人口問題協議会・明石研究会新シリーズ  「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第1回 前編

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2013.2.26

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人口問題協議会・明石研究会では、2013年の共通テーマを新たに「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」として開始しました。関連分野の専門家・オピニオンリーダーの皆さまから所見を伺い、後日「提言」として各界に向けて発表する予定です。
2013年1月25日の第1回明石研究会では、「高齢化社会の課題と挑戦」のテーマのもと、嵯峨座晴夫・早稲田大学名誉教授および加藤久和・明治大学政治経済学部教授の両先生のお話を伺い、参加者たちと議論を深めました。

■ テーマ:高齢化社会の課題と挑戦
■ 講 師:嵯峨座晴夫(早稲田大学名誉教授)
           加藤久和(明治大学政治経済学部教授)
■ 座 長:阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授・人口問題協議会代表幹事)

発言の要旨は次のとおり。

阿藤誠

21世紀の今、先進国のみならず途上国も含めて「地球まるごと高齢化」の時代を迎えている。その中でも、日本の高齢化は最先端を走っており、その取り組みが世界のモデルになりうる。今回は、人口社会学からの視点で嵯峨座先生、人口経済学の面、とりわけ社会保障面から加藤先生というお二人を招いて社会と経済の両面からお話しいただき、討論を行いたい。

嵯峨座晴夫

■はじめに

超高齢社会に向かう日本で、最近では、新聞、テレビ、雑誌等で大変多くの高齢社会の問題が取り上げられている。一人暮らしの高齢者が増えていることについても関心が持たれていることがわかる。高齢者の就労についてはデータにはっきり出てきている。

1 高齢社会対策大綱の考え方

平成24年9月7日に閣議決定された「高齢社会対策大綱」は、以前の大綱に比べてわかりやすく、よくまとまっている。その中の「基本的考え」は次の6項目からなっている。

  1. 「高齢者」の捉え方の意識改革
  2. 老後の安心を確保するための社会保障制度の確立
  3. 高齢者の意欲と能力の活用
  4. 地域力の強化と安定的な地域社会の実現
  5. 安全・安心な生活環境の実現
  6. 若年期からの「人生90年時代」への備えと世代循環の実現

この6つは、今日の高齢社会対策の主要問題を過不足なく網羅している。しかし、このなかで6番目にある「世代循環」という造語は、「世代継承」とすべきではないか。

2 2つの主要な構造変動

 

一番強調したいのは、①21世紀の人口構造の変化(超高齢社会の出現)、②居住状態(あるいは居住形態<リビング・アレンジメント>)という2つの主要な構造変動についてである。なぜ、そのような傾向が起こるのかについては、主要な要因として20世紀の後半に起こった核家族化が指摘されている。

高齢者の単独世帯の増加が、ニュースでもよく取り上げられるようになったが、一般世帯のなかで65歳以上の単独世帯は、総世帯数に対して2010年に30.7%、2035年には37.7%であり、75歳以上でみると、それぞれ36.8%と39.7%と約4割にもなる。

3 シニアの活動状況―狭山市のシニアの学習・参加活動の事例―

3番目に、私が10年以上かかわってきた地域活動の経験についてお話ししたい。「NPO法人 狭山市の高齢社会を考える会」(1999年から任意団体として活動を開始、2007年に法人化)が、狭山市と協働して分科会、委託事業、シニア社会イベントなど、自立した活動を進めてきた。市はこの会には口出しせず、自立が保たれているのが特徴のひとつである。

その活動のひとつである狭山シニア・コミュニティ・カレッジ(SSCC)では、予算は少ないが、授業料をとって運営している。これは、運営委員会を中心として、毎年300人以上の修了生を出して、平成24年度までで4347人に達している。このほかに学校支援など多方面の活動では、修了生300人以上のボランティアが登録されており、各科目の授業のお手伝いをしている。市内27の小中学校での学校支援活動が「朝日のびのび教育賞」(2011年)を受賞したこともある。

