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「女性性器切除(FGM)根絶のための国際デー(2/6)」によせて ー「遠い誰かの問題」ではなく、私たちが向き合うべき課題として

2026.2.4

毎年2月6日は「女性性器切除(FGM)根絶のための国際デー(International Day of Zero Tolerance for Female Genital Mutilation)」です。
この日は、FGMという慣習が女性や女の子の健康と尊厳に深刻な影響を及ぼしている現実に目を向け、その解決に向けて世界が連帯して取り組むことを呼びかける国際デーです。
ジョイセフは、すべての女性が自分の身体のことを自分で決められる社会を目指すSRHR(性と生殖に関する健康と権利)のフロントランナーとして、この課題に向き合う決意を新たにします。

FGMとは何か:奪われているのは「自己決定権」

FGM(Female Genital Mutilation/女性性器切除)とは、医学的な必要性がないにもかかわらず、女性や女の子の外性器の一部または全部を切除したり、傷つけたりする慣習を指します。
主にサハラ以南アフリカや中東を中心に、アジア、東欧、ラテンアメリカなどの一部地域で行われており、国連によると、世界31カ国で2億人を超える女性と女の子がFGMを経験しているとされています。国連はFGMを「女性や女の子の人権を侵害する有害な慣習(harmful practice)」であり、暴力や拷問の一形態にもあたると位置づけています。

FGMは、激しい痛み、ショック、大量出血、感染症、排尿困難などの短期的な合併症に加え、出産時の合併症、長期的な身体的・心理的影響など、深刻な健康被害をもたらす可能性があります。
また、本人の意思に反して行われることが多く、女性や女の子の自己決定権や尊厳を損なう問題でもあります。これは、SRHRの根幹である「自分の身体のことは自分で決める」という権利を、根本から否定する行為に他なりません。

SDGs(持続可能な開発目標)でも、2030年までにFGMを完全に根絶することを目指していますが、コロナ禍を機にFGMの実施が増加した地域もあり、また一部の地域ではFGMを受ける年齢の低年齢化が進むなど、課題の深刻化が指摘されています。

単純に「悪」として根絶できる問題ではないという現実

一方で、現場での活動を通じて、FGMは単純に「悪」として切り捨てられるものではないことも私たちは学んできました。
FGMが実施されている地域では、FGMは、価値観や社会規範と深く結びついた伝統的慣習です。

「女性として認められるため」「結婚の条件」「家族やコミュニティの名誉のため」など、社会の中で生きていくために必要なもの、宗教的にも「正しい」こと、と考えられており、実際に、女性自身がFGMを「必要」と受け止めているケースも少なくありません。*
ほとんどの国の法律でFGMは禁止されていますが、いまだに多くの女性・女の子がFGMを受けているのは、法律だけでは変えられない社会的・文化的背景が存在するためです。
*イスラム教やキリスト教の教義はFGMを支持していません。

だからこそ、FGMは「女性の健康と尊厳を損なうからやめるべき」という正論だけで、外部から一方的に廃絶できるものではない、複雑な課題です。

それでも、「文化の多様性」を理由に見過ごしてよい問題ではない

文化や伝統への理解は大切です。
しかし現実には、FGMによって健康を害される女性や女の子が今も多く存在しています。
望まない施術から逃れるために家族やコミュニティから離れざるを得ない人、恐怖や不安の中で生き続ける人、身体と心に長く残る傷とともに人生を歩む人が大勢います。

FGMは「遠い国の文化の問題」として片づけ、関心の外に置いてよい問題ではありません。
女性の身体と尊厳が守られるべきだという価値は、どの社会にも共通するはずのものです。

文化や価値観は、外から簡単には変えられない

法律や制度が整っても、人々の意識や文化的な価値観が変わるには何年、何十年という時間がかかります。日本におけるジェンダー平等の歩みも、その一例です。
FGMも、外部からの圧力だけで変えられるものではなく、その社会に生きる人々自身が課題を理解し、どう変えていくかを考え、主体的に行動していくプロセスが不可欠です。

ジョイセフは対話を通じた社会変革を大切にします

地域に根付いた慣習であるFGMは、それに従わない場合、コミュニティから疎外されたりするため、ジョイセフは、FGMの廃絶に向けた取り組みは、コミュニティ全体が参加する対話のプロセスによって進められるべきだと考えています。

女性だけでなく、男性、家族、宗教指導者、地域のリーダーなど、多様な立場の人々が誠実に意見を交わし、相互尊重のもとで価値観を見直していくことが、持続的な変化につながります。

ジョイセフは、こうした対話プロセスを、行動変容と社会変革を促すコミュニケーション技術(SBCC: Social and Behavior Change Communication)を活用して側面から支援します。
一方的に「正しさ」を押し付けるのではなく、コミュニティの住民自身が納得し、選択し、変化を生み出す力を育むことを重視しています。

私たち一人ひとりにできること

FGMの問題は、遠い国の出来事ではなく、「文化」「ジェンダー」「人権」という普遍的なテーマを私たちに問いかけています。
異なる文化を尊重しながらも、すべての人の健康と尊厳をどう守るのか。
その問いに向き合い続けることが、社会を変える第一歩です。

知ること、想像すること、考えること、話し合うこと。
それら一つひとつが、遠い場所で起きている現実と私たちをつなぎます。

FGM根絶のための国際デーにあたり、ジョイセフは、女性と女の子の健康と尊厳が守られる社会の実現に向けて、国内外のパートナーの皆さまとともに、対話と相互理解を基盤とした持続的な社会変革に向けて取り組みを続けていきます。

Author

山口 悦子
2004年にジョイセフ入職後、一貫してアジアとアフリカでSRHRを推進する国際協力プロジェクトに従事している。特にHIV/エイズ、妊産婦保健、男性参加、若者のエンパワーメントといった分野で、コミュニティを中心とした仕組みづくりに携わる。JICAのHIV/エイズ専門家としてガーナで5年の経験、JICAインドネシア事務所の保健分野の企画調査員経験を持つ。第二の故郷はガーナ。趣味は犬(ガーナ生まれ)とテニス。