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走ることで誰かの力になれる―保健師・金田恵理さんが語る「ホワイトリボンラン」と性教育への思い

保健師

金田恵理

2025.6.12

走ることで誰かの力になれる――保健師・金田恵理さんが語る「ホワイトリボンラン」と性教育への思い

「走ることが、こんなにも人とつながれる手段になるなんて、思ってもみませんでした」

そう語るのは、保健師として働きながら3人の子どもを育て、現在は「ホワイトリボンラン八王子拠点」の運営や、性と生の啓発プロジェクト「I LADY CARD」のファシリテーターとして活動する金田恵理さん。

今回のインタビューでは、保健師として向き合ってきた「性教育」への思いや、ホワイトリボンランの活動を通じて感じたことについて、金田さんご自身の人生や実践を交えながらお話しいただきました。

ランニングが“誰かのため”に変わった瞬間

保健師として働く傍ら、ランニングを趣味としてきた金田さん。ホワイトリボンランとの出会いは、ランイベントを探していたときに偶然見つけたものでした。

「自分の“好き”であるランニングが、女性たちの命を守ることにつながる。それがすごく素敵だと思ったんです。」

そう語る金田さんは、参加した翌年には早くも拠点運営へと踏み出します。

「走るのが好きで、大会のエントリーを探していたときにホワイトリボンランを見つけました。好きなことが女性支援につながるって素敵だなと思って、すぐにエントリーしました。」

──参加後、すぐに拠点の運営も始められたとか。

「そうなんです。翌年には運営側になりました。たまたまトレイルランイベントでジョイセフの小野さん(当時事務局次長)とご一緒して、『八王子で拠点をやってみない?』と声をかけてもらって。その出会いがきっかけです。」

──運営するうえで大切にしていることはありますか?

「地域の人と一緒に作ることです。誰でも参加できる拠点にしたかったので、バギーランやウォーキングも取り入れました。年齢やライフステージに関係なく参加しやすい形を目指しています。地域の人とのつながりや想いの広がりが感じられて、本当にやってよかったと思っています。」
八王子拠点では、子育て世代や高齢者も参加しやすいようにウォーキングを導入。「地域の人と一緒に作り上げる拠点にしたい」という思いが、協力を呼び、地域の商業施設との連携にもつながっています。

「伝える」だけでは届かない——性教育への思い

保健師として長年働く中で、金田さんが課題を感じ続けてきたのが、性にまつわる教育のあり方でした。「知識を一方的に伝えるだけでは、現実は変わらない」。

特に若年妊娠の現場では、発達や知的な特性を持つ方にどのように伝えるかという難しさに直面することもあったそうです。

そこで出会ったのが、「I LADY CARD」というカード型のワークショップ教材でした。妊娠や恋愛、性のことなど、身近なテーマを通してライフスキルや自己肯定感を育むことを目的としたツールで、楽しみながら対話を深められるのが特徴です。

「これなら響くかもしれない」と感じた金田さんは、研修を修了してファシリテーターに。地元のPTAを対象にしたワークショップでは、「PERIOD」「DATING」「SRH」のカードに取り組み、子どもの妊娠や恋愛、スマホの使い方といったテーマを通して、保護者同士が自分ごととして語り合える場をつくり出しました。

──もうひとつの軸として、性教育の取り組みにも力を入れていらっしゃいますよね。

「はい。保健師として、若年妊娠やさまざまな課題を抱える方と接する中で、性教育の必要性を強く感じてきました。I LADY CARDは、知識だけでなくライフスキルや自己肯定感も育てられるツールで、これがあれば違ったかもしれないと思える場面もありました。」

──実際に保護者向けのワークショップも開催されたと伺いました。

「小中学校のPTAの方を対象に、I LADY CARDのワークを体験していただきました。開催前は『否定的な意見もあるかもしれない』と不安でしたが、『うちの学校でもやってほしい』という声をいただけて、やって良かったと感じています。」

──「伝える」だけでは届かないことも多いですよね。

「そうなんです。特に性の話題はデリケートですから、私は淡々と話すようにしています。こちらが恥ずかしがっていると、相手も話しづらくなってしまいます。相手の表情を見ながら、その人に合った伝え方を意識しています。

そして、単に知識を教えるのではなく、生きる力や自己肯定感を育てることが大切だと思っています。妊娠してからでは遅いこともあるので、もっと早い段階から支える必要があると実感しています。」

話すときの姿勢、そして“聞く”姿勢も大切にしているという金田さん。話していい人だと思ってもらえるような空気を作ることが、何よりも基本だと言います。

「好き」を行動に。すべては誰かの未来につながっている

「I LADY.もホワイトリボンランも、私にとっては自然につながっている活動です」

そう語る金田さんにとって、「走ること」も「語ること」も、すべてが“誰かの未来”を思っての行動だといいます。

「I LADY.」とは、若者が自分の人生や体について考え、自分らしく生きる力を育むことを目的とした性と生の啓発プロジェクト。金田さんはその中で、カードを使った対話型ワークショップを通じて、保健師としての経験を活かした活動を続けています。

──ジョイセフの活動とお仕事はどのように関係していますか?

「予防を重視する保健師の仕事と、I LADY.やホワイトリボンランの活動は、私の中では自然に重なっています。今は個人として取り組んでいますが、将来的には仕事とも結びつけていけたらと考えています。」

──最後に、これから挑戦してみたいことはありますか?

「地域でI LADY CARDの体験イベントを継続して開催していきたいです。まだまだ学ぶべきことは多いですし、特に発達に課題のある方への性教育について、どう現場で実践していくかを日々模索しています。」

金田さんの言葉や行動のひとつひとつには、「誰かの未来を少しでもよくしたい」というまっすぐな想いが込められていました。

「自分にできることを、自分らしい形で届けていく」その姿勢は、多くの人に勇気と気づきを与えてくれます。

走ることも、語ることも、すべてはつながっている。

そんな金田さんの生き方が、これからもたくさんの人の背中をそっと押してくれるはずです。

Author

JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします