ミレニアム開発目標(MDGs)の「体感」―カンボジアにて

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2011.10.5

カンボジアにきています

事務局長に就任して早々ですが、国際協力機構(JICA)の短期専門家としてカンボジアに出張しています。
「カンボジア国レファラル病院における医療機材管理強化プロジェクト」の「保健行政・マネジメント」分野の専門家としての技術移転が目的で、カンボジアの医療機材管理の政策文書や長期戦略づくりに参加しています。
私は、医療機材やその適切な管理は、よりよい医療サービスのための「底力」だと常々考えています。カンボジアには、2009年から年2回、短期ベースで派遣され、このプロジェクトを通じて、ほぼ2年間のおつきあいとなります。

コンポンチャム州の保健所を訪ねて(後列中央が著者)

コンポンチャム州の保健所を訪ねて(後列中央が著者)

カンボジアの農村地域の母と子の保健事情

この間に、保健行政や保健事業の現状を把握するために、たびたび地方を訪ねて、地域の人々の保健事情、特に母子保健の状況を「体感」してきました。
カンボジアの80%を占めるといわれている農村地域の状況は改善しなければならないことが山積しています。とりわけ母子の現状は、他のアジア諸国と比較しても、よい状態であるとはいえません。
たとえば、最新の国連児童基金などのデータによると、カンボジアの妊産婦死亡率は、出生10万対290、乳児死亡率が出生千対68、5歳未満児死亡率は出生千対88と、依然として高い数値を示しています。この大半は農村部や貧困層で発生していることをみると、医療保健サービスへの「普遍的なアクセス」が重要な課題となっていることがわかります。

後列が地域の助産師さん、彼女たちが妊産婦の命をあずかる最前線(プリヴィエン州)

後列が地域の助産師さん、彼女たちが妊産婦の命をあずかる最前線(プリヴィエン州)

さらなる分析

さらに、以下のような状況が浮かび上がってきます。

  • 妊産婦死亡、乳児死亡は80%以上が医療サービスの届かない農村地域で起きている。
  • レファラルの遅れが顕著で、ここでも妊産婦死亡の最大の原因である「3つの遅れ」(意思決定、搬送、治療)が主な原因である。
  • 貧富の格差、地域格差、男女格差が著しく、これらの「格差」が「命の重さ」を決定づけている。
  • 人的不足(医師、コメディカルなど、また資格・スキルなどに改善点が多いことや彼らの安定した収入は副業を持たなければ成り立たないのが現実)が保健医療サービスの提供やクオリティ不足ともなっている。
  • いわゆる「保健システム」や「保健マネジメント」が脆弱で、その理由には人的不足の上に、人材養成の不足、物的な不足(施設、機材、薬品)などが挙げられる。
  • 地域によっては、水や電気などのインフラが欠如している。

都市と農村の格差は大きい

特に、農村地域では、母子に関する保健医療サービスが著しく欠如しています。農村地域で妊産婦の緊急搬送が必要となった場合に、上記の理由や、複合的な原因で治療が遅れてしまうのです。また医療施設にも人的、物的、技術的な課題が多く緊急手術もできないようなレファラル病院も多く、現在も引き続き保健システムや病院システムの強化が、カンボジア政府を中心に、国連や国際機関、二国間支援機関、国際NGOによって行われています。しかしまだまだ十分ではありません。
カンボジアは、一方では昨今の「投資ブーム」もあり、プノンペンをはじめとした都市部やその近郊においては、見違えるような発展がみられますが、農村部は、いまだ「光の当たらない」ところであるといえます。

入院病棟は常に満杯、でも、ここに運ばれた人々は幸運である?

入院病棟は常に満杯、でも、ここに運ばれた人々は幸運である?

妊産婦の命を救うことが終わりのないチャレンジであってはならないと思います

ミレニアム開発目標5(妊産婦の健康の改善)や目標4(乳幼児死亡率の削減)だけをとってみても、果たさなければならないことが、あまりにも多く、毎回派遣されるたびに体感しています。
2015年のミレニアム開発目標達成まであと4年を残すのみとなりました。2000年から国際社会が連携協力して実施してきていますが、まだ、多くの課題が山積しています。特に妊産婦の命を救うミッションは遠く険しいものを強く感じています。
私たちのチャレンジが「終わりのない」チャレンジであってはならないと強く思いながら、日々カンボジアのチームと議論し、汗を流しています。
(2011年10月、プノンペンにて)