【実施レポート】国連 健康の権利に関する特別報告者 来日記念シンポジウム『教育の権利と健康の権利─SRHRをめぐる国際基準と日本の現在地』 @ 上智大学

2026.7.26

  • SRHR for ALL アクション!
  • 実施レポート

公益財団法人ジョイセフは、7月11日(土)の世界人口デーを前に、国連「到達可能な最高水準の身体及び精神の健康の享受の権利(以下:健康の権利)」に関する特別報告者であるトラレン・モフォケン医師(南アフリカ出身)を日本に招聘し、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)や包括的性教育をテーマとしたさまざまなイベントを開催いたしました。

7月7日(火)夜、上智大学(東京都新宿区)にて、モフォケン医師の来日記念シンポジウム『教育の権利と健康の権利─SRHRをめぐる国際基準と日本の現在地』を実施し、現地約100名・オンライン約160名のみなさまにご参加いただきました。

国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演を上智大学で聴く100名あまりの聴衆

本シンポジウムでは、モフォケン医師による基調講演に続いて、『SRHR for ALL アクション!』4団体が、それぞれLGBTQ+の子どもたち・障害女性・留学生・日本の性教育の現状についてプレゼンテーションを実施。さらにパネルディスカッションでは、日本の教育機関が取り組むべき最重要事項として、包括的性教育の実施・教職員の研修・制度の早期整備といった事案が議論され、最後にユースによるリレートークが行われました。

【開催概要】
日時/2026年7月7日 (火)19時‐20時半
会場/上智大学 2号館 17階 国際会議場/オンライン
主催/SRHR for ALLアクション!(事務局:公益財団法人ジョイセフ)
協力/上智大学 グローバルコンサーン研究所
お詫び/オンライン配信につきまして、パスワード不備によりシンポジウム冒頭がご視聴いただけない不手際がございました。スタッフ一同、伏してお詫び申し上げます。参加者のみなさまには、メールにてアーカイブ配信のご案内を差し上げておりますのでご確認ください(視聴期限:2026年8月7日まで)

【開会挨拶】誰ひとり取り残さないSRHRと教育の重要性

上智大学で国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演にて開会挨拶をするジョイセフ草野

はじめに、草野洋美(公益財団法人ジョイセフ シニア・アドボカシー・オフィサー)より、モフォケン医師のご紹介と、本会の趣旨である包括的性教育(CSE)の早期実現の重要性を提示しました。
「包括的性教育は、私たち一人ひとりが、生涯にわたり自分の健康を維持し、自分で舵を取って人生を生きていくために必要な健康教育のひとつです。権利を実現するために必要な知識を身につける教育であり 、つまり健康の権利に含まれる重要な要素と考えられます」(草野)

【基調講演】トラレン・モフォケン医師「国際基準から見たSRHRと教育の権利」

上智大学で基調講演に臨む国連 健康の権利特別報告者 トラレン・モフォケン医師

モフォケン医師が特別報告者に任命された2020年は、新型コロナ禍の真っ最中。国連加盟国や医療従事者たちはパンデミックへの対応に追われ、SRHRに関するサービスが後回しにされてしまった結果、もともと存在していた健康権の不平等がさらに悪化したといいます。

⚫︎「健康の権利」とはグローバル・スタンダード

「『健康の権利』は、自由と権利の両面で成り立っています。自由とは、自分の健康を自分の意思でコントロールできること。たとえば、同意のない医療的治療や実験を受けない権利、自分の健康を守る権利、科学的根拠に基づく正しい健康関連情報に平等にアクセスできる権利などが含まれます」

⚫︎SRHRの位置づけと包括的性教育(CSE)

「『健康の権利』を享受するうえで不可欠なのがSRHR(性と生殖に関する健康と権利)です。SRHRには、臨床ケア、保健システム、それを実現するためのリソース(人材・法律・予算・研究・物資など)といった健康を実現するためのさまざまな要素が含まれます。また、生物学的に自分が健康か・病気かということだけではなく、社会的・経済的・政治的な環境もSRHRに影響を及ぼします。

