知るジョイセフの活動とSRHRを知る

ケニアのスラム街で、女性の過酷な現実を変えるために。

2022.3.15

外部からの「援助」だけでは、本物の変化は起こせません。地域の人々が主役になり、自ら意識や行動を変えることで、初めて現実が動き始めます。
ジョイセフはこの事実を見据え、東アフリカの国ケニアのスラム街で、住民主体の取り組みを支える「持続可能な支援」に力を注いでいます。

首都ナイロビに、「キベラスラム」と呼ばれるアフリカ最大規模のスラム街があります。妊産婦死亡率が日本の約68倍にも上るこの国で、スラムの女性たちはひときわ過酷な現実を生きています。

「生理用ナプキンを買うために、毎月、自分を売っていた」
キベラ在住・ローズ

 
月末になると、私は自分と妹の生理用品を買うために、男性に尽くしていました(注・男性との性行為でお金を得るという意味)。
 
ある日、私は友達から「ピア・エデュケーター」という若者ボランティアが生理用品を配っていると聞き、そのイベントに参加しました。そこで月経や月経衛生、自分の体について学び、生理用ナプキンのパックをもらいました。ナプキンを手に入れるために嫌なことをする必要がなくなって助かりました。
それ以来、私はピア・エデュケーターの活動をフォローして、5人の友達をイベントに招待しました。彼女たちもこの活動から恩恵を受けています。

ジョイセフは、女性が直面するこのような課題の解決を目指して、ボランティアの養成や、人々の意識・行動変容への働きかけを行っています。
「ピア・エデュケーター」とは、ジョイセフによる研修を受け、保健の知識や情報を同世代の仲間に伝えている若者ボランティアです。キベラで暮らすローズは、ピア・エデュケーターから体のことや健康について学び、自分の体を守れるようになりました。

現地ではスマートフォンが普及しています。ピア・エデュケーターたちはSNSによる資金調達についてトレーニングを受け、そのノウハウを使って募ったお金で生理用品を買い、少女たちに配付する活動を始めました。コミュニティ内で女性の健康と権利を守る仕組みが作られ、人々の意識や行動が根本から変わっていく。これが「持続可能な支援」の目指す方向性です。

アフリカ有数の巨大スラム街「キベラスラム」を知る

 

  • ケニアの首都ナイロビに位置し、推定100万人が暮らす人口密集地
  • 20~40世帯で1つのトイレを共有、汚水やごみ山が点在する劣悪な衛生環境
  • 住民の多くは露天商や日雇い労働者。新型コロナで貧困と治安がさらに悪化

 
若い女性は、子どもの教育や生活費、時には自分の生理用品代のために性産業で働くことがあります。キベラでは「生理の貧困」が望まない妊娠の一因なのです。少女が妊娠して学校をやめると職業選択が限られてしまい、社会的地位の低さからDVを受けやすくなります。男子も退学すると薬物や犯罪に手を出すケースが多く見られます。
 
家庭内にトイレはなく、夜間に外のトイレに行くのは非常に危険なため、ビニール袋の中に用を足して投げ捨てる「フライング・トイレット」が横行。衛生環境が悪くなり、飲み水も安全ではなく、多くの人が下痢やコレラにかかります。

キベラスラムでは新型コロナ禍によるロックダウンや学校閉鎖が続き、失業が増える中で、ジェンダーに基づく暴力(GBV)や望まない妊娠が増加傾向にあります。人が密集するスラムはコロナの感染リスクが高く、医療・保健の資源が限られるため、セクシュアル・リプロダクティブヘルス(SRH:性と生殖に関する健康)への取り組みが手薄になりました。

避妊を含む家族計画サービス、出産、産前産後のケア、安全な人工妊娠中絶などが打撃を受け、女性の命と健康が脅かされています。

この状況を変えるため、ジョイセフは「コミュニティのエンパワーメント」と「保健サービスのアクセス改善」に取り組んできました。プロジェクトの主役になるのは現地コミュニティの人々です。ジョイセフは準備段階から地域の人々や行政と協力し、活動を立ち上げて伴走。プロジェクト終了後もコミュニティの人々の手で自発的に発展していく「持続可能な支援」を目指しています。

ケニアのスラムで進行中の支援プロジェクト:

  • プロジェクト①
    「アフリカの妊産婦と女性の命を守る ~持続可能なコミュニティ主体の保健推進プログラム~
    武田薬品工業株式会社 グローバルCSRプログラム」

    詳しく知る

    野菜や魚を市場で売るかたわら、セクシュアル・リプロダクティブヘルスのアドバイスを行う「BCCアンバサダー」や、仲間たちに正しい知識を広める「若者ピア・エデュケーター」など、地元で活動する保健ボランティアを養成。
    彼らの活躍で妊産婦健診の受診率が上がったほか、自宅出産よりも安全な、設備の整った施設での出産を選ぶ女性が増えてきています。

  • プロジェクト②
    「若者のSRH強化のための支援」
    詳しく知る

    ダンスや音楽を楽しみながらセクシュアル・リプロダクティブヘルスを学び、避妊に関するサービスや子宮頸がんの簡易検査も受けられる「ユース・オープンデー」を、月1回以上のペースで開催。「楽しさ」をキーワードに、引っ込み思案になりがちな女の子たちを元気づけ、自分らしく生きる強さを培うスポーツプログラムも企画しています。

 


 
 

市場で野菜を売る彼女は、みんなの健康アドバイザー。

アフリカの妊産婦と女性の命を守る
~持続可能なコミュニティ主体の保健推進プログラム~

武田薬品工業株式会社 グローバルCSRプログラム

教師や露天商、若者リーダーなど「地域の顔」とも言える住民が保健ボランティアになり、セクシュアル・リプロダクティブヘルス(SRH:性と生殖に関する健康)の知識やサービスを広めていくプロジェクト。「私がみんなの健康を守る!」という誇りを持つボランティアたちの活躍により、妊産婦健診の受診率や、安全性が高い施設での出産数が大きく向上しました。女性の命と健康を守ろうとする意識がコミュニティに根付きつつあります。

世間話の気軽さで、楽しいおしゃべりの中で。SRHの知識とサービスがコミュニティに広がり、根付いていく。

キベラスラムの住民は、人とつながり、力を合わせて生き抜こうとするバイタリティにあふれています。ジョイセフのプロジェクトの目標は、スラムに暮らす人々の中でセクシュアル・リプロダクティブヘルス(SRH)が根付くように「種をまき」「一緒に育て」「コミュニティが主体となって取り組みを広げていく」ことでした。

その根幹になるのは「人づくり」です。ジョイセフは、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスについて情報を広めるボランティアを養成し、地域での啓発教育活動とネットワークを通して行動変容につなげてきました。より高度な研修を受けた「コミュニティ保健ボランティア」265名に加え、コミュニティリーダーや教師、宗教指導者、市場で物を売る人など、地域の顔とも言える人材から選ばれた「BCCアンバサダー」210名、若者保健ボランティアの「ピア・エデュケーター」224名を養成。特にユニークなのは「BCCアンバサダー」です。

BCCは行動変容コミュニケーションという意味で、知識を伝えるだけではなく、相手の思いや考え方に働きかけて行動変容につなげていく方法です。BCCアンバサダーは自分の出会う人々に、たとえば市場で野菜や魚を売りながら、買い物客とのおしゃべりの中で性や保健に関する正しい知識を伝えます。

そのためのツールとして、プロジェクト関係者と一緒に作成したコミュニケーション戦略をもとに、産前産後健診や施設での出産を促進するためのメッセージを作成し、想定される質問と回答をメッセージパッドとしてまとめました。メッセージパッドは年齢に応じて若い世代に向けた内容でも作成し、それは若者保健ボランティアの「ピア・エデュケーター」が使用しています。

BCCアンバサダー
野菜や魚を売りながら、あるいはちょっとした立ち話の中で、気軽に性や保健の知識を伝えるBCCアンバサダー。みんなの相談に乗り、啓発活動を行うと同時に、必要に応じてコミュニティ保健ボランティアやヘルススタッフにつなぎます。

市場で野菜を売りながら、フリップチャート(SRHに関する説明用の絵)を使って、買い物客にセクシュアル・リプロダクティブヘルス(SRH)の知識を伝えるBCCアンバサダー。

女性の生殖器や胎児の成長について、イラストを入れ替えながら学べるエプロン(通称・ジョイセフエプロン)を着用しているのは、BCCアンバサダーで教師の女性。ジョイセフエプロンはセクシュアル・リプロダクティブヘルスについてわかりやすく伝えられると好評。

ピア・エデュケーター
同じ若者世代に性や保健の知識を伝え、避妊具を配付したり家族計画について教えたりするピア・エデュケーター。スラムの少年・少女たちにとって、興味はあるが大人には聞きにくい正しい性の知識を教えてくれる、頼りになる存在です。
彼らは地域でSRHを推進するためにさまざまな企画を立ち上げ、積極的に活動を広げてきました。SNSで集めた寄付金で生理用ナプキンを購入し、生理用品が買えず困っている少女たちに配付するプロジェクト「パッド・ドライブ」や、スラムの道をきれいにする清掃活動など、ピア・エデュケーターたちの活躍は大きなインパクトをもたらしています。

男性のピア・エデュケーターも「ジョイセフエプロン」を着用し、啓発活動に取り組んでいる。

SRHについて話しながらコンドームを配付するピア・エデュケーター。

バイクに乗った少年たち。ピア・エデュケーターからコンドームの配付を受けた。

ピア・エデュケーターの声

妊娠して退学する少女の多さにショックを受けました。この状況を変えるため、10代の若者が早過ぎる妊娠の先にある現実を知り、自分を大切にすることや生きていくためのスキルを学べるようにしたいです。
若い母親たち、特に10代で母になった人たちへの差別や偏見をなくし、彼女たちに自分らしく生きるチャンスが訪れるコミュニティを作りたい。私はヘナサロンを営んでおり、コミュニティの女の子たちにもヘナの技術を伝え、自分で収入を得られるように、男性に対して弱い立場にならないように力付けていきたいです。
 

ルース・ワンブイ・ムウィタ 24歳 (ナイロビ・イースリー地区)

 


 
研修でリプロダクティブ・ヘルス、思春期保健、月経について学びました。一人ひとりのセクシュアリティを尊重できるコミュニティになるよう、みんなに呼びかけていきます。
若者にとってフレンドリーで安全な居場所を作りたい。思春期の若者たちが直面する課題について安心して語れる場所を作り、10代の妊娠や若者のメンタルヘルスの問題を減らしていきたいです。
 

ケルビン・ムンヤオ 25歳 (ナイロビ・イースリーノース地区)

ジョイセフは、コミュニティの人々へのエンパワーメントと同時に、行政による保健サービスについても改善に取り組んでいます。
住民一人ひとりの意識や行動を変える草の根の活動と並行して、現地の保健体制を整え、サービスへのアクセスを改善することによって、女性たちが自分の命と健康を守れる地域づくりを目指してきました。

現地には公共のクリニックもありますが、大変混みあっているのと、スラムの住民への偏見などもあるとされ、特に若い人々にとっては気軽に行けない場所です。
この状況を変えるため、ジョイセフは現地の医療従事者や保健サービス提供者を対象として、よりフレンドリーなサービス提供や感染症予防に関する研修を実施しました。スラムの女性、特に若者たちが安心してクリニックや保健施設に行けるよう、受け入れる側の態勢も整えていきます。
 


 
 

音楽やダンス、スポーツを楽しむイベントで、セクシュアル・リプロダクティブヘルスに関わる学びや保健サービスも提供。

ケニアにおける女性と若者へのSRH支援

ホワイトリボンラン2020・2022支援プロジェクト

新型コロナ禍の影響でロックダウンや学校閉鎖が長引く中、ストレスの多い生活を強いられているスラムの若者たち。犯罪や性暴力が増え、貧困から身を売る女性も少なくないことから、10代の望まない妊娠が増加しています。地域のクリニックは混雑しており、若い世代は保健サービスや検査を気軽に受けることができません。

この状況を改善するために、ジョイセフはスラムで暮らす若い世代への支援プロジェクトに力を入れています。望まない妊娠や性暴力の予防、HIVなどの性感染症予防、子宮頸がん予防を含むSRHに関わる教育活動やサービスを強化。特に女の子のエンパワーメントを目指します。

※本プロジェクトが進めるエンパワーメントとは?
エンパワーメントとは、一人ひとりが本来持っている力を発揮し、自らの意思決定により自発的に行動できるようにすることを意味します。

プロジェクト① 若者のためのイベント「ユース・オープンデー」を開催

2022年12月までの期間、月に1回以上のペースで、若者のための「ユース・オープンデー」を開催します。ダンスや劇、音楽などを流行のクラブ風イベントで楽しみつつ、セクシュアル・リプロダクティブヘルス(SRH:性に関する健康と権利)について学びます。避妊具の提供、その場で簡易判定できる子宮頸がんスクリーニング検査、性暴力相談やカウンセリングなど、若い世代が必要としているSRHのサービスも気軽に受けられます。

イベント会場では、保健ボランティアが「ジョイセフエプロン」を使ってSRHのレクチャーを行う。

女性用コンドームの使い方を教わる様子。若者たちは誘い合ってイベント会場を訪れる。

プロジェクト② スポーツで若い女性の生きる力をサポート!

スポーツを通じて自分の体を守る大切さの学びにつなげていきます。声を出して体を動かし、みんなで協力するチームプレーを楽しみながら、女の子も元気にふるまい、リーダーシップを発揮できることを体感。DVや性的嫌がらせなどに対して「NO!」と言える強さが培われます。

スポーツを通じて女の子たちの生きる力や強さを引き出すプログラム。この試みは2021年にザンビアで始まり、反響が大きく、今回ケニアでも実施されることになった。自分の体を動かし、意見を大きな声で言い合ううちに、内側から元気が湧いてくる。この体験の積み重ねがエンパワーメントにつながっていく。


 
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