【実施レポート】国際家族計画連盟(IPPF)新事務局長マリア・アントニエタ・アルカルデ氏初来日記念イベント『フェミニスト外交・国際協力とSRHR』
2026.5.26
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2026年5月7日(木)、メキシコ大使館(東京都港区)にて、世界最大級の国際NGO・国際家族計画連盟(以下:IPPF)新事務局長に2026年3月に就任したマリア・アントニエタ・アルカルデ氏の初来日記念イベント『フェミニスト外交・国際協力とSRHR』を実施いたしました。政府関係者・専門家・アクティビスト・市民そして報道関係者らが一堂に会し、ますます困難さを増す国際情勢の中で、メキシコが推進する『フェミニスト外交(※)』を参照しながら、世界そして日本においてSRHR(性と生殖に関する健康と権利/セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)をどのように実現していくかについて議論する貴重な機会となりました。本レポートではその詳細をお届けします。
※『フェミニスト外交』とは……
フェミニスト外交とは、国家の利益や軍事中心ではなく、人々、とくに女性や周縁化された人々の権利・安全・尊厳を外交の中心に据える考え方です。スウェーデンが2014年に初めて掲げ、現在はメキシコなども導入しています。SRHR、ジェンダー平等、平和構築への女性参加、性暴力防止などを重視し、「誰一人取り残さない」社会を国際協力や外交を通じて実現しようとする取り組みです
【開催概要】
⚫︎日時/2026年5月7日(木)16:00〜17:30 (レセプション 17:30〜18:30)
⚫︎会場/在日メキシコ大使館
⚫︎登壇者(順不同)/マリア・アントニエタ・アルカルデ IPPF事務局長、メルバ・プリーア 駐日メキシコ大使、林玲子 国立社会保障・人口問題研究所所長、喜多洋輔 外務省 国際保健戦略官、福田友子 IPPF東・東南アジア・大洋州地域事務局長 兼 南アジア地域事務局長代行、宮路拓馬 衆議院議員・元外務副大臣、山口悦子 公益財団法人ジョイセフ事務局長
⚫︎主催/公益財団法人ジョイセフ
⚫︎共催/国際家族計画連盟(IPPF)・在日メキシコ大使館
⚫︎後援/外務省
本イベントで提言された要点
- 国際社会および各国共通の課題:
・アメリカ合衆国などのの撤退によるSRHR分野における開発協力の資金不足への協調対応を行う
・各国で性暴力法制を強化し、被害報告や司法アクセスを改善すること - 日本政府の課題:
・国際的なSRHR議論への建設的関与を継続し、IPPFなどと連携して現場レベルでの支援実践につなげる
・『フェミニスト外交』の原則に沿った開発援助を進める
・用途を限定した短期的な資金ではなく、支援現場のニーズに応じて柔軟かつ確実に活用できる基盤資金を提供する
・少子化の根本原因と考えられている職場の労働環境、産休・育休の取得、復職支援などへの対応を強化する
・選択的夫婦別姓や同性婚法制化を引き続き推進する - 研究機関の課題:
単一ドナー依存から脱却し、資金提供側の幅を広げながら、人口・保健分野における研究・調査を継続する - 市民社会の課題:
バックラッシュの中でも草の根ネットワークを活動を維持する
マリア・アントニエタ・アルカルデ IPPF新事務局長による基調講演

メキシコ出身のマリア・アントニエタ・アルカルデ氏は、10代からIPPFメキシコでピア・エデュケーターとして同世代の若者に性や健康について伝える活動を始め、2026年3月にIPPF進事務局長に就任しました。基調講演では、現場での経験や世界情勢をふまえ、「SRHRの推進は、世界全体で取り組むべき責任だ」と力強く訴えました。
第2次トランプ政権下における影響と世界的危機
「いま、国際社会は、SRHRを推進することを難しくする、かつてない課題に直面しています。各地で戦争や紛争が激化し、気候変動による災害が地域社会を揺るがし、経済の不安定化によって医療保健システムは限界を迎えつつあります。さらに、人権を後退させるような動きが世界各地で強まり、SRHRへの政治的な反発も増しています。2025年には、OECD加盟国における政府開発援助(ODA)は前年から23.1%も減少しました。こうした状況のなかで、性と生殖に関する医療・支援は最初に削られる分野となり、その影響はすぐさま現れ、特に社会的に弱い立場の人たちに大きなしわ寄せが来ています。
