「患者自身が撮影を許可しても、マスメディアによる公表により、家族が地域コミュニティーから村八分になる可能性もある」とのことだった。
ちょうど2年前、エイズが最も蔓延している南部諸国のひとつであるザンビアで、やはり「エイズ患者の会」を訪れたことがあった。
「我々の人生はすでに終わったわけではなく、これがまた違う人生の始まりであること、前向きな姿勢と生産性をもって生きること、エイズウイルス感染者の現体験が地域社会へと還元され生きてくること…など。「『Quality
of Life(クオリティーオブライフ)』、つまり人生を質良く生きる、ということに焦点を絞っている」と、写真を撮らせてもらった。
日頃死と向き合いながらも自らの体験を公表することで、生きる人にメッセージを残そう、と体当たりで社会貢献を果たすエイズ患者の姿が、今でも目に焼き付いている。
しかしながら今回の取材では、あらためて各国事情が異なることを痛感した。
ガーナには、公表に踏み切れない患者がたくさんいた。感染率は3%だが、ガーナ国内ではエイズ患者は「少数派」と捉えられていることに加えて、かつての啓発教育では「エイズは人間を死に至らしめる怖い病気」との脅し教育がメインであったこともあり、結果的に恐怖が先行して、患者への理解が得られず、差別や偏見の問題を生んでいるようだ。
「紙芝居」の試み
では、生じた問題に対していかに対処するか。その点に興味が湧いたのだが、ジョイセフは、エイズ広報教育教材について大胆な見直しを図っていた。>>More
エイズとは何かとの「知識伝達型」の教材だけでは、一般の人々が行動するきっかけになるか疑問であること、また農村部ではほとんどの人々が教材にアクセスできていない現状もあるので、一般の人から共感を得ながらアプローチする試みが必要、と行き着いたのが、タンザニアのエイズ患者の実話をもとに村人自身によって描かれ、制作プロデュースした「紙芝居」であった。
紙芝居は、日本やアジア諸国などで教育効果が実証済みで、日本の経験が生かせるし、住民らが体験した出来事から拾い集めた物語には、どこか親近感があった。さらに差別偏見、エイズ予防対処、教育など様々な要素を盛り込むことができる。また、場所を選ばず、学校、病院、教会など、幅広い方面での開催を可能とした。タンザニア、ガーナだけでなく、周辺にも適用していこうとしている。住民らによるオーナーシップを尊重するエイズ教育アプローチのモデルとしてそのインパクトも測っていこうとしている。住民の目線で物事を考えるプロセスを重視するというのは、我々写真家が人物を撮影するときにもいえることで、好感が持てる。 |