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【特集】「性暴力の今」を知る――刑法改正後の日本で、私たちは何を問われているのか

2026.2.3

近年、日本の刑法は性犯罪に関して大きな転換点を迎えました。明治時代から続いてきた規定が、市民や法律家の声に後押しされる形で、ようやくアップデートされたのです。

2017年と2023年の法改正を経て、性犯罪は「暴力や脅迫があったか」ではなく、「同意があったかどうか」を基準に判断されることになりました。それが性暴力の根本的な問題を改善していくための一歩であることは間違いありません。しかし裁判の現場では、被害者の声が十分に反映されない判決や、「同意とは何か」をめぐる混乱が続いています。さらにデジタル性暴力など、新たな問題も急速に広がっています。

今回の法改正は、性暴力の被害やその本質を正しく捉えているのか。2028年に予定されている次回の刑法見直しに向けて、どんな視点が必要なのか。今、私たち一人ひとりに問われている「性暴力」の課題を見つめます。

~コラム|「性暴力」とは?~
性暴力とは、相手の同意なく行われる、あらゆる性的な行為や関わりを指します。暴力や脅迫を伴う場合に限らず、怖くて抵抗できなかったり、断ることが難しい立場や状況に置かれたりするケースも含まれます。
性暴力は身体への侵害であるだけでなく、尊厳や性的自己決定権を深く傷つけるものです。物理的な命を奪わずとも、人間として生きる根幹を壊すような被害を及ぼすことから、「魂の殺人」と呼ばれることもあります。
近年は、性的な画像の無断撮影や同意のない拡散、脅迫(いわゆる「セクストーション」)、ディープフェイクポルノなどのデジタル性暴力も広がっています。

刑法改正による前進と、残された大きな課題

日本の刑法における性犯罪規定は、長いあいだ明治期の考え方を色濃く残してきました。しかし近年、悪質な性犯罪事件や加害者が「無罪」になるケースが相次ぎ、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)から日本に出された改善勧告や、「フラワーデモ」「#MeToo運動」に代表される市民の声が高まったことで、ようやく大きな転換点を迎えました。それが2017年および2023年の刑法性犯罪規定の改正です。

「暴力・脅迫」から「同意」へ―――2023年刑法改正の意義

以前の日本の刑法では、性犯罪が成立するためには「よほどの暴力や脅迫があったこと」を厳格に証明する必要がありました。そのため、被害者が激しい抵抗をしなかったケースなどは「暴力や脅迫はなかった」と判断され、無罪になることが少なくありませんでした。
しかし、被害の現場では「恐怖で動けなかった」「抵抗すればもっとひどいことをされると思った」ということが珍しくありません。そうした被害者の心理は十分に考慮されてこなかったのです。
2023年の法改正により、新たに「不同意性交等罪」が創設されました。これにより、判断の基準は「暴力や脅迫があったか」ではなく、「被害者が同意していたか」へと大きく前進しました 。

依然として残る、「同意」をめぐる壁

法律は変わりましたが、新たな課題も見えてきました。それは「何をもって同意とするか」という判断基準がいまだに曖昧であり、裁判官の価値判断に左右されてしまう点です。
実際に、被害者が「10回以上拒絶した」と証言したにもかかわらず、「同意がなかったとは言えない」として無罪になった事例があります(那覇地裁判決R6.6.14)。また、2023年の「滋賀医大生集団性暴行事件」では、録音データで被害者による拒絶が確認されているにもかかわらず、「事件後に加害者と連絡を取っていた」ことなどを理由に、二審で逆転無罪になりました。被害者の心情(画像の拡散を恐れた等)が十分に考慮されていないケースと指摘されています。

世界の潮流と「Yes means Yes」

欧米諸国やWHOでは、日本がようやく導入した「同意」を基準にする考え方が主流です 。さらに一歩踏み込んで、スウェーデンなど、積極的に同意(イエス)の意思表示がない限りは性犯罪とみなす「Yes means Yes」という考え方を刑法に導入した国もあります。
日本でも、次は2028年に刑法の見直しが予定されており、この「Yes means Yes」への移行が議論の焦点になる可能性があります。しかし、日本の刑法体系は証拠に基づく厳格な立証を重視する仕組みであり、「同意があったかどうか」をどのような証拠や事情から認定するのかは大きな課題として残ります。

急増する「デジタル性暴力」の脅威

現代特有の深刻な問題が、SNSやインターネットを介した「デジタル性暴力」です。これに対して2023年に「(性的姿態等)撮影罪」*が新設されました。

盗撮の処罰化
これまで自治体などが条例レベルで対応していた電車内の盗撮などが、全国一律の刑事罰の対象になりました。
同意なき撮影・保存・拡散
カップル間などであっても、同意のない性的な撮影、保存、スクリーンショット、共有は処罰対象となり得ます。
グルーミング対策
14歳未満、および5歳以上の年齢差がある16歳未満への写真送信要求も処罰対象となりました。

*正しい名称は「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」

新たな脅威:セクストーションとAI

セクストーション(性的脅迫)とは、性的な画像を送らせた後、拡散を脅しに使って金銭やさらなる画像などを要求する手口です。近年SNSを通じて急増しており、対象は女性に限らず、ある支援団体の被害相談では、相談者の約7割を男性および男の子が占めています。非常に悪質な犯罪で、自殺者も出るなど、世界的に社会問題となっています。
日本にはセクストーションを直接罰する法律が整っておらず、事態は深刻化する一方です。現行の「撮影罪」は、「撮影時」に不同意であることが前提であり、本人の同意の上で撮影した画像を、後から脅迫に使う場合は適用できません。「リベンジポルノ防止法」という法律もありますが、こちらは画像等がインターネットに公開されたという既成事実が必要なため、あらかじめ拡散を防ぐことができません。こうした法の隙間を埋める法整備が急務です。
さらに直近ではAI悪用による合成映像被害(ディープフェイクポルノ)も深刻です。今のところ名誉棄損罪などでしか対処できず、「身体・性の自己決定権の侵害」という問題の本質を捉えきれていないと言えるでしょう。

