COVID-19に直面する途上国の現状について、オンラインセミナーを開催

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2020.5.22

 ジョイセフは2020年5月14日、COVID-19の拡大を受けた途上国の現状を各地のプロジェクト担当者が報告する、オンラインセミナー「COVID-19の影響 ミャンマーとザンビアの現場から」を開催しました。セミナーには定員を大きく超える250人の申し込みがあり、ZoomとYoutube Liveと通じて200名以上の方にご視聴いただきました。

 ジョイセフのオンラインセミナーは2回目。第1回は、「COVID-19が途上国のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスの現場に及ぼす影響」として、ジョイセフが東京連絡事務所を務める国際家族計画連盟(IPPF)のスタッフを招いて行いました。また、5月29日には3回目を予定しています。

 ジョイセフは現在、アジアとアフリカの10カ国で13のプロジェクトを実施していますが、現地に出張していた日本のスタッフはCOVID-19の拡大を受けて全員が帰国し、国内から遠隔でプロジェクト管理を行っています。今回は、自らもCOVID-19の影響で急きょ帰国したミャンマーとザンビアのプロジェクト担当者が、その後の現地スタッフからの報告も含めた両国の状況を解説しました。

タンザニア国境地域で感染増えるザンビア 医療従事者の感染も
 ザンビアでは、国の保健施設にマタニティハウス(出産待機ハウス)を併設する「ワンストップサービスサイト」の開設や、母子保健推進員(SMAG)・若者ピアエデュケーターなどのボランティアを育成して正しい情報を提供する取り組みに加え、武田薬品工業やリンク・セオリー・ジャパンからの支援も受けてプロジェクトを展開しています。

 同国のプロジェクトを担当している後藤久美子は、特にタンザニア国境のナコンデでの感染者数の増加や、プロジェクト地域であるコッパーベルト州で結核患者がCOVID-19により死亡し、治療に関わっていた医療従事者11人も感染が確認されたケースなど、ザンビア国内で徐々に感染者数が増えている実態を報告。ザンビアでは広い地域を少人数の医療従事者で担当しているため、医療従事者が感染して医療現場から離れることの影響が極めて大きいことを指摘しました。

 現地スタッフや保健局からの聞き取り調査では、「保健施設に行くことで感染してしまうかもしれない」と考える人がいるために自宅分娩を選ぶ人が出てきており、週に平均10件の妊産婦死亡数が全国で報告されていましたが、現在ではその2倍ほどに増えていることがわかっています。マスクやガウンなど感染防止に必要な個人防護具(PPE)も不足しており、外出にはマスクが義務化されているが現地の人たちには高額(1枚約100円)すぎて入手が難しいという問題もあります。後藤は、現地ではこの状況を受けて、女性たちの縫製による収入向上プロジェクトでマスクの生産を始めたこと、また、現地から届いた母子保健推進員によるCOVID-19予防のための手洗いソングの映像を流し、ザンビアのコミュニティ内での予防方法も紹介しました。

厳しい外出禁止を受けて、現地スタッフも現場を訪問できないミャンマー
 ミャンマー国内の3つの地域で3つのプロジェクトを担当している腰原亮子は、同国ではまだ感染者が比較的少ないとはいえ、政府から感染拡大阻止のために夜間外出禁止令(ジョイセフの事務所があるヤンゴン市内は昼夜を問わず不要不急の外出禁止)や移動制限措置が敷かれているため、現地スタッフも国内の活動拠点を訪問することができず、ヤンゴンから遠隔で各地の保健局とやりとりをしながら事業の実施を継続していると話しました。
 現地では、COVID-19の影響を受けて保健スタッフが検疫や感染予防の活動に時間を割かざるを得ず、集団予防接種は感染の場になりうるために中止されています。また、外出禁止となっているために保健施設に来る人が少なくなり、それに伴って産前健診や施設分娩が減っているとのことです。SNS経由で不正確な情報が広まることや、保健医療従事者や感染者への差別も問題となっています。

 セミナー参加者からは、プロジェクトを担当する二人に数多くの質問が寄せられました。なかでも、「母子保健推進員などのボランティアは皆無償でやっているのか、どのようにモチベーションを維持しているのか」といった活動現場の実情や、住民に正確な情報をどのような手段で伝えているかについての質問が集まりました。ボランティアの活動について後藤は「ザンビアのボランティアは皆無償で働いてくれているが、地域の伝統的なリーダーが彼らの活動を評価してくれることがモチベーションになっている」、腰原は「ミャンマーの人々は敬虔な仏教徒が多く、現世で功徳を積めば来世で幸せになれると考えていることや、身内を妊娠・出産で亡くした女性が同じ悲しみを繰り返したくないという思いから、やはり無償で活動してくれている」と語りました。また両名とも、行政リーダーや近隣の人々からの認知がボランティア活動継続の鍵だと言及しました。

 途上国でのプロジェクトを統括する開発協力グループ長の山口悦子は、「ジョイセフがこれまで力を入れてきた、地域住民主体の保健システム強化というアプローチは、今回のような公衆衛生の緊急事態へのコミュニティの対処能力強化にもつながっており、これまでのアプローチを強化することが大切だと考えている。これまでジョイセフのフォーカスはセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツだったが、今後はCOVID-19を含む感染症対策も織り込み、感染者・医療従事者への差別・偏見の防止や感染予防のためのメッセージ発信など、ジョイセフの強みである社会行動変容のアプローチといった経験を活かした取り組みに広げていきたい」と語りました。