2020年度第1回人口問題協議会明石研究会 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)が人口に与える影響(後編)
2020.12.24
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阿藤 誠「COVID-19と高齢者:国際的動向」
国連人口部が2020年10月に公表した「世界人口の高齢化2020ハイライト:高齢者の居住形態」の要点を紹介する。
日本において、COVID-19による死亡数の約8割は、60歳以上の高齢者となっている。国連人口部による各国の年齢別死亡率の試算でも、COVID-19死亡率は高齢になるほど極端に上昇する。しかし、国によって死亡率の絶対水準だけでなく、青壮年層(20歳〜59歳)と高齢者(60歳以上)の死亡比率も異なる。例えば、平均寿命の長いヨーロッパ諸国などでは高齢者の相対的な死亡水準が高く、寿命の短い国では低い(ベルギーや韓国では高齢者の死亡率は青壮年層の40倍だが、バングラデシュでは4倍に留まる)。
この違いの原因として、最も重要なのは各国による感染抑制策のタイミングと強度だ。アジアの一部諸国では早期に対策を開始し、感染抑制に大きな効果があったが、欧米やイラン、ブラジルなどでは対策の遅れにより感染抑制に失敗した。それに加えて、①(感染後の死亡リスクに影響する)個人の虚弱性や、②(感染リスクに影響を与える)高齢者の居住形態も、COVID-19による高齢者の死亡率の国ごとの違いをもたらすと考えられる。
個人の脆弱性は加齢や、加齢とともに増加するさまざまな疾患と、それによる死亡のリスクを指し、ある国の全死因死亡率(普通死亡率)はそのまま、その国全体の全ての病気に対する虚弱性(死亡リスク)を表すと考えられる。これを年代別に見たときに、高齢者層と青壮年層の全死因死亡率の比率は、死亡リスクを持つ虚弱者がどれだけ高齢者に集中しているかを示していると捉えることができる。その上で、各国の「高齢者と青壮年層の全死因死亡率比(虚弱者の高齢者集中度)」と、「高齢者と青壮年層のCOVID-19による死亡率の比」の関係を表にしたところ、寿命の長い国では全死因で高齢者が相対的に高い死亡率を示し(虚弱者が高齢者に集中しており)、COVID-19の死亡者も高齢者に集中しているが、寿命の短い国では虚弱者が全年齢に拡散しているために、COVID-19の死亡リスクも全年齢に拡散していることが示唆された。
一方、居住形態も他者との接触度合いに影響を与えることから、高齢者の居住形態はCOVID-19の感染リスクに影響を与えると予測できる。単身世帯やカップルのみの世帯の高齢者に比べ、多世代同居世帯や親族と近くに住んでいる高齢者のほうがCOVID-19の感染リスクは高くなり、さらには高齢者介護施設に居住する高齢者ではより一段リスクが高くなると考えられる。この仮定に基づき、高齢者の介護施設入居率と、高齢者のCOVID-19による相対的死亡率水準を見ると、「施設入居率が高い国では高齢者のCOVID-19相対死亡率は高く、施設入居率が低い国では低い」という強い相関が示された。
【参加者の発言】
林 玲子
当初、感染拡大で大きな影響を受けると考えられていたアフリカでは、人口当たりのCOVID-19による死亡率は思ったよりも低く収まっている。一方で、ブラジルやボリビアなどの南米では大きな影響が出ている。
学術雑誌 “Nature” に、「ネアンデルタール由来の遺伝子を保有していると感染・死亡しやすいのでは」という仮説が掲載された。ヨーロッパのほか、インド、バングラデシュやインドネシアなど、新型コロナ感染症による死亡者が多いアジアの国でも、ネアンデルタール由来の遺伝子保有者が多いことが指摘されている。ただし、遺伝子の影響だとされることで、人種論が再燃する可能性は危惧している。また、国際的な人の移動が止まっていることに対する影響など、今後はさまざまな議論が出てくると思う。
明石 康(人口問題協議会会長)
東アジアの中国、韓国、日本では、ヨーロッパと比べて感染者数・死亡者数が格段に少ない。その背景に、儒教的な伝統や、マスクの着用などの文化が影響しているのかどうかが論じられているが、ご意見があれば伺いたい。
アメリカやブラジル、インドなどでのCOVID-19の感染率の高さについて、これらの国は連邦制をとっており、中央の指示が末端まで届きにくいという政治制度の複雑性が影響しているのだろうか。また、現在英仏で深刻化している感染状況は、以前のスペインやイタリアでの感染拡大と傾向が違う印象がある。その点についてはどうだろうか。
日本については、感染抑制が成功しているのか、失敗しているのかよくわからない。何か、日本特有の感染抑制要因があるのだろうか。
林 玲子
マスク着用や手洗いなどの指示が出ると多くの人が従う、という文化は、間違いなく影響があるだろう。それに加えて遺伝要素や医療システムなど、あらゆる要素が影響していると思う。ただ、遺伝要素が議論されていることを考えると、「日本の医療システムが優秀だったから感染者数を抑制できた」ということだけではないと思う。
インドやインドネシアにおいては感染数・死亡者数が多いのは事実だが、両国とも人口そのものが多いため、人口に対する死亡率はそこまで高いとは言えない。一方、ブラジルやボリビア、ペルーなどは極めて死亡率が高い。遺伝子、医療制度、習慣や、一時話題になったBCGの予防接種が影響しているという仮説など、あらゆるものが影響していると考えたほうがよいのではないか。
また、検査がどれだけ行われているかも考慮する必要がある。検査の数が少ないために実情よりも感染者数が小さく出るのではないかと考えられていたし、特にアフリカにおいて比較的患者数・死亡数が少ないのはそのせいかとも考えていたが、遺伝要素が大きく作用している可能性はある。
明石 康
おっしゃる通り、無視できない要素が多く、現段階ではいろいろな仮定が成り立つ。我々素人にとっては五里霧中で、どの学説が正しいのかわからず、できるだけ幅広い学説に接して考えてみることしかできない。我々もグローバルな視点を忘れることなく、アジア、特に儒教圏の北東アジアに属していることが影響しているかもしれないと考えながら、欧米諸国の専門家と議論しなければならないと考えている。
スペイン風邪と比べても規模の大きい、全人類的な危機の中で、米大統領がトランプからバイデンに変わり、我々は安心しているところだ。これを機に世界共通の立場から、COVID-19に対応できる有効な対策を立てるためにも、国連システムの有効性が問われている。WHOなどとも連携しながら、日本としてもできるだけ議論に反映していければ素晴らしいだろう。
阿藤 誠
ワーケーション(「ワーク」(労働)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語で、リモートワークを活用しながら働く過ごし方)などの動きもあるが、こうしたことが地方創生につながるかどうかの見通しはどうだろうか。
小池 司朗
COVID-19の収束いかんだが、その可能性はある。一方で、東京圏で生まれる人の割合が高まっており、彼らは地方圏にゆかりがないので、いきなり地方に移住というのはハードルが高いだろう。また、地方圏出身者で東京圏に住んでいる人たちはCOVID-19発生後に地方圏での就職意向が高まったが、東京圏出身者はむしろ東京圏での就職意向が高まったという調査もある。テレワークやワーケーションなどの方策が広がることによって地方創生に資する可能性もあるが、人口学的には難しい面もあると感じている。
阿藤 誠
今回は、誰もが強い関心を持たざるを得ないCOVID-19をテーマに据えた。今年始まって現在進行中の事象なので、どれくらいの報告ができるか懸念していたが、私が紹介した国連の報告書のほか、日本の出生・死亡・国内移動について、COVID-19の影響を最新のデータを踏まえて話していただき、学ぶものが多かった。COVID-19の人口への影響は今後さらに明確になっていくと思われるので、明石研究会として、この問題には今後も注目していきたい。2021年が明るい年になるよう、切に願っている。
文責:事務局 ©人口問題協議会明石研究会
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