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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の性、妊娠、出生への影響(2021年度第1回人口問題協議会)

2021.9.3

2021年度の第1回人口問題協議会は、前回(2020年12月)に引き続き、オンラインでの開催となった。今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が性行動や生活の充実、家庭内暴力、出生率と死亡率などに与える影響について、独自調査や内閣府の統計、国際的なデータに基づいて検討した。

日時 2021年7月5日 14:00-15:30
開催方法 Zoomによるオンライン
テーマ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の性、妊娠、出生への影響
報告者
(敬称略)
1.北村 邦夫(一般社団法人日本家族計画協会 会長)
「日本における第一次緊急事態宣言下の1万人調査」
2. 勝部まゆみ(公益財団法人ジョイセフ 事務局長)
「パンデミックから1年余の影響:データ紹介」
コメンテーター 林 玲子(「1万人調査」研究協力、国立社会保障・人口問題研究所 副所長)
座 長 阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所 名誉所長、人口問題協議会代表幹事)

発表の要旨は以下の通り。

北村邦夫「日本における第一次緊急事態宣言下の1万人調査」

厚生労働省の研究事業として、第一次緊急事態宣言中の2020年3月下旬から5月下旬の2カ月間の人々の生活、性行動、妊娠や避妊への意識について、インターネット上で20歳〜69歳の男女1万人に調査を行った。2015年の国勢調査に基づいて性別・年代・都道府県別に回答者数を割り当て、データクリーニングを経て信頼できる9990件の回答が分析対象となった。全数調査と比べると、高学歴者が多めの傾向があった。

心境に対する質問では、強い自粛を求められた状況下でも、男女とも4割弱が「充実していた」「やや充実していた」と答えている。既婚またはパートナーがいる、パートナーとの関係が良好、セックスの回数が増えたこと、前年の年収が400万円以上あるいは自粛下でも収入が増えたことなどが特徴で、男性では子どもがいることも共通点であった。収入が減ることなく、孤立していなかった・人とのつながりがあったことが、充実感をもたらしたのではないかと考えられる

興味深いのは暴力行為の頻度についての回答で、全体では26.6%が減った、17.7%が増えたと回答、どちらかと言えば減ったと答えた人の割合が多い。年代・性別にみると、女性の40代と60代で増えたという回答が多いのに対し、それ以外の年代・性別ではいずれも減ったという回答が多い。
暴力が増えたと回答した人は、男女共に「自宅で過ごす時間が増え、パートナーとの関係が悪化し、飲酒量が増えた」傾向があった。

自粛下では、自宅で過ごす時間が増えた人が圧倒的に多かった。在宅勤務をした人の間では、自宅で過ごす時間と子どもと過ごす時間が男女共に増えた。その一方で、失業中または休業の結果、自宅で過ごす時間が増えた人、収入が減った結果として自宅で過ごす時間が増えた人もいる。

次にセックスの頻度をみると、既婚・初婚・再婚いずれも2020年3月下旬から5月下旬にかけて、セックスをしていないと答えた人が極めて多く、頻度が増えた人よりも減った人の方が多い。

頻度が増えた男性の特徴は「パートナーとの関係が良好」「子どもと過ごす時間が増えた」「在宅勤務になった」「充実していた」「自粛下で結婚した」などの回答に加えて、「暴力をパートナーに、またはパートナーとお互いに振るった」「自慰の頻度が増えた」といった傾向があった。ここで、充実した生活を送っていた男性ほどセックス回数が増えたことは特筆に値する。セックスの頻度が増えた女性の特徴でも「自慰の頻度が増えた」「パートナー間の暴力があった」という項目は共通している。総じて、性的に活発な人はより活発に、消極的な人はより消極的になったと考えられる。

第一次緊急事態宣言中の心境に対する質問では、強い自粛を求められた状況下でも、男女とも4割弱が「充実していた」「やや充実していた」と答えている。既婚またはパートナーがいる、パートナーとの関係が良好、セックスの回数が増えたこと、前年の年収が400万円以上あるいは自粛下でも収入が増えたことなどが特徴で、男性では子どもがいることも共通点であった。収入が減ることなく、孤立していなかった・人とのつながりがあったことが、充実感をもたらしたのではないかと考えられる。

自粛下でも人々が充実した生活を送るためには、人と人を分断させない、孤立させない配慮や、収入が減少しないような対策が重要だと言える。また、パートナー間の暴力は自宅で過ごす時間や休日の増加と関係している。在宅勤務だけでなく、休業や失業、減収に起因する暴力の発生を防ぐ施策が求められている。

