
【第1回】では国連「健康の権利」特別報告者*トラレン・モフォケンさんの言葉を、【第2回】では林陽子理事・国井修評議員という、国際機関の現場を歩んできたお二人を紹介しました。
最終回となる第3回では、法学者・コメンテーターとして、そしてジャーナリストとして、メディアの最前線で発信を続けてきた谷口真由美理事と竹信三恵子評議員を紹介します。対談では、公けの場で声を上げることに伴う、目に見えない攻撃と向き合い続けてきた経験が語られました。
*国連「健康の権利」特別報告者:国連人権理事会から任命され、各国政府や国連事務局から独立した立場で、健康と権利について調査・勧告を行う無給の専門家。
谷口真由美理事
法学者。メディアコメンテーターとしても知られ、ジョイセフの理事を務めています。

「闘いたくない」のに、なぜか闘いがやってくる
私はできる限り闘いたくないんです。それなのに、なぜか闘いがやってくる。打ち返せば、また闘いが続く。この状況がずっと続いています。だんだん鈍感になっていく自分がいて、「また政治家が『女性は子どもを産む機械』みたいなことを言ってる」と、いい加減にしてほしいと思う一方で、それに慣れてしまうことも、ある種の「コロナイゼーション(植民地化)」なのではないかと感じています。
なぜ男の人たちは私たちに闘いを挑んでくるのか、そのメンタリティを知りたいと思っています。この社会は、今私が座っている椅子やテーブルの高さひとつとっても、男の人の仕様でできている。思考まで男性仕様にしなければ生きていけない、そんな状況の中で、まだ戦う気力があるだけよかったと思うようにしています。
こうした思いから、谷口理事はモフォケンさんに、国連の特別報告者としての仕事において自国から「来ないでほしい」と言われるほどの闘いを重ねてきた中で、一番激しかった闘いは何かを尋ねています。返ってきたのは、南アフリカの保健専門職評議会との法廷闘争という、深刻な答えでした。人権と人道のために声を上げ続けた代償として、今なお医師免許をめぐる争いの中にいると明かしたモフォケンさんの言葉に、谷口理事は言葉を失ったといいます。
谷口理事は、自身の経験も重ねながら、こう続けました。
国際的な場に出て活動する女性たちは、時にフェミサイドに近いほどの攻撃を受けます。同じことをしても、男性ならそこまでされないことが、たくさんあります。だからこそ、そうした立場で頑張っている女性リーダーを孤立させない役割が、ジョイセフのような組織には必要だと思っています。
理事自身も、テレビに出演するたびに、SNS上で数多くの誹謗中傷を受けてきました。あるとき、それらの書き込みをAIに分析させてみたところ、意味のない「悪口」が占める割合はおよそ9割だったといいます。「匿名で書き込んでいる人たちに、『あなたの声は9割以上を占める退屈な多数派の意見ですよ』と伝えてあげたいくらいです」と、笑いを交えながら語ってくれました。
竹信三恵子評議員
ジャーナリスト。朝日新聞での記者経験を経て、日本の雇用に残るジェンダー格差を長く取材してきました。和光大学名誉教授、アジア女性資料センター代表理事も務め、ジョイセフの評議員として活動しています。

同じ経験を分かち合える頼もしさ
雇用の現場に残るジェンダー格差を長年見つめてきた竹信評議員は、モフォケンさんにこう尋ねました。「これほど厳しい活動をずっと続けてきて、一番落ち込んだときに、自分を支える言葉や物事は何でしょうか?」
返ってきたのは、モフォケンさんの母の「大胆であれ、あなたの最善は、それだけで十分」という言葉でした。
この一言は、私にとってひときわ印象深いものになりました。皆さんが同じような経験を共有しているのだと分かるだけで、これほど力が湧いてくるのだと、あらためて学ばせてもらいました。
国連の壇上、国会議事堂、テレビの画面の前。場所は違っても、「声を上げる人」が向き合っている壁には、共通するものがあります。中傷という形もあれば、法廷という形もあります。それでも、それぞれの場所で声を上げ続けることで、少しずつ現実は変わってきました。
竹信評議員が「同じ経験を分かち合うだけで、力が湧いてくる」と語ったように、一人ではないと知ることが、次の一歩を支える力になります。
「壁に一人で立ち向かわせない」という役割を、ジョイセフはこれからも担っていきたい。モフォケンさんと理事たちの対話は、その思いを新たにする機会となりました。
世界人口デーに寄せて。
- Author

JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします
「女性性器切除(FGM)根絶のための国際デー(2/6)」によせて ー「遠い誰かの問題」ではなく、私たちが向き合うべき課題として
【第2回】世界人口デーに寄せて。国際機関で、制度の内側から変えていく仕事 林陽子理事×國井修評議員
【第1回】世界人口デーに寄せて。国連専門家とジョイセフの理事・評議員が語り合う、日本のSRHRと「性教育後進国」からの脱却