8月に中教審から示される予定の学習指導要領改訂に関する答申。 包括的性教育の要素はどこまで反映されるのか?【第2回年次会合レポート】
2026.6.26
- SRHR for ALL アクション!
- 実施レポート
第2回年次会合にて大きなトピックとなったのが、文部科学省 中央教育審議会(以下:中教審)が8月に発表するとされている学習指導要領改訂に関する答申です。包括的性教育(CSE)の義務教育への導入を最優先の目標に掲げて活動している私たちにとって、約10年に1度となる今回の改訂は取り組みを進めるうえで重要なタイミングです。
SRHR for ALLアクションでは、NPO法人ピルコン、#なんでないのプロジェクト、一般社団法人“人間と性”教育研究協議会が中心となり、日本の性教育におけるいわゆる“はどめ規定”撤廃を目指し、文部科学省(以下:文科省)に署名を提出したり、国会議員や地方自治体議員にロビイングしたり、学校や教育現場に働きかけたり、さまざまなセミナーやイベントを開催したりなど、あらゆる活動を展開してきました。本会合では、8月の答申に向けてどんな追い込みアクションが想定されるのか、作戦会議が展開されました。
中教審って?
中教審(中央教育審議会)は、文科省に置かれている主要な諮問機関です。文部科学大臣の求めに応じて、日本の教育、文化、学術に関する重要事項を調査・審議し、具体的な施策や方針を「答申」としてまとめる役割を担っています。
約10年に1度実施される今回の学習指導要領改訂において、教師の確保と働く環境の整備(≒いわゆる“教師の働き方改革”)や、社会人向け教育(≒いわゆる“リスキリング”)といったテーマと並んで大きな注目を集めているのが、次期教育課程(≒カリキュラム)の改訂です。私たちは、この学習指導要領に包括的性教育が導入されることを目指して活動しています。
学習指導要領改訂に向けた動き
2023年9月に中教審が公表した『学習指導要領の論点整理』では、「深い学びの実装」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」という3つの視点が示されました。次の改訂では、「子どもたちが自分の人生をかじ取りする力を身につけ、民主的で持続可能な社会の作り手となることを目指す」こと、さらに「当事者意識を持ち、自分の意見を形成し、対話と合意形成ができる子どもを育てていく」という方向性を打ち出しています(※)。
※参照:「学校において特に必要がある場合には、第2章以下に示していない内容を加えて指導することができる。また、第2章以下に示す内容の取り扱いのうち内容の範囲や程度等を示す事項は、すべての児童に対して指導するものとする内容の範囲や程度等を示したものであり、学校において特に必要がある場合には、この事項にかかわらず指導することができる:(【総則編】小学校学習指導要領〈2017年告示〉解説 p.181|文部科学省)
日本の性教育における“はどめ規定”が抱える課題
学習指導要領において「取り扱わない」と示される内容は、いわゆる“はどめ規定”とよばれ「教えてはいけないもの」ととらえられています。一律の禁止を示すものではなく、共通して指導する範囲を示したうえで学習指導要領の主旨や児童生徒の発達段階をふまえた適切な指導が求められるものとされています。
こうした“はどめ規定”が実際の教育現場で強く意識される分野が性教育です。
“はどめ規定”は、1998年度に学習指導要領に導入されました。たとえば小5理科では「人の受精に至る過程は取り扱わない」、中1の保健体育では「妊娠の経過は取り扱わない」と記されています。
文科省は「性交を教えてはいけないと禁止するものではない」「一律に扱うべき内容ではない」としていますが、教育現場においてその趣旨についてはじゅうぶんに周知されておらず、「わかりにくい」「教えづらい」という課題が指摘されています。そのため「幼稚園、小学校、中学校、高校および特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」では、記述の仕方を改める必要がある(※)とされました。
※参照:幼稚園、小学校、中学校、高校および特別支援学校の学習指導要領等の改善について〈答申〉 p.50|文部科学省)
“はどめ規定”撤廃を求める署名を文科省に提出しに行った時のエピソード
