
日本で働くすべての人が、健康と権利を守りながら働き続けられる社会へ

生理休暇取得 0.9% の日本の現状
制度があるだけでは、健康と権利は守られない。
日本には生理休暇が法定されていますが、厚生労働省の調査によると2020年度に生理休暇を請求した女性労働者は0.9%にとどまります。(※注1)また、不妊治療経験者のうち、仕事との両立ができず退職した人は10.9%、治療を断念した人は7.8%、雇用形態を変更した人は7.4%でした。(※注4)更年期症状をはじめとする女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は、年間約3.4兆円(※注6)と試算されています。
これらの課題は、女性だけの問題ではありません。不妊治療、男性更年期、生殖器系疾患、パートナーの治療への付き添い、妊娠・出産・流産・死産後のケアなど、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)は、性別や雇用形態を問わず、すべての人の人生と働き方に関わります。
ジョイセフは、従来の「生理休暇」の枠を広げ、月経に加えて更年期症状や不妊治療、生殖器系疾患等で、性別を問わず利用できる「SRHR休暇」へのアップデートを提案します。サンリオとの対話、常磐植物化学研究所での勉強会・制度提案を踏まえ、導入の意義と実装モデルをまとめました。

1. なぜ今、SRHR休暇なのか
SRHRは、働く人の「健康」と「自己決定」を支える人権
SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)は、日本語で「性と生殖に関する健康と権利」と訳されます。自分の身体や性について正しい情報を得て、自ら選択し、必要なヘルスケアを受けられることは、人間の尊厳に関わる基本的な権利です。
職場におけるSRHR支援は、福利厚生にとどまりません。欠勤やプレゼンティズムの抑制、離職防止、採用競争力の向上、DE&I、健康経営、人的資本経営を支える経営基盤です。
「女性の制度」から「すべての人の制度」へ
このような時、仕事はどうしますか?
- 月経痛・PMSなどにより就業が困難なとき
- 不妊治療の検査・通院・療養、またはパートナーへの付き添い
- 女性・男性の更年期症状に伴う体調不良や通院
- 婦人科・泌尿器科を含む生殖器系疾患の検診・治療
- 妊娠・出産・流産・死産後の身体的・心理的ケア
2.数字で見る、日本の課題
生理休暇 : 法定制度でありながら請求率は0.9%

(※注2)
労働基準法第68条は、生理日の就業が著しく困難な女性が請求した場合、使用者が就業させてはならないと定めています。しかし、女性労働者の請求率は1997年度の3.3%から低下し、2015年度と2020年度はいずれも0.9%でした。
無給であること、上司や同僚に言い出しにくいこと、人手不足、制度への理解不足、症状や取得理由を説明する心理的負担などが、利用を妨げる要因として考えられます。
東京都の調査では、過去1年間に生理休暇を取得した人がいた企業は16.5%にすぎず、48.4%の企業が「取得者はいない」、35.2%が「把握していない・わからない」と回答しました。(※注3)制度の存在と、実際に使える環境の間には大きな隔たりがあります。
不妊治療 : 4人に1人が仕事との両立に困難
厚生労働省の2023年度調査では、不妊治療を経験した人の55.3%が仕事と治療を両立していました。一方で、10.9%が退職、7.8%が治療を断念、7.4%が雇用形態を変更しており、合計26.1%が両立できなかったと回答しています。
不妊治療は、診療日や処置のタイミングを事前に固定しにくく、頻回の通院が必要になる場合があります。また、職場に治療を知られたくないという心理的負担もあります。理由の詳細を伝えず、時間単位で柔軟に取得できる制度が重要です。
更年期 : 自覚していても受診・診断につながりにくい
続いて厚生労働省の調査では、40代から60代では、更年期障害の可能性を考えている人の割合に比べ、医療機関で診断された人の割合が大幅に低くなっています。症状は疲労、頭痛、発汗、不眠、気分の落ち込み、集中力低下など多岐にわたり、本人も職場も原因を把握しにくいことがあります。

健康課題を放置するコスト
経済産業省は、更年期症状、月経随伴症、婦人科がん、不妊治療による労働損失などを合わせ、社会全体の経済損失を年間約3.4兆円と試算しています。中でも更年期症状による損失は約1.9兆円と最大です。
休める制度は、コストではなく「働き続けるための投資」
短時間の休暇や通院機会を確保することで、症状の早期把握と治療につながり、長期休職や離職、パフォーマンス低下を防げる可能性があります。