性暴力に関する用語:ミニ解説

|同意(Consent)
性に関わる行為について、本人が自由な意思で「してもよい」と伝えることを指します。恐怖や圧力、飲酒、立場の差などがある場合、同意は成立しません。沈黙や抵抗しなかったことは同意ではなく、いったん同意したとしても、いつでも撤回できるものと考えられています。同意をとる上では、以下の4点が重要です。
①明確性:「性的な行為をしたい」という積極的な同意であること ②対等性:社会的地位などの力関係に左右されない対等な関係であること ③非強制性:NOと言える環境が整っていること ④非継続性:ひとつの行為への同意は、ほかの行為への同意を意味しないこと

|性的自己決定権
自分の体や性について、誰と・いつ・どのように関わるかを、自分で決める権利のことです。性暴力は、この権利を一方的に奪う行為です。国際的にはSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利)の中核概念とされています。

|デジタル性暴力
SNSやインターネットを通じて行われる性暴力のことです。性的な画像や動画の無断撮影・保存・拡散、脅迫、ディープフェイクポルノなどが含まれます。現実の暴力と同じく、深刻な人権侵害です。

|セクストーション(性的脅迫)
「Sex(性)」と「Extortion(脅迫)」を組み合わせた造語で、性的な画像や動画を被害者から送らせ、それを拡散すると脅しながら金銭やさらなる性的画像・行為などを要求するものです。年齢や性別を問わず被害が広がっていますが、日本では直接処罰する法律が十分に整っていないのが現状です。

|性的姿態等撮影罪(2023年)
電車内などの盗撮や、同意のない性的な撮影・保存・共有が犯罪として処罰されるようになりました。また、16歳未満の子どもに対する「性的な写真の要求」も、グルーミング(手なずけ)による搾取を防ぐため、厳しく罰せられます 。

私たちが目指す社会とは:SRHRの視点から

性暴力の本質は、個人のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)、つまり「自分の体について自分で決める権利」が侵害されることにあります 。
性暴力の被害を受けた際には、証拠を残すために、可能であればシャワーを浴びずにワンストップ支援センター(#8891)や病院、警察に駆け込むことが重要です。一方で、すべての人がその行動をとれるわけではありません。だからこそ、被害者が泣き寝入りしなくて済む、さらに言えば加害が抑止される社会のしくみづくりが、今強く求められています 。

民間の支援団体「NPO法人ぱっぷす」は、AI技術を使ってインターネット上に拡散された画像の削除を支援するなど、被害者を救済する重要な役割を果たしています 。今後は、こうした民間の取り組みを国が制度として支えるとともに、被害を防ぐ法整備をさらに進めていく必要があります 。

2028年の法改正レビューに向けて、私たちはこの問題を「他人事」ではなく、今ここにある課題として考え続けたいと思います。誰もが自分の意志を尊重され、安心して暮らせる社会を作るために。まずは「知ること」から始めてみませんか。


3月は、女性の健康と権利のために。ジョイセフのチャリティラン「ホワイトリボンラン2026」が開催されます。今回の支援金は、ザンビアと日本で、性別による暴力から女性と女の子を守る活動に役立てられます。
ホワイトリボンランとは?

Healthy women, Healthy world.
女性の健康が、世界を変える。

ホワイトリボンランは、3月8日国際女性デーと連動させて、ジョイセフが2016年から始動したチャリティアクションです。ホワイトリボンが掲げる「すべての女性が健康で自分らしく生きられる世界」を目指し、ホワイトリボンの支援の輪を広げることを目的としています。 3/8 国際女性デーに、「走ろう。自分のために。誰かのために。」というスローガンを掲げ、同じ公式Tシャツを着て世界の女性のためにみんなで走り、全国の拠点で、そしてバーチャル(インターネット)でつながって世界中にホワイトリボンのムーブメントを起こします。 エントリー費の収益全額が寄付され、世界の女性の命と健康を守る活動に使われます。

ホワイトリボンについて知る ≫

2026年大会はザンビアと日本への支援を実施!

2026年のホワイトリボンアクション は、『性別による暴力(Gender-based violence)から女性や女の子を守りたい』。 女性や女の子が暴力を受けることは、人として持っている大切な権利を奪われることです。この問題が起きる理由には、男女の立場に差があることや貧しさなどの社会的背景があります。 さらにジョイセフは、もう一つ大きな理由があると考えています。 それは、「体や心の成長について正しく学ぶ機会」と「命の大切さや自分らしい生き方について考える教育」を、学校や社会で十分に受けられていないことです。 2026年のチャリティで集まった寄付金を使って、アフリカのザンビアと日本で支援活動を行います。

「ザンビア」

ザンビアでは、被害を受けた女性に必要なケアを提供する人材を育成し、住民への啓発をはじめ地域全体で女性を暴力から守る環境整備に取り組みます。

「日本」

日本では、女性たちが自分自身の命と健康を守る知識やライフスキルを身に着けられるように、若者や親世代を主な対象にSRHRの正しい知識を学ぶ機会と場を提供します。

過去の支援の詳細はこちら

Author

JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします