
ジョイセフ 事業グループ ディレクター
船橋 周
「国際協力に興味があるけれど、自分にできる?」そう思う人に、ジョイセフの事業を統括する船橋周(あまね)のストーリーがヒントになるかもしれません。女性運動家である母の姿や、ロールモデルと仰ぐ先駆者の言葉、そして友人が美しさを追求し命を落とした忘れがたい出来事。これらを通して「自分らしく生きる権利を守りたい」「女性の命を守りたい」と思った船橋は、アフリカやアジアでSRHR(性と生殖に関する健康と権利)や母子保健、若者を支援する取り組みを広げてきました。現地の人々と力をあわせてつくりあげるプロジェクトの「持続可能性」や、子育てとキャリアを両立しながら積み重ねた経験を語ります。
ーーまず、現在のお仕事について教えてください。
事業部のディレクターとして、アフリカやアジアでのSRHR(性と生殖に関する健康と権利)や母子保健の事業を統括しています。海外事業と国内アドボカシーチームが統合された事業グループですが、私は主に海外事業を見ています。メンバーは10人で、それぞれ担当プロジェクトを持ち、私は全体の方向づけや省庁・支援企業・団体などへの申請業務、他部署との調整を担います。
ディレクターとして大切にしているのは、現地の人々の声を聞き、協力して事業を設計することです。中でも企業や個人サポーターからの寄付で行う「ジョイセフパートナーシッププログラム」では、ジョイセフならではの地域に根ざした活動を行っています。
たとえばアフリカでのマタニティハウス(出産待機施設)の建設やメンテナンス、地域保健ボランティアの養成、コミュニティでの収入創出活動支援、清潔な水を確保する井戸の整備など。日本のODA(政府開発援助)などによる海外プロジェクトをさらに強化し、持続させていくことを支えているのが特徴です。
ーー国際協力、特にSRHRに関心を持ったきっかけは?
私には二人のロールモデルがいました。女性運動家である母と、家族計画を推進し、日本初の女性国会議員となった加藤シヅエさんです。母の船橋邦子は、男女雇用均等法がない時代から国境をこえて女性運動に取り組んでいました。加藤シヅエさんが英語で執筆された自伝の日本語翻訳者でもあります。
高校生の頃、母に連れられてジョイセフの事務所を訪問したことがあります。また大学在学中、母と一緒に当時100歳を超えている加藤シヅエさんに直接お会いする機会にも恵まれました。加藤さんの言葉には、強い意志と使命感、重みがあり、未来を担う若者である私に力強い励ましをくださいました。
こうした経緯でジェンダーや国際開発、リプロダクティブ・ヘルスに興味を持ち、高校2年でアメリカに留学しました。そこで出会ったジェンダーの視点で国際政治学を教える恩師の授業が興味深く、私も「ジェンダー」という視点を通して世界を見るようになったのです。身近な家族関係も、政治や戦争にいたるまで、ジェンダーが社会構造の中にある。誰が弱者になっているのかを考えると、母が心血を注いだ女性運動の意味も見えてきました。
ーー学生時代からロールモデルが身近にいて、それが現在の仕事につながるのですね。
もうひとり、私にとって大きな存在となったのが、アメリカで出会った韓国人の親友です。彼女は医師をめざし、私は途上国の開発支援に携わりたくて、「いつか協力して仕事をしよう」と励まし合っていたのです。ところが大学卒業を目前に、彼女が突然亡くなりました。韓国に帰省中の出来事で、原因は「美しさの追求」でした。
彼女は帰国してから「きれいになりたい」と言い、急激に体重を落としていたのです。韓国は美容大国といわれますから、影響を受けたのかもしれません。写真を見て私は驚き、「もっと食べて」と必死に頼みましたが、聞き入れてもらえなかった。そして過度なダイエットと運動で心臓に負荷がかかったのか、彼女は21歳という若さで命を落としたのです。
「美しくなるために痩せなければ」なぜ、女性がそう思い詰めてしまうのか。私が学んできたジェンダー問題やリプロダクティブ・ヘルス/ライツは、一人ひとりが自分らしく生きられること、女性が生き方の選択肢を持てることをめざすものでした。「これを前へ進めよう」と心に決めたことが、私の原点になりました。
ーーアメリカの大学を卒業して、すぐ国際協力の仕事に就いたのですか。
ジョイセフの就職試験を受けたのですが、即戦力としての力が足りなくて採用されませんでした。そこで大学院に進み、公衆衛生学を学びながらジョイセフでアルバイトやインターンをして、国連女性の地位委員会にユースとして参加したり、地球温暖化対策における国際的枠組みを定めた京都のCOP3に行ったり、できることから取り組んでいきました。その後、ジョイセフでのインターンを経て、再度チャレンジして2001年に入職。アフリカやミャンマーの海外事業に携わるようになりました。
妊娠出産を経て、広報・アドボカシーや東日本大震災後の国内支援、協賛企業との連携事業などを担当。その一方で子育てをしながらも、ザンビアの仕事は現地へ行き来しながら続けてきました。
ーー海外プロジェクトの楽しさ、やりがいについて教えてください。
