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ジェンダー平等への 日本の取り組み。 国際社会からの提言

2023.4.5

ジョイセフ グローバル・アドボカシー・ディレクターの斎藤文栄が『JP総研 Reserch vol.61』(2023年3月31日 日本郵政グループ労働組合 JP 総合研究所 発行)に「ジェンダー平等への 日本の取り組み。 国際社会からの提言」というテーマで寄稿しました。

はじめに

ジェンダー平等が進まない、という例としてよく使われる指標に、世界経済フォーラムが公表しているジェンダー・ギャップ指数がある。2022年の日本の順位は146ヵ国中116位。むろん先進国では最低レベル、アジア諸国の中でも韓国や中国、アセアン諸国よりも低い順位である*1。

ひとつ上の115位には西アフリカのブルキナファソ。筆者は現在たまたまその隣のコートジボワール(133位)に滞在しているが、アフリカの周辺諸国の生活環境を思い浮かべながら、はるかに先進国でありながら、ジェンダー・ギャップに関しては同じような順位に甘んじている日本はどうなっているのかと思いつつ本原稿を執筆している。

本稿では国際社会から見た日本のジェンダー平等への取り組みを取り上げるが、日本のジェンダー状況について考えるきっかけになれば幸いである。

*1 男女共同参画局総務課、「世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表」、共同参画、令和4 年8 月号 https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/202208_07.html
[Access 2023/02/23]

国際的なビジネスへの影響

まず、ジェンダー平等が遅れていることが、国際的に、ビジネスの上でどのような弊害につながるのか2つの例を見てみたい。

企業文化という名の下に、セクハラ問題を放置して悪化した例として、1990年代半ば、米国三菱自動車イリノイ工場で起きたセクハラ事件がある。最終的に連邦雇用平等委員会に認定された被害者の数は289人。

報道ではもっと多く、恒常的に行われていた数々のセクハラに企業がきちんと向き合ってこなかったことが推察される。集団提訴した被害者に米国三菱自動車が支払った和解金は12億円とも言われている。

この事件は、大規模なデモや三菱自動車の不買運動にも発展し、かなり長い間、米国で注目を集めることとなった。米国だけで終わらず、親会社である日本の三菱自動車にも、女性の権利のための全国組織である全米女性機構の副会長や公民権活動家のジェシー・ジャクソン師らが来日し抗議活動を行った*2。
日本の男女雇用機会均等法にセクハラに関する事業主の責務が盛り込まれたのは1997年。この米国三菱自工のセクハラ事件の影響もあると言われている*3。

日本企業がジェンダー平等の認識が甘く、摩擦を生んだ例としては、野村証券の例がある。2008年、野村証券は経営破綻したリーマン・ブラザースの欧州とアジア太平洋地域の事業を買収したが、新人研修を男女別に行い、女性だけに髪型やお茶汲み、季節に応じた服装の指示があったことがウォール・ストリート・ジャーナルで報道された。

その中にはハーバード大卒の女性もいたという。野村の日本的な職場文化が旧リーマンの従業員との間で摩擦を作り出しており、扱いに不満を持つ女性従業員が野村を去る予定にしているとの声を記事は伝えている*4。

企業のブランドイメージを守るためにも、優秀な人材を確保する上でも、ジェンダー平等に真剣に取り組まなければならないことは明白である。ジェンダー平等は職場のリスクマネジメントを考える上でも重要な戦略目標となる。

*2 柏木宏、「米国三菱のセクハラ問題 民事訴訟で和解成立、慰謝料な
ど950 万ドル」日本太平洋資料ネットワークhttp://www.jprn.org/japanese/library/ronbun/mitsubishi.html
[Access 2023/0223]

*3 浅倉むつ子、特集ハラスメント、であいきらり第71 号 2020.3 目黒
区男女平等・共同参画センターhttps://www.city.meguro.tokyo.jp/gyosei/jinken/danjo/kankobutstu/deaikirari/deaikirari71.files/deai71_2_3.pdf
 [Access 2023/02/23]

*4 Tudor, Alison.“ Nomura Stumbles in New Global Push,” The
Wall Street Journal, July 29, 2009 11:59 pm ET https://www.wsj.com/articles/SB124882265902988289 
[Access 2023/02/23]

ところで、本当に日本ではジェンダー平等が進んでいないのだろうか

もう30年前になるが、筆者がまだ若かりし新入社員だった時代、新入社員は同じ部署に配属されても、女性のみが皆が来る前に出社して机の掃除、お茶の時間には同じ階の全ての社員にそれぞれの好みに合わせた飲み物を配る当番が割り当てられていた。

