NGOと企業の連携:拡がる可能性-ウガンダのケースから

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2021.1.15

内戦の影響受けた地域を主な対象に、日本が資金を提供したプロジェクト
日本政府は、さまざまな国際機関の活動を支援していますが、ジョイセフが連携パートナーとして東京連絡事務所を務める国際家族計画連盟(IPPF)もそのひとつです。IPPFへの日本政府の支援の一環に、IPPF日本信託基金(Japan Trust Fund, JTF)プログラムがあり、IPPFはこのプログラムを通し、世界各地で家族計画とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR推進のための数々のプロジェクトに取り組んでいます。

そのうちのひとつ、ジョイセフもパートナーとして実施に携わった「Strengthening Quality of Care for Sexual and Reproductive Health Services through Public Private Partnerships in Uganda官民連携でウガンダSRHのケアの質を上げる)プロジェクト」が完了したことを受けて、20201217、オンライン報告会が行われました。

「UHC達成の鍵はパートナーシップ:ウガンダのケースから」と題した報告会では、ジョイセフとIPPFウガンダ(RHU)の関係者に加え、手指消毒薬の提供や衛生管理に関する知見の面からも協力いただいたサラヤ株式会社の担当者が登壇し、NGOと企業の連携がもたらした成果について議論しました。

最初に登壇した福澤秀元・在ウガンダ日本大使は、「本プロジェクトは、ウガンダのすべての人々に質の高い医療サービスにアクセスを提供するという国家目標の達成に向けて、IPPF、IPPFウガンダ(RHU)、サラヤ株式会社、同社の現地法人サラヤ・マニュファクチュアリング・ウガンダ(SMU)、ジョイセフが協力することによって実現しました」と、協力した各団体、なかでも企業として参画したサラヤの取り組みを高く評価。遠隔地にも質の高い保健医療サービスを届けることができたと、プロジェクトの意義を述べました。

RHUのジャクソン・チェクウェコ事務局長は、保健医療サービスの質の向上によるセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)推進とアクセス改善を目指す今回のプロジェクトにおいて、手指消毒薬を提供するサラヤの参画は大きな力になったと話しました。2年間のプロジェクトは、1980年代から約20年続いた内戦の影響でインフラ整備が立ち遅れていたウガンダ北部を主な対象地域とし、公立・私立の計56カ所の医療施設でSRHサービスの質の向上、患者の安全性の向上、保健施設の衛生改善の3つの目標を掲げました。その結果、感染防止や患者のセンシティブ情報の保護、待ち時間の短縮など、保健医療サービスの質の向上を実現。プロジェクト実施当時第2波を迎えていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応にも役立っていると語りました。

NGOと企業が協力し、互いの強みを活かす
その後のディスカッションでは、関係者とジャーナリストを交えてプロジェクトの意義について議論しました。
サラヤ株式会社の北條健生さんは、ウガンダとケニアの現地法人を統括する立場から、手指消毒剤を両国の医療施設に提供する意義について解説。同社はウガンダで2014年からアルコール消毒剤の生産を開始し、2017年にはケニアへの消毒剤輸出を始めました。同社が院内感染対策に力を入れる背景には、世界で一年間に院内感染で死亡する人の数は、「三大感染症」と言われるエイズ・結核・マラリアで死亡する人の合計よりも多いという統計報告もあります。北條さんは、院内感染対策を進めるにあたって、日本政府の支援や現地NGOの協力による地方での展開など、一民間企業として取り組むには難しい部分への支援があったことが有効に働いたと述べました。

RHUでプロジェクト・コーディネーターとして本件を担当したアネット・チャリンパさんは、今回のプロジェクトの成果について説明しました。プロジェクトは累計31万1018件の診療を提供するなど、SRHサービスのアクセスを高めただけでなく、施設の設備改善にもつながり、提供されるSRHサービスの質も向上。評価や行動計画の策定、他の医療施設への患者の申し送りを含むネットワークの改善など、今後につながる成果が多く得られました。また、サラヤ、ジョイセフ両者との連携により、手指消毒剤の導入や手指消毒についての研修、感染予防の強化、SRHの質の向上などが実現したとして、日本政府をはじめプロジェクトのパートナーに感謝の意を表しました。
今回のプロジェクトで支援を受けた民間医療施設の助産師、ドリーン・オラアさんは、プロジェクトによってクリニックでは研修を通した医療サービスの質的向上が実現したと述べました。特に5S(整理・整頓・清潔・清掃・習慣)や問診票の導入、家族計画サービスの他の医療サービスとの統合などが大きな成果につながったとしています。さらに、サラヤの消毒剤の使用や廃棄物の管理なども施設の衛生改善に役立ち、出産時の敗血症を減らすことができたと、語りました。

