明石研究会 研究シリーズ 「多様化する世界の人口問題 : 新たな切り口を求めて」がスタート

2011.1.12

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人口問題協議会・明石研究会は、2010年から2011年にかけての共通テーマを「多様化する世界の人口問題:新たな切り口を求めて」として開始しました。

ご周知の通り1973年に人口問題協議会が発足した折には、「急増する世界人口」が中心的な課題となっていましたが、その後、40年近くを経過いたしますと、人口問題は、単に「増加」のみの問題ではなく、多くの課題が表れてきました。まさに「多様化する人口問題」となっています。

その第1回目の研究会として、2010年11月26日に、明石康・人口問題協議会会長と阿藤誠・同代表幹事が、まずは今回の研究シリーズの基調となる問題提起を行いました。

■ テーマ:「多様化する世界の人口問題:新たな切り口を求めて」
■ 発表者:明石康・人口問題協議会会長および阿藤誠・同代表幹事(早稲田大学特任教授)

以下、概要です。


 明石 康


研究会として2010年7月に出した「国際社会に名誉ある地位を占めるための7つの提言」には、多くの賛同のコメントをいただいている。ここでは、緩慢な人口減少、女性の活動と若者の能力の活用、日本型の移民政策、など7つの提言をした。

現在進めている別のグループの研究では、日本にとってグローバルな人材育成が急務だと指摘しており、文部科学省、経済産業省、経団連などが大きな関心を示している。グローバルな社会の実現のために、海外から留学生をもっと入れるべきこと、また文科省に選ばれた日本の13大学で、日本語を使わず英語だけでも大学の課程を終えられる仕組みを作ることが実行されつつある。
 
事業仕分けのため予算が厳しいが、長期的なビジョンの下に何に優先順位を置くかを見極めなければならない。官民財界一体となって司令塔を設立して、グローバルな人材育成をすべきである。

さて、人口問題の専門誌ではないが、Foreign Affairsという世界で権威のある雑誌が、年に2度も下記のように人口問題を取り上げている。論調に必ずしも全部同調できるわけではないし、ゴールドストンとエーベルスタット2人の間に共通点と相違点はあるが、参考までにいくつか指摘しておきたい。

  1. The New Population Bomb, The Four Megatrends That Will Change the World
    Jack A. Goldstone, Foreign Affairs, Volume 89 No.1, Jan./Feb. 2010
  2. The Demographic Future, What Population Growth―and Decline―Means for the Global Economy
    Nicholas Eberstadt, Foreign Affairs, Volume 89 No.6 Nov./Dec. 2010

かつては人口問題の関心は「人口爆発」だったが、今では先進国だけでなく途上国においてさえ増加率の低下が潮流である。いまや、世界的・地域的な「増加や減少の内容」について関心をひくようになった。いずれの論文のなかでも移民の重要性が述べられていて、南の途上国から先進国に向けての移民がますます増大する。そのベースにあるのは、現在の18歳以下の人口の90%が開発途上国にいることが背後にある。

先進国として君臨していた国に、人口減少と経済力の低下が起きて、これらの国々の世界経済に占める比重は、20年くらい前は70%、今は50%、2030年には30%に低下するという推定もある。そうなると、世界におけるグローバルガバナンスの構造も変化し、安保理15カ国の中での5常任理事国の再検討は目に見えている。

先日ソウルで行われたようなG20が、これからのグローバルなガバナンスの主体になり、発展のけん引力になるのではないか。BRICSが主体になる気配だが、人口問題ではロシアが深刻な課題をかかえている。また米国は人口に関する限り将来まで増加していくので、労働人口は10年のうちに15%増加するという推計もあり、「先進国」としては必ずしもくくれない。

ヨーロッパ、米国、日本、韓国、中国は高齢化の問題が顕著だ。

2050年にはヨーロッパ人口の30%が65歳以上、日本と韓国では40%以上くらいになり、中国でも高齢化社会がすでに始まっている。日本についてはヨーロッパ型に輪をかけて生産年齢人口が減少している。その結果として国際競争力が低下している。

1980年代までは、ポール・アーリックが描く世界は、人口の増大により食糧不足が起こるという予測だったが、経済成長があるのでそれは起きず人口は安定化して、2050年に91.5億人という予想になっている。世界人口へのわれわれの関心は、開発途上国における「人口爆発」ではなく、先進国と一部の途上国で起こっている「高齢化」ではないかということだ。

イスラム圏の人口

ゴールドストンは、イスラム圏諸国の人口増加の問題に警告を発している。エーベルスタットはややニュアンスの違うことを唱えている。ゴールドストンによると、バングラデシュ、エジプト、インドネシア、ナイジェリア、トルコで人口の増加が顕著であり、2009年には合計で11億人を超えている。2050年にはさらに4億7000万人が増える。現在最も人口が増加している48カ国の中で、28カ国はイスラム系の人口が多い国である。従って欧米諸国とイスラム諸国が相互理解を図らなければならないと警鐘を発している。

一方エーベルスタットは、イスラムをそれほどの問題とは考えていない。

ゴールドストンは、これからの世界は人口の面で3つに分けられると言う。第1番目は高齢先進工業国(北米、ヨーロッパ、日本、韓国、台湾など)、第2世界は、BRICSのように急激な成長を遂げているブラジル、イラン、メキシコ、タイ、トルコ、ベトナム、中国など、第3世界は、成長期に入るにはまだ貧しい国で、若年層が多く都市化現象が起きている不安定な国々である。第1世界は第2世界と組んで、第3世界の問題に対処していく必要があるとしている。例えば、トルコのEU加盟を進めるべきという。

日本はモデルになるというよりも、ある意味では人口関連の問題を最も深刻な形で抱えている国として、我々がそれをどう解決できるかが海外から注目されている。また、東アジアの国として共通点を持つ日本、中国、韓国がお互いに政策面で示唆を与えることがあるのではないか。

一方で日本人には耳の痛い指摘があり、高齢者労働の重要性と、知識産業や技術的なイノベーションの重要性を強調していて、研究開発がますます必要となるプロセスで、リスクを恐れてはならないし、人口の変化に機敏に対応する必要があると指摘している。


 阿藤 誠


人口爆発が終焉したと言われる中で、現在のキーワードは「多様化」ではないか。

1.世界の人口爆発は終息しつつあるのか?

  1. 世界人口の年平均増加率は、1960年代後半の2.02%をピークにして、以後低下傾向が続いており、2000年代後半には1.18%まで低下した。
  2. 1990年頃までの世界人口推計では、世界人口は2050年に100億人前後に達し、その後も増加を続けるものとみられていた。1990年代に入って、国連等の世界人口推計は下方修正が続き、最近では2050年の世界人口は90億人前後とみられている。
  3. 国連の(2002年推計に基づく)2300年推計では、2075年に世界人口は92億人に達した後、しばらく減少し、その後、90億人程度で安定するというシナリオを描いている。
  4. 世界人口の増加は今世紀中に終焉を迎えるという見方が一般的。
  5. ただし、今後40年間で、なお20億人の人口が増え、人口増加の地域差が大きいことを認識しておく必要がある。

2.世界の人口と食糧・水資源・エネルギー・環境の関係は?

  1. 世界人口と食糧の関係
    1-1. 世界の栄養不良人口は、1990-92年からの15年間にそれほど変化していないが、世界人口に占める割合は低下している:2005-07年では13%(8.5億人)。
    1-2. 地域別には、東アジアで大きく減少し、サハラ以南のアフリカ・南アジアで増加傾向にある。
  2. 世界人口と水資源
    2-1. 水不足は地域的な問題である。今日、中国北部、インド南部、中近東全域、北アフリカ、メキシコが水不足地域である。
    2-1. 水資源の取水率が40%を超える地域は、中近東全域、北アフリカにとどまるが、2025年にはインドに拡がる。中国、米国は20-40%地域となる。

3.人口増加のホットスポットは?

  1. 世界の主要地域のなかでは、サハラ以南のアフリカ(そのほとんどは後発開発途上地域)は、人口増加率が高く、出生率も高い。
    2005-10年:年平均人口増加率 2.29%;TFR 4.61
  2. アジアの中では、西アジア、南中央アジアの人口増加率・出生率が高い。
    2005-10年:西アジア(年平均人口増加率 1.95%;TFR 2.95)
    南中央アジア(年平均人口増加率 1.51%;TFR 2.82)
  3. 国別には、インド、エジプト、エチオピア、ナイジェリア、パキスタン等が、人口規模が大きいうえに、比較的高いTFR、人口増加率をもつ。
  4. これらの国・地域では家族計画の未充足ニーズ(UNMET NEED)が大きく、避妊実行率向上の余地がある。
  5. ムスリム人口の現状:
    ①2009年に15億7千万人(世界人口の22.9%)
    ②地域別には、アジア・太平洋(62%)、中近東・北アフリカ(20%)、サハラ以南のアフリカ(15%)
    参考:西アジアの人口は2010-50年に1.6倍になる。

世界の主要地域別ムスリム人口:2009年

地 域 ムスリム人口(千人、2009年) 地域におけるムスリム人口の割合(%) 世界全体に占めるムスリム人口の割合(%)
アジア・太平洋 972,537 24.1 61.9
中近東・北アフリカ 315,322 91.2 20.1
サハラ以南のアフリカ 240,632 30.1 15.3
ヨーロッパ 38112 5.2 2.4
南北アメリカ 4,596 0.5 0.3
総 計 1,571,198 22.9 100.0

出典:Pew Research Center’s Forum on Religion & Public Life・Mapping the Global Muslim Population, October 2009

4.サハラ以南のアフリカにおけるHIV/エイズは制圧できるか?

  1. 1980年代半ば以降、サハラ以南のアフリカの死亡率低下が停滞し、平均寿命の延びが止まった。その大きな理由は、HIV/エイズの蔓延である。
  2. サハラ以南のアフリカの人口増加率は、出生率の緩やかな低下効果に、死亡率低下の停滞効果が加わって、1990年代に予想以上に低下した。
  3. サハラ以南のHIV感染人口は、2001-2008年になお増加している(19.7百万人から22.4百万人へ)。
    しかしながら、新規感染者、感染率は低下傾向にあり、エイズ死亡人口も頭打ちとなっている。
  4. これは、この間におけるHIV感染予防対策の広がりと抗レトロウイルス療法の普及によるものと考えられる。

5.人口都市化は開発の促進剤か足かせか?

  1. 2009年、世界全体で都市居住者が半数を超えた。
  2. 今後の世界人口の増加(ほぼ途上地域の人口増加と同じこと)は、もっぱら都市で起こり、農村人口は減少に転ずる。
  3. 途上地域においては、ラテンアメリカは先進地域並みの都市化率であるが、アジア、アフリカの都市化率はなお低い。
  4. メガシティの拡大(とくにイスラム人口の増大)が注目されているが、都市人口の大部分は中小規模の都市に居住する。
  5. 世界の多くの途上国政府が、大都市への人口集中を緩和しようと、反都市化(counter-urbanization)政策、(すなわち、農村から都市への人口流入を制限する政策)あるいは人口の分散化政策をとってきたが、おおむね成功していない。
    大都市の人口増加が大きい理由の一つは、大都市における自然増加が農村に比べて大きいため。
  6. それはまた、住民にとってのコスト・ベネフィット(費用便益)を考えると、たとえどれだけ大都市の生活が惨めに見えようとも、農村にいるよりは「まし」と考える人が多いからである(国連人口基金『世界人口白書(2007年版)』)。

6.少子化と人口減少は先進国の宿命か?

  1. ほぼすべての先進諸国のTFRは、1970年代から今日まで人口置換水準を下回っている。この現象を「第二の人口転換(the second demographic transition)」と呼ぶものもある。
  2. ただし、今日、先進諸国は大きく「緩少子化国(moderately low fertility countries)」と「超少子化国(very low fertility countries)」に二分される傾向にある。
  3. 緩少子化国では、TFRは一時的に大きく変動したが、コーホート完結出生率は2人に近い水準を維持している。
  4. 日本を含む超少子化国では、TFRが低下・低迷したままで、コーホート完結出生率も1.5人程度まで低下している。
  5. 緩少子化国では、人口減少が起こったとしても緩やかであるが、超少子化国では人口減少が急激である。

7.人口高齢化はボーナスか、それともオーナスか?

