ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デーに考える

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2014.12.11

2012年12月12日の国連総会において「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」を国際社会共通の目標とすることが、全会一致で議決されました。これを受けて、世界銀行、世界保健機関(WHO)や関連研究機関、NGOなどが共催しUHCを啓発する記念日として2014年12月12日を「UHCデー」として、各種イベントを開催することになりました。第1回目となる今年のテーマは、「UHC:Health for All」です。すべての人々の健康のために、ジョイセフも保健分野の国際協力NGOとしてこのイベントに参加し、積極的なアドボカシー活動を推進します。

WHOの定義によれば「UHCとは、すべての人々が良質な保健医療サービスを、必要な時に負担可能な費用で享受できる状態」とされています。
すでに広く認識されているように、近年、開発途上国においても疾病構造が大きく変化し、以前の「感染症」対策のみだけでなく「非感染症」対策もあわせて必要となっています。その意味からも、UHCが必要とされる状況がますます増加していると言えます。

また、一方、日本はUHC達成に成功した先駆的な国のひとつとしても知られており、知見や経験を提供できる国として、国際社会から大いに期待されています。日本は1961年から「国民皆保険制度」を実施し、その制度を、半世紀以上にわたって維持継続してきた国なのです。そのことで、世界の多くの国々から、その政策立案の指導や戦略づくりの知見の提供に期待が寄せられています。

1961年、国民皆保険制度が完成した当時の日本は、所得倍増計画が始まった年であり、今とは異なり高度経済成長期の初期段階にあたりました。日本が、開発途上国の一員にすぎなかった状況であったとも言えます。当時の日本人の国民所得が低い状況にあったことからも、画期的な制度が実施されたことになります。それがゆえに、現在中進国からも、日本の制度に熱い視線が注がれているのです。

UHCの道筋が国によって違うのは当然ですが、UHCの目標である、すべての人々が質の高い医療サービスを受けられることが保障され、公衆衛生上の危険からすべての人々を保護し、本人や家族が病気になった際の医療費の自己負担額や所得喪失による貧困化からすべての人々を守るためにも、今年からの「UHCデー」の制定・実施は、あらゆる面で大変意義深いことです。

現在、多くの国々で、保健システムの強化やプライマリヘルスケアの復権が叫ばれていますが、UHCによる横断的な政策・戦略づくりへの介入は、各国の包括的で持続可能な保健システムの構築に欠かせないものであると、私は考えます。その意味から、日本の成功例も失敗例もこれから続く国々にとっては、重要な教訓や好事例となると思います。

ただし、国際社会で機が熟していると言っても、UHCの拡散を急ぐのではなく、まずは、各国の現状をしっかりと踏まえた取り組みを、各国の関係機関と研究・調整していくことが求められると考えます。また、制度づくりには、その国のオーナーシップ(自主性)を踏まえたうえで、取り組まなければなりませんし、よきパートナーシップを提供していかない限り、新しいシステムは決して浸透しないことを考えながら行ってほしいと思います。「UHCデー」をよいきっかけにして、幅広い中長期的な視野に基づいた議論の行われることを期待します。

現在、世界には、生活に困窮し適切な医療サービスや必要なケアを受けられない人々がおよそ10億人いると推計されています。UHCが国際社会の共通目標として広く認識されるようになるまで、そして、すべての人々が健康を享受できるようにするために、12月12日を人類共通の歴史的な大切な一日にしようではありませんか。

(2014年12月、東京にて)