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日本の避妊方法から考える

2017.5.16

中絶数17万6388件(2015年)

厚生労働省によりますと、日本の2015年の届け出の人工妊娠中絶数は17万6388件でした。中絶数がもっとも多かった、昭和30年(1955年)では117万件を超えていたことを考えると、大幅な減少となっています。

昭和30年の出生数(173万人)と2015年のそれ(100万人)を比較すると出生数自体が42%減であり、中絶数の減少率が85%とすると、減少率では中絶数の方が出生数よりもはるかに大きな減少を示していると考えられます。その理由としては、当然、避妊実行率が上がったことや避妊の確実性が上がったからだと考えられます。

次に日本の避妊方法の実態を概観してみましょう。

日本の避妊方法:コンドーム82%、ピル4.2%

一方、日本の避妊方法の実態を一般社団法人日本家族計画協会の調査を踏まえて、検証してみましょう。2016年の避妊方法別の回答(複数回答可)では、

第1位:コンドーム 82.0%、
第2位:性交中絶法(腟外射精)19.5%、
第3位:オギノ式 7.3%、
第4位:ピル(経口避妊薬)4.2%、
第5位:IUD (子宮内避妊具)0.4%
、でした。

第4位の(低用量)ピルは1999年に日本で初めて承認されてから、2017年で18年目ですが、2017年に公表された調査では、2014年~16年には4%台を推移しています。

なかなか使用率が上がらないのが現実のようです。女性にとって最も確実と言われている選択肢であるピルですが、残念ながら、日本の女性にはなかなか受け入れられていないようです。

理由は、依然として「副作用が心配」という女性が多いこと。また、セックスの頻度が落ちていて、「毎日飲み続けなければならない」ピルはなかなか普及しないとも考えられます。

また、「価格」と「処方の面倒くささ」です。医師による処方により初めて入手できるというシステムが障害となっているようです。
また、保険の対象ではないので高額(月に4~5千円程度、年間で5万円程度の個人負担)となります。価格でコンドームとは比べようがありません。

結局男性の避妊方法であるコンドームが常にダントツの1位ということになるのです。コンドームは不確実性が高いにもかかわらず、それに置き換わるほどの方法が今のところないと言われています。2位の性交中絶法は避妊方法としては全く論外です。これが、日本の避妊の現実なのです。

たとえ、避妊の失敗であっても中絶をしない場合は、妊娠を継続し、出産するという選択になりますが、望まない妊娠で生まれた子どもに対する「虐待」のことが懸念されます。

性感染症が急増

一方、2016年から2017年にかけて、厚生労働省が、発表しているデータによりますと、HIV新規感染率や梅毒の感染者数が急増しています。厚労相からコンドーム使用の推奨が発信されていますが、コンドームを「妊娠予防」の方法としてとらえてはいるものの、「性感染症予防」の方法としての考え方が依然として浸透していないからではないでしょうか。検査数も減少していて潜在的な感染者の増加も懸念されます。

コンドームが日本の避妊方法の第1位であるにもかかわらず、それを使わない性交渉が行われていて、そのことが、性感染症を急増させているという皮肉な現象となっています。また、最近の調査では、不特定多数の相手との性交渉にも警鐘が鳴らされています。

性教育の強化や情報とメッセージの発信が急務

このような現状を踏まえて、再び、望まない妊娠の予防や性感染症の予防を含めた性教育の強化が必要となっています。性や性感染症に関する知識・情報のみならず、性行動の責任と相手への思いやりなどについての行動変容を目指す教育も含めた予防教育がますます重要であると考えます。

望まない妊娠や予期しない妊娠および性感染症の予防は、他人事ではなく自分自身やパートナーの問題となるという意識が改めて認識されなくてはなりません。

また、性と生殖に関する健康と権利の観点から、合法的で安全な人工妊娠中絶が、女性の自己決定権の視点からとらえられなければなりません。

さらに中絶の及ぼす身体的・精神的な女性への影響をなくすためにも、中絶よりも避妊を奨励することが求められます。そのためにも思春期の早い時期からの「包括的な」性教育が必須であると考えます。

(公益財団法人ジョイセフ 常務理事 鈴木良一 2017年5月、東京にて)
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