CSW69報告会を開催しました
2025.5.20
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4月13日、ジョイセフは「CSW69参加で見えてきた、ジェンダー平等、SRHR推進のいま」というテーマで、CSW69派遣報告会を開催しました。ニューヨーク国連本部に赴いた#なんでないのプロジェクト代表の福田和子さんとユース5名が、ジョイセフの草野洋美とともに現地の様子やSRHRとジェンダー平等の最新動向について報告しました。
1.CSWとは?~CSW69報告(なんでないの代表 福田和子さん)
国連女性の地位委員会(CSW: Commission of Status of Women)は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの進展を目指す国連最大級の年次会議です。第69回目となる2025年のCSWでは、「北京行動綱領」採択から30年の節目の年、「北京+30 (Beijing+30)」 を迎え、各国の進捗と課題について世界中のステークホルダーが議論しました。
2025年のCSWは、第四回世界会議・北京宣言から30年の節目として「Beijing+30」を主要テーマに開催されました(CSW69)。700ものイベントが開催される中、今回は脆弱な立場に置かれやすい属性・状況にあるLGBTQ+、とりわけトランスジェンダーの方々、先住民、障がい者、戦争・紛争下に生きる方々など、インターセクショナリティ(交差性)に関連したテーマが多かった印象です。他にも、性暴力の文脈ではデジタル性暴力に関するセッションが多くありました。
その一方、CSW初日に採択された「北京+30政治宣言」にSRHRの文言は入らず、政策宣言に対してアメリカが示したポジションペーパーでは「過激なジェンダーイデオロギーから国民を守る」といった、「ジェンダー」という言葉そのものが否定され、、SRHRに関する厳しい状況がうかがえました。
私たちも含めて、世界各国から来た参加者が反フェミニズム運動に打ち勝つためには、「Solidarity in Dignity」という言葉を通した連帯が大切だと強く感じました。あらゆる形で組織的なプッシュバック(※「戦略的な抵抗」、巧妙で政策レベルから組織的に抵抗しようとする動き)が起き、女性たちが沈黙させられている状況があります。しかし逆に言えば、「女性たちが声を上げることこそが家父長制にとって大きな脅威になる」という印象的な言葉も聞かれ、とても勇気づけられました。私も引き続き、声を上げていきたいです。
2.CSW69 NY滞在期間を振り返って(ジョイセフ草野洋美 + 福田和子さん)
草野:北京+30政治宣言については、トランプ政権の再帰により力づいた反ジェンダーの意見が強まったことで、「ジェンダー」という文言への忌避が争点になるなど、事前交渉の時点から難航したそうです。CSW69の初日に全会一致で合意・発行されたものの、米国は同日に不支持を表明するなど、プッシュバックが激しい現状があります。
今回のCSWでは、従来よく耳にしたバックラッシュではなく「プッシュバック」という言葉が多く使われていました。トランプ政権の背景にいるとされる保守派の影響力や資金力をてこに、今後4年間はプッシュバックの動きが苛烈になることが予想されます。
アンチフェミニズム、反ジェンダー団体によるイベントも実施されていたので参加してみましたが、「女性や子どもを守る」ことや「女性の健康や安全」が大切と言いつつも、身体の自己決定権、特に中絶は認めないなど、制限付きの「女性の権利」を語っている印象でした。
福田和子さん:「女性や子どもを守る」という言葉は、女性の権利を守っているように聞こえますが、結果的には女性を「守るべき弱い存在」として男性や「家」の庇護下に置き、身体の自己決定権も奪いかねない、家父長制を強める危険な言説ではないでしょうか。会場で聞かれた言葉ですが、もはや、ジェンダーだけではなく、”民主主義の危機”であり、いま大きな波が押し寄せていると肌で感じました。
「Don’t panic, organize! (あわてずに、連帯しよう!)」という言葉を現地で聞き感銘を受けましたが、プッシュバックに負けることなく連帯していきたいですね。
3.参加したユースから
ジェンダーやSRHR課題に関心を持つユース5名がCSW69に参加。現地の様子などを発表しました。
安田里菜さん
