
【第1回】では、国連「健康の権利」特別報告者*トラレン・モフォケンさんが語った、日本のSRHRと世界共通の課題について紹介しました。第2回では、その対話の場に参加した、ジョイセフの林陽子理事と國井修評議員、それぞれの歩みを紹介します。
*国連「健康の権利」特別報告者:国連人権理事会から任命され、各国政府や国連事務局から独立した立場で、健康と権利について調査・勧告を行う無給の専門家。
お二人に共通するのは、国連の場、あるいは国際機関の現場で、長く「制度の内側」から変化を起こそうとしてきた経験です。
林陽子理事
弁護士。女性の権利問題を長年テーマとし、2008年から2018年までの11年間、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)の委員を務めました。

女性差別撤廃委員会という「国際基準」の番人
私は弁護士で、女性の権利問題に関心を持ってきました。1980年代、日本にできた最初の、外国人女性のための暴力被害者向けシェルターでボランティアをしていたこともあります。その後イギリスに留学し、そこで出会った親友が、南アフリカのダーバン出身の女性でした。彼女の影響を受けて日本に帰国したあと、人権団体の中に反アパルトヘイト委員会をつくり、その議長を務めました。ネルソン・マンデラ氏が釈放されてから数年後、日本で二度、お会いする機会がありました。
2008年から2018年まで、女性差別撤廃委員会の委員を務めました。国連の条約機関と日本のジェンダー組織との間で、最も大きなギャップの一つがSRHRへの取り組みだと感じてきました。それは、情報が少ないという問題であり、だからアクションも少ないという問題でもあります。ただ、この数年で状況は大きく変わってきました。2024年、日本政府との建設的対話が行われ、フォローアップ項目として4つの勧告が出されました。選択的夫婦別姓の実現、供託金の見直し、そして中絶における配偶者同意の撤廃、緊急避妊薬などへのアクセス改善です。政府は今年10月までに、この勧告への対応を国連に報告する予定になっています。市民社会として、政府がどう動くのかをしっかり見届け、必要なロビイングを続けていきたいと思っています。
対話の冒頭、林理事はモフォケンさんに、国連の特別報告者になる前、南アフリカでどのような活動をしていたのかを尋ねています。その問いから始まったモフォケンさんの答えが、【第1回】で紹介した「原点」の物語でした。
國井修評議員
医師。緊急人道支援からJICA、外務省、ユニセフ、グローバルファンドまで、現場と国際機関の両方でグローバルヘルスに携わってきました。現在はグローバルヘルス・イノベーティブ・テクノロジー・ファンドで、アフリカの医療課題に取り組んでいます。

現場から、資金の構造を変える
もともと日本のへき地で医師として働いたあと、NGOを通じて難民などへの緊急援助に携わりました。アフリカのソマリアなどです。その後、JICAのプロジェクトでアフリカや南米などを回り、大学で教育と研究に携わったのち、外務省で保健外交・政策の仕事をしました。それから、ニューヨーク本部、ミャンマー、ソマリアと、7年ほどユニセフで活動。その後グローバルファンドに7年間勤め、日本に戻り、現在では顧みられない感染症やエボラなどの新興再興感染症の診断薬・治療薬やワクチンといった開発を通じて、低中所得国の医療を支えています。
SRHRという意味では、子ども、母親、若年成人女性という、3つの脆弱な人々に関わってきました。5歳未満の子どもの死亡率は高く、特に女の子はネグレクトされやすい。母親については、高い妊産婦死亡の国が多く、それを防ぐための緊急産科ケアなどに尽力しました。そして若年成人女性は、たとえば南アフリカでは、同世代の男性と比べて8倍以上のHIV罹患率がありました。
グローバルファンドに移った当初、ジェンダー・エクイティ(注:性別に関わらず公平な状態をつくること)を担当する専門家は一人しかいませんでした。だからまず、私が統括する局にコミュニティ・人権・ジェンダー部を世界中から専門家を集めてゼロからつくりました。大切なのは、アドボカシーだけでなくプログラムに落とし込むことです。指標を決め、市民社会を巻き込みながら、多くの国々で具体的なプログラムの計画・実施を支援しました。
ただ、例えば、南アフリカで実際に必要なHIV対策予算のうち、グローバルファンドの資金は10%もありませんでした。最終的には、各国が自国で保健医療予算を確保する必要があります。世界的にグローバルヘルスの資金は減っています。だからこそ、国内での資金調達をどう上げていくか、目標とすべき国家予算の15%以上をSRHRを含む保健医療予算に割り当てる必要があります。世界保健機関(WHO)などの国際機関に頼るのではなく、アフリカ疾病対策センター(アフリカCDC)など、地域のリーダーシップと実行力を強化していくことも、これから大切になってくると考えています。
國井評議員が語った資金構造への視点は、【第1回】でモフォケンさんが語った「慈善ではなく投資として」という主張と、深く重なり合うものでした。
次回は、法学者の谷口真由美理事と、ジャーナリストの竹信三恵子評議員、メディアの最前線に立つお二人を紹介します。
世界人口デーに寄せて。
- Author

JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします
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