「もう会えないかもしれない」と出産に挑む母たち

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2011.7.11

タンザニアは、ジョイセフが20年前に支援を始めた国です。
しかし、国の面積が日本の2.5倍という広大なタンザニアには、国連や国際組織、そしてNGOの支援がまだ入っていない地域がたくさんあります。
シンヤンガ州の中にある、ジョイセフが支援をしていない地域の妊婦さんは、HIVになぜ感染するのか、しくみを知らない人もたくさんいました。「私がなにか悪いことをしたら、罹るのかもしれない」と迷信に脅える人もいました。
政府が建てたクリニックまで30キロ以上離れた地に住む女性たちは、出産予定日が近づくと、安全な施設での分娩介助を求めて、歩いてクリニックに向かいます。クリニックのすぐ近くに、陣痛を待つ宿泊施設(お産を待つ家)がありました。そこは、政府が建てた立派な箱物はあっても、避妊やHIV予防の教育啓発やそれを指導する保健推進員の育成がまだできていない地域でした。お産を待つ家には、7人目、8人目の出産をひかえる妊婦さん達がたくさんいました。自分の年齢さえも知らない妊婦さんが約20%。「周りにお産で亡くなった女性がいますか?」と聞くと、11人の妊婦さん全員が「ある」と答え、「今回このお産を待つ家に来る際に、留守番する子どもたちや家族には何と言ったのですか?」と聞けば「もうあなたと会えないかもしれない」と言い残してきたそうです。
「もうこれ以上子どもは欲しくない。でもどうしていいのかわからない」と答える妊婦さんもいました。出産間隔を空けるということを女性の意思で決めることができない地域が、タンザニアにはまだあります。
ジョイセフは、私たちができる支援をいち早く届けたいと考えています。


ジョイス・マディリシャは8人目の子どもを妊娠中。 年齢を聞くと、知らないという。
ジョイスさんのように、これまで一度も教育を受けたことがないために、自分の年齢はおろか、数字さえも知らない女性は少なくない。
また、自分の部族の言葉しか知らないために、タンザニアの国語であるスワヒリ語さえも喋れないのが現状だ。
そんな彼女に、インタビューを試みた。

あなたは8人目の子どもを妊娠中ですが、今後も子どもを生み続けたいと思いますか?いいえ、生み続けたくない。
出産で死ぬ可能性を考えたことはありますか?
ええ。以前出産中に気絶した事があるので、出産が怖い。ここに来る時、もう子どもたちには会えないかと思って村を出た。
今回は望んだ妊娠だった?
予期していなかった。
家族計画や避妊というものを知っていましたか?
聞いたことはあるが、使用したことはない。
夫が使用したがらない。だが、次回は夫に話してみようと思う。


次にインタビューしたのは、大きなお腹に反して、細い体と幼い顔。エスター・ルベラさん、17歳。
17歳とは言うものの、教育を受けたことがないため、年齢は不確かだ。
もっと若いかもしれないと思いながら、インタビューを行った。

妊娠は予想外の出来事だった?
予想外だった。どのように妊娠するのかを知らなかった。
あなたは結婚しているの?
してない。
子どもの父親について教えてくれる?
子どもの父親は20歳(不確かの可能性大)で、中学校に通っていた。でも、私の妊娠を知った後、彼はどこかにいなくなってしまった…
男性はどのように行動したらいいと思う?
よく分からない。
HIVについて何か知ってる?
誰かが死んだと聞いたことがあるけれど、HIVにどのように感染するのかは知らない。
出産は怖い?
はい。死ぬかもしれないから。
将来の夢は?
農家になること。
ミシンなどの技術を学んだりとかしたくない?
私の年齢では、これから学校に行くことも難しいし、農業でいい。
妊娠したことを後悔している?
大丈夫。

最後に、妊娠したことを後悔しているかを聞いた。
困ったように小さな声で「大丈夫」とつぶやいた姿が印象的だった。
エスターさんのように、どうやって妊娠したのかも分からないまま、母親になってしまう子は少なくない。

エイズと闘う子どもたち

多くの途上国では、エイズは子どもにとっても決して遠い世界のことではありません。
ジョーセフくん(7歳)は、3ヶ月前に、HIV陽性者であることが分かりました。
彼は5年前に両親ともエイズで失い、現在は祖母に育てられています。
ここ数年の間、原因不明の熱や下痢、虚脱感など、体の不調を感じていたにも関わらず、すぐにクリニックには行きませんでした。彼の祖母はジョーセフ君が悪魔に取り付かれたのだと思ったために、伝統的祈祷師などの元に連れて行かれていたからです。
3ヶ月前にクリニックに来て、現在はエイズの抗ウィルス剤を飲んでいます。
以前よりは、症状は多少良くなったとは言うものの、彼は微熱で空ろな目をしたまま、皮膚はエイズ患者特有の炎症を起こしていました。
タンザニアでは、ジョーセフくんのような子どもは珍しくありません。
タンザニアの感染率は7%と言われますが、地域によってはもっと多い場所もあります。
子どもたちがエイズになってしまう主な原因は、母子感染。
出産時や、母乳などから感染してしまいます。実際、HIVに感染している母親から生まれる3人に1人の子どもはHIVに感染しています
母親が事前に薬を飲んだり、予防をすれば、防げる可能性が高まります。
お母さんを守るということは、子どもも守ること。
ジョイセフでは、HIV陽性者の女性たちにヤギのつがいをあげ、自立した生活が出来るための収入創出を促したり、エイズに関する正しい知識や検査を促したりする活動を行っています。

ジョイセフフレンズ