややりがいを見出し、地域の母子と母子保健推進員の両者にとって有意義な社会活動になっていることを学びました。帰国後、母子保健推進員活動を紹介し、家庭での知識を深めることで、医療を身近に感じてもらい、保健サービスを利用してもらえる環境づくりに努めていきたいと考えています。
アフガニスタン

ヘサルナエ・シャリファさん
公衆衛生省
ダシュテバルチ病院
産婦人科医

フェクラト・サレハさん
公衆衛生省
イスティクアル病院
産婦人科医

ファキリ・ソサンさん
公衆衛生省
ダシュテバルチ病院
産婦人科医
 今回の研修で、日本の保健医療制度や地域の人々の医療に対する取り組みをたくさん学びました。限られた資源のなかでも、リーダーシップやその英断により、UHCを達成し、母子保健サービスが整備された経緯を知ることができました。岩手県の地方視察では旧沢内村の地域保健への献身的な活動をお聞きし、人々を結び、絆を築くことで地域の健康が改善できることに気づかされました。
アフガニスタンの課題には、多大な医療費の自己負担、産前産後ケアの利用率の低さがあります。母子手帳のプロジェクトがアフガニスタンでも動き出しているので、帰国後の活動計画では、まず母子手帳をさらに普及させて妊婦健診や産後健診などの重要性を広めていきたいです。
次に、医師である私たちが率先して「ヘルス・シュラ」とよばれる保健委員会がモスクや学校などに保健医療知識を啓発する活動を立ち上げ、支援をしていきます。そのために、両親学級や栄養失調を防ぐための授業を行う計画を立案しました。同時に、病院内のスタッフの研修をし、技術を高めるだけでなく、新たな問題に対処できる柔軟性やコミュニケーション力を持てるように指導していきます。私たちの国では治安情勢や若者の失業なども深刻な問題ですが、多くの課題がある中で“予防可能な死”を根絶するため、今回の研修で得た学びをもとに私たちが強靭なコミュニティづくりの一端を担っていきたいと思います。
ガーナ
アサモア・アビゲイル・オフォスヘマさん
ガーナ保健サービス局
タイン郡保健局
リプロダクティブヘルス・小児保健担当 郡保健師

コバイア・エリザベスさん
ガーナ保健サービス局
アブアクアヘルスセンター 産科
シニア助産師

オフォス・ベルニスさん
コルレブ医科大付属病院
産婦人科
公衆衛生プログラム監督官
 ガーナの課題は、家庭での産前産後の健康知識と意識の低さ、保健従事者による不十分な訪問ケア、緊急時の医療施設への搬送制度の未整備があります。今回の研修では、市区町村が妊婦健診や乳児健診で異常があった場合には、速やかに適した地域の病院を紹介されケアを受けることができる地域のしくみや、妊産婦や両親などに必要な知識を教える機会を作ることで、住民の母子保健に対する知識向上にも力を入れていることを学びました。また、適切な性教育が行われていないこともガーナの課題の一つです。ジョイセフの活動であるI LADY.を通し、人生をより素敵なものにするための背中を押すような性教育活動についても深い学びになりました。
帰国後の活動計画では、以下を立案しました。1)担当地域の妊産婦や両親などへの健康教育を強化すること
2)行政や病院などの母子保健サービスの質をより良くすること
3)異常があった場合の速やかな紹介システムを整えること
4)病院の中で部署間の連携を強化すること
5)行政や病院に関わるいろいろな機関・部署の協働を後押しすること
また、UHCの視点から、以下を政府に提案します。
6)緊急時に母子が使えるよう村単位でのコミュニティ基金でお金を備えておくこと
7)地域で母子保健サービスの格差が生まれないように、田舎にもより多くの看護師を配置すること
8)すでに展開している母子保健にまつわる政策を見直すこと
9)母子保健サービスの質を維持するために、必要な機材と母子手帳を提供できる環境をつくることこれらの計画を立案するだけでなく、必ず実行し、フィードバックを受け、さらに改善することを繰り返そうと思います。ガーナの課題解決に向けた考え方や技術を実用し、研修で得た知見を最大限に活かしていきます。

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