ひとジョイセフと一緒に、世界を変えていく「ひと」

生きていくうえで知っておいてほしい情報を届けるために

産婦人科専門医 / 医学博士 / FMF認定超音波医産婦人科医

宋美玄

2022.3.8

宋美玄(ソン・ミヒョン)
産婦人科医 医学博士、丸の内の森レディースクリニック院長
1976年兵庫県神戸市生まれ、大阪大学医学部医学科卒。2010年に出版した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒットとなり、各メディアから大きな注目を集め、以後妊娠出産にかかわる多くの著書を出版。“カリスマ産婦人科医”としてメディア出演、医療監修等、女性のカラダの悩み、妊娠出産、セックスや女性の性など積極的な啓発活動を行っている。2児の母。

産婦人科医として患者さんの診察をしながら、書籍や講演、メディアへの出演などを通して、女性の性や健康の啓発活動を行う宋美玄先生。2001年に医師となってからの5年間で、患者さんが困って診察室に来ることになる前に、知ってもらいたいことがあると考えたそうです。ジョイセフ「I LADY.」が掲げる「Decide Yourself」にも通じる、宋先生の想いを伺いました。


我が事として捉えられるから産婦人科医になった

-お父様が外科医をされていたと伺いました。先生が産婦人科医になったのは、なぜでしょうか?
 
自分が女性であることが唯一、メリットになる分野だったからです。

医師を志す人には、じっくり向き合う内科系タイプと、スパッと治したい外科系タイプの2パターンがいると思っています。私は圧倒的に外科系タイプで、手術にもあこがれを持っていました。

そこで進路を選ぶとき、まず候補に挙げたのが外科です。でも在学していた1995年〜2001年当時、母校の大阪大学医学部には外科をやっている女性がいなくて、働くイメージがまったく描けませんでした。社会で活躍している女性の医師も今ほど多くなくて、「女の先生でもいいや」「女医で大丈夫なのか」と言われることもありました。外科のほかに耳鼻科や整形外科も検討しましたが、同じような感じでした。

そんな中で産婦人科は唯一、患者さんに「女性の先生がいいです」と言ってもらえる分野でした。私自身も我が事として捉えることができる、と考えて、産婦人科を選んだのです。

-患者さんと接するときにどんなことを考えていらっしゃるのですか? 大切な選択に立ち会うことも多いのではと思うのですが……。

治療法などを患者さんに選択してもらうときは、じっくり話して納得した選択ができるまで待つようにしています。ただ、人柄や診察室での様子を見て、「導いてほしい」と考えていそうな方にはいろいろな角度から情報を投げかけてみたりするなど、接し方を変えています。

それからもうひとつ毎回やっているのが、診察の最後に必ず「聞き忘れたことや気になっていることはありませんか?」と聞くことです。

ここ15年くらい、ネットでセックスや自分の体について相談されている人を何回も見かけます。その理由は「お医者さんになかなか聞けないから」らしいんですが、自分の患者さんもそう思っていたらとてもショック。だから、患者さんの悩みや疑問は、できるだけ診療室の中で聞いて解決できるようにしているんです。

ぽろっと話していただくこともあるので、「この人に話したい」と思ってもらいやすい雰囲気があるのかな。普段から、なんでも話してね〜というウェルカムな空気感をつくるように意識しています。

困って診察室に来る、その“一歩前”で知らせたいことがある

-先生は診療のほかに、講演や書籍の執筆など女性の性と健康に関わる啓発活動を精力的にされています。どういった想いを持たれているのでしょうか。

2001年に医師になってから、避妊していたつもりだったのに妊娠してしまったという相談を受けることが多かったんですが、話を聞くと、どう考えてもちゃんと避妊できない方法なんです。でも一方で、学校でも家でも学ぶ機会がなかったよね、とも思ったのです。また、産婦人科の医師不足の状況やその背景も伝えられていないなと感じました。

それこそ「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)の知識がないという問題です。生きていくうえで知っておいてほしい情報を知る機会がないから困ってしまう状況になって、産婦人科に行ったら医者に説教されたという人も当時はけっこういました。「実際にはその女性のせいではないのに、おかしい」と感じることも多くありました。