SSCCは70代が中心の組織だが、少子高齢化社会においても健康で生きがいを持って生活できる地域社会づくりのなかで、参加者たちの健康増進にも役立ち、会員はみなとても元気である。

一方で「狭山元気大学」という別組織があり、こちらは教養的というより、起業や就業を通じて社会参加することにより、直接的に社会に還元する活動を中心としている。市民からみればSSCCとの違いがわかりにくく、財政的にも重複があるので市としては担当部署の違う2つの組織を統合するという方向にある。SSCC、元気大学のほかに既存のシルバー人材センター、准看護師養成短大が、廃止になった小学校を改修して、これらの組織の拠点としている。

4 超高齢社会の課題

超高齢社会の課題としては、下記のような格差の問題がある。

  1. 高齢者層内の格差(所得格差、健康格差 等)
  2. 高齢者の生活時間やライフスタイルの違いから生じる組織運営上の問題
  3. 65歳定年制導入(平成25年から)に伴う新しい年齢区分の提案
    • 65~79歳は就業・ボランティア・学習が中心
    • 80歳以上は世代間交流・趣味・余暇活動が中心
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表では、分布が偏らないようにするため、従来の年齢区分(前期高齢者、後期高齢者)から5歳伸ばして65歳~79歳、80歳以上と分けてみた。それでも2060年には80歳以上が総人口の20%になっている。新しい年齢区分を提案する根拠として、①国連が80歳以上を用いていること、②従来の区分だと75歳以上の後期高齢者が2060年には26.9%にも達し、統計の分類基準として適切でないこと(80歳以上としても2060年には20.1%)、③高年齢人口の人口学的特性(性別、配偶関係など)が今日では80歳あたりを境に大きく変化すること、④その他の社会経済的特性(就業率、健康度、介護ニーズなど)も80歳あたりで大きく変化することを挙げておく。

生活時間とワークライフバランスには疑問もある。私は、年寄りを大事にするばかりでなく、もっと働いてもらってよいのではないかと、実践のなかで感じている。ボランティア活動をすればよいというものではなく、就業して所得があるようにするべきである。年金は消費につながらないので、所得を得れば消費に結びつくのではないかと思う。

  1. 高齢者・高齢期の再定義
    • 65~79歳:新高齢者、新老人、新人
    • 80歳以上:超高齢者、超老人、超人

この際、新しい状況に対応した呼び方を上記のようにするのはどうか。「新老人」は日野原重明・聖路加国際病院理事長が唱えているので二番煎じになる。そこで私は、65歳定年になったら「新人」になり、80歳を超えたら「超人」という呼び方を考えてみた。

参考:心理学者:エリクソンのライフサイクル発達段階論
1:乳児期、2:幼児期前期、3:幼児期後期、4:児童期、5:思春期・青年期、6:成人期、7:壮年期、8:老年期

E.H.エリクソン(1902~1994年)のいう第8段階の「老年期」はその期間が長すぎるので、1997年に彼の妻J.M.エリクソンが「老年的超越」を追加している。これは、超高齢期(90歳以上)における認知力が「時空」、「天地」、「彼我」を超越したものになる傾向を意味している。

  1. サクセスフル・エイジングと生きがいの追求

「サクセスフル・エイジング」という言葉は、「上手な年のとり方」、「幸福な老い」などという日本語に訳した時期もあったが、最近ではカタカナで使うことが多い。老年期へ向けての上手な年のとり方の条件としては、長寿、健康、活動、満足が最も重要だという。また、生涯発達という言葉も「サクセスフル・エイジング」に近い意味をもっている。この言葉は、人生の各段階において直面する課題を克服しながら年を重ね、新しい役割に次々とスムーズに移行しておくことにより、生きがいのある、充実度の高い人生を送ることができることを示唆している。

