ジョイセフはアフリカの農村部で、「マタニティハウス」という出産待機施設を整備しています。これは自宅から保健医療施設までのアクセスの悪い妊婦が、出産予定日の2週間前から無料で滞在できる宿泊棟で、診療所などの隣に建てられます。
マタニティハウスを利用すれば、自宅出産しか選べなかった遠方の女性たちも、医療従事者のいる施設で安心して出産できるのです。
2025年現在、ザンビアに7棟、さらにガーナで1棟のマタニティハウスが稼働しています。マタニティハウスの存在は、地域に大きな変化を起こしています。
「出産は危険なのだから、妊産婦や新生児が亡くなっても仕方ない」とあきらめていた人々が、マタニティハウスによって母子の命が守れることに気づき、活用を推進するようになったのです。施設での出産が大幅に増え、妊産婦死亡がゼロになった地域もあります。
マタニティハウスの整備は、ジョイセフと地域の人々、現地の政府・行政、日本のサポーターや専門家など、多くの人々が協力するプロジェクトです。そしてプロジェクトの真価が問われるのは、建物が完成した後です。現地の人々が主体となり、マタニティハウスの運営や活用が続いていかなければ、意味がありません。
ジョイセフのプロジェクトでは、住民が主体となってメンテナンスや運営を担う仕組みづくりに力を入れるため、その成果は永く続く「持続可能なもの」になります。さらに他の地域・コミュニティにも評判が広まり、住民から住民へ、ノウハウが伝えられていきます。
マタニティハウスも、ジョイセフが支援活動で最も大切にしてきた「住民主体の地域づくり」を象徴するプロジェクトなのです。
【SDG3.1妊産婦死亡率の削減:施設分娩を増やす】
アフリカの農村地域では医療施設へのアクセスが悪く、最寄りの保健医療施設まで歩いて数時間かかる村がたくさんあります。そのため、多くの妊産婦が施設での分娩をあきらめ、清潔な水も電気もない自宅で出産し、錆びたハサミでへその緒を切るなど不衛生な処置を行っています。
ジョイセフの活動国のひとつであるザンビアで、妊産婦死亡のおもな原因は、出血多量、感染症、高血圧などです。産前検診や適切な処置を受けていれば守れたはずの命が、医療にアクセスできないために失われてきました。
2011年、この状況を変えるためにザンビアで誕生したのが「マタニティハウス」(出産待機施設)です。ジョイセフの一般支援者や、ユニクロ(現ファーストリテイリング)とCath Kidsonのチャリティによる支援を原資に、ジョイセフとザンビアが協力し、マサイティ郡フィワレ地区保健センターの隣に第1号棟が建てられました。
マタニティハウスは、出産予定日の2週間前から無料で滞在できる宿泊施設です。遠方に住む人も早めに来て、リラックスしながらお産が始まるのを待ち、陣痛が来ればすぐに助産師のもとで出産できます。
もともと分娩施設に入院できるベッドはなく、陣痛が始まるまで受け入れてもらえませんでした。遠方の妊産婦は間に合わず、出産後に休むスペースもなかったのです。こうした課題を解決するマタニティハウスの登場で、施設での分娩率は大きく向上しました。
持続可能性(サステナビリティ)に欠かせないジョイセフの3つの強み
専門家との連携
フィワレ地区の第1号マタニティハウス建設以降、ジョイセフは日本の建築家の遠藤幹子さんに専門家としてご協力いただいています。第1号の建物のベースになったのは、日本からの支援品の輸送に使われた古い貨物コンテナです。それらを組み合わせて家のように形作り、風通しや採光、使い勝手など、地域の人々と意見交換しながら間取りが工夫されました。地元の工務店が中心となり、多くの村人も作業に加わって、快適で心地良いマタニティハウスができました。
さらに建物の外壁は、遠藤さんのファシリテーションで、村の人々と一緒に美しく彩ることに。100人もの住民が、お気に入りの葉っぱにグリーンや赤のペンキを塗り、真っ白な外壁にスタンプのように押し当てます。みんなで歌い踊りながら、母子の命を守る建物の誕生を心から喜ぶひとときでした。
翌年には、隣のムコルウェ地区に第2号のマタニティハウスが完成。ここでも遠藤さんは村の人々と外壁のデザインを話し合い、「母子の命を守るためのメッセージを描く」という案に決まりました。

人々から提案された絵のテーマは、「安全な出産のために産前検診を受ける大切さ」「女性の健康を守るために妊娠間隔を空ける家族計画」「妊娠中の体に良い食べ物」など。それぞれが自由に筆をふるいながらも、遠藤さんのディレクションによって、全体が調和した素晴らしいデザインに仕上がりました
これら2つのマタニティハウスをモデルケースとして、遠藤さんとジョイセフは地域の人々と協力し、他の地域にもマタニティハウスプロジェクトのノウハウを伝えていけるようにガイドブックを制作しました。重要なポイントはみんなが覚えやすい歌にして、その譜面もイラストや写真がいっぱいのガイドブックにおさめられています。
保健ボランティアの養成
せっかくのマタニティハウスも、人々にその良さを理解されなければ使ってもらえません。そこで活躍しているのが、ジョイセフのプロジェクトで養成された保健ボランティアの「母子保健推進員」、通称「SMAG(スマッグ)」です。(SMAG=Safe Motherhood Action Group)
SMAGになるのは、地域で母子の命を守りたいと思う有志や、伝統的な産婆さんなど。男性も多く活動しています。研修を受けてSMAGとなり、村々を訪れて、妊産婦検診や施設分娩、適切な家族計画の大切さを伝え、マタニティハウスの利用促進、そして妊産婦の健康と権利に大きく貢献しています。
マタニティハウスの建設をきっかけに、ジョイセフは2011年からザンビア各地で、母子や女性の命と健康を守る「ワンストップセンター」の整備も進めてきました。ワンストップセンターは、保健センターやマタニティハウスのみならず、母子保健棟・若者のためのユースセンター・助産師が快適に暮らせる住居・清潔な水を供給する井戸とタンク・発電施設などを備えています。
「住民主体」へのこだわり
さらに2024年、西アフリカの国・ガーナにも、第1号のマタニティハウスが誕生しました。ここでもザンビアで培ったノウハウが生かされています。ザンビアからジョイセフのプロジェクトマネージャーであるアリスが駆け付け、地域住民による外壁のペインティングワークショップが行われました。
ペインティングワークショップでは、住民が伝えたいメッセージを話し合い、合意して、それをわかりやすく表現する絵を描きます。みずから意思決定し、自分の手でペイントすることで、自然と愛着や「自分たちのもの」というオーナーシップが生まれ、人々は建物を大切に、そして積極的に活用していくようになります。
「母子の命を守りたい」という現地のニーズから始まったマタニティハウスのプロジェクト。ジョイセフや日本のサポーター、専門家、現地の政府や地域に暮らす人々が力を合わせて作り上げたものです。そしてジョイセフはどのプロジェクトでも、住民が主体となってメンテナンスや運営を担ったり、現地の行政による継続的なモニタリングが行われたりするよう、持続可能な仕組みづくりに力を入れています。
マタニティハウスは、ジョイセフが最も大切にしてきた「住民主体」を象徴するプロジェクトなのです。
マタニティハウスについてもっと知る
マタニティハウスに関するジョイセフの記事
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- マタニティハウスに妊婦さん滞在開始!
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- 妊産婦・新生児保健ワンストップサービスプロジェクト
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- ガーナ発マタニティハウスのペインティングワークショップ
マタニティハウスを知るウェブサイト
- Author
JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします