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困難を越えつつ、ミャンマー「家族計画・妊産婦保健サービス利用促進プロジェクト」活動再開

2022.11.8

MSD株式会社のグローバルNGO支援プログラム「MSD for Mothers」の資金協力を受け、ジョイセフは「家族計画・妊産婦保健サービス利用促進プロジェクト~社会・文化的バリアを越えて~」をミャンマーで実施しています。

2019年から実施していた本プロジェクトは、2020年はじめからの新型コロナウイルス感染症の影響や、2021年2月に起こった軍事クーデターにより、一時的に中断せざるを得ない状況でした。2021年後半には再開したものの、現在も治安に対する懸念は残っています。様々な規制が課され、事業資金を現地に送金することさえままならない中で、ジョイセフはミャンマーの女性の命と健康を守るため、みんなで知恵を絞り、工夫しながら、一歩ずつ着実に活動を進めています。

2つのタウンシップで、活動再開後すぐにフィールド・アシスタントを雇用しました。治安が不安定で、ヤンゴンにいる現地スタッフが思うようにプロジェクトを実施しているエヤワディまで移動できないためです。今はそのアシスタントたちを通して、必要な情報やデータを収集し、モニタリングを行ったり、関係者と連絡・調整して、エヤワディ、ヤンゴン、そして日本を遠隔で結んで活動を続けています。

2022年、ミャンマーで様々な研修を実施

2022年5月には、「バウチャー制度」を27の村でスタートさせました。バウチャー制度とは、医療施設に行くための交通費、出産で入院する際の食事代といった経済的な負担が医療施設を受診する上でのバリア(障壁)となっているため、妊婦健診や出産で医療施設を訪れた女性に、現金と引き換えられる「バウチャー」を手渡す仕組みのことです。バウチャー制度の資金はコミュティ内で各世帯から集められ、ジョイセフはその仕組みづくりをサポートしています。この制度は、日本の妊婦健診の補助制度を参考にして生まれました。

開始にあたって研修を行い、バウチャー制度の仕組みを共有し、具体的な実施方法や手順、コミュニティから集めた資金の管理方法などを伝えました。研修に参加したのは、各村で組織されたバウチャー管理チームのメンバー、合計58人です。

バウチャー制度について説明する現地スタッフ

実施ガイドブックやバウチャーカードなど、ジョイセフによって作成されたアイテム

6月には、助産師を含む基礎保健スタッフ154名に研修を行いました。助産師たちは、今後指導者として、2020年に養成した母子保健推進員に各自の保健施設で再研修を実施する予定です。

熱心に指導者研修を受ける保健医療従事者

8月には、四半期レビュー会議を開催しました。タウンシップ医務官をはじめ助産師やその他の基礎保健スタッフなど、プロジェクト実施に関わる人々が一堂に会するのはプロジェクト開始時に実施したキックオフ会合以来のことです。改めてプロジェクトの目的や活動計画を説明した後に、これまでの進捗や成果を共有し、今後の活動計画について話し合いました。

そして8月15日から9月3日にかけて、約2年半ぶりに専門スキルを持つ2人の職員をジョイセフからミャンマーに派遣することができました。現地の不安定な治安状況のため、エヤワディに行くことは叶いませんでしたが、ヤンゴンにいる現地スタッフだけでなく、エヤワディにいるアシスタントたちもヤンゴンに来て、顔を合わせながら、教材作成や、広報やドキュメンテーションのための研修をしてきました。

妊産婦やその家族との対話を促す「ディスカッション・カード」を制作

そのうちの一人は、ヘルス・プロモーション/行動変容コミュニケーションの専門スキルを持つ職員です。現地スタッフに加え、新たに雇用した教材開発の経験豊富なコンサルタントと共に健康教育教材の作成を進めました。

この教材は、「ディスカッション・カード」と呼ばれ、10枚のカードで構成されています。母子保健推進員が、担当地区の妊産婦とその家族に、健診を受けることの大切さや、妊娠中の危険な兆候、女性の体に負担がかからないように、出産間隔を開けるための「出産後の家族計画サービス」などについて説明をする時に使用します。そのため内容は、母子保健推進員たち必携の「母子保健推進員ハンドブック」に沿っています。産前・産後ケアを適切なタイミングで、保健省が推奨する回数を受ける重要性、専門的な技術を持った保健医療従事者の介助による保健施設での出産、産後の女性のリスクを減らす方法など多岐にわたります。