約10年に1回となる学習指導要領改訂のための議論が進められていた2025年11月27日(木)、「性教育の事実上の障壁となっている」として、学習指導要領の“はどめ規定”を撤廃するための署名活動をしている実行委員会が、文科省に対し、約42,000筆の署名を提出しました。実行委員会は、『SRHR for ALL アクション!』メンバー団体である“人間と性”教育研究協議会(性教協)幹事会などで構成され、教育評論家の尾木直樹さんらも賛同人となり、2025年11月25日までに42,759筆が集まりました。
記者会見で実行委員らは、“はどめ規定”によって、学校現場では『性交や避妊、性的同意について教えてはいけない』と受け止められ、教育委員会からの指導や授業中止につながる事例が各地で起きていると指摘。いかに教育現場の萎縮を招いているかを主張し、子どもたちがSNSやインターネット上の不正確な性情報に触れる機会も増えているとしたうえで、「性教育は、誰もが必要な学びであるはず。性の知識を十分に教えてこなかった大人や社会の責任を認識し、“はどめ規定”を撤廃してほしい」と訴えました。

本会合では、文科省への署名提出に同行した福田和子さん(#なんでないのプロジェクト 代表)と染矢明日香さん(NPO法人ピルコン 理事長)が、面談時のエピソードを交えながら、“はどめ規定”がもたらす重大な課題について話しました。
「文科省の担当者に『“はどめ規定”は性教育を禁止するものではないので、はどめ規定が性の学びを萎縮させていると言われるのは心外だ』との旨を言われ、本当に驚きました。『性教育においては、子どもの発達段階に合わせることが望ましく、集団指導と個別指導を組み合わせてこそきめ細やかな学びを実現できる。『みなさんは“はどめ規定”をまるで悪のように言うが、性教育への反対も含めてさまざまな声が挙がっている』とのことでした。『集団と個別とに指導を分けるとして、個別指導が必要な人をどのように見分け、決めるのか? その責任を教師に負わせるのか?』と問うと、『たとえば、夜出歩いている子だったり、大人と交際しているという話のある子だったり、親が相談をしてくるなど、教師から見て心配な子どもだ。それが社会一般の常識だ』という回答でした。『子どもによって生育段階が大幅に違うので、全員に性交について教えたところで、ついてこられない子もいるでしょう』とも言われました」(福田さん)
「私も算数や数学が苦手でしたが、等しく教わりました。『算数が苦手ならやらなくていい、なぜならあなたは学習発達の度合いが違うから』と言ってくれる人は誰ひとりとしていませんでした。算数・数学と性教育の何が違うのというのでしょうか?」(草野洋美/ジョイセフ)
「性教育を一部の特殊な子どもたちのものとすること自体が、性に対するスティグマ(※)を深める危険性があると思います。個別指導を受けられない子どもたちにとっては、“知る権利”の侵害にもつながるのではないかと思っています。しかもその分断の責任を、ただでさえ忙しく、“働き方改革”の必要性を叫ばれている学校の先生たちが負わされてしまうのは大きな問題です」(福田さん)
※スティグマ:特定の属性(疾患・障害・社会的立場など)を持つ個人や集団に向けられる“負の烙印(らくいん)”・偏見・差別などを指す。根拠のない思い込みやレッテル貼りによって、当事者が社会的な不利益や排除を受けたり、行動を制限されたりする原因となる
「文科省と中教審の間でも議論の押しつけ合いが起こっているし、そもそも性教育を扱う分野も、総論なのか各論(保健体育)なのかが争点になっており、宙に浮いてしまっている状態。このままでは、とても8月の中教審の答申が私たちの望む内容になるとは思えません。現状、ただでさえ詰め込み型になっている学校教育に、新たな科目として包括的性教育をアドオンしていくことは難しいでしょう。しかし、“はどめ規定”を限りなく無効化するような、現場で性教育に当たる先生たちを萎縮させることのない、何らかの方法を探っていかなければならないと感じています」(福田さん)
シャッターを下ろさせない。
Springのロビイング活動に学ぶ継続的アプローチの必要性