勝部まゆみ「パンデミックから1年余の影響:データ紹介」

先進数カ国において、COVID-19が女性に与えた影響に関するデータのうち「ジェンダーに基づく暴力」「妊娠、出産への影響」「人工妊娠中絶件数「コロナ禍における意識の変化」を紹介する。

内閣府男女共同参画局によると、2020年4月から2021年2月までの期間で家庭内暴力についての電話相談件数は前年同期比50%、2020年4月から9月の性的暴力についての相談件数は、前年同期比で15.5%増えている。国連によると、加盟している193の国と地域では、ほぼ20%程度暴力が増えたと推定されている。

同じく内閣府男女共同参画局が3年ごとに作成している「男女間における暴力に関する調査報告書」では、2020年の調査で「これまでに配偶者から暴力被害を受けたことがある」と回答した女性の割合は25.9%で、前回(2017年)の31.3%より減少したが、依然女性のおよそ7人に1人が繰り返し被害を受けている状態である。また、被害を受けたと答えた人のうち、“身体的暴力”“心理的攻撃”“経済的圧迫””性的強要”の複数の被害を受けている人は、女性では半数、男性では3人に1人に上っている。

配偶者間暴力を受けた男女の「別れなかった理由」で、筆頭は男女ともに「子どもがいるから」だった。男性で「経済的な不安」「世間体を気にした」「相手には自分が必要だと思った」の3項目を挙げた割合は、2017年と比べて大幅に減少している。特に、「世間体を気にした」と答えた男性の割合は前回のおよそ半分まで減り、「相手には自分が必要だと思った」と答えた男性の割合は同じく4分の1まで減って、女性とほぼ同じ水準となっている。

次に、先進国でのCOVID-19の妊娠・出産への影響について、イタリア、スペイン、フランス、アメリカの4カ国はいずれも、2020年の出生数減少傾向が、2019年の減少レベルを大きく上回った。

日本でも、2021年1月〜3月の出生数は、前年同期比で9.2%減となった。2020年1月〜3月の出生数の前年同期比は4.7%減だったため、減少率が倍近くになっている。

日本の合計(特殊)出生率の推移を見ると、2006年に1.26で底をうち、一時は上昇傾向にあったが、2015年をピークに再び減り始めている。妊娠届出件数では、2020年は18年、19年と比べて大きく下回っており、2021年の出生数の大幅な減少が予想される。その半面、人工妊娠中絶件数は、緊急事態宣言を受けた5月頃から全ての年代で前年より減少し(7.3%減)、減少幅も大きくなった。

出典: 厚生労働省 2021年5月26日発表  https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000784662.pdf

 
 

政府統計ポータルサイトデータから作成:https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411595 


 

出典:厚生労働省 2020年5月26日発表 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18838.html

自殺の傾向については、高所得国16カ国でのパンデミック初期4カ月間の調査によると、自殺率は概ね変化がないか、低下している一方で、精神的な悩みや苦痛のレベルは上昇していた*1。自殺率が抑えられたのは、ロックダウンによって家族が一緒にいる機会が増え、目配りや、人と人とのつながりが深くなったことが原因ではないかと考えられている。
しかし日本では、男性の自殺率が微減となった一方で、女性の自殺率は15.4%と大きく増加している。日本の自殺者数は2011年から2019年まで減少傾向にあったにもかかわらず、女性の自殺率は2020年6月から2021年3月までの10カ月連続で、前年同月比で増加を続けた。

最後に、内閣府子ども・子育て本部が2021年3月に発表した「少子化社会に関する国際意識調査報告書」では、日本、フランス、ドイツ、スウェーデンの4カ国で、結婚・同棲に関する意識や、子どもを持つことに対する意識、家事や育児に関する意識の変化について、多くの人が「(以前と)変わらない」と答えている。家事や育児が大きく女性に偏っている日本と、男女での分担が進んでいる国では「意識が変わらない」という回答が意味することは異なる。フランスおよびスウェーデンとは対照的に、ドイツでは日本と同様に、負担が増えたとという回答が多いことは興味深い。(「少子化社会に関する国際意識調査報告書」概要版 https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/r02/kokusai/pdf/gaiyou/s2.pdf

*1 International COVID-19 Suicide Prevention Research Collaboration (ICSPRC)

コメンテーターを交えた質疑応答

林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所 副所長)
COVID-19拡大後の家庭内暴力は、一万人調査の結果では、全体的には減ったことになるが、暴力が増えたという人が存在する事実が重要である。北村先生のご指摘通り、「二極化」がさまざまな形で表れている。
人工妊娠中絶件数について、厚生労働省母子保健課でのシンポジウムでは、「医療機関に足を運ぶ必要があることがハードルとなって中絶件数が減った」という話もあった。妊娠件数は2020年秋以降、少し増えているので、妊娠が減ったから中絶が減ったというわけではなさそうだ。