田舎の会社だったので、年数回は羽虫が大量に机の上に溜まっていて、うんざりとした思いをしながら拭き掃除をしたことを思い出す。ちなみに職種はアナウンサーで、ラジオブースに入ってニュースを読み、コマーシャルの録音を取る業務は同期の男性社員と同じように回ってきた。しかし男性アナウンサーは机を掃除することもなく、お茶汲みをすることもないまま、数年経つと男性というだけで同期の女性社員よりも高い給与を受け取ることができた。給与形態が30歳になるとスライド式に男性が多くもらえるように設定されていたからだ。

その頃は、毎朝挨拶がわりにお尻を触る上司や時々おどけて胸を触ってくるドライバー、飲み会に行けばイチモツをおしぼりのトレイで隠しつつ裸踊りをする先輩、どこぞの企業が送ってきたヌードカレンダーを堂々と職場に貼るディレクターといった男性に囲まれており、そんな環境で愛想良く仕事をすることを求められていた。内心、不条理でおかしいと思いつつも、それが当たり前だと多くの人が思っていた。

90年代初頭、日本の地方では、こんな職場で女性が仕事をせざるを得なかった。さすがに、今はこんな職場は少なくなってきており、少なくとも、これが「おかしい」と言えるくらいにはなっていると思う。そう考えれば、日本でジェンダー平等が進んでいない、ということはない。しかし、野村のケースにもあるように、21世紀に入っても、大企業でも、ジェンダー平等の認識があまり浸透しているようには見えない。それはなぜだろうか。

改めて「ジェンダー」とは

ジェンダー平等について話を進める前に、「ジェンダー」とは何を指すのかとのおさらいをしたい。ジェンダー(Gender)と対比されるものとして、セックス(sex)がある。

どちらも性差・性別を表す言葉だが、セックスが生物学的な性差・性別を表すことに対して、ジェンダーは社会・文化的な性差・性別と分類される。「男らしさ」「女らしさ」という概念は、生まれながらの区別ではなく、社会的に形成されていくものであり、「夫は外で働き、女性は家庭を守るものである」という固定的性別役割分担という意識やそれに基づく性差別を表す場合は、社会的性差・性別を表す「ジェンダー」という言葉が使用されることが多い。さらに国連が掲げる「SDGs」(持続的可能な開発目標のことでエス・ディー・ジーズ、と読む。詳しくは次項で説明)の中でも、ジェンダー平等という目標があり、それがそのまま日本語としても使用されていることが、最近ジェンダーという言葉をあちこちで見るようになってきた要因だろう。従来使用されてきた「男女共同参画」という言葉が古いとは言わないが、そのような理由で本稿でもジェンダー平等という言葉を使っていきたい。

国際的な潮流

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に国連総会で採択された。2016年から2030年までの15年間に達成すべき17の目標と169のターゲットが盛り込まれている。SDGsの前身はMDGs(ミレニアム開発目標)で、2000年から2015年までの間の国際的な目標として定められていた。

MDGsはあくまで途上国を対象としていたが、SDGsは先進国も含め、すべての国が達成すべき目標として設定された。つまり、先進国である日本もこの目標に向けて努力すべき義務を負うのである。SDGsは目標5としてジェンダー平等の実現をうたい、具体的に6つのターゲットを設定している。しかし、SDGsとジェンダーの関係はそれに留まらず、たとえば福祉(目標3)、教育(目標4)、水・衛生(目標6)、雇用(目標8)、インフラ(目標9)、環境(目標15)など17個全ての目標において、ジェンダー平等の視点を組み込むことを求めている*5。

このように全ての政策・領域にジェンダーの視点を取り込んでいくことを「ジェンダーの主流化」という。SDGsにおいてジェンダーの主流化が掲げられているのは、社会において、ジェンダーと関係ないものはないという共通理解が根底にある。

*5 SDGs については、男女共同参画推進連携会議次世代チームが作成した「みんなで目指す! SDGs xジェンダー平等」がわかりやすいので参照されたい 
https://www.gender.go.jp/public/subtextbooks/pdf/subtextbooks.pdf [Access 2023/02/23]

