第2回グローバル・ジェンダー・トレンド・ダイアローグを開催しました
2019.8.21
- レポート
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ジョイセフは2019年8月2日、東京都文京区のアカデミー文京で、日本の市民社会がSDGs5「ジェンダー平等と女性と少女のエンパワーメント」達成に効果的にかかわっていく方法を学ぶ勉強会「グローバル・ジェンダー・トレンド・ダイアローグ」の第2回を開催しました。6月末に日本で初めて開催されたG20の首脳宣言は、ジェンダーや女性に繰り返し言及し、経済面における女性のエンパワーメントの重要性も強調しています。今回は、G20の公式エンゲージメントグループとして、意見の集約や首相への政策提言書提出などに取り組んだW20(Women20)とC20(Civil Society20)の運営メンバーが、G20に向けて行った取り組みと成果、今後の方向性について解説しました。
最初にあいさつしたジョイセフ理事長の石井澄江(SDGs市民社会ネットワーク ジェンダーユニット共同幹事)は、「ジョイセフは創立以来50年以上、途上国で母子保健の推進に取り組んできましたが、その活動を通して母子保健だけでなく、自己決定権としてのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)が必要だということを学びました」と振り返りました。そのうえで、主要7カ国首脳会議(G7)や主要20カ国・地域首脳会合(G20)、持続可能な開発目標(SDGs)など、ジェンダー平等実現に向けて大きな役割を持つさまざまな枠組みがあり、G7の2018年の議長国カナダのトルドー首相、今年の議長国であるフランスのマクロン大統領はいずれも首脳直轄のジェンダー諮問委員会を設立するなど、国際社会でジェンダー平等に向けた取り組みが進んでいることを紹介。第4回世界女性会議で女性の権利の実現とジェンダー平等の推進を目指して採択された北京行動綱領から25年目(北京+25)を迎える2020年を控えて、これからもジェンダー平等の達成のために参加者と協力して取り組んでいきたいと訴えました。
女性やジェンダー平等の視点からG20に政策提言を行うW20日本運営委員会のメンバーを務めた三浦まり氏は、W20が提出した政策提言書の裏付けとなった関心領域と、提言書がどのようにG20の首脳宣言に反映されたかについて解説。2014年のブリスベン合意で掲げられた「各国が2025年までに労働参加率の男女間ギャップを25%縮小する(25×25)」という目標の実現や、女性の経済的自立について幅広く取り扱うW20が、ジェンダー平等の実現に向けて設定した「労働」「金融」「デジタル」「ガバナンス」の四つの柱と七つの提言について説明し、七つの提言のそれぞれについて、どのようにG20の公式文書に反映されたかを検証しました。
今回のG20では、七つの提言の全てが、何らかの形で首脳宣言に織り込まれたことが大きな成果です。中でも、25×25に関する各国の進捗報告資料がG20サミットの付随文書として発行され、今後も進捗状況を確認していく方針が打ち出されたことの重要性を、三浦さんは強調しました。また、女性の金融参加(途上国においては、女性が銀行口座を持っていないなどの金融サービスへのアクセス。先進国においては、女性起業家が投資を募りにくい傾向など)について、前回のG20首脳宣言では言及がありませんでしたが、今年は盛り込まれたのも前進と言えます。この点について、三浦さんは、「日本では、公共調達においてジェンダーに配慮した基準がない。企業における女性の活躍度合いを定量化して、公共調達で優遇するなどの施策も必要」と指摘しました。
#MeToo運動や6月の国際労働機関(ILO)総会で採択されたハラスメント根絶条約を受けて関心が高まった「暴力やハラスメントの撤廃」という課題の面では、根絶のための措置を講じることの重要性が盛り込まれたものの、今後は同条約や、女性に対する暴力とドメスティック・バイオレンスの防止を目指すイスタンブール条約の批准に向けて各国政府に働きかけていくことが重要だと強調。ジェンダー主流化の実現に向けたガバナンスの重要性は2018年同様、言葉として盛り込まれたものの、具体的な内容に踏み込まなかった点が課題だとしています。
C20の共同議長を務めた三輪敦子さんとともに、ワーキンググループメンバーであり、SDGs市民社会ネットワーク ジェンダーユニット共同幹事の織田由紀子さんは、世界40カ国から市民社会の代表が集まった4月のC20日本会議について「ジェンダー分野の二つのセッションでは、それぞれ包摂的民主主義と、職場における暴力とハラスメントを取り上げた」と振り返った上で、G20直前に開かれたG20大阪市民サミットでもジェンダーについてのワークショップを開催したことや、より強いメッセージを打ち出すために他のエンゲージメントグループと共同で声明を出したことなどを説明しました。また、C20ジェンダーワーキンググループの提言内容は、W20と共通する部分も多いと述べた上で、C20の政策提言では、労働参加率についてはディーセントワーク(働きがいのある、人間らしい仕事)の重要性、ハラスメント、教育、性的マイノリティーの課題、汚職や腐敗と関連して性的脅迫(Sextortion)、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)、ジェンダー主流化の制度化などの課題を幅広く盛り込んだことを報告しました。
