ひとジョイセフと一緒に、世界を変えていく「ひと」

ビジネスで社会課題を解決し、持続可能な世界を目指す

サラヤ株式会社 取締役

代島 裕世

2022.10.3

ジョイセフが2021年から実施している「ウガンダ共和国における子宮頸がん検査促進によるSRHサービスの質の向上プロジェクト」。サラヤ株式会社には、「SARAYA Safe Motherhood Project」としてご支援いただいています。

洗浄剤や消毒剤、食品などを生産・販売しているサラヤは、2005年に持続可能なパーム油の生産と利用を促進する「RSPO」認証へ、日本企業として初めて参加。また、ボルネオの熱帯雨林の回復と生物多様性の保全を行う、認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)の立ち上げに参画しました。対象製品の売上(メーカー出荷額)の1%をBCTJや公益財団法人日本ユニセフ協会に寄付するなど、日本や海外の自然環境保全や衛生環境改善に大きく貢献しています。

そのサラヤで取締役を務める代島裕世(だいしま・ひろつぐ)さんは早稲田大学 第一文学部を卒業後、ドキュメンタリー映画の制作やタクシー運転手を経て1995年にサラヤに入社。社内では数多くのプロジェクトを立ち上げ、新商品の開発、社外の団体や人とのコミュニケーションを深めるなど多岐にわたって活躍されています。

サラヤは、事業と社会課題をどのように結びつけてきたのでしょうか。「現場を体験しないとわからないことはたくさんある」を信条にする代島さんに、サラヤとはどんな会社なのか、ジョイセフの事業を支援いただくことになった経緯はどのようなものなのか、伺いました。

ウガンダ共和国における子宮頸がん検査促進によるSRHサービスの質の向上プロジェクト
ウガンダ家族計画協会(RHU)と連携し、2021年8月〜2024年3月の3年間を期間に実施している事業。より多くの女性が子宮頸がん検査やHPVワクチン接種により早期発見と予防をし、早期に治療できる体制を整え、必要なSRHサービスが届けられるよう推進しています。

始まりは「公衆衛生」のサラヤ株式会社

-会社としてのサラヤや、ブランドのSARAYAの製品には、「ヤシノミ®洗剤」やアルコール消毒剤がよく知られていますよね。

一番知名度があるブランドは「ヤシノミ®洗剤」だと思いますが、2003年以降のノロウイルス、新型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症の流行で家庭向けのアルコール消毒剤の知名度も上がりました。SARAYAでアルコール消毒剤の売上比率が最も大きいのはメディカル事業領域で、サニテーション事業領域と合わせてBtoB(「Business to Business」の略。企業間で行われる取引を指す)の取引が圧倒的な割合を占めます。

SARAYA創業の原点は緑色の薬用石鹸液「シャボネット」。下部の金属の突起を手のひらで押し上げると石鹸液が出てくる構造の容器を手洗い場で見たことがあると思います。1952年に開発したもので、学校や官公庁など、多くの公共施設で導入いただいています。

1971年に誕生した「ヤシノミ®洗剤」は、手洗い用石鹸液を納めていた取引先に「手にやさしい食器洗い洗剤はないの?」と聞かれたことを機に開発が始まりました。原料は、当時としては珍しい植物性です。1970年代によく使われていた石油系の合成洗剤は水質汚染と同時に深刻な手荒れ問題も引起こしていたので、それを考慮したのです。原料の価格差から石油系のものよりも割高になってしまいましたが、開発後使っていただいていた給食センターでは好評で「家でも使いたい」という要望もあって、一般家庭用にも展開することになりました。

戦後の高度成長期に「シャボネット」で手を洗う子どもたち(提供:サラヤ)


 
-BtoBが主流なのには驚きました。

サラヤは、公衆衛生から始まったのです。第二次世界大戦後、赤痢や食中毒などの感染が蔓延する劣悪な衛生環境下で、手洗いで日本の復興を目指そうとしたのです。時代が進み高度成長期に大気汚染が社会問題になるなかでは、うがい薬「コロロ」の開発へと進んでいきました。

パーソナルハイジーン(個人の衛生)は自分で自分の身を守ればいいのですが、公衆衛生は家庭や個人の衛生と医療分野の衛生の間にある領域です。一番難しいと言われています。今回のコロナ禍で実感された方もいらっしゃるのではないでしょうか。WHO(世界保健機関)が「ワンヘルス」(※)を掲げ、食品衛生分野も範ちゅうに入れて人獣共通感染症や多剤耐性菌への対策にアプローチしようとしていますが、取り組みと認知を拡大させるのがとても難しい。

ただ商品を販売するだけでは習慣化しにくいので、SARAYAは創業以来ずっと手洗いとうがいの啓発ポスターも無償配布し、アドボカシーに重点を置いてきた歴史があります。(※)https://www.who.int/europe/initiatives/one-health (英語)

CRMでビジネスと社会課題解決を同時に展開

-赤ちゃんとママのための無添加ブランド「arau.」では、売上の一部を、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)に寄付されていますよね。社会課題へのアプローチとビジネスの展開を同時に進めていることが多いように感じます。