何より楽しいのは、現地の人たちと力をあわせてプロジェクトに取り組み、その成果が地域に根づいていくのを見ることです。たとえば、アフリカのザンビアで建設してきた「マタニティハウス」。保健施設に隣接する宿泊棟で、遠方に住む妊産婦が滞在しながら陣痛が来るのを待ち、医療従事者の介助のもとで安全に出産できます。
マタニティハウスが完成するたび現地の方々と歓喜をともにしてきましたが、本当にうれしいのは、この施設が現地で誇りに思われ、大切に役立てられてることです。
設計段階から地域の人々と一緒にプロジェクトをすすめ、壁のペインティングなども協力して行うことで、「支援されたハコモノ」ではなく「自分たちのマタニティハウス」という意識が生まれます。維持管理費用のために、地域で洋服をつくって販売したり、メイズ(とうもろこし)や野菜を販売しています。メンテナンス以外にも、妊婦が緊急時に搬送されるための交通費に使ったり、出産に必要な備品などを購入し、お互い助け合うコミュニティが育ってきています。
私たちは建物や物資の面だけでなく、地域保健ボランティアの養成など、「人づくり」に力を入れてきました。ボランティアの皆さんは村を訪問し、マタニティハウスの活用を呼びかけたり、産前産後健診をすすめたりします。こうして一人ひとりの意識や行動が変わり、それが近隣にも広がって、妊産婦や女性の命と健康が守られる地域づくりが進んでいくのです。
そうなれば、もうジョイセフが手出しをする必要はありません。住民の皆さんが主役となって活躍する姿を見ると、「やってよかった」と心から思います。
ーー仕事で大切にしていることは?
「長く続けること」、そして「つながりを大切にすること」ですね。短期間で成果を出すのは難しいけれど、10年、20年と続けてきたからこそ、見えてきた変化があります。私の場合、長くザンビアの仕事を担当して、多くの経験や出会いに恵まれ、仲間といっしょに女性の命と健康、権利を守る地域づくりを進めてこられました。
さまざまな国で活動する中で、各国のコミュニティを結び、おたがいに学び合い協力し合う場をつくることにも力を入れてきました。いま、ケニア、ガーナ、ザンビアなどの国々がつながり、経験や課題、好事例を共有することで、新しい工夫や挑戦が生まれています。
たとえばガーナでは2024年、ザンビアの事例に学び、初めてマタニティハウスがつくられました。国際協力は「支援する側とされる側」に分かれるのではなくて、おたがいにつながり、エンパワーし合って、現実を一緒に変えていく営みなのだと実感しています。
ーー仕事を通じて、どんな成長がありましたか。
はじめは先輩について回り、仕事のやり方を学びました。現地のニーズを調査してプロジェクトを考え、予算を立てる。事業資金の協力先を探し、企画の提案や申請を行う。こうした準備を経てプロジェクトがスタートします。
ジョイセフの事業で特に重視しているのは、持続可能性(サステナビリティ)です。どのプロジェクトも、最終的には現地の政府に権限を譲渡して、自分たちの手で運営できるようにします。そのためのロードマップを考え、終了後のフォローアップまで道筋をつけなければいけません。
大変なことがたくさんありますが、仲間と一緒につくりあげる充実感を味わいながら、仕事に手ごたえを感じるようになっていきました。いま、ジョイセフの海外チームで活躍している若手のスタッフにも、そんなふうに仕事を続けていってほしいと思います。
ーー最後に、これから国際協力の分野で働きたいと思う人へ、メッセージをお願いします。
国際協力というと、大きなテーマに思えるかもしれません。でも実際は、小さな関心や出会いから始まるのだと思います。私も母や友人、尊敬する人々との関わりがきっかけでした。
仕事も同じように、小さな出会いや努力の積み重ねです。現地で人々と出会い、声を聞いて、一緒に悩んだり試行錯誤したりしながら形にしていく。その先に大きな変化が見えてきます。
だから、国際協力に興味を持ったら、ぜひ飛び込んでみてほしいです。続けていくなかで、たくさんの学びや喜びが人生に返ってくると思います。
スタッフのある一日を紹介:
| 09:30 | 自宅で始業。メールチェック・スケジュール確認 |
|---|---|
| 10:00 | 経営企画チームでの打ち合わせ。予算管理、課題などに協議 |
| 12:00 | お昼休憩 |
| 13:00 | ミーティング用資料作成 |
| 15:00 | 海外チーム、アフリカのプロジェクトチームとの打ち合わせ(オンライン)。現地の活動進捗、ニーズ、課題への対策について話し合う |
| 18:00 | 終業。夕食の支度、犬の散歩へ |
自分のために、誰かのために。
あなたの経験が、未来を変える力になります。
Careersー採用情報
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JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします
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