健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)開催
テーマ「すべての子どもに温かくやさしい社会へ~母子保健からのメッセージ~」

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  • ジョイセフコラム

2016.10.28

今年度は岡山県にて開催

健やか親子21全国大会が上記大会テーマのもと岡山県岡山市の岡山コンベンションセンターで2016年10月3日~5日の3日間、開催されました。主催は厚生労働省、岡山県、岡山市、社会福祉法人恩賜財団母子愛育会、一般社団法人日本家族計画協会、公益財団法人母子保健推進会議などで、ジョイセフは後援団体のひとつとして開催への支援協力をしました。

岡山県をはじめとした全国各都道府県の母子保健・家族計画の関係者、各賞の受賞者など総勢延べ約1500名が集まり熱気いっぱいの大会で、式典には、伊原木隆太岡山県知事、大森雅夫岡山市長の他多数の来賓、関係者が、歴史ある本会を祝し母子保健家族計画分野のさらなる尽力を呼びかけました。

主催者の開催呼びかけ文には、「少子化が進み、社会構造の変化によって家族や地域のつながりが希薄となりつつある今の時代に、「母子保健」は今後どのような役割を果たす必要があるのでしょうか。今一度「母子保健」の原点に立ち返り、「健やか親子21(第2次)」がその計画目標に掲げる「すべての子どもが健やかに育つ社会」の実現に向け、保健、医療、福祉、地域で活動するボランティア等様々な関係者とともに母子保健の未来を考え、つながりを深める大会にしたいと考えています」と力強く述べられており、母子保健事業では永年顕著な活動を行ってきている岡山県での大会は母子保健の今後のあり方を見つめる絶好の機会となったと思います。

okayama01 全国大会式典:各賞の授賞式もあわせて行われました(写真提供:JFPA)

全国大会の歴史は、1949年(昭和24年)に開始された全国母子衛生大会と1956年(昭和31年)開始の家族計画普及全国大会(後に家族計画全国大会)が、1965年(昭和30年)の母子保健法制定に伴い、翌年の1966年(昭和41年)からは合同で行われるようになり、今回はちょうど50年の節目に当たります。21世紀に入った2001年からは「健やか親子21」の全国運動が開始されたのにともない、現在の名称「健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)」として開催されてきました。「健やか親子21」は2015年から第2次10カ年計画に継続発展しています。

大会式典と母子保健・家族計画の各集会の開催

  • 10月3日には母子保健関係者研究集会(テーマ:子どもは地域の宝~地域全体で親子に声かけ・見守り活動を)が母子愛育会によって開催運営されました。
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    10月4日の大会の式典と基調講演では、全国で母子保健・家族計画分野で功労のあった方々に各賞が授与されました。厚生労働大臣表彰(個人64人、2団体)、母子愛育会会長表彰(個人47人、2団体)、日本家族計協会会長賞(個人49人、1団体)、母子保健推進会議会長賞(個人55人、3団体)がそれぞれに贈られ永年の母子保健・家族計画分野の活動が顕彰されました。なお今年度ジョイセフから鈴木良一常務理事が永年の家族計画母子保健分野の国際協力活動への貢献で日本家族計画協会会長賞を受賞しました。
  • okayama9本年度の家族計画協会会長賞を受賞したジョイセフ常務理事・鈴木良一(左が日本家族計画協会の近泰男会長、右が同北村邦夫理事長)

大会基調講演は、テレビメディアなどでも著名な、住田裕子弁護士が「子育て世代へのメッセージ~今私たちにできること~」の演題で、分かりやすい語り口で聴衆に語りかけました。自身の検事時代の経験を踏まえて、少年事件等の背景にあると思われる子育ての難しさと親としての責任等について事例を共有し、相手の気持ちを理解する、人の痛みが分かる人間として育てる、社会のルールを守る、社会は一人では生きていけないことなどを踏まえた、「規範教育」の重要さや対人関係能力やコミュニケーション能力の開発、「共感性」を育むことの大切さについて強調しました。「ごめんなさい」「ありがとう」の言える子育てが求められていることを訴えました。現代社会では、「貧困」が新たな課題となっていることも触れ、「6分の1の貧困」対策が喫緊の課題であり、子どもを「公共財」や「地域のとっての宝物」として地域でひろく育むことを提言しました。

okayama02基調講演の住田裕子弁護士:「子育て世代へのメッセージ~今私たちにできること~」

10月4日の午後は、母子保健推進員等および母子保健関係者全国集会が開催され、母子保健関連の「子育て世代包括支援センター」の目指すものなど幅広い議論が神ノ田昌博厚生労働省母子保健課長の特別講演を皮切りに議論されました。また、高橋睦子吉備国際大学教授による、切れ目のない家族支援として大きな成果を上げているフィンランドの「ネウボラ」(切れ目のない子育て支援)が紹介されました。シンポジウムでは各自治体での包括的支援モデル事業が紹介されました。いま行政にとっても重要な変わり目に当たり、関心が非常に高く全国から参集した200名を超える会場満員の集会となりました。