なかでも深刻なのが、アメリカ政府による家族計画支援からの撤退です。アメリカはおよそ40年間、この分野で最大の支援国でしたが、現在は、資金提供を全面的に停止しています。その影響で、約880億円(8,700万ドル)もの資金が失われ、ベルギーに保管されていた約10億円(1,000万ドル)相当の避妊具が廃棄され、主にアフリカで400〜1,040か所ものクリニックが閉鎖されると見込まれています。その結果、HIVの感染者数や出産時に亡くなる母親の数、10代での妊娠が増えることが懸念されます」
IPPFの世界的役割
「IPPFは、148カ国の草の根で活動する各国の団体を傘下とする連盟組織です。加盟団体は、主にクリニックや移動診療を通じ、各コミュニティにおいて保健サービスを提供していますが、その役割は医療施設の運営にとどまりません。若者たちが悩みを共有したり、包括的性教育を受けたり、差別や迫害を受けるLGBTQ+コミュニティが集まり権利擁護活動を行うセーフティーネットとしても機能しているのです。うち54カ国では、IPPF加盟団体が唯一のSRHR支援団体となっています。2024年、IPPFは約6,750万人に対して2億3050万件以上のサービスを提供しました」
スーダン危機に対するIPPFおよび日本政府の対応
「スーダンで続く紛争は、世界最悪規模の人道危機のひとつを生います。1,000万人以上が避難を余儀なくされ、人口の半数が深刻な食料不安に直面しています。医療施設や医療従事者への攻撃によって保健システムは壊滅的な打撃を受け、もともと高かった妊産婦死亡率はさらに悪化しています。難民キャンプでは複数家族が一部屋を共有するような過密状態が続き、特に女性や少女たちは常に性暴力の危険にさらされています。性暴力は“戦争の武器”としても使用されています。被害者はトラウマ・望まない妊娠・HIV/AIDS感染リスク・深い孤立に苦しんでいますが、偏見と恐怖のため、多くの被害は語られないままとなっています。
IPPFスーダン(スーダン家族計画協会は、性暴力サバイバーに対し、医療サービス・ホットライン・地域団体との連携・TikTokやWhatsAppを活用した情報提供などを通じて支援を行っています。また、産婦人科医・医療従事者・心理カウンセラーなどによる支援チームへ被害者をつなぎ、安全な中絶手術や適切な治療を受けるための法的手続き支援も行っています。こうした活動に対する日本政府の貢献度は非常に大きく、2024年には12万3,000人以上へ支援を届けることができました」
世界随一のSRHR組織としてIPPFが果たすべき役割と国際社会共通の責任
「こうした前例のない資金削減と人道危機に直面する中、IPPFは自己資金から1,500万ドルを拠出する戦略的決定を行いました。多くの団体が準備金保持に慎重にならざるをえない中、フェミニスト組織としての原則を実践する姿勢を真っ先に示すためです。この決断を受け、パートナー団体や民間財団からさらに1,700万ドルの追加支援が集まりました。
とりわけ、IPPFと日本の外務省との長年にわたるパートナーシップに深い感謝の意を表します。日本は国際社会において、女性・平和・安全保障(WPS)、人間の安全保障、そしてユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)といった分野におけるリーダーシップを通じ、中核的なフェミニズム原則への揺るぎないコミットメントを示してきました。こうした貢献は非常に重要であり、ジェンダー平等の推進は世界共通の責任です。
あらゆる状況下において、SRHR支援は選択肢ではなく必須事項として扱われるべきであり、人道支援の現場における継続的なケアが不可欠であること、その役割を担う地域組織こそ私たちIPPFの中心であること、そして本イベントのテーマである『フェミニスト外交』の実践には勇気が必要であることを強調したいす。政治的議論の的となりがちな事柄に資金を提供する勇気、権力構造を変える勇気、そして権利と尊厳を守るために毅然と立ち向かう勇気。いま問われているのは、すべての人の健康だけでなく、尊厳・ジェンダー平等・そして正義を実現するため、ともに立ち上がり行動することです」
メルバ・プリーア 駐日メキシコ大使が語る『フェミニスト外交』

メキシコ出身のアルカルデ氏とIPPFの活動に共感し、本イベントを共催するに至ったメキシコ大使館およびメルバ・プリーア駐日メキシコ大使は、2020年に『フェミニスト外交』政策を導入するまでの歩みや現状を紹介しました。
すべての政策にフェミニズムの視点を
「メキシコにおける『フェミニスト外交』への道は、1953年に初めて女性が州議会に選出されたことから始まりました。その後、連邦議会における女性議員の割合を30%まで引き上げる『クオータ制』の導入が重要な節目となり、40%、最終的には50%へと段階的に引き上げられ、現代では、メキシコは男女同数の議会を実現しています。