私が注力したテーマは「堕胎罪撤廃・中絶の権利保障」です。CSWでは特に青年期の早期妊娠の対応として中絶の権利が不可欠であるという議論がなされていました。また「予期せぬ妊娠を予防する」有効な手段として包括的性教育の重要性も指摘されており、中絶に関する偏見の軽減、女性の自己決定権の尊重などにつながることを学びました。
中絶の権利は胎児の命と天秤にかけられがちですが、自分の健康や人生をかけている状況下で、誰にも助けを求められず産む・産まないを選択することすら難しい女性たちに対して、一律に犯罪者というレッテルを張るという現状は受け入れがたいことですし、誰もが自分の体の自己決定権を行使できるよう、今後も堕胎罪撤廃と包括的性教育の導入を訴えていきたいです。
はらさん
サイドイベントで、ポーランドにおける中絶法厳格化について、抗議し緩和を求める活動家のスピーチを聞くことができました。一方で、プロライフ(中絶反対)を支持する団体のユースが真っ先に質問を投げかけて長時間議論するなど会場が混とんとする場面もあり、ユースの中にもプロライフを支持する動きが広がっている印象を持ちました。
インド在住でアジアの中絶の課題に取り組む方のお話を伺ったときは、日本の中絶費用の高さにすごく驚いていて、私も改めて日本の中絶費用が高額であることを実感しました。
CSWでは、ユースを対象としたイベントも開催されるなどユースの存在が重要視されており、日本から多くの若者が参加することに、重要な意義があると考えます。
金子絵美利さん
私がCSWに参加した理由として、バックラッシュが強まっている現状にどう向き合っていけばいいか直接学びたいという想いがありました。そこでプロライフ(中絶反対)を支持する団体のイベントに参加したのですが、最初は「怖い存在」「過激そう」な印象だったし、「中絶は世界的な権利として認められない」などの発言がみられましたが、女性に適切な支援を行うことを訴えている点は、「プロチョイス(安全な中絶支持)」と重なる部分があるのではないかと感じました。二項対立が激化している時だからこそ対話することが重要だと感じました。
今後のアクションとして、政治からSRHR推進を実現するため、これまで以上にアドボカシー活動に取り組みたいです。また、全体的に日本の存在感がなかったのが悔しかったです。プッシュバックが強まる中で東アジア全体での連帯を強めるためにイベント開催などをユースで主導していきたいです!
シェヘラザードさん
CSW参加前は、日本は「暮らしやすいけど生きにくい」「冷たい」「意見が言いづらい」と感じていました。ジェンダー不平等や家父長制に加えて、アフターピルを入手できなかったり同性婚も叶わないなど、人権が大切にされない不公平な現状にもやもやしていました。
そんな中CSWに参加したことで、「特権性」というものを学ぶことができたと思います。「国際会議に参加できる」ということ自体が私の特権性でしたし、まだ気づいていない特権性もあるはずで、それに気づくためにも自らの特権性を自覚することが重要だと思いました。アクティビストとして誰かの体験を代弁するときに、マイノリティに限定したコミュニティで固まりマジョリティを敵対視し排斥する結果になっていないか、体験者・当事者の搾取をしていないか、という疑問を持ち、常に内省しながら運動をすることで「誰にでも開かれた話し合い、空間づくりをすること」ができるかもしれない、と考えました。
稲荷桃香さん
私は「包括的性教育の公教育への導入」と「SOGI差別禁止法の制定」をスローガンにCSWに参加しました。そこで、国連のウガンダ政府代表部と市民団体によるイベントに参加したのですが、市民団体がウガンダ政府陣に対して、現行の限定的で禁欲的な包括的性教育カリキュラムの改定を求める提言をしていたことが印象的でした。
市民団体が「CSWは議論の場ではなく、行動を起こすための呼びかけの場である」と発言していたのを間近で聞き、私自身も「SRHRについてたくさん話す」ことや「国際会議に一緒に挑戦する」ことをできる限り呼びかけていき、主体的に行動を起こしていきたいです。
4.まとめ
参加者からは、バックラッシュ、プッシュバックが起こる根本的な理由や、SNS上でのバッシングなどに対して自分や周囲の人々を守りながら、どうすれば声を上げられるのかといった疑問や悩みの声が寄せられました。しかしそのような中でも、CSWに参加したことで「互いにケアし合いながら連帯すること」、そして「アドボカシー活動をユース自身が主体的に行うこと」 その重要性を報告会 で伝えました。
学びを糧に、引き続きユース主体でアドボカシーに取り組んでいく予定です。
ユースの報告レポートを公開しています。ぜひご覧ください!
CSW69ユース参加レポート