このようにテコでも動かない文科省および中教審に対し、有識者によるSRHR推進の動きも広まっています。日本弁護士連合会(以下:日弁連)は、2023年1月20日付けで「『包括的性教育』の実施とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツを保障する包括的な法律の制定及び制度の創設を求める意見書」を公表し、学校教育において、国際セクシュアリティ教育ガイダンスに準拠した包括的性教育を実施するよう、国および地方自治体に対して求めました。また、2026年4月13日(月)、『学習指導要領の改訂に当たり「歯止め規定」の撤廃と包括的性教育の導入を求める会長声明』を発表しています。

性被害サバイバー当事者としての切実な声を届けるアドボカシー活動を実践してきた一般社団法人Springの延川美沙さんは、どうやったらゴールを達成できるか、効率的にアプローチできるよう、常に戦略を立ててロビイング活動に取り組んでいると語ります。
「“はどめ規定”に関しては、『撤廃』というワードを出しただけで相手が拒絶している状況が伺えるため、その後の対話が円滑に進まなくなってしまうことがあるかと思います。たとえば、今ある学習指導要領の置き換えや追記提案したり、附則(※)に『生命の安全教育』に関わるものを明記するよう提言したりなど、相手の考えを読み取りながら少しずつ距離を詰めていくほうが効果的な場合もあります。もちろん、私たちが目指すべき“本丸”は包括的性教育の導入です。しかし2017年・2023年の2回の改正で少しずつ進んできている性犯罪刑法の改正のように、スモールステップにはなりますが、少しずつ確実に壁を削り落としていくイメージです。学習指導要領の改訂は10年タームなので、1歩を大きくすることも大切ですが、その”ちょっと”の積み重ねが爪痕を残し、結果につながっていくと思っています」(延川さん)
※附則:法律や条例・規則などの最後に置かれ、その法令の施行日・必要な経過措置・他の法令の改廃など、本体部分(本則)に付随する必要な事項を定めた部分のこと
また、省庁や国会議員へ積極的にロビイング活動を行っている他メンバー団体からも、さまざまな実践例やアイディアが示されました。

「LGBTQ+や多様な性については、学習指導要領へ位置づけることに加え、教員養成課程で学べるようにすることも重要だと考えています。2024年、当時の阿部俊子文部科学大臣が、記者会見で性的マイノリティの児童生徒への対応を問われたのに対し、『個々人が持つ多様な背景にかかわらず、すべての人がお互いを尊重し、誰もが生き生きとした人生を享受することができる共生社会を目指す』という基本姿勢を示しました。この答弁もふまえて、学習指導要領や教員養成の中でどのように位置づけられるのか、今後どのような取り組みが求められるかなどについて、相談していきたいです」(藥師実芳さん/ReBit 代表理事)
「地方自治体から包括的性教育に対するニーズを高めていけば、より可能性が高まるのではないでしょうか? 沖縄では、他県の条例の研究をしています。包括的性教育に関する条例が作られれば、それをもとに自治体の予算が取れて、子どもたちが実質的に勉強できる環境が整えられると思っています」(神谷めぐみさん/アクション琉球・沖縄 共同代表)
「学校教育現場で絶大な権力を持っているとされる校長、さらには教育委員会、さらには県知事へ……といったボトムアップ型のアプローチも大事だと感じています。特に沖縄や山形のように、封建的・家父長制的なカルチャーが根強く残るエリアでは『性教育』と聞くだけで大人たちはみなドン引きしてしまいますから、たとえば『人権教育』といった別の言い方で保護者の理解を深め、大人の理解者・協力者を増やしていくことが大切ですね。性教育については『寝た子を起こさないように』とよく言いますが、子どもたちは寝てなどいません。SNSやAVなどインターネットで膨大な情報を得てチューニングがおかしくなるから問題が起きるんです。子どもの貧困や女性活躍課題など、お金に換算すると経済界が動くといった事例もあるので、『包括的性教育を実施していないからこそ出る経済的損失』といったデータを算出して戦略的に示せないかとも思いました。8月に向けてこれからますます忙しくなりそうですが、息切れしないように頑張りましょう」(親川裕子さん/Be the Change Okinawa 代表)
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