メキシコの人口は1億3,000万人で、日本の国会と同規模の二院制議会を有しています。2024年10月に実施された大統領選挙では、主要二大政党の候補者がいずれも女性であり、結果として同国初の女性大統領クラウディア・シェインバウム氏が誕生しました。彼女は男女均等の閣僚構成を実現し、また2020〜24年の政策枠組みとして始まった『フェミニスト外交』を、憲法レベルへと昇華させました。憲法改正により、外交政策のあらゆる分野で平等な権利を保障する仕組みが整備されたのです。現在では、メキシコ外務省のすべての部署に、性別に関係なくジェンダー平等を担当する責任者が配置されています。メキシコの外交官は、あらゆる国際条約交渉においてジェンダー視点を取り入れています。2024年の第3回フェミニスト外交閣僚会議を含む複数のハイレベル会議を主催しており、現在では約20カ国が『フェミニスト外交』政策を掲げています」
リプロダクティブ・ライツの前進
「メキシコでは、人工妊娠中絶の非犯罪化と合法化を求める『グリーンウェーブ(Marea Verde)運動』を背景とし、最高裁判所の歴史的判断によって、2023年に全国的に中絶が非犯罪化されました。さらに2022年以降、同性婚はすべての州で認められています。これらの成果は、何十年にもわたる草の根運動、法改正、継続的なアドボカシー活動によって、家父長制的社会構造へ根本的な挑戦を行ってきた結果です」
日本におけるSRHR推進への課題➖➖パネルディスカッション

続いて、福田友子 IPPF東・東南アジア・大洋州地域事務局長 兼 南アジア地域事務局長代行がファシリーテーターとなり、アルカルデ事務局長とプリーア大使に、喜多洋輔 外務省 国際保健戦略官、林玲子 国立社会保障・人口問題研究所所長を加えた5名によるパネルディスカッションが行われました。
『フェミニスト外交』の実践
「『フェミニスト外交』とは、単なる耳ざわりのよいワードや形式的な取り組みではありません。『誰の命を優先するのか』『誰の権利を守るのか』『誰の声を制度設計に反映するのか』という具体的な行動と意思決定に根ざしたものです。SRHRは、避妊・中絶・妊産婦ケアへのアクセスだけではなく『自分の身体について自分で決定できること』に関わる根本的な権利であり、教育、経済活動、政治参加、そして人生全体に大きな影響を与えるのです」(プリーア大使)
日本におけるジェンダー課題の提起
「日本政府は、2022年に策定した『グローバルヘルス戦略』(2022 年5月24日健康・医療戦略推進本部決定)の中で、ジェンダー平等とSRHRを『誰もが可能性を発揮できる社会の実現に不可欠な要素』と位置づけています。また、2023年のG7広島サミットでは、広島首脳コミュニケおよび長崎保健大臣宣言など、複数の成果文書にSRHRの重要性が反映されました。日本は1969年以来、半世紀以上にわたりIPPFを支援してきました。一方で、日本社会には依然として根強いジェンダー課題が存在し、今なお多くの人々を苦しめていますが、課題や原因、対策をみなさまと探っていければと思います」(福田氏)
根本原因は『KAWAIIカルチャー』?
「日本では昨年、初の女性首相が誕生しました。また、同性パートナーシップ制度を導入する自治体も増えてはいますが、完全な婚姻平等には至っていません。性暴力に関する法制度が不十分なことも大きな課題です。父親による娘への性的暴力が有罪にならないケースや、痴漢被害がその場での注意程度で終わる事例もありました。日本発カルチャーとして人気の『KAWAII(可愛い)文化』が、女性をエンパワーメントするのではなく、逆に幼児化・矮小化している側面があるのではないでしょうか」(プリーア大使)
少子化問題と社会変容・包括的支援の必要性
「日本の合計特殊出生率は1.2まで低下しており、将来的には1.1に達する可能性も指摘されています。これは日本だけでなく、ジャマイカ、トルコ、メキシコなど世界各国で進む少子化傾向の一部です。国連人口開発委員会(CPD)では、従来の母子保健だけでなく、不妊治療などの生殖補助医療へのアクセスも含めた包括的支援の必要性が議論されています。しかし、法律や制度改革だけでは不十分であり、社会そのものの変化が必要だと感じています。リプロダクティブ・オートノミー(生殖に関する自己決定権)には、『どのような状況下でも子どもを持つ権利を守ること』も含まれます。母親になることがまるで“罰”のように扱われてはならず、望んで子どもを持つ人々を社会全体で歓迎し、地域社会全体で支援するべきです。もちろん、少子化を理由に、女性へ出産圧力をかけるような言説には断固として対抗していかなければなりません」(林氏)
少子化問題を社会変容の契機に
「人口減少と少子化問題は、従来型の日本社会に新たな改革を促しているように見えます。女性の就労促進・高齢者雇用・外国人労働者受け入れなどがその例です。少子化をネガティブに捉えるのではなく、社会が柔軟に適応していくべきです。また、低出生率への対応には、避妊や中絶へのアクセス維持とともに、子どもを望む人が持てる社会づくりも必要であり、不妊治療・育児支援・働き方改革といった包括的な政策の実現が重要です」(喜多氏)
若者主導のアクションこそ社会変革を促す
「私はピア・エデュケーターとして10代で活動を始め、大学生だった1994年、若い女性が直面するさまざまな課題が大統領候補らの政策に含まれていないことに問題意識を持ち、仲間とともに各大学を巡って議論を行いました。痴漢・経済的暴力・デートDVといったあらゆる性暴力をテーマに調査・提言を行い、『若い女性の票を得たいなら、これらの課題に向き合うべきだ』という文書を各政党へ提出したんです。これがのちのSRHR・女性の権利団体『Balance』設立へとつながりました。3月8日の国際女性デーにおけるメキシコのウィメンズマーチは、かつて100人程度だった参加者が、現在では全国規模で数十万人にまで拡大しています。若者たちが自発的に参加し、世代を超えて運動が継続されています。日本でもこうした若者主導によるアクションをより活性化する必要があるのではないでしょうか?」(アルカルデ氏)

今は雨が降っていても、晴れる日は必ず来る
イベントの最後に、宮路拓馬 衆議院議員(前外務副大臣)が閉会の挨拶を行いました。
「男性中心といわれる自民党所属、そして日本で最も男尊女卑が根強く残る鹿児島県選出の国会議員です。政治家になって12年目、この間に2度も性犯罪法の規定が変わり、性犯罪の検挙・逮捕件数は相当数増えていますが、まだまだ声を上げられない方も多くいらっしゃると思っています。緊急避妊薬のOTC化も実現させ、選択的夫婦別姓や同性婚の導入を訴えていますが、国会の中ではまだマイノリティです。Mr.マイノリティなどと呼ばれていますが、この“仇名”をいつか返上したい、必ず実現するのだと、今日は勇気をいただきました。メキシコもフェミニズムを政策の中心に据えたことで国が大きく変わり、グローバルサウス諸国のエンパワーメントにつながっているのだと知りました。我々もできると思っています。雨の日もあります、でも晴れるんです!」(宮路議員)
また、アルカルデ事務局長は、5月7日(木)・8日(金)の訪日期間中、外務省との政策協議をはじめ、関係省庁・国会議員・関連団体との面談やメディアインタビューにも積極的に対応しました。
SRHRを取り巻くグローバルな状況や課題について共有するとともに、日本政府によるODAを通じた長年のSRHR推進への貢献に謝意を表し、IPPFとの今後のさらなる連携の可能性について意見交換を行いました。
訪日時の活動の様子は、IPPF東京連絡事務所のInstagramからもご覧いただけます。
国際家族計画連盟(IPPF)とジョイセフについて

1952年設立。世界150カ国以上でSRHRに取り組む世界最大級の国際NGO。貧困に苦しみ、社会的に最も脆弱な立場にある人々、特に女性や少女といった社会的に脆弱な人々が、誰ひとり取り残されることなく、いつでも安全・安心な保健医療サービスにアクセスでき、尊厳を持って生きられるよう支援しています。IPPFに加盟している各国の現地NGOが、草の根的なネットワークを駆使して、SRHRに関する情報・教育・サービスなどを世界4万カ所以上の拠点で提供しています。家族計画、母子保健、HIVの予防・治療・ケアなど、2024年に各国のIPPF加盟協会が手がけた保健サービスは世界で2億305万件に達し、1,400万人の人道危機下にある人々を含む6,750万人に提供されました。コミュニティにおける保健サービス・情報提供者の育成にも取り組み、官民の保健医療機関と密接に連携しながら、リプロダクティブ・ヘルスサービスへのユニバーサル・アクセス(SDG3.7, 5.6)の追求によってユニバーサル・ヘルスカバレッジ(UHC)に向けた努力に貢献しています。
日本ではジョイセフが IPPF東京連絡事務所を務め、日本におけるIPPFの活動の企画・連絡・調整などを行っています。また、IPPF創設メンバーに、日本初の女性国会議員で日本の家族計画運動リーダーであった加藤シヅエ氏がおり、日本政府は1969年から主要ドナー国としてIPPFの活動を支援しています。