SCJへの寄付は2004年から始めました。提案したとき喜んでくださって、とてもうれしかったです。おかげさまで無添加処方と天然ハーブのやさしい香りが支持されて、SCJへの支援に共感してくださるママたちも増え、赤ちゃん衣類専用洗浄剤カテゴリー売上第1位になっています。

このように、社会課題解決のための寄付と商品やサービスをつなげることで、販売促進や企業のブランディングになるようなマーケティングのことを、CRM(Cause Related Marketing)と呼びます。

赤ちゃんの肌育を考えた、無添加せっけん+天然ハーブのarau.baby 泡全身ソープ(提供:サラヤ)


 

-公益財団法人日本ユニセフ協会の「世界手洗いの日プロジェクト」にも関わられていますよね。これもCRMでしょうか。

そうですね。2010年から東アフリカ・ウガンダを支援先に、コンシューマー向けの薬用ハンドソープやアルコール消毒剤などの対象商品の売上(メーカー出荷額)の1%を寄付しています。

参加したのは、WHOが人類初のパンデミックを宣言した新型インフルエンザが大流行した2009年のことです。日本ユニセフ協会が広告協賛を募集しているという情報を見てすぐに連絡を取り、詳細を伺いました。ただ、この時は、このプロジェクトへの参加を新たな社会課題解決ビジネスのチャンスにしたいとも考えていたのです。

だから無事に支援が決定したのち、日本ユニセフ協会と支援国を選定するときには治安と経済的将来性を優先事項としたのです。その点ウガンダは、内戦が2006年に停戦して治安は安定してきていました。また、ケニア、タンザニア、ルワンダ、ブルンジと共に「East African Community(EAC)」(現在は南スーダンとコンゴ民主共和国も参加)という経済共同体をつくり関税同盟を結んでいて、ゆくゆくは通貨統合も実行することになっていました。つまり、ウガンダへの支援を糸口に、EACを商圏にできると構想したのです。

現地での衛生活動が発端となった女性の支援

-現地へも行かれているのですよね、どんなことをされたのでしょうか。

2010年に二代目の更家悠介(さらや・ゆうすけ)社長と初めて現地を訪れ、それ以降もほぼ毎年、現地での手洗いの普及活動の状況や成果を視察するほか、サラヤのビジネス展開を模索していました。

ウガンダの病院や保健施設を訪ねると、手洗い設備は壊れて使えないことが多く、院内感染対策として世界中で標準化しているはずのアルコール消毒剤も見当たらないという状況でした。そんななかでも、ビールや蒸留酒などのアルコール飲料は普通に飲まれているのです。

国内には白ナイルの水源であるビクトリア湖があり、バナナやキャッサバなどの糖質植物も豊富にある。そこで、国内でアルコール消毒剤がつくれないかと考えました。

 
ただ、作ることはできても、施設内でアルコール消毒剤が使われ、その効果が実感されなければ意味がありません。試しに日本から持ってきたアルコール消毒剤をモデル病院に試験導入し、効果を測定しました。すると一時的でしたが、田舎のモデル病院の一つで、下痢性の疾患や帝王切開後の敗血症による死亡数がゼロになるという素晴らしい結果を得られたのです。すぐに材料の確保と製造体制も整えて、2014年には現地でのアルコール消毒剤製造に踏み切ることができました。

-そこからジョイセフの事業の支援につながったのは、どのような経緯があったのでしょう。

視察訪問を重ねるなかで、女の子が当たり前のごとく人身売買されているなど女性があまりにも劣悪な扱いを受けていたり、一方では、内戦時に子ども兵士にされていた女性たちが社会復帰を目指す取り組みがなされているのを見たのです。

当時のウガンダは、戦後の日本によく似ていました。支援を決めたときは「サラヤの原点である公衆衛生を改めてウガンダで……」という気持ちがあったのですが、不当な男尊女卑を背負わされる女性たちに対して「これは目撃した者の責任だ」と考えるようになり、何かできることはないかと思い始めました。そんな時にユニセフを支援するため、一緒に「100万人の手洗いプロジェクト」を立ち上げたコピーライターから、ジョイセフを紹介してもらったのです。

この支援でも、これまでのCRMの経験を活かして、売上の一部を寄付するようなソーシャルプロダクツを企画しようと考えました。現在、売上の一部をジョイセフに寄付している「ラクトフェリン ラボ」は、その頃ちょうど商品企画が走り始めていた、新規事業のスキンケア化粧品でした。

このブランドが立ち上がったのは、2012年のこと。それからずっと、ジョイセフを支援し続けています。
 

ウガンダの女性がつくるアパレルブランド「RICCI EVERYDAY」との特別コラボレーションにより誕生したセットも。こちらは、1セットにつき1,000円がジョイセフに寄付される。

<セット内容>
・RICCI EVERYDAYコラボポーチ(2,420円相当 非売品)
・LLモイストリフトジェルセラム 50g(定価4,950円)
・LLモイストエンリッチローション 導入化粧水(3包)
 
<価格>
5,000円(税込) 送料無料
※1セットにつき1,000円が公益財団法人ジョイセフへ寄付されます
 
<数量限定>
限定500セット
 
オールインワン美容ジェル ラクトフェリン ラボ | サラヤ株式会社 (saraya.com)

 
 
-ラクトフェリン ラボ、どんなものなんでしょう?