高齢者の生き方については、健康、長寿はもとより、安心、満足、幸福、自己実現、生活の質、社会参加など、どれも生き方の指針あるいは条件として大切なキーワードである。生き方の究極のねらいは、結局「生きがい」に結び付くと思う。次を参照していただきたい。

参考:
嵯峨座晴夫、「サクセシフル・エイジングの条件」『保健の科学』2013年3月号、杏林書院

加藤久和

最初に日本の高齢化の現状はどうなっているのかを整理する。次いで、高齢社会の課題を経済成長・労働市場、それに社会保障の2つの面から話し、最後に高齢化社会に欠かせない政策面について考えてみたい。

高齢社会の姿:人口と年齢構造

嵯峨座先生が示された年齢区分は、大変参考になる。人それぞれの健康状態によって違うとはいえ、平均寿命の伸長を考えると65歳で分けるのはあまり意味がない。

高齢者の定義は人それぞれの健康状態によって違ってくるが、日本全体で言えば65歳以上が総人口の4分の1近く、75歳以上が1割以上、50年後には75歳以上が4分の1になる。75歳以上が4分の1になれば、社会そのものの成り立ちが現在と全く異なることになる。

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高齢者が働けば、労働力人口と高齢者を含む非労働力人口の割合が緩和される。また、人口の年齢構造をみると、2060年の老年人口指数(高齢者と現役世代との比)は、70歳以上を高齢者、20~69歳を現役世代として考えれば62.2、さらに高齢者を75歳以上とすれば44.6と、非常に低下する。現実問題として高齢化を考えるときに、対象を今までと同じ年齢層でとらえるか、変えるのかが大きな課題ではないか。

 

社会保障財政は、現役の人の所得で高齢者の年金や医療を支えている。65歳以上を高齢者とする老年人口指数から、何人の若者がどれだけの高齢者を支えているかをみると、1980年には11.2人の現役世代で1人の高齢者を支え、2010年には2.8人であった。このままでいくと2060年には現役世代1.3人で高齢者を支えることになる。財政的な問題はあるが、70歳以上を高齢者として、69歳までを労働人口ととらえる等、発想を変えて考えれば高齢化の解決策はいろいろあるのではないか。

高齢化については、日本全体だけでなく市区町村別の問題も大きい。75歳以上の人口が25%という市区町村数の割合は、国立社会保障・人口問題研究所の平成20(2008)年推計によると2005年の1.1%から2035年には50.1%と半分を超える。このように「余生を送る」という考えだけでは、地域社会を維持できなくなる。

世界の高齢化をみれば、日本は「チャンピオンであり」、「トップランナー」である。2012年の国連の推計から、年齢順に総人口を並べた時に中央にいる人の年齢(中位年齢)をみると、日本は2011年に45.0歳、2050年には52.3歳で第2位である。世界全体で進む高齢化のなかで、その先進国である日本に世界が注目しており、解決への先駆的事例になるのではないかとみている。

少子化対策を行わないで、過去からの少子化のトレンドがこのまま続けば、2200年では1164万人まで人口が減少し、現在の総人口の10分の1ほどになってしまう。少子化対策を進めて効果が現れれば、現在23%くらいの65歳以上人口割合は26.7%程度に落ち着くことができる。高齢化対策として、高齢者に働いてもらうと同時に、少子化対策を進めるのは日本の社会にとって非常に重要となる。このことは、今日のテーマのなかで「挑戦」であると考える。最近、少子化対策について強調されることが少なくなってきたように思う。

高齢社会の課題として、以下のことが挙げられる。

①  経済成長と労働市場
②  社会保障制度
③  社会的多様性
     ⇒コミュニティの維持、社会的活力、高齢者向けインフラ、等
④  地域・都市構造
     ⇒地方の高齢化、玄海集落、コンパクトシティ、等
⑤  家族のありよう
     ⇒単身化、家族規範の変化、等

このなかで、今回は①と②について話していく。



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