アフガニスタンの女性を救え 現地NGOスタッフ 命がけの挑戦 (前編)
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2010.7.12
2010年6月、ジョイセフと連携して行うプロジェクトの打ち合わせのために来日したアフガン医療連合の事務局長のババカルキルさんに
アフガニスタンでの活動と現状について話を聞きました。 そのインタビューを前編・後編と分けて公開します。
ババカルキルさんのプロフィール
本名: Abdul Wali Babakarkhil
アフガン医療連合の事務局長。アフガニスタン人。
タリバン政権下においても、女性支援が禁止されるアフガニスタンで身の危険を感じながら母子保健NGOの活動を信念を持って続けてきた。ジョイセフとの出会いは2001年で、東京で開催されたアフガニスタン復興支援国際会議で来日したときのこと。
仕事には厳しく、家では優しいお父さん。妻は女医で二人の間に5人の子どもがいる。
イスラム教徒でお酒は飲まないが、パーティーでは飲んでいる人よりテンションが高い。ジョークで人を笑わせるのが大好きだが、調子に乗って笑っていると「真剣に人の話を聞け」と注意してきたりするお茶目な性格。
まず、日本の第一印象をお聞かせください。
最初の2日間はジョイセフで少し緊張しながら過ごしました。3日目からだんだん慣れて、リラックスして、すべてが計画通りに進んでいます。
日本のどんなところがお好きですか。
2001年、2005年に続き3度目の来日ですが、日本はとてもきれいになったと思います。
それに日本人は親切ですね。地域社会がしっかりしていて、広い心を持っています。貧しい国の人々を援助する上で重要な役割を果たしています。そのことに私たちはいつも感謝しています。
アフガニスタンとあなたのご出身地について教えてください。
私たちはいつ日本や他の国のようになれるのかと考えます。
私は自分の国が大好きです。でも、治安状況、教育、保健の分野を見てみると、これらがあることを示しているのがわかります。自由が感じられないということです。
自由を感じられない?
はい。なぜなら治安が悪く、政府が国民を守ることができません。政府は自分たち自身も守れないのですから、どうして人々を、私を、私の知っている人たちを守ることができるでしょうか。
だから自由を感じられないのです。
しかし、私は自分の国が好きです。私の国の人々と一緒に働くのが好きです。
アフガニスタンの問題は何ですか。
一番の問題は治安です。私は国外(パキスタン)に住んでいるんです。
私の子どもたちはパキスタンで学校に通っています。
状況がよくなり次第、母国に戻ろうと思っています。
しかし、残念ながら教育、治安の問題や、水が不足しています。また東京のように物価が高いといった問題があります。
なぜ治安が悪いのでしょうか。
全体的に反政府組織の活動が以前よりも活発になっているのです。
彼らはNGO職員を殺そうとしています。例えば、アメリカ人や公務員が狙われています。最近では同様にNGO職員も狙われています。
ご自身が危険にさらされることもありますか。
もちろんあります。スタッフも何度か。
オフィスで活動を始める時、それを誰にも言うことができません。プランの内容、どこに行くかということを言うことができないのです。なぜなら、例えば誰かがババカルキルはどこかとオフィスに聞きに来たとき、スタッフが本当のことを言ってしまうかもしれないのです。
ですから私がどこにいるかを言わないように頼んでいます。
そういう状況です。
そうしなければ拘束されるのですか。
いいえ。オフィスで拘束されることはないと思います。
しかし、プロジェクト地などに行く途中で拘束されたり、殺害のターゲットになるかもしれません。それが問題なのです。
それはなぜでしょう。母子保健プログラムに反対なのですか。
そうですね。母子保健プログラムや家族計画、その他の活動に反対だということもあるでしょう。
ですが、一番大きな理由は、NGOスタッフを殺害することで国際社会に注目させようとしているのです。なぜNGOが反政府組織に狙われるのかと、みなが関心を傾けると思っているのです。
それでもこのプロジェクトを続ける理由や、あなた自身の目的は何ですか。
私はアフガン医療連合の事務局長としてこの仕事に16年間携わってきました。これを続けたいのです。私は自分の国や人々を救いたいと思っています。過去に何度か危険な目にあったときは、妻にもプロジェクト地に行かないでくれと言われました。しかし私は妻に言いました。「あなたに子どもがいるように、私にとって村人たちは自分の子どものようなものだ。私は自分の故郷のために働きたい」と。彼らは私を必要としているし、私にも彼らが必要なのです。ですからできるかぎりのことをしたいと思っています。
あなたの組織や彼らが日本に求めているものとは何ですか。
彼らの期待は大きいのです。ジョイセフとのパートナーシップを通して衣服、自転車、机、黒板、ろうそくなどいろいろなものを受け取りました。文房具、ランドセルなども贈られました。もし私の組織を閉鎖すれば、私たちを支援してくれている日本の組織も他の場所へ行ってしまうでしょう。他の組織を通して支援することはできないと思います。彼らはそれを望んでいないでしょう。私たちはプロジェクト地区の人々にとって友達のようなものだからです。私たちは彼らを知っていますし、彼らも私たちのことを知っています。ですから彼らは、日本からの支援が続いてくれることを願っています。
また、私たちは母子保健に関する情報を伝えたり、産前産後のケアを行ったり、寄生虫予防プログラムも行っています。
私たちは彼らに庭で野菜を育てるように指導しています。 そして今その収穫ができるようになってきています。例えば、何カ月か前の話ですが、ある村人は作った果物を売り始めました。私はとてもうれしく思っていますし、彼らもとても喜んでいます。なぜなら家族のための収入になるからです。果物を売ったお金で砂糖を買ったり、文房具を買ったり、薬を買ったりできるのです。
アフガニスタンの農村地域の女性は出産するときどのような状況ですか。
一般的に女性は男性に従わなければなりません。
女性は多くを発言することができず、何か意見を言ったりすることもできません。
また、母親としての一般的な知識がありません。
結婚すると、次から次へと休む間もなく出産しなければならない状況になります。
平均どれくらいですか。
子どもは7~8人です。間隔がないのです。10カ月ごとです。10カ月後にはまた妊娠します。年に2回とか。
年に2回?
ええ。10カ月後にまた妊娠するのです。
普通何歳くらいで結婚するのですか。
少女の体の発育によります。15歳、16歳、17歳、18歳とか。それくらいです。
あやまった教育が原因で、妊婦に与える食事も十分ではありません。お産に関する適切な知識がありません。出産前の女性は体を休めなければならないのですが、彼女たちはお産のときまで休まず働いています。
直前まで?
ええ、そうです。井戸から水を運んだり、料理をしたり、洗濯をしたりしています。めんどうみなければならない子どももたくさんいます。そして食事の準備も。どれも重労働で、妊婦にはよくありません。
お産のときは病院やクリニックに行くことはできるのですか?
もし男性の年長者が家にいれば、問題があったときには連れて行くでしょう。しかし、最後の最後に病院に行っても母親自身が命を失う場合もありますし、子どもが助からない場合もあるのです。なぜなら、この時が妊婦にとって一番危険な時期だからです。医師にできることはあまりないのです。早い段階、例えば妊娠1カ月目で病院に行くとよいのです。そうすれば医師は食べてはいけないもの、あまり働きすぎないことなど、守るべきルールなどを指導できるのです。
つまり産前ケアや出産に関する情報が非常に重要なのですね。
ええその通りです。
ですが、それらの情報やサービスを得ることがその農村の女性にとっては難しいわけですね。おそらく地理的な理由とか…
平均的に農村地では、クリニックへのアクセスが乏しいだけではありません。女性の医療スタッフが不足しています。これが問題です。
女性のスタッフがいないと女性は診てもらえないんですよね。
絶対だめです。 その場合は夫だけが話をすることができるのです。もし、命の危険があれば、夫、もしくは祖父母が男性の医師と話をすることができます。そうでない場合は母子ともに死んでしまいます。
アフガニスタンの妊産婦死亡率は?
2番目です。
世界で2番目に高いのですね。病院や関連サービスを利用しづらいことがその原因だと思われますか。
はい。よいサービスの不足です。
報告書などでは私たちの国での物価は安いと言われています。
しかし、草の根の視点で見れば、教育の不足、保健施設の不足、そこで働く女性職員の不足の問題があります。
政府もよい給与で女性職員を雇う努力はしているのです。例えば、アフガニスタンの医師の給与は平均月220~250ドルですが、政府は農村に行くためには女性医師に1000ドル以上払うと言っているのです。それでもだれも来ません。なぜなら治安の問題があるからです。おそらく家族もプロジェクト地へ行くことを許さないのです。
それが女性スタッフがプロジェクト地へ行けない理由です。例えば、ガズニという地域では2005年からプロジェクトをやっていますが、5年の間、女性スタッフを見つけることができませんでした。今でも5つの診療所がありますが、そのうち3つには女性医師も女性看護師もいません。たった2カ所にしか働いてくれる女性医師を見つけることができませんでした。だから妊産婦死亡率も乳幼児死亡率も高くなってしまいます。
ではこの問題を解決するために、アフガン医療連合とジョイセフ、日本の人々とともに、何ができるでしょうか。
ジョイセフには是非支援を続けてほしいと思います。私たちは現在2種類のサポートを受けています。一つは保健施設の運営、もう一つは保健に関する教育です。保健教育は政府の方針に沿ってやっています。政府の方針どおりにやらなければ問題になります。政府の保健教育の基本パッケージは広範囲の内容がよく網羅されています。全てを簡単に理解することができます。
私たちが期待することは、日本の人々やジョイセフの支援が現在の地域だけでなく、さらに他の地域にも広がることです。狭い地域に多くの支援が集中するよりも、その隣の支援を必要としている地域に広がった方がよいのです。それが私からのお願いです。
*インタビュアー: 甲斐和歌子(広報グループ)
*和訳協力: 伊藤和子、伊藤麻理
*写真撮影: 東海林美紀