2023年12月22日

各国から研修員が来日した「母子栄養改善研修」で、アクションプランが続々と誕生!

「母子栄養改善研修」は各国の保健人材を対象とするJICAの研修プログラムで、ジョイセフが実施しています。これはお母さんの妊娠から子どもが誕生して2歳になるまでの1000日間、「人生が始まる大切な時期を、より良い栄養で支える」ことをめざすもの。研修員の皆さんがジョイセフとともに討論を重ねながら、それぞれの国で母子の栄養を改善するための活動計画(アクションプラン)を作成し、実際にそのプランを行動に移します。

2023年度の研修は、まずオンラインで11月1日にスタート。続いて日本での研修(11月15-12月6日)を東京と北海道の帯広を拠点に行い、来日してのプログラム部分が完了しました。今日はこの研修についてレポートします。

参加したのは、アンゴラ、エクアドル、ガーナ、インドネシア、ラオス、マダガスカル、マラウイ、パキスタン、ルワンダ、シエラレオネの10カ国11名です。エネルギーに溢れた素敵な皆さんで、視察先では質問が止まらず講師を圧倒することもしばしば。1000日間の栄養以外にも、保健セクター内での連携はもちろん、水・農業・教育といった他分野とのマルチセクター連携、食育、完全母乳育児、思春期など、多くの視点から栄養改善を考えました。

従来は研修のすべてを日本で行っていましたが、コロナ禍で研修員が来日できない間、オンライン形式を導入しました。すると長期にわたるプログラムが可能になり、皆でアクションプランを作るだけでなく、実際にプランを実施した経過まで共有できるというメリットを発見。そこでコロナ禍が明けて初めてとなる今回、オンラインでのキックオフ+来日して対面研修とオンラインを併用しながらのフォローアップという、ハイブリッド形式で研修を実施することにしたのです。

 

昨年の研修に参加したグアテマラのチームもオンラインで登場

オンラインでは、以前参加したガーナやグアテマラのチームとつなぎ、進捗を共有してもらいました。現在WFP(国連世界食糧計画)で活躍する過年度研修員にも参加してもらい、研修から得た経験やさまざまなアドバイスを聞くことができ、皆大いに刺激を受けたようです。

さらに、ジョイセフのパートナー団体であるザンビア家族計画協会(PPAZ)のアリスさんが講師として登場したほか、SUN (Scaling Up Nutrition)とのワークショップも実施。SUNは、政府、市民社会、国連、援助機関、ビジネス、 アカデミアが参画し、途上国の栄養問題の解決に取り組む世界的な動きです。SUN加盟国の中からスイス、タイ、パキスタン、シエラレオネが同時接続し、母子栄養のアドボカシーを学ぶ貴重な場となりました。

講師としてオンライン参加したザンビアのアリスさん。自国の事例を挙げながら具体的にアドバイス

 

帯広市保健福祉センターにて、両親学級の離乳食教室を体験

対面での研修では、帯広市保健福祉センターでの母子栄養の取り組みで離乳食教室を体験したり、若年妊娠もありうる思春期への貧血対策に皆で知恵を出し合ったり、1960年代から活躍していた80代の元生活改良普及員さんの女性のエンパワーメントに感動したりと、地域の女性やカップルに寄り添ったサービスのあり方について、たくさん学びました。

 

両親学級の沐浴のセッション

 

帯広市の両親学級を支える栄養士さんたちと一緒に

そして、母乳育児ケアのプロとして地域をサポートするあおま助産院での寄り添ったケアに驚き、東京かつしか赤十字母子医療センターで押し付けのない妊婦さんへの栄養カウンセリングに納得。ファイブ・ア・デイ協会と株式会社カスミのスーパーとで実施する食育を見て、対象者の歩幅に合わせた取り入れやすい指導が行われているのを実感し、民間との連携の可能性に魅せられました。

 

アクションプランの種を検討中。母子栄養改善の1000日間を時系列で洗い出し、どこにどのような課題があるか可視化。研修で得た学びを元にアイディアを練る

その後、ジョイセフスタッフ、JICAの専門員の方々、元看護師のボランティアスタッフさんのサポートのもと、各人が自国で母子栄養改善のために行う計画(ミニアクションプラン)づくりを開始。自国にすでにある取り組みをベースに、何をプラスしたらより栄養改善が進むのか、何が無理なく始められるのかなど、3日にわたって必死に考えます。最終日の12月6日は、試行錯誤しながら作り出した自分の計画を発表する「出産」の日でした。緊張して前夜眠れなかった方もいたほど、それぞれ気合の入った計画が出来上がりました。

