産婦人科医、弁護士、医学生とともに中絶・流産について考える

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2020.11.13

International Safe Abortion Dayに合わせオンライン勉強会を開催
 9月28日はInternational Safe Abortion Day(安全な中絶・流産のための国際デー)。全ての女性が、望む場合は権利として安全な中絶・流産にアクセスできる社会を実現することを目指す日です。
 では、日本における中絶・流産はどのような状況に置かれているのでしょうか。ジョイセフは、I LADY.に関わるアクティビストたちと、昨年(2019年)からこの日に合わせて、世界と日本の中絶・流産の現状について学ぶ勉強会を開催しています。今年は、日本の医療における中絶・流産の現状や、法律家がみるレイプ被害者の中絶の問題、医学生の取り組みなどについて学びました。

女性の負担を減らし、より安全な中絶を
 学生時代から性教育に取り組んできた、産婦人科医の遠見才希子さんは、日本の中絶・流産の現状について解説。日本では長年、金属製の器具を使って子宮の内容物を掻き出す掻爬という手法が中絶の主流でしたが(掻爬法単独と、電動吸引法の併用を合わせておよそ8割)、この手法は稀に合併症として子宮穿孔(子宮壁に穴を開けてしまうこと)や不妊をもたらすリスクがあり、世界保健機関(WHO)は「真空吸引法か服薬による中絶(経口中絶薬)に切り替えるべき」と勧告しています。
 WHOの推奨する真空吸引法は、海外では1980年代から普及しはじめた、より体への負担が少ない方法です。柔らかいプラスチック製のキットを使用するもので、日本では2015年に認可されましたが、まだすべての施設で導入されているわけではなく、多くの施設では掻爬による中絶が行われ続けています。さらに安全性の高い経口中絶薬は、世界では1988年から使用されており、現在は約70カ国で主流の選択肢となっています。日本では、遅ればせながら中絶薬の治験が始まった段階です。
 医療処置として見ると、中絶は流産と同じものです。しかし、人工妊娠中絶には健康保険が適用されず、自由診療で初期中絶は約10~20万円と高い費用がかかることも、中絶を選択する女性には大きな負担となります。また、中絶を罪悪視する考え方が社会に浸透しており、中絶薬についても医療者から「安易な中絶が増えるのでよくない」「中絶をするのならば手術で体に刻み込んで欲しい」というコメントがあるなど、医療者の価値観や判断に基づいて中絶のハードルを高くしようとする傾向があるのでは、と遠見さんは指摘しました。
 遠見さんは「日本では戦後間もなくの1948年に、優生保護法によって中絶が事実上合法化されたのに対し、世界の多くの国では1960~70年代に女性の権利拡大の一つとして中絶の権利が法律で認められたという違いが、日本における中絶の扱いにつながっているのでは」との考えを示した上で、「中絶の是非を判断するのは本来、医師の役割ではない。女性の自己決定を尊重し、世界基準の安全な手法の選択肢を増やすべきだ」強調しました。

性暴力被害者の中絶には、「配偶者の同意」を求めない
 性暴力被害者の支援に取り組んでいる弁護士の上谷さくらさんは、「性暴力被害者が妊娠した時、中絶手術を受けるために加害者の同意を求められることがある」という問題を取り上げました。
 中絶について定めた母体保護法の第14条は、「医師は本人および配偶者の同意を得て」という条件で人工妊娠中絶を行うことができるケースを列記していますが、性暴力被害により妊娠した人についてもこの条件が適用される構成となっているため、「加害者の同意が必要」と解釈する余地が生まれています。これが原因で、性暴力により妊娠して中絶を希望する女性が医療機関でたらい回しにされたり、配偶者欄に加害者の名前を書かされたりするなどの問題が、全国で起きていました。
 医療機関が同意を求める背景には、あとから「同意がないのに勝手に手術した」と訴訟を起こされることに対する懸念があります。上谷さんは、医師が訴訟リスクを気にせず中絶手術が行えるような法整備が必要だと強調しました。
 問題の背景には、1996年の母体保護法に関する通達で「合意ある性行為で妊娠した人が、『性暴力による妊娠の場合に中絶できる』という規定に便乗することがないように」という方針が示されましたが、証拠が残りにくい性暴力被害について、合意の有無を医師が判断することは簡単ではありません。また、既婚女性が第三者から、場合によっては配偶者自身によって性暴力を受けた場合にも、現行の母体保護法では配偶者の同意が必要となってしまいます。こうした状況を踏まえて上谷さんは、まずは「性暴力被害者の中絶に加害者の同意を求めてはならない」という通達が出されることを目指し、最終的には本人の意志だけで良いという形にすることが望ましいとしました。

女性の権利としての中絶を守る医学生の活動も
 将来、女性たちの健康を支える医学生の間にも、中絶について学ぼうという動きがあります。医学生主導で中絶の権利向上に取り組む非営利団体Medical Students for Choice(MSFC)の日本支部を立ち上げた医学生のあこさんは、短期留学したハワイ大学の医学部でMSFCに所属していたOBからSRHRについて学びました。MSFCは北米(米国・カナダ)で始まった組織ですが、あこさんは「中絶に高額な費用がかかり、受けることで不妊になるのではと不安になる人も多い日本にこそMSFCが必要」と考えて、東アジアで初めてのMSFC支部を立ち上げました。現在はオンライン勉強会を中心に活動していますが、将来はワークショップや国内外の医療機関見学も目指しています。

 質疑応答では、中絶を受けた女性に対するメンタル面の支援の現状や、母体保護法(旧・優生保護法)の抱える問題、中絶に対するスティグマ(汚名)の払拭などについての質問に、登壇者が応じました。