
4月7日は、世界保健機関(WHO)が定めた世界保健デー(World Health Day)です。1948年のWHO設立を記念し、毎年「世界の健康について考え、行動する日」として世界中で取り組みが行われています。
2026年のテーマは、
「科学に基づき、みんなで健康に」
Together for health. Stand with science
です。
いま世界では、ワクチンや感染症対策、そして性と生殖に関する健康と権利(SRHR)をめぐり、 誤情報や不信感が広がっています。
しかし、はっきりしていることがあります。
健康は“願い”では守れない。科学と、それを支える社会の選択によって守られるということです。
SRHRとは「尊厳をもって自分の生き方を選ぶこと」
性と生殖に関する健康と権利(SRHR)は、すべての人が健康に、自分らしく生きるのに欠かせません。
特に、妊娠できる体をもつ人の人生を大きく左右するのが、「産む・産まない、いつ産むか、何人産むか」という選択です。この選択を支えるのが、 家族計画(避妊)と安全な中絶ケアです。
政策が女性の命、健康を左右する現実
1984年、米国のレーガン政権は、ある政策を導入しました。 それが「グローバル・ギャグ・ルール」(メキシコシティ政策)です。それ以来、アメリカで共和党の大統領が当選するたびに、このルールが復活しています。
これは、米国の支援を家族計画サービスの提供に活用するNGOに対し、中絶に関する情報提供やケアを全面的に禁じる政策です。
これにより、世界の多くのSRHR推進団体は、
- 家族計画サービスの継続のために米国資金を取るか
- 中絶ケアを続けるか
という厳しい選択を迫られてきました。
2017年、第1次トランプ政権下では、米国政府から保健分野の資金を受け取る団体すべてにこの中絶関連サービス提供禁止のルールが適用されました。
科学が示した衝撃的な事実
最近、米国政府の国際開発援助政策が世界の女性の健康に及ぼした悪影響を測定する研究論文*が発表され、きわめて衝撃的な結果が明らかになりました。
*Bhalotra, S., Clarke, D., Fernandez Sierra, M., & Mühlrad, H. (2026). US Presidential Party switches are mirrored in global maternal mortality. BMJ Global Health, 11(3), e020223.
米国資金への依存度が高い国では、 共和党政権期に妊産婦死亡率が10.5%増加。
これは、出産10万件あたり、死亡する女性が約45人増える計算になります。
地域別では
- ラテンアメリカ:16%増
- アジア:15%増
- アフリカ:7%増(死亡数は最多)
世界が40年かけて減らしてきた妊産婦死亡の改善という成果の 約5分の1が失われる規模でした。
つまり、科学に基づくケアへのアクセスが減ると、確実に命が失われるのです。
なぜ死亡が増えるのか
支援が途絶えると、現場では何が起きるのか。
- クリニックが閉鎖される
- 避妊が手に入らなくなる
- 医療者が不足する
その結果
- 意図しない妊娠が増える
- 安全でない出産が増える
- 危険な中絶が増える
これは「遠い国の話」ではなく、科学に基づかない政策と資金の選択が、人の生死に直結する現実です。
米国による対外援助削減がもたらす現実
米国は世界最大の援助国で、 2023年には
- 世界の援助の20%以上
- 家族計画分野の54%
- リプロダクティブヘルス分野の45%
を拠出していました。*
*The Fuller Project, Health, Politics & Policy April 16, 2025
現トランプ政権が対外援助停止した結果、
- 米国の援助が1日途絶えるごとに、13万390人の女性が避妊サービスへのアクセスを失い、
- 1年間で4,760万人の女性とカップルが近代的な避妊手段を利用できなくなり、
- 1,710万件の意図しない妊娠と3万4,000件の予防可能な妊娠関連死亡が発生する
可能性が指摘されています。*
*Stover, J., Sonnevelft, E., Tam, Y., Clark, R., Phillips, A. N., Smith, J., … & Dimitrov, D. (2025). The effects of reductions in United States foreign assistance on global health.
それでも解決策はある
家族計画は、最も効果の高い投資の一つです。グットマッハー研究所によると、低・中所得国において、避妊サービスに1ドルを投じるごとに、妊娠・新生児ケアにかかる3ドルのコストが削減され、60〜100ドルの経済成長が見込まれます。なぜなら、家族計画は女性や女の子の教育・労働参加を高めるからです。
少ない投資で多くの命を救えることが、科学的に証明されています。
ジョイセフが取り組んでいること
ジョイセフは、60年近くにわたり、科学的エビデンスに基づいて、女性と若者のSRHRを推進してきました。
- 性教育と啓発
- 家族計画・避妊へのアクセス向上
- 安全な妊娠・出産を支える地域保健の強化
- ジェンダー平等の推進
世界のどこに生まれても、科学に基づいた情報と必要なケアを受けられる社会を目指しています。
科学とともに、未来の健康を守る
世界保健デーのメッセージはとてもシンプルです。
知ること」が、命を守る。
「選ぶこと」が、未来を変える。
私たち一人ひとりにできること:
- 科学に基づく情報を知る
- 世界の健康課題に関心を持つ
- 支援や行動につなげる
その一つひとつが、
誰かの「生きる選択肢」を広げます。
小さな関心が、誰かの命を守ります。
4月7日、世界保健デー。科学とともに、すべての人の健康のために。
- Author

山口 悦子
ジョイセフ事務局長。2004年にジョイセフ入職後、一貫してアジアとアフリカでSRHRを推進する国際協力プロジェクトに従事している。特にHIV/エイズ、妊産婦保健、男性参加、若者のエンパワーメントといった分野で、コミュニティを中心とした仕組みづくりに携わる。JICAのHIV/エイズ専門家としてガーナで5年の経験、JICAインドネシア事務所の保健分野の企画調査員経験を持つ。第二の故郷はガーナ。趣味は犬(ガーナ生まれ)とテニス。
性と恋愛 2021 ー避妊・性感染症予防の本音ー
ランドセルの日に寄せて ー「6年間ありがとう」と、その先につながる平和と学びへの思い
【ジョイセフ活動報告2025】東京で走ったその先で――ランナーの寄付が、ケニアと日本の「包括的性教育」の普及に生かされています