そうして「医療の状況や性と健康の知識など、大勢に伝えたいと思うことは、来院した患者さんだけに伝えていても到底足りない」という感覚を、働き始めて最初の5年間で持つようになりました。

患者さんが困って診療室に足を運ぶ状態になる、その“一歩前”に知らせる必要があると強く思った記憶があります。

―そのような経緯で啓発活動を始められたんですね。

医療従事者が知っているような知識や実情をなるべくわかりやすく伝えたくてブログを始め、縁あって書籍を出し、それをきっかけに講演などのお話もいただくことも増えました。

「丸の内の森レディースクリニック」を開くもっと前から啓発活動自体は始めていましたが、勤務医では時間の調整が難しいこともあって。自分のクリニックを開いてからは、活動しやすくなりました。今は子どももいるので、育児とも調整しながらやっています。

講演をきっかけに来院する方やツイッターを見て来る方もいて、広く広く伝える活動から診療所での実際的な解決につながることが多いんです。そういう意味では、全部つながっているんだと感じます。

―活動を始めた当時と今の状況を比べると、何か変わったことはありますか?

昔は、制服で産婦人科に行ったら「ふしだらだ」と思われるという話もありましたけど、だいぶなくなりましたね。女性のヘルスケアや生理のことなどについても比較的オープンになって、親世代で治療を受けた人が思春期の娘さんを連れてきてくれることも増えました。企業や健康保険組合から講演依頼も多くいただいています。

ただ、若い世代の悩みとかは昔とあまり変わらないですし、私が患者さん一人ひとりに伝えることは多いまま。コンドームやピル以外に避妊方法があることもあまり知られていません。

学校では性教育がきちんとされず、大学生・社会人になっても新しい治療法を知る機会もなかなかない。今の社会では、よっぽど能動的にならない限り、性や医療の知識と情報を知ることができません。私がメガホンで叫び続けても届けられない人にも自動的に届けられるような仕組みが社会に作られる必要があるのかなと。

―性の知識を得て、悩み事が解決されると女性の活躍の場も広まりますよね。

そうですね。ただ、知識を得るだけでなく、自分の体のことは自分で決められる環境をつくることも必要だと思います。例えば低用量ピルも、飲む・飲まないを決めるのはその人自身です。他人がどうこう言うことではありません。

特に妊娠・出産のことになると、避妊、胎児の発育状態、跡継ぎ問題、なども絡んできます。患者さんの中には、自分に選択権はないと思っている方もいます。

多くの方が「自分の体のことなのだから、自分で決めていこうよ」という意識を持てるようにするために、その認識と知識の両方を得られる機会が必要なんです。

潜在的な患者さんへの窓口を広げるために

―先生には I LADY.でスーパーバイザーを務めていただいていますが、初めてI LADY.を知ったときの印象はどうでしたか?

I LADY.が始まった2016年より前から、ジョイセフとの関わりはあったんです。スーパーバイザーにとお声がけいただいたときは「進んだ意識の取り組みだな」と思いました。性について表立って話されない中で、SRHRに取り組んでいたからです。

今は、アフターピル(緊急避妊薬)や生理など、女性のイシュー(課題・問題)が盛んに議論されるようになりました。2016年に比べたら良くなっていますが、やっぱりジェンダーに関することはまだまだ足りないなと感じます。性交渉の際の合意や、体の自己決定権、SRHR、そのベースとなる知識や医療体制のことも含めて、知ること・決めることが自分たちの権利なんだよということを、次の世代に伝えていきたいと思っています。

―そのために、何か次の構想などはあるのでしょうか?

今の流行りの言葉でいうとDX(デジタルトランスフォーメーション)みたいな感じでしょうか。IT技術を活用して、より多くの人を診察できるようにしたいです。

他の先生もそうだと思いますが、「受診したい」とご連絡をいただいても初診がだいぶ先になったり、予約が取りにくくなってしまうことがあったりして、潜在的な患者さんがまだたくさんいることを感じています。ご連絡をいただいていなくても悩みを抱えている方はいると思うので、自分のやっていることをもっと拡大したいと思っています。

オンライン診療はもちろん、効率化できるところは効率化するなどして、自分の悩みを安心して話してもらえる診療を拡げていきたいと考えているところです。

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