ただ、ディスカッション・カードがハンドブックと違うのは、妊産婦やその家族に対して母子保健推進員がハンドブックに書かれていることを一方的に説明するのではないことです。家庭訪問をして母子保健推進員と妊産婦と家族が対話しながら自分たちの考えや行動を変えていけるよう、その対話のきっかけを作ったり、母子保健推進員がどう返答していったらよいかのヒントが得られるような内容と装丁になっています。

カードの表面にはトピックに関するイラストが描かれ、裏面には会話を始めるための「呼びかけメッセージ」や「キーメッセージ」、母子保健推進員が相手からの反応に困ったときの対処法をまとめた「ヒント」の3種類が記載されています。

カードは、妊産婦保健や家族計画のサービスを利用しない人たちの行動を変えていくために、働きかけを担う母子保健推進員たちの活動をサポートする教材です。彼女たち向けの「ヒント」が入っているところが、この教材の新しさです。

この教材を制作する前に、ジョイセフは、ミャンマー国内で使われている母子保健・家族計画に関する教材を60種類以上集め、内容を精査し、現行の事業に使えるものがないか検討しました。しかし、知識を伝えるものはあっても、産前健診を必要な回数受けない、専門技能者による施設での出産をしない、産後健診を受けない、家族計画を利用しない人たちを説得するためのコミュニケーションを扱った教材はありませんでした。

教材作成は現在も進めています。今後は、普段から妊産婦と直接接している助産師の意見に基づいて改訂を加え、完成させる予定です。また、母子保健推進員向けに使い方の研修も実施し、きちんと現場で活用されるようにしていきます。

ディスカッション・カードの内容について議論(中央奥が吉留桂職員)

現地から直接世界に発信できるように、動画撮影スキルを習得する研修を実施

8月23日から9月3日までは、広報/コミュニケーションの専門スキルを持ったジョイセフの職員が出張し、もともとは、職員がエヤワディで写真を撮影し、プロジェクトの活動を記録するはずでした。しかし、7月に日本人ジャーナリストが身柄を拘束されるという事件が起こり、外国人が写真や動画を撮影するのは難しいという判断のもとに、エヤワディ訪問を断念せざるを得ませんでした。そこで、エヤワディで日々の活動を行っているフィールド・アシスタントたちにヤンゴンまで来てもらい、「スマートフォンによる動画撮影研修」を実施しました。

研修は、被写体に対する画角の決め方、照明の設定、音の録り方、フォーカスなどのカメラ操作と撮影の仕方の他、データの保存方法やパソコンまたはスマートフォンを使用したデータの転送方法のような実務的な内容を中心に行われました。また、これらの技術的なことに加え、フィールド・アシスタントがプロジェクト地区に在住しているからこそ現地の活動の様子を記録に残せることや、写真や動画として残していきたいヒトやモノについても伝えました。

普段からスマートフォンを使いこなしている20代のフィールド・アシスタントたちにとって、研修は興味深かったようです。非常に前向きな姿勢で臨み、休憩時間などで少しでも時間が空けば、研修で学んだ技術を使って写真や動画を撮っていました。今回の研修により、自分たちが撮る写真や動画の使いみちやその目的、その結果どのような人たちに届くのかが明確になったのではないかと思います。

スマートフォンによる動画撮影研修の様子(右奥が大森優太職員)

活動の様子やコミュニティの人々(受益者)の状況を写真や動画として記録に残していくことはとても大切です。さらに、フィールド・アシスタントたちが撮影方法を身に付け、将来的に動画の編集もできるようになれば、パソコン1台で現地の様子を世界に発信できるようになります。
クーデターの発生から1年半が経ち、国際社会の関心が薄れていく中で、現地の状況やジョイセフの活動を多くの人に知ってもらうことは今まで以上に求められています。今後の写真や映像の可能性を感じた研修となりました。

執筆:
ジョイセフ 開発協力グループ
佐藤友美枝、大森優太

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