国連からの勧告

国際的な合意とは別に、国連で定める基準のひとつに国際人権条約がある。条約は批准または加入という手続きを経て締約国になった国がその条約を履行する義務を負う。日本は、女子差別撤廃条約をはじめ、数々の人権条約の締約国でもある。締約国は定期的に条約に規定された人権状況に関する報告書を条約機関に提出し、その条約を担当する委員会との対話を経て、改善すべき項目について勧告(条約により「総括所見」や「最終見解」などと言われる)を受け取る。

日本が女子差別撤廃委員会から最後に勧告を受け取ったのは2016年であるが、性差別的な個別課題の解消に加え、国会議員や法律専門家、地域のリーダーに対する女性の人権についての意識啓発や伝統的な男女の役割(固定的役割分担)を補強する社会規範を変えるべき、との勧告を受けた。

昨年(2022年)秋には、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する条約)や障害者権利条約に関する日本政府の審査があった。勧告で、自由権規約委員会は、女子差別委員会と同様に固定的役割分担に着目し、家庭や社会におけるジェンダーの固定観念と闘う(combatting)ことを視野に入れ、国民の意識を高めるための戦略を強化するべき、とかなり強い勧告を日本政府に出している*6。ジェンダー平等への取り組みは、個別課題の解決だけでは足りず、個人や社会のジェンダーに関する固定観念を変革することが必要との認識を日本に突きつけているのである。

障害者権利委員会の勧告においては、ジェンダー平等政策に障害のある女性・女児に対する政策を入れること、同時に、障害に関する法律や政策に「ジェンダーの視点を主流化」することなどが盛り込まれた*7。

今年(2023年)1月末には、国連人権理事会で、国連加盟国同士が互いの国の人権状況の審査を行うUPR(普遍的定期的審査)というプロセスにおいて、日本が審査対象となった。日本政府に対し4回目となる今回の審査では、ジェンダーに関する勧告も多かった。

国際人権NGOである反差別国際運動(IMADR)の報告によれば、ジェンダー平等、女性の政治・経済・社会参加、同性婚やSOGI(ソジ、と読む。性的指向・性自認のこと)差別の撤廃など69項目に及んだという*8。このように、国際社会からは毎年のように日本のジェンダーに関する勧告が出されているのだが、その情報はどのくらい日本に住む人々に届いているだろうか。

外務省の人権外交のページにある自由権規約のページには、勧告が出てからほぼ4 ヶ月経とうとする現在(2023年2月23日)に至っても勧告の中身はおろか勧告が出たことすら触れられていない。これは、国民の知る権利という点からは重大な問題である。

国際人権機関は、条約の勧告につき地域社会への普及啓発も促している。政府には、ジェンダー平等への取り組みについて、条約機関が何を求めているのか市民にわかりやすく伝えるとともに、勧告の内容を真摯に実践していくことを期待する。

*6 NCFOJ 特設サイト 国連自由権規約委員会第7 回日本政府審査
https://sites.google.com/view/ncfoj/observation?authuser=0 
[Access 2023/02/23]

*7 障害者の権利に関する委員会「日本の第1 回政府報告に対する総括所見」2022年10月7日  
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100448721.pdf
[Access 2023/02/23]

*8 IMADR、「日本のUPR 審査 死刑廃止、国内人権機関の設置など強く促す」2023.02.07
https://imadr.net/upr-jpn-4th/
[Access2023/02/23]

歴史的な文脈

日本政府のジェンダー平等に対する取り組みは、常に国際社会の動きに敏感に反応し前進してきた。1990年代前半、国際社会では、1993年の世界人権会議、94年の国際人口開発会議、そして95年の世界女性会議(北京会議)と、立て続けにジェンダーに関する国際会議が続き、女性の権利が普遍的人権であることが国際社会の共通認識となるとともに、今もってジェンダー平等のための最も包括的な指針である「北京行動綱領」が採択された。

北京行動綱領は各国に行動綱領の内容を実現する国内計画を作成することを求めたが、それに応える形で、翌年1996年12月に、政府によるジェンダーに関する新たな行動計画(男女共同参画2000年プラン)が策定された。国内ではジェンダーに関する関心が高まり、この機運を受け、男女共同参画社会基本法が1999年に成立。新たな基本計画が5年ごとに策定されるようになった。

法律の前文には、国際社会を意識しつつ、「男女共同参画社会の実現を二十一世紀の我が国の社会を決定する最重要課題と位置付け、社会のあらゆる分野において、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図っていくことが重要である。」と書かれており、日本も世界に遅れずジェンダー平等を推し進めようとの意気込みが強く感じられる。