健康なくして、人間の尊厳が花開くことはありません。私は2週間前にジュネーブで『なぜ尊厳のために活動しなければならないのか』をテーマに、特別報告者として最後のレポートを提出しました。尊厳というのは、誰もが生まれながらにして持っているものであり、社会的・経済的な地位、健康状態、特定の行動をした報酬といった結果に基づくものではありません。特に若者については特有のSRHR課題があります。たとえば妊娠にフォーカスすると、健全な性的行動への理解・性的ウェルビーイング・安全なセックスや避妊方法などを包括的に学ばなくてはなりません。交通事故に遭わないために交通安全ルールを学ぶのと同じです。しかしSNSの普及によって、誤った避妊法やホルモン療法に関する偽情報が蔓延し、思春期の若者のSRHR、健康の権利が侵害されているケースが非常に多く見られます。日本も批准している国際人権条約の一つである「社会権規約」の第12条(※)では、SRHRに関して、避妊・安全な中絶・包括的性教育そして暴力からの解放、強制からの自由といったことを定めています。国際人口開発会議や北京会議といったさまざまな国際会議でも、SRHRが単なるチャリティではなく、何においても最優先されるべきものであると定められてきたのです。

私が特別報告者として各国に訴え続けてきたのは、ジェンダーに配慮した包括的なSRHR施策を採択するべきであり、SRHRを国家の政策や戦略にプログラムとして組み込むべきだということです。学校で、また学校以外のすべての学習の場においても、すべての子どもたちに対してきちんと教育されなければならないと主張してきました。

しかし残念ながら、いくつかの国や地域においては、身体の自律性を否定するような『伝統的価値観』という言説のもと、中絶に対する刑事罰や、中絶へのアクセス制限といったケースが増加しています(日本のことでは!?)。自分の体であるにも関わらず、実質的に国からコントロールされているという事態に対して、みなさんは市民社会として常にたたかっているわけですよね? 包括的性教育が不十分な状況下において、連携してたたかうことは非常に重要です。私も特別報告者になる前はアクティビストとして活動していましたが、SRHR交渉の場ではたびたびバックラッシュを受けてきました。包括的性教育に対する攻撃は構造的・政治的な暴力であり、健康被害を生み出すものです。不十分なケア、低水準なサービス、身体的・精神的な性暴力に対して加害者責任が十分に問われないといった問題は、被害者にとってすべて重篤なスティグマとなり、こうした差別や迫害は国家の義務に反しています。

日本は経済大国としてそれなりにリソースを持っている国だと思います。みなさんのような市民社会による国家へのはたらきかけが、真の平等実現に向けた人権の基盤となり、国際社会で本当に影響力を持つ国になることだと思います。しかしそのためには、すべての政策に対して国家が透明性のある説明責任を持つのが大変重要なことと考えます」

※経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約・社会権規約)第12条健康の権利: すべての人が到達可能な最高水準の身体および精神の健康を享受する権利を認めています。国の義務: 伝染病の予防、治療、環境衛生の改善、健康を損なう要因の除去などを通じて、この権利を完全実現するための措置をとることを求めています(外務省ウェブサイトに掲載)

⚫︎国際基準から見た日本の課題

「日本における緊急課題は、教育現場におけるSRHR教育、つまり包括的性教育です。ユネスコのガイダンスでは大変重要視されており、多くの調査やエビデンスに裏づけされています。包括的性教育の実施は政治家の感情や考え方に左右されるべきものではなく、生きるためのスキルとして子どもたちに提供すべきです。周囲の大人の言動に違和感やおかしさを感じたときに、 子どもがその状況をきちんと認識し、自分の体験を言葉にして伝えられるようにするもの。また自分たちが責任ある大人へと成長していくための準備でもあります。CSEをきちんと受けていない人たちが大変女性蔑視的で、セクシュアルマイノリティに対するヘイトに問題意識を持たないまま育ち、暴力的な言動で多くの人を傷つけている状況をみなさんも目にしているでしょう。CSEの実践は、すべての人どうしがお互いをどのように尊重し、健全に社会と関係性を築いていくのかを真剣に考えるために欠かせないのです。

