
7月11日は、世界人口デー
みなさんは「世界人口デー」という日をご存知でしょうか。
毎年7月11日は、国連が定める「世界人口デー(World Population Day)」です。1987年に世界人口が50億人に達したことをきっかけに、人口問題への関心を高めるために制定されました。
「人口問題」と聞くと、少子化や高齢化、あるいは人口爆発といった、数字やグラフの話を思い浮かべる方が多いかもしれません。
ですが、ジョイセフの創設者である國井長次郎は、少し違う見方をしていました。人口問題は統計や数字で捉えるものではなく、一人ひとりがSRHR(性と生殖に関する健康と権利)を理解した上で、自分の意思で「産む・産まない」を選択することでしか、本当の意味で向き合うことはできない、と訴えていたのです。
結婚するかどうか。子どもを持つかどうか、持つとしたら何人か。誰と、いつ、どんな家族を築きたいか。これらはすべて、一人ひとりが自分の人生の中で下す、とても個人的な選択です。世界人口デーは、その選択と、それを支える、あるいは妨げる社会のあり方について、立ち止まって考える日なのです。
世界の若者のリアル
今年、国連人口基金(UNFPA)は、世界73の国と地域、約11万人の18〜39歳の若者を対象にした大規模な調査結果を発表しました。「Lives, Choices and Futures(生き方、選択、そして未来)」と題されたこの報告書には、日本に住む私たちにも身近な調査結果が並んでいます。
たとえば…
- 世界の若者の3分の2が、将来に前向きな気持ちを持っている
- その一方で、4分の3以上の人が「紛争や治安」「経済的な不安」を強く心配している
- 7割近くの人が、いずれは結婚したいと考えている
- パートナーが欲しいのに、実際には交際すらしていない人が4人に1人いる
- 「子どもは2人欲しい」という人が世界的に一番多い一方、実際に35〜39歳になった時点での子どもの数は、若い頃に思い描いていた理想の数より少ないケースがほとんど
- 結婚や出産に踏み切れない一番の理由は、恋愛感情の問題でも価値観の違いでもなく、「お金」と「住居」の不安
つまり、多くの若者は「一人でいたい」わけでも「子どもはいらない」わけでもなく、パートナーを持ち、家族を持ちたいと願っている。でも、経済的な不安や雇用の不安定さ、住まいの問題といった「現実の壁」が、その願いの前に立ちはだかっている——。これが、世界中の若者たちのリアルな姿です。
ジョイセフが昨年、約9,000人を対象に実施した「性と恋愛に関する意識調査2025」でも、日本の若者たちから同じような声が聞こえてきました。経済的な制約や根深いジェンダー格差、コミュニケーション不足、そして性教育の欠如が、人生設計を難しくしている実態が浮き彫りになったのです。国や文化が違っても、若者が向き合う壁には驚くほど共通点があり、人口問題とは「産む・産まない」を国が決めるということではなく、一人ひとりが望む人生を実現できる社会をどうつくるか、という話なのだとあらためて感じます。
ある特別な一週間
実は今年の世界人口デーの週、ジョイセフにとって特別な出来事がありました。
国連の「健康の権利に関する特別報告者」であるトラレン・モフォケン医師を日本にお招きし、多くの対話の場を持つことができたのです。人としての尊厳に欠かせない健康の権利、その中でも切り離せないSRHRを世界中に届けるため、彼女とともに日本政府や議員への政策提言活動を行い、国際協力に携わる仲間たちと対話を重ねる一週間でした。
私には、モフォケンさんが語ってくれたある言葉が、今も心に残っています。
彼女は南アフリカの出身です。「自分がポスト・アパルトヘイトの時代を生きられているのは、世界中にいる、自分のことなど全く知らない大勢の人たちが、アパルトヘイトと闘ってくれたからだ」と、彼女は話してくれました。顔も名前も知らない誰かのために闘った人たちがいたから、今の自分がある。だから今度は自分が、他の誰かの人権のために闘うのだ、と。
会ったこともない誰かのために声を上げる。その連なりの中に、今の私たちがいる——。彼女の言葉は、シンプルだけれど、とても強い力を持っていました。