ラクトフェリン ラボに含まれている「ラクトフェリン」は、母乳から発見された多機能タンパク質です。1993年に国際ラクトフェリン学会が設立されて以来、経口摂取するラクトフェリンの効能効果を、世界中の研究者たちが学術発表してきました。

この生体成分は哺乳類だけが持っていて、免疫や代謝に関与していることが良く知られていますが、最近は、不妊治療の領域でも注目されています。初乳に含まれる量が最も高濃度なので、「初乳を飲ませることが大切」と昔から言われるのも納得できますよね。

感染予防の医薬品メーカーでもあるSARAYAは、この免疫関与タンパク質ラクトフェリンが、胎児を守る羊水にも含まれている、つまり、生まれる前から肌に触れる生体成分であることに着目しました。胎児に炎症が起きると、羊水内のラクトフェリン濃度が上昇することも分かっていました。SARAYAラクトフェリン研究所は、基礎研究で初乳くらい高濃度のラクトフェリンが傷付いた表皮細胞の修復を促すことや、繊維芽細胞まで届くと「エラスチン」という弾力成分を増産させてシワ改善効果があることを発見し、学術発表しています。

ラクトフェリン ラボのメインアイテムである「モイストリフト ジェルセラム」では初乳くらいの高濃度ラクトフェリンを壊さずに配合することに成功しました。

-ラクトフェリン ラボの効果をご自身で試されましたか?

日本の7〜10倍紫外線が強い赤道直下のウガンダの炎天下で、ラクトフェリンの威力を自分自身の肌で実感することになりました。

2011年、ビクトリア湖で野生のハシビロコウを観察していたときのことです。長居はしない予定で日焼け止めを塗らずにいたら、わずかに露出していた肌が十数分で日に焼けて、軽度のやけどのようになってしまいました。そのときの救世主が、携行していた当時まだ試作品だったラクトフェリンジェルだったのです。

一日中何度も塗り続けていたら、肌のヒリヒリやほてりが収まって、皮が剥けることもなく治癒していきました。同行していたフォトグラファーもラクトフェリンジェルに感動していて、この事件以来、私は心底ラクトフェリンのチカラを信じています。

代島さんが観察していた、ビクトリア湖のハシビロコウ(提供:サラヤ)


 
-お客様の声などはいかがでしょう?

最近、「私の肌は毎日平和です」と感想をいただきました。それを聞いて、ラクトフェリン ラボの開発目標はコレだったと思いました。まさに羊水に守られていた胎児のときの肌の記憶です。

ラクトフェリン ラボのお客様に支持され、売上が上がるほどジョイセフの活動支援を大きくすることができます。お客様にジョイセフ支援の活動報告をもっとしっかりやっていかなければと、思い新たにしています。

-Safe Motherhood Project は2021年からフェーズ2に入っています。今後どのような展開を期待されていますか?

フェーズ2の成果を見て次のステージに移行すると思いますが、具体的な数値目標の達成を期待しています。また、ウガンダでカウンターパートを担っているウガンダ家族計画協会(RHU)は、フェーズ1で配備したアルコール消毒剤を継続購入してくれている大切なパートナーでもあります。代表のジャクソンさんには、2018年以来会えていないので、早く積もる話をしたいですね。またフェーズ2で今後、日本での子宮頸がんの予防啓発も同時に実施していく予定です。

2018年、ジャクソンさんにアルコール消毒剤を手渡す代島さん(提供:サラヤ)


  


 
ウガンダで始まったソーシャルビジネスは、2014年に「SARAYA」と大きく印字されたラベルのウガンダ製アルコール消毒剤を製造開始し、医療現場への普及に挑戦してきました。新型コロナ感染症のパンデミックを経験したウガンダで、今はアルコールで消毒することが「SARAYAする」と言われるほど国民的認知を獲得しているそうです。

今後は、海運やエネルギー、水産、金融、流通、教育などあらゆる業種の企業が参加する「ブルーオーシャン・イニシアティブ」という団体を立ち上げ、2025年大阪・関西万博でNPO法人ゼリ・ジャパンが出展する「ブルーオーシャン・パビリオン」にも参画するのだとか。

代島さんは2022年6月にポルトガル・リスボンで開催された「UN Ocean Conference」(国連海洋会議)の公式サイドイベントに登壇し、2025年に開催される万博を見据えて奔走中。熱帯雨林保全に、アフリカ支援に、海洋保全に、とフィールドをどんどん広げていくその姿と熱意を通して、サラヤ株式会社の強さを感じました。

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