
自分のカラダのことは、自分で決める。そんな「あたりまえ」への一歩が、ついに日本でも実現します。2026年春、緊急避妊薬(アフターピル)のスイッチOTC化(市販薬化)が始まる見通しになったのです。
これまでジョイセフは多くの市民団体と連携し、緊急避妊薬の市販化を訴え続けてきました。今回の決定は、市民活動が政策に働きかけた成果といえます。高額な費用や制約といった課題が残るものの、日本のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)における大きな前進です。
この決定に際して、ジョイセフ・NPO法人ピルコン・産婦人科医の団体リプラの3者がタッグを組み、「緊急避妊薬の市販化とこれからの性の選択」をテーマとしたオンラインイベント(ウェビナー)を、11月27日に開催しました。登壇したのは、市民プロジェクトの先頭に立つ染矢明日香さん、産婦人科医の柴田綾子さん、そしてファシリテーターの小野美智代(ジョイセフ)です。
予定外の妊娠を防ぐ「最後の砦」となる緊急避妊薬。海外では約90カ国の薬局で手軽に入手でき、安全が確認されているにもかかわらず、なぜ日本ではアクセスが阻まれてきたのでしょうか。今回の市販化までの経緯、正しい医学的な知識、緊急避妊薬から見えてくる日本のSRHR課題について、141名のウェビナー参加者とともに学び、考えました。
本レポートは、ウェビナーの核心をわかりやすく伝え、いま知っておくべき緊急避妊薬の情報を網羅した「保存版」といえる内容です。自分と大切な誰かの人生の選択を守るために、ぜひ参考にしてください。
- 第1部 緊急避妊薬の市販化へ、市民の声が7年の議論を動かした
- 第2部 医師が解説!いざという時に人生を守る緊急避妊薬のポイント
- 第3部 世界90カ国で、安全・安価に使われている緊急避妊薬
- 第4部 女性が「自分の体」と「人生の選択」を守れる社会へ――議論が示す次のステップ + ウェビナー参加者からの質問コーナー / ジョイセフからのメッセージ・参加者の声👈
第4部
女性が「自分の体」と「人生の選択」を守れる社会へ――議論が示す次のステップ
続いて登壇者3名によるトークセッションでは、「必要なときに緊急避妊薬にアクセスできる社会」をつくるための課題と今後の道すじが話し合われました。
染矢明日香さん「当事者の視点こそ政策を動かす力に」
「市販化まで本当に長かった」と振り返る染矢さん。それでも「緊急避妊薬は何かという説明から始めなくてもよい社会になりつつある。これは前進」と評価します。一方で、市販化に関する検討会で議論が長引く間、多くの女性たちが妊娠の不安を抱えていた現実があります。その状況をふまえ、「意思決定の場に、もっと当事者の視点が必要です」と強く訴えました。
また、薬剤師の面前服用が求められる今回の規定について「なぜ緊急避妊薬だけなのか。結核の薬のように飲み忘れで耐性菌ができることもなく、安全性が担保されている薬なのだから、この条件は早くなくしてほしい」と疑問を投げかけました。
柴田綾子さん「女性の権利から議論を立て直す必要がある」
柴田さんは、「日本では避妊や緊急避妊について学校でほとんど学べないため、そもそも緊急避妊の存在を知らずに大人になる人が多い」と説明しました。
本来、緊急避妊薬は「女性が自分の体を守るための大切な権利」です。しかし議論の中心が「悪用対策」や「管理」に偏り、当事者の声が政策に十分届いていない現状について、柴田さんは残念だといいます。
市販化が決まっても買える薬局の数が限られており、面前服用を求められることや価格の高さなど、改善すべき点が多く残ることを指摘しました。
ジョイセフ 小野美智代「性教育とアクセス改善、どちらも同時に進めたい」
ジョイセフの小野は、緊急避妊薬をめぐって「性教育が不十分だから時期尚早」という慎重論が繰り返されてきた歴史を振り返りました。
しかし、性教育の充実と緊急避妊薬へのアクセス改善は、どちらも同時に急ぐべき課題です。市販化が決まった今も、特に薬剤師の面前での服用に意味があるかどうかなど、考える必要があると述べました。
市民アクティビスト、産婦人科、国際協力NGOの3者が同じ課題を共有することで、今後へのステップが見えてきました。緊急避妊薬の市販化は前進ですが、当事者の声が政策に十分反映されていないこと、性教育の遅れ、面前服用という要件や価格の高さなど、解決すべき課題が多く残っています。
「女性が自分の体について、主体的に選択できる社会」を実現するために、私たちが力をあわせて取り組んでいく必要が確認されるセッションでした。
ウェビナー参加者からの質問コーナー
ウェビナーでは、参加者からも多くの質問が寄せられました。学校での伝え方や薬の価格、性教育の現状など、幅広く真剣な問いが続きます。その中で特に多く挙がった質問と、登壇者による回答をわかりやすく紹介します。