そうした提言から今回のG20首脳宣言を見ると、首脳宣言の前文でジェンダー主流戦略へのコミットメントをうたった2018年の宣言よりも後退しているというのが、織田さんの感想です。首脳宣言では言及されなかった、ジェンダー主流化の制度化、腐敗が女性に対して性的脅迫という形でジェンダーに偏った影響を与えること、移住労働者、SRHR、性的マイノリティーなどの分野に力を入れていく必要があると強調しました。
弁護士で、G7ジェンダー平等諮問委員会のメンバーでもある林陽子さんは、8月25日からフランスのビアリッツで開催されるG7サミットを前に、同委員会の役割や現在の中心的な議題などについて解説しました。ジェンダー平等諮問委員会は、2018年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、同年のG7サミット議長国だったカナダのトルドー首相が設置を宣言したことで発足し、メンバーはG7としてサミットとは別に行われるさまざまな大臣会合に手分けして参加しています。もともとG7はジェンダーや人権を論じる場ではありませんでしたが、1995年の北京女性会議以来、途上国の若年貧困層の女性を支援するという文脈を中心に、ジェンダー問題への言及が増えていました。トルドー首相は「途上国だけでなく、G7各国内にあるジェンダー課題により積極的に取り組むべき」と訴え、それが同委員会の設置につながりました。今年の議長国フランスのマクロン大統領も再び同委員会を設置し、「各国のジェンダーについての優れた法令集を作り、サミットの場で各国がどれか一つを取り入れることを約束しよう」と提案。すでにG7以外の国のものも含めた70近くの候補が上がっているとした上で、ビアリッツサミット後、国連総会でサイドイベントを開催して、各国のリーダーに採択を呼びかける予定で、その後の成果を監視するためのメカニズムについても議論していることを明らかにしました。一方、同委員会の継続設置は、来年の議長国であるアメリカのトランプ大統領の判断にかかっていることも指摘しました。
林さんはまた、諮問委員会での活動を通して、日本におけるジェンダー面での優先課題が見えてきたとも語りました。具体的には、賃金格差を解決するために各国では男女の給与格差についての情報を企業に開示させる「賃金透明化」の仕組みが作られているのに対して、日本ではかつて存在した有価証券報告書への賃金格差記載義務が撤廃され、女性活躍推進法でも任意でしかないなど、むしろ後退していると言います。各国の取り組みは比較的近年のものなので、後れを取らないよう格差の「可視化」にもっと積極的に取り込んでいくべきだと、林さんは強調しました。
また、2020年の北京+25に向けて、メキシコでは5月、フランスでは7月に女性会議を開催する予定で、特にフランスでは「パリ・フォーラム」と名付けた北京+25に5000人規模の参加者を見込んでおり、その半分を30歳未満の若者にしたいという方針が伝えられたことや、そのためのコアグループの選出依頼についてフランス政府から説明があったことも明らかにしました。
その後、参加者との質疑応答では、日本のジェンダー平等に関する法整備やパリテ法、クオータ制などの導入に向けた課題について、現状の確認や今後の見通しを問う声が上がりました。林さんは「国連の女性差別撤廃条約に関する日本への勧告を見るとわかるが、日本でも極めて遅々とはしているが法整備が進みつつある。その一方で、日本の法律は事業主にセクハラ防止措置を求めるなど、行政指導の根拠となる法律が多く、直接的にセクハラを禁止するなどの形で個人の権利を保障するものが少ない傾向がある」と、指摘しました。
また、女性の雇用の質について言及がある一方で、男性の雇用の質については触れられてきていない現状や、W20政策提言書の作成においては数値目標や批准すべき国際条約の名称など具体的な文言を入れると抵抗する国があり、細かな文言の調整に苦心したなどの経験談も語られました。
勉強会の最後に閉会あいさつをした目黒依子さん(W20日本運営委員会 共同代表)は、「W20は2018年9月に実質的な活動が始まり、2019年3月のW20サミットまでの半年で声明書を作るのが最大の山場だと思っていたが、実際には声明書にまとめた内容をいかに首脳宣言に反映させるかが最も重要な仕事だった。各国のW20代表たちは、皆“ジェンダー平等の実現はあらゆる課題の解決につながるので、どうにかして首脳宣言に反映させなければ”という意識で連帯していた」と、厳しいスケジュールの中で骨子をまとめ、細部をすり合わせた苦労を振り返りました。その上で、「提言を文書のままにしておいては何の価値もない。単なる参考資料ではなく、課題解決の方策を実現するための文書であるという認識が重要」との考えを示しました。