家事の負担については、「とても増えた」と答えた人がドイツと日本で多いのは、お国柄かもしれない。また、親が家庭内で子どもを教えられるかどうかが、子どもの教育格差につながっている。社会が担うべきことがあると改めて考えさせられた点で、COVID-19のインパクトは大きい。

「1万人調査」の中で、緊急事態宣言下に「セックスをしていない」と答えた人は、もともとしていなかった可能性もある。セックスの頻度が増えた・減ったという回答では「減った」と答えた人の方が10%ポイントほど上回っている。それが妊娠・出生の減少につながっているのではないだろうか。

1918年に始まったスペイン風邪流行の時も、一時的に出生数が落ち込んだが、その後に盛り返し、1920年はその後数年に比べても出生数が抜きん出て多くなっている。アジア風邪
(1957年〜1958年)でも同様の盛り返しが起きたが、香港風邪(1968年〜1969年)では起きなかった。今回、盛り返しが起きるかどうかは不明。なお、「ニューヨーク大停電(1965年)後のベビーブーム」は、人口動態統計を確かめた結果、都市伝説だったことがわかっている。

望まない妊娠の増加は本当にあったのだろうか。国連人口基金(UNFPA)は、2020年4月に、700万件の望まない妊娠の増加を警告したが、2021年3月の推計では140万人に下方修正している。高所得国では出生数が減っているが、出生数が増えた国のデータはまだない。ただし避妊についてはデータがあり、たとえばインドでは、2020年4月・5月には避妊具の供給は減ったが、その後は元に戻り、むしろ例年よりも増えている。ケニアでは、禁欲による避妊が増加した。

北村 邦夫
2019年と20年の緊急避妊薬の売り上げを比較すると、2020年4月・5月は前年同月比でそれぞれ18.5%、11.9%の減少。8月と9月も減っており、オンライン処方の解禁が緊急避妊薬の販売増加につながったとは言えない。低用量ピルについても、避妊薬として自由診療で処方された分には、大きな変化はなかった。
林 玲子
2020年、日本の死亡数は前年より減少し、肺炎、心疾患、脳血管疾患、インフルエンザ、不慮の事故などの死因による死亡者数が減っている。また、高齢化を考慮すれば、悪性新生物(がん)による死亡も減少した。これは、マスク着用をはじめとする感染症対策の恩恵もあるだろう。
実は、台湾やオーストラリアなど、COVID-19による死者があまり多くなかった他の国でも死亡数が減っており、長寿化に向けて重要な事実ではないかと思う。
北村 邦夫
全体として呼吸器疾患は激減しており、COVID-19に限らず、マスクの着用が良い影響を及ぼしたのは事実だろう。一方、医療施設がCOVID-19への対応で翻弄された結果、脳血管疾患や心疾患を診断できなかったケースもあるのではないか。手術などが先送りされ、持病が重症化しても入院できないという状況もあった。
明石 康(人口問題協議会会長/ジョイセフ会長)
北村先生が「つながる」という言葉を使われた。コロナ時代の特徴はさまざまなつながりが貧弱になったことだと思う。
アメリカの多くのリベラルアーツ・カレッジでは、2020年秋頃からオンラインの授業をやめて、対面での教育を復活する方向に進んでいると聞いている。時代によって価値観や生活様式は変わるが、前の様式のほうがよかったと思う人たちもいる。コロナ時代やポストコロナの行動は、統計数字だけでは計り知れないことがあり、文化や国によっても変わってくる。
阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所 名誉所長、人口問題協議会代表幹事)
前回会合を開催した2020年12月の時と変わらず、COVID-19の感染拡大、パンデミックは継続している。三密回避、Social Distancingということが叫ばれ、それによってあらゆる場面で人流の抑制が行われている。経済もその影響を受け、不況や失業なども起こっている。しかし、経済的影響とは別に、社会的影響を議論することはあまりされてこなかったので、今回の会合では、人的交流減少の社会的影響について考えることにした。

高所得国では出生数の減少傾向が大きく、今までの少子化傾向を強めるかもしれないとの見解が多かったのに対し、低所得国の農村などでは、短期的には避妊手段へのアクセスの低下などにより出生数が上昇すると考えられ、実際にそれを裏付けるデータも出てきている。高所得国と低所得国で、今後の見通しが変わり、それが日本、あるいは世界の人口に影響を与えるのではないだろうか。もう少しこの状況は続くので、さらにどんな状況になるか、人口問題協議会でも注目していきたい。

文責:事務局 ©人口問題協議会
本稿の転載・引用につきましては、事前に人口問題協議会事務局宛てご一報くださいますようお願いいたします。
(連絡先: info2@joicfp.or.jp

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