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【全4部】ついに日本でも! 緊急避妊薬の市販化ってどういうこと? わたしのカラダ、未来の選択を考える―― ウェビナーレポート②

2025.12.15

自分のカラダのことは、自分で決める。そんな「あたりまえ」への一歩が、ついに日本でも実現します。2026年春、緊急避妊薬(アフターピル)のスイッチOTC化(市販薬化)が始まる見通しになったのです。

これまでジョイセフは多くの市民団体と連携し、緊急避妊薬の市販化を訴え続けてきました。今回の決定は、市民活動が政策に働きかけた成果といえます。高額な費用や制約といった課題が残るものの、日本のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)における大きな前進です。

この決定に際して、ジョイセフ・NPO法人ピルコン・産婦人科医の団体リプラの3者がタッグを組み、「緊急避妊薬の市販化とこれからの性の選択」をテーマとしたオンラインイベント(ウェビナー)を、11月27日に開催しました。登壇したのは、市民プロジェクトの先頭に立つ染矢明日香さん、産婦人科医の柴田綾子さん、そしてファシリテーターの小野美智代(ジョイセフ)です。

予定外の妊娠を防ぐ「最後の砦」となる緊急避妊薬。海外では約90カ国の薬局で手軽に入手でき、安全が確認されているにもかかわらず、なぜ日本ではアクセスが阻まれてきたのでしょうか。今回の市販化までの経緯、正しい医学的な知識、緊急避妊薬から見えてくる日本のSRHR課題について、141名のウェビナー参加者とともに学び、考えました。

本レポートは、ウェビナーの核心をわかりやすく伝え、いま知っておくべき緊急避妊薬の情報を網羅した「保存版」といえる内容です。自分と大切な誰かの人生の選択を守るために、ぜひ参考にしてください。

第2部
医師が解説! いざという時に人生を守る「緊急避妊薬のポイント」

リプラ所属 産婦人科医(淀川キリスト教病院勤務) 柴田綾子さん

緊急避妊薬は、思わぬ妊娠の不安を軽減する大切な選択肢です。でも、いざ使用を検討すると「どんな仕組みで効くの?」「副作用は?」「飲むタイミングは?」など、さまざまな疑問が出てきます。緊急避妊薬には知っておくと安心できるポイントが多くあり、正しい情報を持つことがとても大切です。
ウェビナーの第2部では、産婦人科医の柴田綾子さんが登壇。医学的な根拠に基づき、緊急避妊薬の基礎知識や注意点をわかりやすく解説しました。もしもの時に慌てず、自分や身近な人の人生を守るための「ライフスキル」を、一緒に身につけていきましょう。

緊急避妊薬は「女性の大切な権利」

「緊急避妊薬は女性の大切な権利です」という印象的な言葉からレクチャーを始めた柴田さん。所属する産婦人科医のチーム「リプラ」は、リプロダクティブ・ライツ(生殖に関する権利)を短くした言葉です。妊娠するかしないか、避妊をどうするか、中絶を含め、性と生殖に関する選択は本来すべて「自分自身」が決めてよいこと。社会や医師でさえ強制することはできない。それがリプロダクティブ・ライツであり、すべての人が持っている権利だといいます。
その権利を実現するために、必要なサービスへのアクセスも当然守られるべき。緊急避妊薬も本来、OTC化によって必要な人が使えるよう、社会を整えていくのが世界の流れだと語りました。

SNSで広がる誤解

SNSを中心に、緊急避妊薬の誤った情報が流れていることを柴田さんは懸念します。「流産を起こす・中絶を促す等、完全な誤解です」と強調しました。
「緊急避妊薬は、妊娠をする前に妊娠を予防するための薬です。日本で主に使われているのは、レボノルゲストレルという黄体ホルモン(女性ホルモンのひとつ)を人工的に作ったもので、1錠飲みます」

高い費用が女性を追いつめる

緊急避妊薬は保険外の自由診療です。費用は医療機関によって12000~15000円以上、後発品でも6000~9000円ほど。海外では無料から数百円で入手できるのに対し「日本では経済的ハードルが大きい」と柴田さんは指摘しました。一方、予想外の妊娠をした場合の負担に関する研究もあるそうです。
「妊娠・出産、あるいは中絶も、心身に大きな負担がかかります。妊娠でキャリアや学業を中断したり、退学することもあります」と柴田さん。相手の男性が逃げてしまっても、女性は自分に起きた妊娠から逃げられません。妊娠・出産・中絶のすべてが、心身や生活、金銭の負担となってのしかかります。
こうした整わない環境下での出産は、育児放棄や児童虐待のリスクも高くなることがわかっています。その中で日本では年間12万人、今日一日で348人の女性が中絶しており、近年は特に若い世代の中絶が増えています。

「中絶自体が悪いことではなく、リプロダクティブ・ライツとして、女性には妊娠継続できないときに中絶する権利があります。ただし体に負担がありますし、一生心の傷となっている女性も多いのが現状です。緊急避妊薬がOTC化されることで、妊娠を予防することを女性が自分で選択できることが大切です」(柴田さん)

「他人事」ではない、緊急避妊薬を必要とする場面

日本でポピュラーな避妊法といえばコンドーム。しかしその避妊効果は意外なほど低く、「コンドームを使用した場合、1年間で100人の女性のうち2~13人が妊娠します」と衝撃の事実が明らかに。
「ですから、最後の砦:緊急避妊薬は、性交をする人は『誰でも』必要になりうるということです」

