
国際家族計画会議(ICFP; International Conference on Family Planning)は、2009年から約2年ごとに開催されている会議です。いままで、ウガンダ(2009)、セネガル(2011)、エチオピア(2013)、インドネシア(2016)、ルワンダ(2018)、タイ(2022)で開催されました。第7回となる今年は、初のラテンアメリカ・カリブ海地域の開催で、2025年11月1日から6日までコロンビアの首都ボゴタで128カ国から約3,500人を集めて開かれました。この会議に参加したジョイセフのシニア・アドボカシー・アドバイザーの斎藤文栄に会議の詳細を聞いてみました。
「家族計画」をテーマとした国際会議。目的は?
国際家族計画会議は、単なる一過性の会議ではなく、SRHRをすべての人のために進めていくグローバルなコミュニティを形成し、ムーブメントを起こすという非常に野心的な取り組みです。今回のテーマは、「行動による公平:すべての人々のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの推進」。会議を通じて世界を変える動きにつなげることを目指しています。

参加者はどんな人たちですか?
WHOやUNFPAのような国連や国際機関、各国政府―とくに保健省、国際的な研究機関やNGO、活動家、医療関係者、研究者など多様な人たちが参加していました。
地元のコロンビアからの参加者も多かったのですが、意外にも一番多い参加者は米国からでした(500人以上)。米国のSRHRが危機的な状況にあることを物語っていると言えるでしょう。
開会式で私の隣に座ったのは、米国国際開発局(USAID)で家族計画のアドバイザーをしていたという男性で、トランプ政権になってそれまで米国が推し進めてきた対外援助が一時停止、USAIDが事実上解体し職を失ってしまったけれども、今後自分に何ができるか模索するために会議に来たと語っていました。
アフリカからの参加も多く、ナイジェリアからは200人以上、ケニア、ウガンダからもそれぞれ100人以上が参加していました。アフリカは政府関係者も多い印象でした。
インド、パキスタンなど南アジア地域からの参加も多く、まさに世界的な広がりを持つ会議でした。会議に行くバスの中では、IPPFマラウイ(Family Planning Association of Malawi)の人からも話を聞くことができました。彼は、USAIDの資金がなくなったので、130人いたフルタイムスタッフが80人になったと団体の活動への影響の大きさを語っていました。

ジョイセフ(斎藤文栄)がなぜ、この会議に参加したのか?
私は、第4回(インドネシア、2016年)に続き今回が2回目の参加となります。今回は保守化する世界情勢の中で、家族計画を含めたSRHRや海外援助の動向を知るために参加してきました。気候変動のSRHRへの影響など、最新の課題についての情報収集も兼ねています。
ネットワーキングも目的の一つです。久しぶりに会った人、会場でたまたま隣になった人、そして日本から参加している人達と楽しく交流してきました。
SRHRの領域で働いている人たちばかりですので、話をしているだけで刺激を受けます。日本では忙しくてなかなか話をする機会が持てなくても、こういう会議に来ると一緒にご飯を食べたりしてじっくりと話を聞くことができます。
海外の人たちとも、話しているうちに一緒にこれをやろう!とか、あれをやろう!という話が生まれてくるのが国際会議の醍醐味のひとつだと思います。

会議ではどんなことが話されたのか?
3日間の正式な日程の2日前からユース会議や事前会合など様々なセッションが開催されました。朝7時(!)から始まるセッションもあったり(コロンビアでは学校(大学も含め)が朝7時、時には6時半から始まるそうです)、朝から夜まで同時に10個以上のセッションが行われただけでなく、合間にポスター発表があったりと、参加者としても息をつく暇もありません。
あまりのセッションの数の多さに既に2日で頭の中も飽和状態になりました。日本から参加した人たちは時差ボケと闘いながらの参加でした。

SRHRの分野は、いかに資金を集めるかという点がいつも課題となっているのですが、私が以前に参加した10年前と比べると、その深刻さが前回の比ではないと感じました。
紛争や災害への人道支援が多くなる中で、従来の開発課題に資金が集まりにくくなっています。それは今回、多くのセッションが開かれた気候変動とSRHRの文脈においても同様で、人道支援と開発の垣根を超えた取り組みが必要だと専門家は訴えています。
また、会議を支配していたのは、従来、グローバル・ヘルスをリードしてきたUSAIDの不在をどう埋めていくのかという議論です。とくに米国が拠出してきた避妊具・薬などのリプロダクティブ・ヘルスに関連用品の供給(参照「速報: 米国の医療物資廃棄指示により、アフリカの140万人以上の女性と女児が避妊具(薬)の提供を断たれる」IPPF)を誰が(どの国が)肩代わりしていくのか、そのためにはどのような戦略が必要なのかなど真剣に議論されていました。
特にインパクトがあった会議の内容は?
- ① セルフケア
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コロナ下で進んだ医療の「セルフケア」(「医療従事者や介護従事者の支援の有無にかかわらず、個人や家族、地域社会が、自らの健康を促進 ・ 維持し、病気を予防し、病気に対処する能力のこと」WHO(WHO協会ウェブサイトより引用)例えば、コンドームも望まない妊娠やHIV・性感染症を予防することができるセルフケア介入策と考えられている。)のセッションでは、ウガンダが取り組みとしては進んでおり、すでに国レベルのセルフケアガイドラインを策定してことを保健省の医師が発表していました。
ケニアがその動きに続こうとしていること、政府だけではなく、民間レベルにおいても、アフガンやネパールで家族計画や中絶のセルフケア介入が行われていることが紹介されていました。WHOは2022年に健康とウェルビーイングのためのセルフケア・ガイドラインを改定しています。このセルフケアについて、ジョイセフはWHOの人を招いて勉強会を開催したこともありましたが、国際社会の進んだ取り組みに、もっとセルフケアについて勉強していく必要性を感じました。
- ② 人口政策
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人口政策に関するセッションでは、出生奨励主義(Pronatalism)を促進する勢力が社会で大きくなる中で、少子化対策においても、人権をベースとする政策の重要性や、今課題となっている社会的な障害を取り除くことこそ必要であるとの意見がWHOや国連人口基金(UNFPA)のパネリストから強く主張されていました。
また、このパネルの中で、ケアの社会化が改めて問われていたのが印象的でした。米州人権裁判所では、つい最近(2025年8月)、ケアに関する権利が人権であるとの画期的判決が出たそうです。(参考:ビジネスと人権リソースセンター)この判決では、ケアに対する国家の責任の枠組みも提示しています。ケア問題が少子化、と切り離せない課題であるとの指摘に、少子化政策においては、単に人口政策だけを見るのではなく、社会政策を広く考えていく必要があると感じました。
- ③ ラストマイル
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もちろん、このほかにも包括的性教育(CSE)や気候変動のセッション、会議前には2日間のユースセッション、また、ポスターセッションも開催されました。
テーマが『公平性』ということもあり、ラストマイル、支援が最も届きにくいの人たちにどう届けるかという視点からの発表が多くありました。バングラデシュの女性受刑者のSRHRと刑務所を出てからの支援のあり方や、ナイジェリアの都市部と農村部を比較した結果、女性のSRHRアクセスの議論への男性参加率が農村の方が高かった研究結果など、海外、日本でSRHRプロジェクトを遂行する上で示唆に富む情報が多くありました。

日本の国際協力NGOジョイセフとしてできること、期待されていることは?
米国が海外でSRHRを支援する資金を削減する中、かつてODA世界第一位だった日本に対する期待が今までになく高まっています。米国に追随する形で、英国やドイツ、フランスなどの欧州諸国もODAを削減する中、こうした皺寄せはもっとも手が届きにくい人々への影響となって現れます。
ジョイセフが国際協力パートナーを務める国際家族計画連盟(IPPF)の会合にも参加しましたが、IPPFは、この困難な時代において、改めて公平性や正義を大切にしSRHRを推進していく決意を示すため、ファイヤーレッドと言われる色を基調にした新しいロゴを会議に併せて発表しました。
これは、嵐の中にあっても火を灯すことを止めないということを表しているそうです。やリ方は色々とあると思いますが、この覚悟こそが、現場でSRHRに取り組む団体に共有していることです。
ジョイセフも、ジョイセフなりのやり方で、困難な時代にいかに多くの人にSRHRが届くようにすることができるのか、今まで以上の熱量で取り組みを進めていくことが重要だと思っています。
- Author

斎藤文栄
公益財団法人ジョイセフ シニア・アドボカシー・アドバイザー。国連女性機関日本事務所、国連人口基金ネパール事務所、その前は、政府機関、国内外のNGOや大学などの様々なセクターでジェンダーに関する課題に取り組んできた。国会議員政策秘書として配偶者に対する暴力防止法等の立法に関わった。
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