中国「一人っ子政策」の廃止を決定、その影響は

2015年11月18日

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2015年10月29日に、中国共産党の中央委員会全体会議が、1979年から続けてきた、いわゆる「一人っ子政策」を廃止し、すべての夫婦に「2人目の子ども」を容認することを決めたというニュースが報じられました。理由としては、行き過ぎた一人っ子政策により、近い将来に中国社会は労働力不足と急速な高齢化社会に直面することになり、経済成長が減速することになるのではないかという懸念からであるとしています。

その一人っ子政策について私なりに考えてみたいと思います。

私は、一人っ子政策が開始された翌年(1980年)6月27日~7月10日、今から35年前に中国に派遣された「計画生育視察訪中団」(全15名)の一員として参加し、一人っ子政策を中国各地で視察してきました。開始からわずか1年目でしたが、視察した中国のどこに行っても一人っ子政策の基本政策を繰り返し聞かされました。

北京、西安、成都、上海と回り、一人っ子政策に携わる多くの幹部たちの覚悟を聞きました。誰一人として少しもぶれることのない、「紀元2000年までに中国の人口は10億人以下にとどめなければならない。一人当たりの国民所得は1000ドルにする。」という言い回しでした。そして「晩婚、晩育、少産、優生」を提唱し、これは「現在の世代の責務であり、将来をつくる現世代の任務である」と繰り返していました。

当時ミッションで同行したメンバーが、人権への配慮が足りないことを懸念していたのを覚えています。

その後、1984年からジョイセフと中国は協力事業として、住民一人ひとりの健康向上の視点をもつ「家族計画・栄養・寄生虫予防インテグレーションプロジェクト」を推進しました。中国はこのプロジェクトの熱心な推進国となり、その後中国全域に及ぶ壮大なプロジェクトとなりました。これは中国において一人っ子政策との好対照プロジェクトとして実施されました。

中国はその間に、目を見張る経済成長を遂げ、社会主義的な政策よりも経済重視の取り組みが主要政策となり、一人っ子政策も大きく変貌してきたのではないかと思います。

その間に一人っ子を育てる親のモティベーションも変わってきました。特に、都市部において一人っ子政策は、子どもを育てているカップルにしてみれば、子どもに対する価値観を変えるものとなりました。与えるべき教育レベルも、35年前とは大きく変わりました。最近では海外留学も視野に入っています。

極論すれば、いま一人っ子政策を廃止したからと言って、生活の質の向上を目指してきた人々は、すでに後戻りできないのではないでしょうか。ましてや、今の世代はその一人っ子政策下で生まれた世代ですから、さらに難しいと考えます。かつて子どもが労働力として、あるいは老後の保証などと言われていた価値観とは隔世の感があります。

農村地域における一人っ子政策の廃止についてはある程度の期待感があるかもしれませんが、周知の通り、現状でも少数民族や農村地域では例外措置がとられていて、条件によっては、2人目の出産も可能となっています。つまり一人っ子政策の廃止がどこに向いているのかと問わざるを得ません。

違う視点で見てみますと、アジア地域の中国文化圏と言われる国々での合計出生率(TFR)がすでに置き換え水準を割っています。『世界人口白書2014』によると2010年から2015年のTFRの年平均では、香港1.1、韓国1.3、シンガポール1.3、日本1.4など一人っ子政策を採用していない国々でもTFRが2を極端に割る状態になっています。ちなみに中国は、現在1.7です。
中国の経済成長は、他の中国文化圏よりも、さらに早いスピードで実現されています。「子ども」は、もはや中国においても「消費財」であり、決して「生産財」ではないと言えます。かつて日本でもそうでしたが、子どもに対する価値観に「投資」という考え方が出てきているのはないでしょうか。

子どもは数でなく、高学歴や社会的経済的機会の拡大等の質を問われる時代にすでに入っています。いったんついたそれらの「ハズミ」は、トップダウンの政策では変えられないものとなっていると言えます。中国においても、個人の意思が重んじられる時代へと入っています。子どもを労働力などと考える親はもういないと考えられます。

現実問題としては、中国の物価の上昇により生活費や教育費が高騰し、国全体で保育園がすでに不足していると聞きます。共働きの現状を変えることはできないなどの状況を踏まえると、今回の政策変更の効果は疑われています。
今後の推移を見守りたいと思います。

(2015年11月、東京にて)

ジョイセフ事務局長
鈴木 良一

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