コンドーム使用の失敗以外にも、低用量ピルの飲み忘れや胃腸炎による吸収不良、子宮内避妊具(ミレーナなど)が性行為の刺激で出てしまう、性暴力に遭うなど、さまざまな理由で緊急避妊薬が必要になる可能性が考えられます。

妊娠しやすい時期とよくある誤解

「排卵は生理と生理の間に起こります。生理2週間前あたりが妊娠しやすい排卵の時期と言われています」

それなら妊娠しやすい時期だけ避ければ大丈夫かというと、柴田さんは「誤解です。排卵日は容易にずれてしまい、安全日というものは基本的に存在しません」ときっぱり否定しました。
「どんなタイミングでも、性行為をして避妊が十分ではなければ、緊急避妊薬を使うのが重要です。薬を使うのが悪いとか恥ずかしいとか、そういうことは全然ありません」

緊急避妊薬の仕組みと正しい飲み方

緊急避妊薬は「服用から排卵を約5日間遅らせる」薬です。なぜ5日間なのでしょうか。
「今夜私たちが性行為をすると、翌朝には子宮から卵管に精子が泳いできて、卵子を待つ状態になります。このタイミングで排卵が起こると、卵巣から放出された卵子が卵管に取り込まれ、精子と出会って受精します」(柴田さん)
精子の寿命は3~5日間。排卵を5日間遅らせれば精子が失活してしまい、受精には至らないというわけです。「5日間だけ排卵を止めるのです。流産を起こすわけでも、中絶を起こすわけでもありません」

ここで「正しい飲み方」が伝えられました。それはただ1つ、「できる限り早く飲む」こと。72時間以内というルールはありますが、実は早く飲むほど効果が高く、手に入れたらすぐ飲むのが鉄則です。
日本産科婦人科学会の緊急避妊の指針からの図によると、緊急避妊薬レボルノゲステロルは、性交から24時間以内で妊娠予防効果が95%、24時間経過すると85%、49時間後は58%と、時間とともに効果が落ちます。だからこそ、産婦人科をすぐ受診できない場合、身近な薬局で買えることが重要なのです。

副作用と性暴力被害者への支援

副作用に関して、柴田さんは世界のデータから「副作用の頻度は少ないこと、命にかかわる副作用はないこと」を伝えました。「女性ホルモンの薬なのでピルと似ています。一時的な吐き気や頭痛、性器出血などが出ても、命にかかわることはなく、自然によくなります。持病がある女性や思春期でも安全に使えます。怖いお薬ではないということです」

また、緊急避妊薬が必要となる場面のひとつに性暴力があります。柴田さんは「どんなに気をつけても、性被害に巻き込まれる可能性はある」と指摘。その場合はすぐ緊急避妊薬を飲むこと、さらに「ワンストップ支援センター」に相談することを求めました。
ワンストップ支援センターは全県に1つずつ設置されており、性暴力被害者への支援窓口が集約されています。#8891に電話をすれば最寄りのワンストップ支援センターにつながります。電話が難しい場合は、内閣府の無料相談
Cure Time も利用できます。

よくある質問と柴田医師の回答
Q. 緊急避妊薬を飲んだら妊娠しにくくなる?
A. なりません。 5日間排卵を止めておくだけなので、その後悪い影響は残りません。不妊症になることもありません。
Q. 何度使っても大丈夫?
A. 大丈夫です。 何度使用しても問題ありません。一時的に月経不順が起きる可能性がありますが、自然に軽快します。必要な時には、ためらわず使ってください。もし何度も必要になる場合には、確実な避妊ができる低用量ピルがおすすめです。
Q. 悪用されるのでは?
A. どんな薬でも悪用は起こりますが、万が一緊急避妊薬を悪用したとしても、流産や中絶を起こすことはありません。 妊娠していることに気づかず飲んでしまった場合も、赤ちゃんへの悪影響はありませんので大丈夫です。
OTC化、市販化で何が変わる?

ようやくOTC化が実現したものの、実は色々な制約があります。

  1. 扱えるのは登録した薬局のみ(すべての薬局で買えるわけではない)
  2. 事前にeラーニングをした薬剤師さんがいる時しか買えない
  3. 値段が高い(6,000円から9,000円程度)※その後、薬局での希望小売価格は6800円との報道あり

一方、良かった点もあります。

  1. 年齢制限の撤廃(年齢は確認するのみ)
  2. 保護者の同意は不要に

今後の課題として、柴田さんは「面前服用」を挙げました。やはり薬剤師さんの目の前ではプレッシャーがあり、飲めなくなる人もいるそうです。
安全性が担保された薬であるにもかかわらず、なぜ緊急避妊薬だけ薬剤師さんに見られながら飲む必要があるのか。柴田さんはOTC化を経て安全性の認知が広まり、面前服用も撤廃されることを期待しているといいます。

続く第3部では、ジョイセフの小野美智代が緊急避妊薬の海外での利用状況を紹介します。各国の状況から、安全で身近な薬であることが再確認できる内容です。

NEXT👉第3部 世界90カ国で、安全・安価に使われている緊急避妊薬

Author

JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします