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妊産婦死亡の動向 2000-2023

2025.11.11

世界の年間妊産婦死亡数は推計26万人
女性が妊娠と出産で命を落とす女性はいまだ1日に700人以上

2025年4月7日、世界保健機関(WHO)、ユニセフ、国連人口基金(UNFPA)、世界銀行、国連人口部により、妊産婦死亡に関する新しい報告書「妊産婦死亡の動向2000 – 2023(Trends in Maternal Mortality:2000 to 2023*1」が発表されました。
報告書によれば、2023年時点の世界の妊産婦死亡数の推計値は26万人となり、2000年の推計44万3000人から23年間で41%減少しました。これは、大きな前進です。ですが、今もなお、世界では1日に700人以上の女性が、妊娠、出産に関連した原因や安全でない中絶によって命を落としているという現実は、重く受け止めなければなりません。

世界の妊産婦死亡率 出典:Trends in maternal mortality: 2000 to 2023、WHO, UNICEF, UNFPA, The World Bank and the United Nations Population Division

地域による格差も依然として大きく、妊産婦死亡の約72%(18万7000人)はサハラ砂漠以南のアフリカ諸国、約17%(4万3000人) が南アジアの国々で起きています。妊産婦死亡は貧困と格差が大きく関係し、若年妊娠もその背景にあります。15歳から49歳*2の女性が、妊娠、出産で亡くなるリスクは、日本では3万5149人にひとりですが、低所得国では66人にひとりです。

持続可能な開発目標(SDGs)は、ターゲット3.1で、「2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する」ことを目指しています。報告書は、現在の改善のペースでは2030年までに削減できるのは10万人当たり177人にとどまり、目標に遠く及ばないことを懸念しています。SDGsの目標年である2030年まであと5年、その間、妊娠、出産、安全でない中絶によるリスクに晒されると予想される70万人以上の女性の命を救うためには、可及的な行動が必要であると明言しています*3。 妊産婦死亡は予防が可能であり、国際社会、国家、そしてコミュニティ全てが真剣に取り組まなければならない大きな課題であり続けています。

妊産婦死亡を減少させた妊産婦への医療ケアの改善と避妊の普及

私たちに大きな示唆を与えてくれる論文(Effect of maternity care improvement, fertility decline, and contraceptive use on global maternal mortality reduction between 2000 and 2023: results from a decomposition analysis*4)が、2025年11月2日にLancetに発表されました。この論文によると、2000年から2023年にかけての妊産婦死亡の低減は、約61.2% が妊産婦への医療ケアの改善によるものであり、約38.8 % が避妊の普及による妊娠・出生数の低下によるものだということです。避妊の拡大・普及が、2023年には 約77,400件の妊産婦死亡を回避した可能性があるとも結論しています。これは、避妊することが、女性にとって、健康と命を守るために必須の選択肢だということにほかなりません。

論文は、分析を通じて、今後の妊産婦死亡を削減し、SDGsで掲げた目標に少しでも近づくために、妊産婦ケアの質の向上と、家族計画、避妊の普及を強化・推進する統合プロブラムが不可欠であるとしています。
さらに、質の高い医療を、特に周辺化された地域、農村、加えて紛争地域においても確保しなければなりません。

妊産婦ケア、家族計画サービス、安全な人工妊娠中絶を含む国際保健の前進には、国際社会の連帯が不可欠です。振り返れば、米国の国際保健向上への貢献は、非常に大きいものでした。トランプ政権によるUSAIDを解体や国連機関等への拠出停止などで大きな資金が喪失した今、その資金をいかに埋め合わせるか、明確な答えがない今も命の危険と隣り合わせの状況に置かれている数十万の女性たちがいます。


 
国際協力NGOジョイセフは、アドボカシー活動を通して、人びとの命と健康を守る支援が継続されるよう、市民社会や国際社会と連帯して日本政府に働きかけていきます。そして、低・中所得国の現場の活動においては、世界の女性と妊産婦の命と健康を守るという使命を果たすための努力を惜しまず、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)、ジェンダーの平等、女性と少女のエンパワーメントを推進し、UHCの達成に向けて、国際社会の一員としてこれからも歩んでいきます。

引き続き、皆さまのご支援とご協力をお願いいたします。

公益財団法人ジョイセフ

出典・参考:
*1)Trends in maternal mortality 2000 to 2023: estimates by WHO, UNICEF, UNFPA, World Bank Group and UNDESA/Population Division, 7 April 2025 *2)15歳から49歳(または44歳)の女性が、出産(生殖)可能年齢の女性(Women in Reproductive Age)と定義されているが、妊娠・出産に適した年齢という意味ではない。*3)WHO Maternal Mortality, 7 Apr、il 2025, https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/maternal-mortality*4)Effect of maternity care improvement, fertility decline, and contraceptive use on global maternal mortality reduction between 2000 and 2023: results from a decomposition analysis, Prof Saifuddin Ahmed, PhD, Moazzam Ali, PhD, Iqbal Shah, PhD, Prof Amy Tsui, PhDa
https://www.thelancet.com/journals/langlo/article/PIIS2214-109X%2825%2900409-7/fulltext#:~:text=Findings,was%20attributable%20to%20fertility%20reduction.

ザンビア 村の住居(2011)

妊産婦死亡率

2025年4月10日更新

妊産婦死亡率とは、出生10万人あたりの妊産婦の死亡数です。
先進国では日本(3)、アメリカ(17)、イギリス(8)となっていますが、サハラs砂漠以南のアフリカの国々、特にチャド(748)、ナイジェリア(993)、南スーダン(692)、中央アフリカ(692)などは、日本の数百倍高くなっています(2023年)。*5
2023年のデータでは毎日約 700 人の女性が、妊娠と出産に伴う予防可能な原因で死亡し、ほぼ 2分に1回の割合で妊産婦死亡が発生しています。しかし、妊産婦死亡率 (MMR:出生数10万人あたりの死亡率)自体は、2000〜2023年の間に世界で約40%低下しました。2023年における妊産婦死亡のおよそ92%が低・中所得国で発生しています。*5

出典・参考:
1) Trends in maternal mortality 2000 to 2023: estimates by WHO, UNICEF, UNFPA, World Bank Group and UNDESA/Population Division, 7 April 2025 https://www.who.int/publications/i/item/9789240108462
2)WHO: Maternal Mortality, 7 April 2025, https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/maternal-mortality

Author

JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします