住民参加の体現者、Dr. Aye Naing

チャウンゴン・タウンシップ医務官(ミャンマー)
Dr. Aye Naing(エイ・ナイン)さん

エイ・ナインさんと初めて会ったのは2015年の5月。ミャンマー、エヤワディ地域のチャウンゴン・タウンシップでのことでした。

彼は、チャウンゴン・タウンシップの保健行政のトップとして活動するタウンシップ医務官で、当時、私は、村落行政官や基礎保健スタッフの皆さんと共に、住民の健康を守るためのコミュニティ・アクション・プランを作るワークショップを開催するためにミャンマーに出張しました。

保健局のスタッフは、エイ・ナインさんを中心に、とてもチームワークがいいな、というのが最初の印象でした。

どのスタッフもテキパキと動き、ワークショップ前日の準備も、スタッフ総出でジョイセフ職員と共に準備を行いました。準備段階がうまく進むと、本番も大抵うまくいきます。
ワークショップ当日は100人近い参加者がいるにも関わらず、混乱もなく、参加者から積極的な発言や参加を得て進みました。そのワークショップの運営や進行を助けてくれたのが、エイ・ナインさんでした。

ワークショップの2日目、午後の開始時間に約30分遅れてエイ・ナインさんが現れました。「すみません、帝王切開の手術をしていたもので、遅くなりました。」と彼は謝ってからマイクを握って、セッションのファシリテーションを続けました。

私は正直、ワークショップの合間に手術?!とびっくりしたのですが、その場にいた人たちは状況を知っていたので、誰も驚いている人はいませんでした。
そこで同僚に訊いたところ、他の地域のタウンシップ医務官は、どうしても病院での手術や治療行為に時間が取られてしまうので、昼休みを返上してまで、研修やワークショップに1日時間を割いてくれるタウンシップ医務官はあまりいないとのことでした。

でもエイ・ナインさんにとってはそれが普通で、ワークショップに参加していた彼のスタッフにとっても驚くことではなかったのです。エイ・ナインさんは、治療と公衆衛生の両方をきちんとみている人なのだな、とその時に思いました。

エイ・ナインさんは、2018年に、JICA課題別研修「妊産婦の健康改善」に参加するため、3週間日本にやってきました。

その研修には、アジア・アフリカ8カ国から、政府とNGOの母子保健従事者が各1名ずつ参加しました。政府の医務官として活動してきているエイ・ナインさんにとっては、アフリカのNGOが、政府へのアドボカシーも積極的に行っていることを知り驚いている様子でした。
「ケイさん、僕はこれまで政府へのアドボカシーについてはまったく経験がないので、他の国の参加者からたくさん学んでいます。」と話してくれました。

エイ・ナインさんは、日本では14回分の妊婦健診にかかる費用が公費負担になる仕組みを知り、これが地元では妊婦が早くから健診に来てくれないという課題の解決策としてのヒントになったと言います。

そこで、妊婦さんが適切な時期に必要な回数の産前健診を受けることを促進するため、健診を受けた時期と回数を記録する「レコードカード」を導入しました。
妊婦さんは、適切な時期に推奨される回数の健診を受ける、また専門技能者の介助によって出産をするなど、クリアした条件に応じて「出産祝い金」を受け取れる仕組みを作りました。

この祝い金の出資元は、住民です。日本での研修後、その仕組みをまずはタウンシップ保健局の仲間たちに説明し、その後、400以上ある村の行政官に直接働きかけて、賛同してくれる村を募りました。

実際にいくつかの村に出向いて、車座になり村の行政官たちに説明も行いました。手間と根気のいる活動を自ら実践したエイ・ナインさん。
結果、2019年11月までに、416村中265村が独自に住民から定期的に寄付を集め、妊婦さんたちに祝い金が渡されることになり、妊婦さんが適切なタイミングで適切な健診を受けるように行動変容を促す環境が作られました。

エイ・ナインさんが生み出したこの仕組みは、現在ジョイセフがエヤワディ地域で実施しているプロジェクト「家族計画・妊産婦保健サービス利用促進プロジェクト~社会・文化的バリアを越えて~」で進めている、バウチャー制度のたたき台として活用されています。

エイ・ナインさんには、今、ジョイセフのコンサルタントとして、プロジェクトに入ってもらい、チャウンゴン・タウンシップでの経験を活かしながら、プロジェクトスタッフと一緒に、ガイドやマニュアル作りに協力してもらっています。

2021年2月1日に始まったクーデター後、エイ・ナインさんは限られた医療スタッフと共に、病院で患者さんの治療に当たっているという情報が現地のスタッフから入ってきました。人員不足から妊産婦と急患しか受けられないそうです。

3月3日にエイ・ナインさんから届いたメッセージです。「皆さんからの励まし、言葉、思いやりが、私の力になっています。ありがとうございます。」

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