生まれたばかりの計画はこちらです。

●シエラレオネ
思春期への栄養教育を、地元食材とピア(若者保健ボランティアのピア・エデュケーター)活用で実施

●マラウイ
HIVの若者の集いを活用してピアによる栄養教育を実施

●マダガスカル
母親学級に父親の参加を促すことで、1000日間の栄養に協力的なパパを輩出する計画

●インドネシア
母子手帳を使った栄養カウンセリングの「よくある質問マニュアル」を作る計画

●アンゴラ
ビタミンAの欠乏予防の啓発教材を作成する計画

●エクアドル
官民学連携で母乳育児グループの活性化を促す計画

●ガーナ
学校の栄養教育に子どもが参加型で楽しく学べる方法を取り入れる計画

●パキスタン
地域に根差した婦人保健スタッフの活動に、ほうれん草とレモンで鉄分を効率的に取るキャンペーンをプラスする計画

●ルワンダ
栄養カウンセリングスキルの向上のための医療従事者へのOJT実施計画

●ラオス
産婦人科での栄養カウンセリングの分かりやすさ向上計画

実際のアクションプランがどのようなものか、マダガスカルを例に少しだけご紹介します。こちらはマダガスカルの研修員、Franckさんが作成したミニアクションプランのロードマップの一部です。

 

彼は国立栄養局で同国のアモロニマニア地域を担当している栄養プログラムマネジャーです。今回の研修で帯広市の実施する両親学級を体験しました。自治体が離乳食の調理実習教室を開き、赤ちゃんがしっかりと食べることから栄養を摂られるように準備していること、そして何より「パパ」の参加を推奨していることに感銘を受けていました。
アモロニマニア地域では、男性が妊娠中のサポートをしたり、子育てを担うことは少ないと嘆くFranckさん。男性の参画の少なさが妊婦の貧血や低体重での出産に結び付いているとも語っていました。地域の夫たちは赤ちゃんの人生のスタートに不可欠な1000日間の栄養について知る機会がなく、例えば妊婦である妻に十分な栄養のある食材を提供しない(代わりに自分のためのビールなどにお金を使ってしまう)ことや、出産間際まで水汲みなどの重労働を課していることも少なくないそうです。
Franckさんは、アモロニマニア地域で監督している6つの村で、村長とその地域の保健施設のスタッフと協力しながら、既存の母親学級や妊婦健診での栄養指導に父親の参加を促す計画を立てました。そこで父親たちが妊娠中の栄養の重要性や過労のリスク、授乳期間も継続してサポートが必要なことなど、気を付けるべきことを学べるようにして、父親の積極的な姿勢によって家族がチームとなり妊娠・出産・子育てができる環境づくりを目指していきます。彼は「父親が母と子の栄養に責任感を持ってサポートする手助けを担います!」と力強くコミットメントを掲げてくれました!

帰国後、Franckさんから進捗状況の知らせが届きました。12月20日に所属部署のメンバーに集まってもらい、さっそくアクションプランを共有したそうです。

ほかの国々のアクションプランも素晴らしい内容でした。皆さんはそれぞれの国へ帰りましたが、1月と2月にオンラインで集まって進捗発表と、研修は続いていきます。「生まれた」ベイビー達がどんなふうに歩き出すのか、今から楽しみです!

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林 未由
NGOでのボランティア派遣、旅行会社勤務、JICA海外協力隊を経て、海外人材養成の分野に。ジョイセフの沢内村ドキュメンタリー映画に感銘を受け、2017年よりジョイセフの人材養成業務に携わる。アジア・アフリカ・中南米の行政官やNGO職員向けの研修事業に従事し、過去40カ国以上の研修員と触れ合う。2021年からは、国内のI LADY.ピア・アクティビスト研修も担当し、若者のSRHR発信者の養成を担う。趣味は裁縫と食べること。コロナで体重増加記録更新中。