3. 企業との話から見えたこと
事例(1)
サンリオ : 名称と対象を変えることで、制度を「使えるもの」に

株式会社サンリオは、2025年4月、不妊治療、卵子凍結、更年期症状などにも利用できる「SRHR休暇」を導入しました。
制度名称に「SRHR」を明示することが、社員への啓発そのものになること、対象を性と生殖に関わる幅広い健康課題へ広げることで、従来の生理休暇よりも利用しやすくなることが共有されました。
2026年7月、国連・健康の権利に関する特別報告者であるトラレン・モフォケン医師(以下Dr. T)の来日に合わせ、ジョイセフは、日本で先駆けて「SRHR休暇」を導入した株式会社サンリオへDr. Tをご案内しました。国際的な人権基準の視点から、この先進的な取り組みについてDr. Tよりコメントをいただく機会となりました。


サンリオから紹介された社内実績では、従来の生理休暇はSRHR休暇制度導入前の3年間でほぼ利用実績がなかった一方、制度導入初年度には、数十名の利用があったとされてます。この数値は情報交換会で共有された内容であり、制度名称・対象・社内周知の見直しが利用行動を変える可能性を示す事例であることがわかりました。

サンリオの先駆的な導入事例は、社員それぞれのライフスタイルやライフステージに合わせた柔軟な労働環境の実現に寄与し、結果として企業の持続可能性を高めることを対話を通じて実感しました。

Dr.Tの所見。
私はこれまで世界各国を訪れ、「健康への権利」という観点から参考になる企業の取り組みを探してきました。その中でもサンリオは、従業員自身の身体的・精神的な健康への権利を尊重しているだけでなく、将来の労働者やリーダーとなる若い世代全体にインスピレーションを与える、先駆的な存在だと感じています。多くの企業がSRHRを敬遠する中、サンリオがそこに踏み込んだことは本当に素晴らしいことだと思います

事例(2)
常磐植物化学研究所 : 学びから制度導入へ
常磐植物化学研究所では、ジョイセフが「仕事とSRHR」をテーマに講和した社内勉強会を通じて、社員が健康課題を学び、2026年3月1日より「SRHR休暇」を導入しています。

制度導入により、従来の「生理休暇」の枠組みを包括的に拡充し、性別や年齢、雇用形態を問わず全社員が利用できる制度として運用を開始されています。
本制度は無給の扱いとなりますが 、本人の自己申告に基づき、不妊治療、更年期障害に伴う体調不良及び通院などに対し、詳細な理由を申し出ることなく利用が可能となっております。
4. ジョイセフから法人・団体の皆様へ
「生理休暇」から、「SRHR休暇」へ
人生100年時代、働く期間は長くなり、誰もがさまざまな健康課題を抱えながら働く可能性があります。これまでの制度を、女性だけ、特定の症状だけを対象とした枠にとどめず、すべての人が必要なケアを受け、様々なライフイベントでキャリアをあきらめず、自分らしく働き続けられる仕組みへ変えていく必要があります。
言葉が変わることで、認識が変わる。認識が変わることで、制度が使われる。制度が使われることで、人と組織の未来が変わります。
ジョイセフは、企業・自治体・教育機関との対話を重ね、「SRHR休暇」が日本の新しい働き方のスタンダードとなることを目指します。
法人・団体向け支援
- SRHR基礎講座(勉強会)・管理職研修講座(勉強会)
- 導入事例の発信と企業間ネットワークづくり
参考資料・出典(注)
- 厚生労働省「働く女性と生理休暇について」(2023年9月)
- 内閣府「男女共同参画白書 令和6年版」コラム2 生理休暇の国際比較
- 東京都 女性従業員のキャリアアップ応援事業「都内2000社と働く女性5424人が回答 !『生理休暇』の現状と課題」(2025年3月公表)
- 厚生労働省「令和5年度 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」(2024年3月公表)
- 厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト「不妊治療」「更年期」
- 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性」
注:本記事に掲載したサンリオの制度利用者数は、情報交換会で共有された内容に基づきます。公的統計と企業内実績では、対象期間・母数・定義が異なるため、単純比較はできません。注:経済損失は、欠勤、離職、プレゼンティズム等を一定の仮定に基づいて推計した社会全体の概算です。
- Author

JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします
「女性性器切除(FGM)根絶のための国際デー(2/6)」によせて ー「遠い誰かの問題」ではなく、私たちが向き合うべき課題として
【第3回】世界人口デーに寄せて。声を上げれば、届くものがある 谷口真由美理事×竹信三恵子評議員
【第2回】世界人口デーに寄せて。国際機関で、制度の内側から変えていく仕事 林陽子理事×國井修評議員