「SRHR for All」への責任
彼女との対話は、私の中で、ある想いを蘇らせてくれました。それは「SRHR for All」——すべての人のSRHRを実現したいという、この仕事に人生をかける原点のモチベーションです。世界にはまだ、SRHRという基本的な人権を享受できていない人たちがほとんどである。そのことに対する私たちの責任の重さを、モフォケンさんとの対話を通じて、改めて突きつけられた気がしました。
だからこそ、諦めるわけにはいかない。彼女は、そう背中を思いっきり押してくれたのだと思います。
SRHRは、自分を大切にすること
SRHRとは「性と生殖に関する健康と権利」のこと。自分の身体について正しい知識を持ち、自分の心と体に関わることを、誰かに強制されるのではなく、自分自身で決める権利です。
先ほどのUNFPAの調査結果を思い出してください。世界中の若者たちは、パートナーシップや家族の形など、望む人生を実現したいと願いながら、その手前で足踏みしている人がたくさんいました。
自分の身体や権利について正しく理解し、自分らしい生き方を自分自身で選び取っていくこと——つまり自分自身を大切にすることが、望む人生を実現していく力につながります。
SRHRを理解することは、単に「性の知識」を得ることではありません。「自分の人生は自分のもので、自分で選んでいいのだ」という感覚を、自分の中に育てることでもあります。これは、進路や恋愛、結婚、出産といった人生の岐路に立ったとき、自信を持って自分らしい選択ができ、それを実現する力になります。
SRHRとは、遠い国の誰かの話でも、専門家だけが扱う難しい話でもありません。すべての人が自分らしく、心身ともに健やかに生きていくために欠かせない土台なのです。
だからこそ、人権と科学的根拠に基づく性教育を
この土台であるSRHRを理解し、行使するのに最も効果的なのが、人権と科学的根拠に基づいた性教育(包括的性教育)です。
恐怖や恥ではなく、科学的な知識と、自分と他者の身体や気持ちを大切にすることを、子どもの頃から体系的に育んでいくこと。それは将来のパートナーシップや家族のかたちを自分らしく選び取るための備えであり、一人ひとりのウェルビーイング(心身が健やかに、自分らしく生き生きとしていること)を実現していくことにつながります。
実は、今回モフォケンさんを日本にお招きしたのも、まさにこのためでした。人権と科学的根拠に基づく性教育を、日本でも義務化していく——そのためのアドボカシー活動を連携して展開する一週間だったのです。統計の話ではなく、一人ひとりが自分の身体について理解し、人生を自分の意思で選び取れるようにすること。それこそが、國井が訴え続けてきたことであり、モフォケンさんが世界各地で闘い続けていることであり、そして今、私たちが日本で向き合わなければならない課題でもあります。
これからも、仲間とともに
モフォケンさんとともに過ごし、対話を重ねた時間は、私にとって忘れられないものになりました。
ひとりの市民として、そしてジョイセフの一員として、これからもすべての人のSRHRのために責任を持ってベストを尽くしていきます。
そして、この想いに共感し、一緒に活動してくれる仲間を、一人でも多く増やしていきたい。
世界中の、まだ会ったことのない誰かのために。そして、私たち自身のために。
「SRHR for All」——すべての人のために。この歩みを、これからも続けていきます。
- Author

山口 悦子
ジョイセフ事務局長。2004年にジョイセフ入職後、一貫してアジアとアフリカでSRHRを推進する国際協力プロジェクトに従事している。特にHIV/エイズ、妊産婦保健、男性参加、若者のエンパワーメントといった分野で、コミュニティを中心とした仕組みづくりに携わる。JICAのHIV/エイズ専門家としてガーナで5年の経験、JICAインドネシア事務所の保健分野の企画調査員経験を持つ。第二の故郷はガーナ。趣味は犬(ガーナ生まれ)とテニス。
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