Q. 学校で緊急避妊薬についてどう伝えるべきか?
染矢:
性教育の役割は、価値観の押し付けではなく、医学的に正しい情報を堂々と伝えること。緊急避妊薬は普段の避妊法として使うことには向いていない薬ですが、性被害や避妊の失敗が起こり得る中で、「自分らしく生きるために必要な権利」です。ですから「頼り過ぎないように」「お世話にならないように」といったメッセージではなく、必要なときに堂々と必要だと言えて活用することができる社会にしていければと思います。
SRHRを推進する世界的な国際NGOである国際家族計画連盟(IPPF)の事務局長が、「緊急避妊薬は、数知れない多くの女性と女の子に、安全で手頃な価格の計画外妊娠を防ぐ手段を提供し、教育、夢、希望を追いかけること、そして望む人生の実現を可能にしています」と語っています。私はこのメッセージに大変勇気づけられました。
柴田:
同感で、緊急避妊薬は自分を守るためのスキルのひとつです。必要なときに適切にツールを使えるのは「ふしだら」ではなく、自信を持っていいこと。ユネスコなどが推奨する包括的性教育のように、小学校・思春期から、しっかり避妊や緊急避妊の知識を伝えるのが大事だと思います。
Q. なぜ日本の緊急避妊薬は高額なの?
柴田:
日本は妊娠・避妊・中絶が保険適用外で、すべて自費になることが価格を押し上げています。原価から考えると高すぎるのではという疑問もありますが、値下がりしないのが現状です。
染矢:
海外で無料提供されているのは、「避妊は重要だから公的資金を投入する」という社会的合意があるから。日本は高齢化で医療費を抑える議論になっているのに加え、少子化対策で不妊治療や「産む」選択につながる補助をする流れがあります。また、治験にかかる費用が価格を押し上げてきたという専門家の意見もあります。
Q. 遅れた日本の性教育を前へ進めたい。具体的なアクションは?
染矢:
今日、まさに文部科学省へ「はどめ規定」撤廃の署名キャンペーンを届けてきました。(注:はどめ規定とは、学習指導要領にある「受精に至る過程は取り扱わない」「妊娠の経過は取り扱わない」といった記述の通称)
性教育の「はどめ」になっているこの規定について、撤廃を求めるという署名活動でしたが、回答は「教えること自体を禁止はしていません」「個別指導でやってください」という定型文でした。残念です。
それでも、あきらめずに声を上げ続けることが大切です。ぜひ皆さんと連帯して、定期的に声を上げていきたいと思います。人権に基づく自己決定につながるような、自分らしく生きていくための選択肢を知り、それを選ぶところの教育を目指していきたいです。
柴田:
リプロダクティブ・ライツは本来とても大切なのに、日本ではまだ広く知られていません。妊娠・出産は女性だけの問題ではなく、社会全体の課題。ぜひ男性を含めて幅広く、みんなで取り組んでいきたいです。SNSに投稿するだけでも社会的な関心が高まります。
ジョイセフからのメッセージ
今日のウェビナーで、市民活動に取り組む染矢さん、医師でありリプロダクティブ・ライツを推進する柴田さん、そして私たちジョイセフと、3者が同じ目的を持ってそれぞれの立場から話し合いました。ウェビナーに参加したさまざまな立場の皆さんとも活発に意見交換し、現在地とこれからの道すじが見えてきたことに大きな意味を感じています。今後も多くの皆さんと連帯し、力強くSRHR推進活動をしていきます。
参加者の声 一部抜粋・要約
ドラッグストアの薬剤師です。全薬剤師がOTC販売のeラーニングを受講し、来年1月から販売できる体制になっています。一番印象的だったのは、購入者に対して、後ろめたく思う必要はない。女性の権利であり、堂々と購入、使用して良い。適切にツールを使えるのは立派である、という姿勢です。このように接していこうと考えています。
緊急避妊薬の基礎的な知識がなかったので、大変勉強になりました。また、ガーナやカンボジアとの違い、(特に価格)についても驚きました。
アフターピルは「なるべくお世話にならないようにする薬」ではなく、「より良い人生を過ごすために堂々と飲んでいい薬」という言葉が心に刺さりました。今後、相談や性教育講演でもしっかりとこのメッセージを伝えます。
なぜOCT化にこんなにも時間を要したのか、染谷さんのお話でよく分かりました。国際家族計画連盟の事務局長さんのエピソードには心が動きました。柴田先生のお話も大変分かりやすく、質問されたら答えられることが増えました。世界の緊急避妊薬の扱いについてよくわかり、各国の課題に向き合うジョイセフさんの取り組みに感動しました。
とてもわかりやすいウェビナーで、これだけの内容が無料で聞けるのはありがたかったです。若い人たちにも聞いてほしいです。緊急避妊薬は黄体ホルモンで排卵を5日遅くさせるだけということも初めて知りました。生理が始まる頃の女性と、本当は男性にも早くから知ってほしいです。そして学校などでも当たり前に話題にできるといいなと思います。
緊急避妊薬とは違い、バイアグラは半年で承認したこと。男女の性に対する差別がある社会であることを改めて感じました。SRHRを広めていく必要があると強く感じました。
長期間、緊急避妊薬OTC化に向けて動いて下さったことに感謝しています。緊急避妊薬は「排卵を5日間止める」薬だということがとてもわかりやすく、周囲に伝えていきたいと思いました。包括的性教育を大人が学んでいないために「必要ない」と考える人が大多数という事には、納得してしまいました。語り続け、声をあげ続けることが大切ですね。
- Author

JOICFP
ジョイセフは、すべての人びとが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRH/R)をはじめ、自らの健康を享受し、尊厳と平等のもとに自己実現できる世界をめざします
性と恋愛 2023【性・セックスの意識】
【全4部】ついに日本でも! 緊急避妊薬の市販化ってどういうこと? わたしのカラダ、未来の選択を考える―― ウェビナーレポート③
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