2023年9月。
SRHRの為に活動する団体が集まり、声をあげました。
世界避妊デー(26日)と国際セーフアボーションデー (28日)が続く9月は、SRHRを守るために特別な月です。
9月19日(月)には「なんて答えた日本政府!? UPR採択について語る、市民社会座談会」をオンラインで開催。7月10日に人権理事会で開催された日本政府によるUPR審査への採択結果を、#なんでないのプロジェクト代表福田和子さんの司会進行でUPR共同レポートを執筆した6団体が分析し、今後の取り組みについて語り合いました。
冒頭では、ジョイセフの草野洋美からUPRプロセス、ジュネーブの国連で行われた採択会合について報告した後、執筆団体が課題別に発言しました。
執筆団体の報告
緊急避妊薬を薬局でプロジェクトの染矢明日香さん
日本政府が「質の高い近代的避妊薬を、政府の補助金によって入手しやすく、手頃な価格で購入できるようにし、緊急避妊薬を医師の処方箋なしに薬局で購入できるようにする」と回答したことに、一定の評価を示しました。
一方で、今年1月に行われたパブリックコメントで異例ともいえる4万6千件もの意見が集まり、うち98%が緊急避妊薬の薬局販売を求める内容であったにも関わらず、厚生労働省における検討会議が来年度以降も行われる見通しであること、また前回会議で決断された「地域や薬局を限定しての『試験的運用』」の詳細が不明なうえ、非常に限定的なものになる見込みであることを指摘。着実で早急な緊急避妊薬の薬局販売の実現を求めました。
SOSHIREN女(わたし)のからだから の大橋由香子さん
中絶の非犯罪化、配偶者同意撤廃、安全で適時かつ支払い可能な金額での中絶医療アクセスなどを求めたUPR勧告に対する日本政府の回答についてコメントしました。
「胎児は生物として保護される必要がある。」として堕胎罪撤廃(中絶の非犯罪化)を受け入れない日本政府の回答に対しては、「妊娠した女性も保護され守られるべき。暮らし向きや仕事、人間関係などの理由で妊娠を継続できないこともある。女性自身が中絶を選択できるようにするべきだ。」と発言。
また配偶者同意の撤廃や母体保護法見直しについて「個人の倫理観や道徳観に深くかかわる難しい問題である」とした日本政府の回答に対し、「難しい問題であるが、まず妊娠した人の人権が守られるべき。今年承認された経口中絶薬の運用についても価格が高額で病院での服用が課せられているためアクセスに大きな課題が残っている。また従来から性暴力被害により妊娠した場合、無料で中絶手術を受けることができたにも関わらず、経口中絶薬を用いる場合には費用が有料となってしまう件が散見されていることを報告。堕胎罪と母体保護法の組み合わせで「人口を管理する」発想を撤廃し、SRHRが守られる仕組みが作られるべきとしました。さらに憲法違反判決・賠償を求めて現在最高裁判所で審議が継続している優生保護法下での強制不妊化手術への応援を求めました。
一般社団法人LGBT法連合会の西山朗さん
性同一性障害(GID)特例法における強制的不妊手術の撤廃を求める勧告に、日本政府が「慎重な検討を要する」ため受け入れないと回答したのに対し、そもそも当該法で設けている5つの「特例」は、いずれも人権侵害の懸念が強く撤廃すべきとした上で、とりわけ強制不妊手術要件はWHOも「人権侵害で自己決定権や人間の尊厳の尊重に反する」としており、世界では同要件を求めない国が既に多数存在していると説明。さらに法律上の性別認定を受けられることはプライバシー権など、様々な基本的人権を享受する為に欠かせないとして、改善を訴えました。
また、性的指向や性自認(Sexual Orientation and Gender Identity: SOGI)に基づく差別禁止法制定、同性婚法制化の各勧告に対して日本政府が「留意する(対応義務なし)」と答えたことに対しては、性的マイノリティに対するいじめや差別を禁止する法整備に9割近くの人が賛成とし、また同性婚についても全年代平均で7割近く、20-30代に至っては8割が賛成とする世論がある中、それに応える法整備が必要と訴えました。今年6月に「SOGI理解増進法(正式名称:性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)」が成立・施行されたのを受け、今後策定されるSOGI理解増進法の実施基本計画と指針について、当事者にさらなる不利益を生じるような内容にならないよう、注視することが必要としました。さらに同法成立の過程で高まったトランスジェンダーバッシングを含むLGBTQ+コミュニティへのヘイトにも注視が必要と警鐘を鳴らしました。
一般社団法人Springの納田さおりさん
刑法性犯罪を改正し、不同意性交罪の制定、性行同意年齢の引き上げ、被害者との不均衡な力関係を利用した加害者による性行為・行為を処罰する罰則規定の新設、性犯罪の時効撤廃を促す勧告に対する日本政府の回答にコメントしました。まず、長年の当事者の努力が実り今年6月に不同意わいせつ罪、不同意性交罪が制定されたこと、さらに性的同意年齢は16歳に引き上げられ、16歳以下の子どもとの性交は不同意性交罪・不同意わいせつ罪が成立することになったこと。懸案とされていた13歳から16歳未満の子どもと5歳差以内の者の間の性交でも、不同意性交罪・わいせつ罪が成立しうることを説明。その上でいくつかの懸念点を報告しました。地位関係性を利用した性行為の処罰規定に関しては運用が被害実態に即したものになるかどうか注視が必要とし、公訴時効の延長については5年では短すぎ、UPRの勧告にもあった通り撤廃が必要であると訴えました。
今後は被害者中心主義の性犯罪対応を推進するため、法務省、警察庁、内閣府との意見交換や犯罪被害者支援団体、各国大使館との連携を深めること。さらに、包括的性教育なしにはせっかくの刑法改正も絵に描いた餅になってしまうとして、これまでともに刑法改正に取り組んできた議員連盟や関連団体とさらに連携し、包括的性教育を推進していくことが必要と訴えました。また、性暴力の予防、被害者の保護、加害者の訴追、政策推進の面で、現在最も先進的とされる欧州委員会のイスタンブール条約に日本も批准・加盟することが必要と訴えました。
2年後のフォローアップ、4年半後のUPR審査に向けて
国連人権理事会で指摘を受けたSRHR課題への日本政府の対応と、基本的人権を守るために市民社会が必要と考える改善点、要望が語られた本イベント。約2年後には、今回「受け入れる」「部分的に受け入れる」とした勧告の対応のフォローアップを、政府が自主的に行う予定です。また4年半後には再度UPR審査が行われます。今後日本政府がどのように人権を守る対応を行っていくのか、私たち市民がモニタリングをしていく必要があります。今回の座談会映像は、ジョイセフのYoutubeチャンネルでご覧いただけます。みなさんもぜひ、一緒に日本政府の対応を見守っていきましょう。
- Author
草野洋美
シニア・アドボカシー・オフィサー。日本のSRHRとジェンダー平等の状況を改善するために、国連人権理事会のメカニズムを活用したアドボカシーに取り組んでいる。 G7の公式エンゲージメントグループであるW7の実行委員兼アドバイザー。 また、若者を中心としたアドボカシーグループ「SRHR ユースアライアンス」の事務局を務め、政策提言を通じて日本のSRHRを取り巻く問題の改善と認知向上を目指している。 2019年にジョイセフに入職する以前は、企業のCSR活動の一環として、2011年の東日本大震災の被災者に対する心理社会的支援プロジェクトを5年間統括した。
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