重要なのは、SRHRを、すべての人間が持つ権利(人権)としてグローバルに認識するということです。日本政府も『ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ』(※)を推進しているはずですが、実質的には無視していないでしょうか? SRHRの認識が抜け落ちていませんか? 日本に住む人の中に、女性は、LGBTQ+は、障害者は、いったい何%含まれるでしょうか? ーーいずれも周縁化されてよい存在ではありません。日本にはまだまだやらなければならないことがたくさんあります。CSEは宗教・伝統的価値観・文化に反するものではありません。『健康の権利』という誰もが持つ人権の一部です。日本国憲法にも第13条に『幸福追求権』が定められていますね。『健康の権利』に反するものは憲法違反といえるのではないでしょうか? 国民が健康に生活していくため、ちゃんと生きた制度づくりをするのは日本政府の責任です。健康とは尊厳そのものです。自分の尊厳が脅かされている時、人はストレスを感じ、心身ともに病んでいきます。尊厳というものは、すべての人が自分の体そして生活を自分で決められるということです。国家によってコントロールされるものではなく、国家がその市民に対し、享受するための方法や情報を提供することです。自分がどのような権利を持っているのかを知れば、その権利を侵害された時、自らたたかうことができますが、現状はそうなっていません。まずはここにいるみなさんが、自分の権利を知り、そのうえで自分のため、ほかの人のために自信を持ってたたかうための礎となることでしょう」

※ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC):「全ての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態」を指します。UHCは全てのSDGs(持続可能な開発目標)達成の基盤であり、日本の後押しによりSDGs目標にも導入されています(ターゲット3.8)。日本はUHC達成に向けて一貫してリーダーシップを発揮しており、2016年5月のG7伊勢志摩サミット、2019年6月のG20大阪サミット、2023年5月のG7広島サミットをはじめ、国連総会、WHO等様々な国際的なフォーラムでUHCの重要性が強調されています(外務省ウェブサイトに掲載)

【プレゼンテーション】『SRHR for ALL アクション!』4団体による4つの課題提示

続いて、『SRHR for ALL アクション!』メンバー団体であるReBit・DPI女性障害者ネットワーク・滞日ネパール人のための情報提供ネットワーク・#なんでないのプロジェクトの4団体が、教育現場で起きている排除の構造、国際基準から見た日本の課題、『誰ひとり取り残さない』を実現するための条件、包括的性教育導入の必要性と“のびしろ”の4つの視点からプレゼンテーションを行いました。

⚫︎LGBTQ+の子どもたちが安全安心に教育を受けるために/中島潤さん(認定特定非営利活動法人ReBit事務局長)

上智大学で国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演にてLGBTQ+の子どもたちに関する意識調査の結果について語るReBitの中島さん

12〜34歳のLGBTQ 4733名に対してReBitが実施した『LGBTQ 子ども・若者調査2025』によると、10代のLGBTQ+の子どもたちのうち53%が自殺を考えた経験があり、学校での嫌がらせや差別的な行為が頻繁に発生していることが明らかになったそうです。
「LGBTQ+の子どもたちにとって、学校は決して安全な環境にあるとはいえません。学習指導要領や教員養成課程において、LGBTQ+や多様な性的指向に関する教育を早急に実施すること、そしてすべての子どもが科学的根拠に基づいた教育を受ける権利を保障する必要があります。学習指導要領や教員養成課程において、LGBTQや多様な性に関する学びを実践できるよう、関係機関と連携して取り組みます」(中島さん)

⚫︎誰も排除しない教育とは/南由美子さん(DPI女性障害者ネットワーク)

南さんは、障害を持つ人、特に女性が、教育から排除されがちな実態と深刻な影響について語りました。
「障害を持つ女性にとって、包括的性教育は、単なる知識ではなく、自分自身の人生を選ぶための生きる力を与えるものだと考えます。それは決して特別扱いを要求しているのではなく、必要な配慮がインクルーシブ教育の実現において重要なのです。私たちDPI女性障害者ネットワークでは、2022年障害者の権利に関する条約の審査における日本の勧告についても触れ、教育分野における
障害とジェンダーを掛け合わせたデータ、いわゆるクロスデータ不足が排除のいち形態であることを指摘しました」(南さん)

⚫︎留学生とSRHR /田中雅子さん(滞日ネパール人のための情報提供ネットワーク・上智大学総合グローバル学部教授・IGC所員)

上智大学で国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演にて、外国人留学生が直面するSRHR課題について語るグローバル政策学部教授で滞日ネパール人のための情報提供ネットワークの田中雅子教授