  • okayama3母子保健関係者全国集会:最近の母子保健を取り巻く状況が共有され、子育て世代包括支援センターの目指すもの等が討議されました。神ノ田昌博厚労省母子保健課長による特別講演
  • okayama08取材するテレビ局スタッフ

10月5日に開催されたシンポジウム(テーマ「切れ目のない母子保健サービスを提供するために」で、吉田敬子九州大学病院特任教授による基調講演「出産をめぐるメンタルケアと育児支援システム最前線」として、周産期の女性の10~30%が発症すると言われる「産後うつ病」のイギリス、日本などでの研究成果や実例の紹介など母親のメンタル面への切れ目のないサービスを提供するための包括的な事業の推進や関連の専門ケアの人材育成の重要さなどについて議論されました。シンポジウムでは、大学・行政・地域組織(愛育会)のそれぞれの役割や連携についての取り組みが紹介されました。生涯を通じてのケアやサービス、またライフサイクルの視点での取り組みの重要さが強調されました。コンベンションホール800席を埋め尽くす熱気に満ちたシンポジウムとなりました。

  • okayama04吉田敬子九州大学病院特任教授が基調講演
  • okayama05シンポジウム「切れ目のない母子保健サービスを提供するために」のパネルディスカッション

家族計画研究集会ではLGBTがテーマに

日本家族計画協会が主催した、LGBTをテーマにした家族計画研究集会は大きな注目を集め、メディアにも取り上げられました。レズビアン(L、女性同性愛者)、ゲイ(G、男性同性愛者)、バイセクシュアル(B、両性愛者)、トランスジェンダー(T、性同一性障害など心と体の性が一致しない人)の頭文字に由来し、性的少数者(マイノリティー)を総称するLGBTは、残念ながら、日本社会ではいまだにしっかりと受け止められていないし、浸透していないのではないでしょうか。しかし、2015年の電通によるインターネット上での7万人アンケートでは、日本人の7.6%がLGBTの当事者であると報告されています。この数値は性的マイノリティとはいいづらい数値なのです。

10月5日の今回の集会で、LGBTに焦点を当て、中塚幹也岡山大学大学院教授による講演「LGBTへ理解を深める」、パネルディスカッション「LGBTとして生きている自分」として、LGBTの方々4名による、つらい時期を乗り越えてカミングアウトした自分、そして現在に至る自分の意識や周囲の変化などの体験談を踏まえた、深く突っ込んだ話し合いが北村邦夫理事長の進行によって行われました。いまでこそ、同性の婚姻などが日本社会でもLGBTへの理解は進んできているし、話題に上るようになってきました。しかし、事実を事実としてとらえる難しさに直面している人びとの「まどい」や「迷い」が多くあることも明らかにされました。また、行政としても教育現場でもどのように向かい合い、取り組むべきかの課題が多くあることも分かりました。200名を超える会場満席の方々がパネラーの発言を熱心に聞き入っていました。

  • okayama06家族計画協会研究集会「LGBTへの理解を深める」メディアからも高い関心を集めました
  • okayama07中塚幹也岡山大学大学院教授による講演のあとパネルディスカッション

このようなテーマは今回だけで終わらせるのでなく、LGBTの人びとが日本社会においても「自然に受け入れられ普通である」状態にまで、あらゆる機会に継続してほしい重要なテーマであると感じました。「女性」でも「男性」でもない「個性」が大切にされる社会をつくっていかなければならないのではないかと深く考える機会となりました。

今、母子保健の多様性を考える

今回の大会の全体テーマは「母子保健の原点」でした。一言で「母子保健」といっても質も量も、また技術的にも制度的にも、また対象においても、まだまだ多岐にわたる多くの課題が残されていることも今大会で改めて認識できました。

また、今大会のテーマのひとつであったLGBTについて日本では、議論が始まったばかりのような気がします。あるいは、日本は先進国の中でもこの分野の議論が非常に遅れている国のひとつではないかとも改めて実感しました。国際社会とともに連携協調していくことと、日本国内でのさらなる啓発・アドボカシー活動が必要ではないかということを痛感しました。

多様な個人や多様な家族が存在している現代社会において、私たちの母子保健の概念の「原点」を見つつ、どのようにして、現代社会のニーズや人びとの多様性に対しての回答を用意しなければならない時代に入ってきたのではないかと考える貴重な「きっかけ」を作ってくれた、大変中身の濃い全国大会となったのではないでしょうか。

なお、次回の平成29年度(2017年度)「健やか親子21全国大会」は、10月25日~27日の3日間、宮崎県宮崎市の県立芸術劇場で開催される予定となっています。

(ジョイセフ 常務理事 鈴木良一 2016年10月、岡山市にて)