人口問題協議会・明石研究会新シリーズ  「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第2回 後編

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2013.4.12

明石

大変多面的なデータが示されたと思う。続いて、南部さんに実践活動のなかからお話いただきたい。

南部 靖之

私は学生時代から今日まで人生をかけて37年間、あらゆる雇用に対するマイノリティから雇用の創造を実践的に行ってきた。対象は、主婦、卒業しても仕事のない若者、キャリアを持ちながらそれを生かせない中高年、そして障がい者の方々だ。

ここ数カ月は多少の円安効果があるものの、長引く世界経済の低迷により、企業の力はかつてないほど弱くなった。雇用について、企業力におんぶにだっこの時代ではなくなった。そこで私は、従来ある社会基盤のほつれを細かくつくろうのではなく、“がらがらぽん”とひっくり返して、フラットな立場に新たに組みなおすことを提案したい。つまり、誰もが柔軟な働きを安心してできる、「労働改革」、「教育改革」、「社会保障改革」の三位一体改革を実現し、企業依存社会から個人自立社会への転換をすることである。

当面の課題として、具体的に3つ、ひとつ付けくわえて4つを提案したい。

1 労働規制の見直し

個人のライフスタイルに合わせて自由に働き方が選択できる仕組み、つまり、正規・非正規の間の行き来のしやすい柔軟な働き方・雇用システムが必要である。人間の一生の中で子育てや介護に専念しなければならない時、仕事に打ち込みたい時、新しい人生のチャレンジをしたい時に合わせて、安心して働けるセーフティネットをつくること。

身近な例だが、息子は今“一度しかない人生だから、人事権は人事部長に預けるのではなく、自分にある”と考えて独立を目指している。

フリーターと正社員の壁をなくすには、1カ月のうち、1時間働いても正社員、4時間でも正社員という社会基盤制度を作って、だれもが自由に好きな時に同じ条件で働けるようにできないか。意識をひっくり返して、“フリーターこそ正社員”と言っても過言でないと思う。

企業も正社員雇用という男性優位に働いていた時代から、今は男女平等社会において、国際競争力に勝ち得る、柔軟な雇用インフラを創らなければならない。このための、規制の見直しが必要である。

2 国の就職支援事業の見直し

事業効率の観点から、パイロット事業として、意欲ある自治体から民間へのアウトソーシングをすべきと考える。政府はここ数年、就職支援などのため、大幅な予算の増額と、ハローワーク相談員の1万人から2万人への倍増を行った。しかし、現行の助成制度は使い勝手が悪い上、職業訓練が企業ニーズにマッチしていない。弊社の「フレッシュキャリア制度」では、就職率が約8割、また自治体などから受託した事業でも大きな成果を上げている。

民間は、求職者を企業が求める方向にリードしていく能力、つまりマッチング能力と基礎研修を実施する能力を有しているからだ。経済財政諮問会議でも、事業効率の指摘があったが、財政が厳しい中、効率的な取り組みがなされており、国も民間事業者の力を積極的に活用すべきである。意欲ある自治体に事業を委託したり、業務を大胆に民間事業者にアウトソーシングするパイロット事業を実施すべきだ。

3 若者雇用支援、大学での教育の見直し

驚くかもしれないが、画一的な大学受験をなくしたらよいと思う。高校時代にどれだけ業績があったか、社会貢献をしたか、特技は何かを1年間で評価して、大学に進学できる仕組みを作るべきではないか。これを実現すれば70~80%の若者が生き生きするだろう。自殺やうつ病が減ることになる。

A

 

現在の就職慣行においては、一度卒業してしまえば、新卒扱いではなくなるので就職が難しくなる。そのため、若者の履歴書に空白をつくらせないことが、きわめて重要である。今の大学教育では、企業が求める基礎的な訓練がなされていないのではないか。学生生活と社会人生活の中二階として、海外でのギャップイヤー制度(例えば英国では、大学就学前の1年をめどに、テーマを持って「ボランティア・インターン・国内外留学」で過ごす制度)のように、わが国にも、「ギャップイヤービジネスプログラム」のようなものを作り、卒業後や大学在学中に国内外でOff-JT、OJTを経験できる仕組みを創設すべきである。

そして、産業構造の変化により、ただ黙って物を作る時代は終わり、サービス産業が雇用創出の担い手となった昨今、社会人として必要な、思いやりや挑戦、前向きな姿勢を身に付け、モチベーションやビジネスマナーを養うと、内定を得られなかった学生が高い就職率を得られることになる。これは今の大学教育やハローワークでは、身につけられない。大学はそうしたプログラムを単位として認めたり、休学中の学費を免除するなどの支援を行うべきである。ちなみに、1999年から2005年の就職氷河期に多くのフリーターが生まれ、その数は2003年には217万人に達し、現在も178万人(厚生労働省)のフリーターがいると言われている。

―パソナの実践例:

弊社では、リーマンショックの後、55万人の大学卒業生の中から12万~15万人とも言われる就職ができなかった学生を対象にフレッシュキャリア制度で就職へ導いた。

就業規則を変えて、2012年の4月1日に就職できていない1400人をパソナの社員として入社させた後、徹底的な訓練を経て1300人(約90%)が弊社から転職できた実績を持つ。学生ではなく、教育を受けたパソナの社員として転職するから、マッチング率が高い。

2012年に、17万円の月給で採用した30人が参加する淡路島での研修では、午前中は農作業、午後はそれぞれ5つのコースに分かれて、希望する職種に向けた勉強をさせた結果、3カ月の期間を経て自分の力で100%が転職していった。今年は120人にする予定である。

3年間にギャップ社員として入社し、その間に学んで他の仕事を見つけられるようにする。

4 雇用創出に向けた司令塔の確立

課題を集中して議論し、必要な方策を実施するため、民間人が大きな役割を果たす「緊急雇用創出本部」を創設し、各大臣に指示ができる「雇用創出担当大臣」を置いてはどうか。

最後に、福沢諭吉の『学問のすすめ』にある、“一身独立し、一国独立す”という言葉を紹介したい。「企業依存社会」から一人ひとりが、自力を高めて自立し、自ら汗水流して、希望ある人生を切り拓いていくために、企業や国がサポートしていく「個人自立社会」への転換こそが、この国の未来をつくるものと私は信じている。

私は、経団連などあちこちにフレッシュキャリア社員制度を働きかけたが、なしのつぶてで反応がなかった。経済界主導で雇用すべきであって、人に対して、真剣に向き合わなければならない。

質疑と補足

グローバル化の潮流の中での日本の新しい動き、賃下げの圧力、労働市場の改革、外国人留学生の困難な雇用問題、についてなど、様々な意見と議論が交わされた。

南部

補足1:フレッシュキャリア社員制度はパソナ独自の教育制度で、就職活動をしながら、1カ月に1日だけ社員として働けばその分の給料を払う。できるだけ早く就職をして欲しいという条件がある。大学までに必要なのは、IQ(知能指数)、EQ(心の知能指数)だが、今後はSQ(スピリチュアル指数)やPQ(パーソナリティ指数)のような、やる気や人柄が求められるのではないか。

補足2:賃金格差については、正規雇用だから高収入で安定しているとは言えない。男性と女性、大企業と中小企業、東京と地方の賃金格差という三重苦がある。

明石

グローバル化の面で日本の新しい動き、賃下げの圧力、労働市場の改革、外国人留学生の就職が困難という雇用問題についてなど、多くのことに話題が広がった。

講師からの現実に即した発表を受けて活発な意見交換ができた。若者の雇用の問題に具体的な形での提案があったと思う。雇用実験制度、フレッシュキャリア社員制度、数週間という短期間でも若者に変化が起こる。例えば、2012年秋の立命館大学での「留学生のためのジョブフェア」では、ミスマッチどころか企業と留学生の間に橋渡しができて、現実に可能性が開けたのだった。これからもさまざまな側面から勉強していきたい。お二人には貴重なきっかけをいただいたことに感謝したい。

文責:編集部 ©人口問題協議会明石研究会
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