  1. 途上地域でも出生力転換が順調に進行していることにより、グローバルエイジング(global aging)が進行中である。
  2. 途上国における高齢化は、出生力転換成功の副産物であり、近年「人口ボーナス(population bonus)」(あるいは「人口配当」)と呼ばれる。
    人口ボーナス期は、総人口に占める生産年齢人口比率が高い時期で、出生力転換後30-40年間続く。途上国にとっては、この一度しかない時期が経済発展の好機である。
  3. 先進国は、人口ボーナスの時期を過ぎ、人口高齢化が生産年齢人口比率の低下・老年従属人口指数の大きな上昇を意味する「人口オーナス(population onus(負担))」の時代を迎えている。
    緩少子化国の高齢化は比較的穏やかであるが、超少子化国の高齢化は急激かつ高水準に達する。超少子化国の超高齢化(hyper-aging)問題は深刻である。

8.国際人口移動のメリット・デメリット

  1. 世界の移民人口(ストック)は先進地域とアジアで増加を続けている:
    1990-2010年に1.56億人(世界人口の2.9%)から2.14億人(3.1%)に増加。
  2. 先進地域では、移民人口とその(対総人口)割合が増加を続けている:
    2010年に、ヨーロッパは9.5%、北米は14.2%、オセアニアは16.8%
  3. 先進地域には、2005-10年に年平均で270万人の移民が流入している。
    米国には年平均100万人、スペイン、イタリアには30万人台、ドイツ、フランス、オーストラリアには10万人強が流入。
  4. 途上国にとって、移民による海外送金はGDPにとって大きなウェイトを占める。(フィリピンでは、2007年に11.3%を占める)
  5. 近年、ヨーロッパ、米国で反移民感情が強まり、移民の規制が強化されている。移民の受け入れ規制が強まると、非合法移民が増大し、「移民ギャップ(immigration gap)」(W. Cornelius, et al., 1994)が拡がる傾向がある。

 質疑、コメントから


福川伸次(財団法人 機械産業記念事業財団会長)
人口問題には、いろいろな切り口がある。米国では戦略国際問題研究所(CSIS)が、経済から安全保障までいろいろなモデルを作って検討したことがある。
経済成長と人口成長について議論がある。

  1. 国内政治でいうと高齢者と若年者の政治的対立が起こる。若年者への教育などは重要となる。
  2. 新興国が出てきた時に、安全保障上は成長力の格差によって問題が生ずる。
    経済先進国は金利が上昇し株暴落が懸念される
    先進国が社会保障のメカニズムを運用ができなくなる
    金融構造が大きく変わる、ドルの通貨体制が維持できなくなる。
  3. 今後の人口と政治経済問題が、二次方程式、三次方程式ということでなくなる可能性がある。世界の構造が、政治的、経済的、金融的、証券的にも大きく変わる可能性があることを視野に入れて対応策を考えなければならない。

佐藤龍三郎(国立社会保障・人口問題研究所部長)
ポイントのひとつとして、世界の人口問題の枠組みを設定し直さなければならないのではないか。
20世紀以来、人口の議論は3つの波があった。

  1. 1930-40年代  国家や民族が覇権を競う人口増強論
  2. 人口爆発論  1960-70年代の開発途上国中心の人口増加
  3. 多様化・複雑化  ひとつの言葉で表すのが難しい

【節目】
2014年カイロ会議から20年目になり、カイロ行動計画の期限となる。
2015年MDGsの15年目(目標の期限)

国連人口開発委員会の委員国は2012年春で任期が切れる。日本が引き続き委員国になれるかどうかも課題である。

その他
日本モデルが日韓中の政策調整に参考になるか、
人口の都市集中と出生率の関係、
今後、女性の問題は大きい、
人間として生きていくうえで、いかに健康で楽しく過ごせるか生命の質が問われている、
2011年に70億人になるが人口問題を考える契機になる、
健康寿命についても重要な要素となる、
などの意見も出た。

最後に明石会長が、「今日の問題提起を発展させて今後につなげ、日本一国でなく世界とアジアの動向を主たる関心事項として提言をまとめられるように研究会を重ねていきたい」と結んだ。

(敬称略、文責:人口問題協議会事務局)