基本法の翌年にはストーカー行為規制法、翌々年には配偶者暴力防止法が成立し、筆者などは、このまま21世紀はジェンダー平等が順調に進んでいくのだという期待で胸がいっぱいだった。ところがその後、ジェンダー平等を歪めて捉え批判するバッシングが日本各地で巻き起こり、2000年代の半ばには、いわゆるバックラッシュによる暗黒の時代を迎える。

ジェンダーに対するバックラッシュの影響については様々に語られるところだが、紙面の都合上、本稿では深入りしない。ただ、ここでは、バックラッシュは日本だけではなく諸外国でも頻繁に起きており、日本特有の現象ではないことは特記しておきたい*9。

しかし、他国がバックラッシュを受けながらもジェンダー平等の歩みを大きく進展させてきたのに対し、日本は国際社会に遅れを取ってきた。それはジェンダー・ギャップ指数のスコアが2006年に初めて公表された時からほとんど変わっておらず、順位はむしろ下降していることからも明らかだ*10。日本の「歩み」が進まないうちに諸外国に追い越されていった、というのが実情である。

先の国連のUPR審査の際の他国からの勧告の数からもわかるように、諸外国は私達が想像するよりも日本のジェンダー状況に関心を持っている。いや、ジェンダー平等の進みのあまりの遅さを危惧しているというべきであろうか。今年(2023年)はG7サミットが日本で開催されるが、その準備過程において、日本政府の担当官は、G7の他国の担当官からジェンダー課題についてしっかりと取り組んでほしいと何度も要請されていると言っていた。

ジェンダー平等の歩みが遅くてもそれは日本の問題だから放っておいてくれという論理は通用しない。G7の一員として、また今年は議長国として、世界のジェンダー課題の解決に向けた責任を果たすことを国際社会からも期待されている。ジェンダー平等は決して一国だけの問題ではないのである。

*9 たとえば欧州議会は、オーストリア、ハンガリー、イタリア、ポーランド、ルーマニア、スロバキアにおけるジェンダー・バックラッシュに関するリサーチ・ペーパーを2018 年に出している。Backlash in GenderEquality and Women’s and Girls’Rights https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/STUD/2018/604955/IPOL_STU(2018)604955_EN.pdf

問題はジェンダー平等なき女性活躍

日本でジェンダー平等が進まない一番の問題は、国際社会での常識であるジェンダーと社会の関わり、つまるところ、ジェンダー平等の実現が社会に必須なのであるという共通認識ができていないことだ。

国際社会ではジェンダー平等がジェンダー主流化とセットで語られ、あらゆる法律・政策やシステムを見直し、社会の中の性差別を解消し、女性の人権を保障しつつ、どう豊かな社会を構築していくかという議論になるところが、日本では「女性活躍」と政府が音頭を取ってはいるものの、ジェンダー平等や女性の人権という視点から切り離され、女性活躍が単独で語られることが多い。

「固定的な性別役割分担意識・無意識の思い込みの解消」を女性版骨太の方針に掲げているものの、日本の政治家や政府の姿勢には、「女性活躍は時代の要請で仕方がないが、ジェンダー平等って本当に必要なの?」という態度が見え隠れしている。2000年代のジェンダー・バッシングの影響だろうか、いまだに政府はジェンダー平等を正面から取り上げることに及び腰のように見える。ジェンダーと政治に詳しい研究者の三浦まり氏(上智大学教授)は、すでに2015年に「新自由主義的母性―「女性の活躍」政策の矛盾」と題した論考の中で、新自由主義の下で女性活躍を進める危険性を指摘する*11。「女性活用」は、固定化された性別役割分担の見直しをしないままに進められるため、ジェンダー平等につながらないことを看破している。

最近でも、昨年末に発行されたリクルートワークス研究所の機関紙Worksは「女性活躍推進からジェンダー平等へ」との特集を組み、「“女性活躍”中心の施策が日本に後れをもたらした」と、ビジネスにおいてもジェンダー平等の視点が欠けていることがジェンダー・ギャップの解消に繋がらない原因であることを様々な識者の意見を交えて分析している*12。

ジェンダー平等なき女性活躍では、いつまで経ってもジェンダー・ギャップは解消しないし、女性活躍も進まない。政府もG7を良い機会と捉え、ジェンダー平等に向けた取り組みを加速すべきだ。

*10 男女共同参画白書 平成四年版 11-3 図 日本のジェンダー・ギャップ指数の推移https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo11-03.html

*11 三浦まり「新自由主義的母性―「女性の活躍」政策の矛盾」『ジェンダー研究』お茶の水女性大学ジェンダー研究センター年報第18 号(通算35 号)、2015 年3 月, pp53-68 
https://www2.igs.ocha.ac.jp/gender/gender-35/ [Access 2023/02/23]

企業はWEPsに署名を

では企業や職場でジェンダー平等を進めるにはどうしたらよいのだろうか。企業向けにUN Women(国連女性機関)が中心となって作成した指針に「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」がある。WEPs(ウェップス、と読む)は、企業が自主的にジェンダー平等や女性のエンパワーメントに取り組む際に指針となる7つの原則から成る*13。

7原則のはじめには「トップのリーダーシップによるジェンダー平等の促進」が掲げられているが、その他にも、社内だけでなく、地域、取引先を巻き込んだ取り組みが必要であることが説明されている。2023年2月末の段階で日本からは301企業がWEPsに署名している*14。署名をすることでジェンダー平等への取り組みを加速させようという狙いである。企業はまずはこの署名から始めてはどうだろうか。

ジェンダーは個人の価値観とのせめぎあい

企業だけではない。国連からも勧告されているように、個人レベルでも、ジェンダー平等に対する意識変革がいまこそ求められている。いかにリーダーに意思があっても、個人が変わらなければ現場も変わらないからだ。個人レベルは自分の意思さえあればできるので簡単なようでもある。

しかし、実はなかなかに難しい。なぜか。それは、ジェンダー平等が個人の価値観に関わることだからである。世の中にジェンダーに関係なく生きている人は一人もいない。それぞれの人が培ってきた価値観は、それぞれの人の生き様である。新たな価値観に出会った時、それが自分の生き方を少しでも否定するような場合、素直に受け入れられる人は少ない。大抵の人は長い時間かかってようやく新たな価値観を受け入れることができるようになる。本稿を読んで下さっている方々の中にも、ジェンダー平等をなんだか胡散臭いと思っている人がいるかもしれない。それはきっと、今まであなたが培ってきたジェンダー観と異なるものだからだろう。

以前、東京の文京区の小学校で6年生を対象にジェンダー平等について講演をしたことがある。ジェンダーを理解してもらうため、家庭で「男の子らしく」「女の子らしく」と言われた例をクラスに共有してもらった。
その中に、お母さんに「男の子だから泣くな」と言われたと話してくれた男子児童がいた。このエピソードが示すように、私たちは小さな頃から周囲に男らしさ、女らしさを求められ生きてきた。いつの間にかそれが自分のジェンダー観になっていまっている人も多いだろう。しかし、だからと言ってそこで諦めてはいつまでも変わることはできない。

国際的にも、国内的にもジェンダー平等への流れはもう変わることはない。そうであるならば、自分のできる事からやっていくだけである。ジェンダー平等は、企業にとっても社会にとっても、リスクマネジメント以上に、一人一人が気持ちよく働ける職場や居場所づくりを、お互いに協力しつつ構築していくための第一歩である。家庭でも、当然、変わらざるを得ない。なぜなら子どもたちはとっくに新たな価値観の下で生きているからだ。

文京区の小学校での講演では、最後に、子どもたちへ「今日家に帰ったら、テレビを見て、男らしさ、女らしさを強調しているコマーシャルをチェックして、家庭で話し合ってみて下さい」との宿題を出した。今日、家に帰ってきた子どもがこんなことを言い出したら、あなたはどう対応するだろうか。

*12 リクルートワークス研究所「女性活躍推進からジェンダー平等へ」Works 175, 2022.12-2023-01, 2022 年12 月 
https://www.works-i.com/works/item/w175_toku.pdf [Access 2023/02/23

*13 内閣府男女共同参画局 女性のエンパワーメント原則(WEPs)
https://www.gender.go.jp/international/int_un_kaigi/int_weps/index.html 
[Access 2023/02/23]

*14 Women’s Empowerment Principles, WEPs Signatories
https://www.weps.org/companies 
[Access 2023/02/27]

終わりに

ジェンダー平等について、今まで日本は国際社会の要請に応える形で歩みを進めてきた。しかし、このままでは、日本はますます国際社会に遅れを取り、経済的にも文化的にも大きな損失を被りかねない。

繰り返しになるが、むしろ今年のG7サミットは、日本がリーダーシップを取り他の国を引っ張っていくような覚悟を見せる時だ。そうでなければ、この遅々とした歩みは変わらず、国際社会から取り残されるばかりであろう。そして、それは私たち一人一人にも求められている覚悟でもある。

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