西アフリカのトーゴでJTFプロジェクトを取材したことのあるジャーナリストの治部れんげさんは、トーゴでも医療サービスを受けたいという人々のニーズは高く、的確な医療サービスを提供することの重要性を実感すると同時に、献身的に医療サービスを提供する関係者に感銘を受けたことを振り返りました。その上で、プロジェクトの課題や企業と非営利セクターがパートナーシップを組むことの意味について尋ねました。
これに対して、チャリンパさんは「ケアの質の向上には、心の持ち方を変えることやチームへのフィードバックなど、継続的な取り組みが必要です。また、患者に総合的な診療を提供することにより、結果としてSRHサービスの利用率も向上した」と語りました。一方で、COVID-19の蔓延に伴いマスクやガウンなどの個人防護具が必要となってSRHサービスにかかる費用が上昇したことや、外出自粛政策によって受診をためらう患者が増えたこと、医療資源がCOVID-19対策に振り向けられることなどに伴う課題や、男性をSRHの取り組みに巻き込むことの重要性、文化・宗教的なことがSRH利用の障壁となるケース、公立クリニック職員の移動・離職に伴う取り組みの停滞などの障害を指摘しました。
北條さんは、「院内感染による死亡を衛生面の向上でなくす、という取り組みは、リスクのより高い地方部で行うほど効果が高いが、採算を考えると民間企業はなかなか手を出せない。NGOが予算を確保し、我々企業がそこから依頼を受ける形で協力するというのが今回のモデルだ。NGOはそれぞれの現場で比較的広い分野をカバーする支援に取り組んでいることが多く、手洗い・手指消毒など、活動の一部に企業の専門性を活用してもらうことで、成果を最大化できている」と、企業とNGOが互いを補い合うメリットを指摘しました。

当日の登壇者。上段左から、司会の斎藤文栄(ジョイセフ)、プロジェクト担当者の柴千里(ジョイセフ)、代島裕世さん(サラヤ)。
中段左から北條健生さん(サラヤ)、チェクウェコさん(RHU)、チャリンパさん(RHU)。下段・治部れんげさん(ジャーナリスト)

 治部さんは、「継続していくことで組織の文化が変わり、関係者の行動が変わるという指摘は重要だと思う。日本でも、COVID-19が流行する前は、ここまで手洗いを徹底していなかったはず。また、3大感染症より院内感染の方が多くの犠牲者を出しているという北條さんの指摘にはショックを受けた。日本で生活する人にとっても理解しやすいお話だったと思う」と締めくくりました。

最後に、IPPFアフリカ連合連絡事務所長のサム・ヌテラモさんがビデオメッセージで挨拶。「日本初の女性国会議員だった加藤シヅエさんは、日本の家族計画運動のパイオニアであり、IPPF設立の立役者の一人です。IPPFと日本のパートナーシップ、特に今年で20周年を迎え、56カ国・151件の事業を支援してきたJTFは、多くの命を救い、人間の安全保障の実現に寄与してきました」と日本政府と、RHU、サラヤ、ジョイセフでプロジェクトに関わった人々に感謝の意を示しました。また、ウガンダで質の高いSRHRケアを提供するために長年活動するとともに、他のIPPF加盟協会に緊急支援事業の技術指導を行っているRHUは、その経験と技術力をサラヤに提供していく準備があると、企業とNGOの協力の意義を強調。パートナーシップこそがすべての人に必要な医療サービスへのアクセスを提供するユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現につながると訴えました。
サラヤのコミュニケーション本部長を務める代島裕世さんは閉会の挨拶として、同社の更家悠介社長が2019年、在大阪ウガンダ共和国名誉領事に任命されたことに象徴される、同社とウガンダの縁に言及し、今後も現在のパートナーシップを引き継ぎ、RHUとジョイセフへの支援を継続していく考えを示しました。

当日の動画はこちらからご覧いただけます。

ジョイセフは、これからも支援者の皆さまと日本政府・企業のご協力、IPPFやプロジェクト地の関係者のネットワークを活用し、SRHRの推進に取り組んでいきます。COVID-19感染拡大の影響が各国で収束の兆しが見えずますます広がる中、支援の必要性はより高まっています。皆さまのご理解とご支援を、よろしくお願いいたします。