田中さんは、2021年に名古屋入管で亡くなったスリランカ人留学生のウィシュマ・サンダマリさん(DVを受け続け、学業継続が困難になった結果、在留資格を失い、警察に保護を求めて入管に収容され死亡)の事例などを挙げて、外国人留学生が晒されている厳しい現状を説明しました。
「日本には約40万人の外国人留学生がおり、その多くは日本語教育機関に通っていますが、女性留学生のうち、約5万人が妊娠や出産の問題に直面しているとの報告があります。政府は妊娠や結婚を校則違反として扱う学校の対応を認めているものの、十分なサポートが行われていないことから、外国人留学生に対するSRHRの侵害が続いています。現在、外国人留学生向けのライフプラン教育を開始し、避妊や中絶サービスへのアクセスを向上させる取り組みを進める活動を通じ、『相談してもいいんだ』というメッセージの発信を進めています」(田中さん)

⚫︎SRHRと教育/福田和子さん(#なんでないのプロジェクト代表・SRHRアクティビスト、東京大学特任研究員)

上智大学で国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演にて、日本の性教育の遅れやプレコンセプションケアの課題を訴える#なんでないのプロジェクトの福田和子さん

福田さんは、国際社会から大きく遅れる日本の性教育の現状や、政府主導で推進されているプレコンセプションケアが抱える課題について語りました。
「モフォケン医師のお話にあったように、日本政府は数々の国際人権条約に批准し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの概念に同意しておきながら、包括的性教育導入に関する国連勧告を拒否し続けており、矛盾が生じています。また、子どもの発達段階に応じたさまざまな視点からの性教育が必要といいながら、“はどめ規定”によってCSEの実践が事実上制限されています。政府が推進しているプレコンセプションケアは、健康な子どもの誕生を重視しており、実質的な優生思想に基づくものだと思われ、非常に危機感を覚えています。人権に基づく包括的性教育の実現を目指して、政策提言や情報発信活動を続けていきます」(福田さん)

【パネルディスカッション】教育アクセスとSRHRに関する討論

上智大学で国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演にてパネルディスカッションするSRHR for ALL アクション!メンバーズ

続いてパネラー4名と草野がモフォケン医師を囲み、日本で安全かつ包摂的なSRHR教育を実現するために、現状各団体が取り組んでいる活動に加えて何をすべきかを模索するパネルディスカッションを行いました。登壇者全員が共通認識として挙げたのは、やはりSRHRを取り巻く日本の現状が国際基準から大きくかけ離れてしまっている事実と、各団体が活動を継続・強化することで、日本でのCSE導入早期実現への近道になるということでした。
「現場の教師が、個人の見解に基づく偏見を帯びた教育プログラムや、多数報道されているような性加害事案をこれ以上引き起こさないよう、自らの価値観を見直すことが大切です」(福田さん)
「SRHR教育の普及を進めるプロセスにおいては、必ず障害を持つ人々の参加を確保する必要があります」(南さん)
「LGBTQの子どもたちに配慮した法的・制度的な環境整備を早期に実現すべきです」(中島さん)
「留学生たちが、文化的背景の違いや思い込みによって誤った判断しないよう、全員が等しく情報にアクセスできる機会を提供することが重要です」(田中さん)

【ユースリレートーク】学生たちが直面している困難の可視化

上智大学で国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演の感想を述べる上智大学学生やユースたち

オーディエンスとして参加していた守谷希波さん、マクレーン沙羅さん、アズハリ サマルさんら上智大学の学生3名と、若菜絵莉さん(私たちが本当に欲しい性教育を語るカイギ!)、じゅりなさん(SRHRユースアライアンス)の5名によるリレートークを実施。シンポジウムの感想とともに、学校における性教育不足や留学生の困難な状況といった実態を語り、現在の日本における性教育の早期改善や包括的性教育導入を求めました。

【閉会挨拶】日本でも包括的性教育導入の早期実現を

上智大学で国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演にて開会挨拶をするジョイセフ理事長の勝部

最後に、勝部まゆみ(公益財団法人ジョイセフ理事長)から、モフォケン医師およびパネラーへの感謝と、CSEをすべての子どもに届ける必要性を訴えてイベントを終了しました。ご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました!

上智大学で国連 健康の権利特別報告者のトラレン・モフォケン医師の基調講演にて撮影された登壇者らの集合写真

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