2012.4.6 人口問題協議会・明石研究会シリーズ 「多様化する世界の人口問題:新たな切り口を求めて」 7 前編

2012.5.16

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国立社会保障・人口問題研究所が平成22年国勢調査の確定数の公表を受けて、新たな全国将来人口推計(日本の将来推計人口・平成24年1月推計)を発表しました。今回の推計は、平成22年までの実績値をもとにして、平成72年(2060年)までの人口について推計しています。

本推計を担当された金子隆一・副所長に推計結果の発表をお願いし、あわせて人口問題協議会の阿藤誠代表幹事に講評をいただきました。

■ テマ:日本の将来推計人口を読む
■ 発者:金子隆一(国立社会保障・人口問題研究所副所長)
■ コメンテータ:阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授)

以下、最初の講演の部分は当日のお話をもとにした講師による書き下ろし原稿、続く阿藤教授の問題提起と質疑応答は事務局がまとめた概要です。

日本の将来推計人口を読む

金子隆一(国立社会保障・人口問題研究所 副所長)

国立社会保障・人口問題研究所は2012年1月30日に新たな「日本の将来推計人口」(平成24年1月推計)を公表しました。今回はこの結果を題材として、日本の人口状況について考えてみたいと思います。以下は概要です。

日本の人口は、明治期以降急速に増加して来たが、今後はこれとちょうど同じくらいのペースで減少して行く。したがって、その増減のグラフは富士山のような姿となる(図1)。しかし、日本は歴史を遡るのではなく、むしろ誰も経験したことのない局面へと進んでいる。

図1 日本の人口推移(明治期~現在~2110年)

資料:旧内閣統計局推計、総務省統計局「国勢調査」「推計人口」等、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」[出生中位・死亡中位推計]

そのことは「富士山」の地層として描かれた年齢構成を見れば明らかであり、人口成長の局面では表皮のようにしか見えなかった老年人口(65歳以上人口)がすでに2010年現在で23%を占めるまでになり、さらに21世紀の中頃には4割を占めるようになる。

この社会変動は人口ピラミッドの変遷に明らかである(図2)。2010年現在においては団塊世代、団塊ジュニア世代が未だ生産年齢人口にあり、この社会の主要な層を形成しているが、2060年になると中高年層の比率が多くなるため逆三角の形状となり、実際人口の半分が57歳以上となる(ただし出生率推移の想定の違いにより高齢化の程度は異なる)。

図2 人口ピラミッドの変遷:2010年、2060年

資料:総務省統計局「国勢調査」

資料:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」[出生中位・死亡中位推計]

人口高齢化が進行するのは先進国共通の傾向であり、また今後は途上地域も含めた全世界の潮流となる。しかし、わが国の高齢化はその中でも群を抜いており、現在の趨勢からは21世紀を通して世界一の高齢化国として進んで行くことになる。このことは国連による比較的楽観的な推計によっても変わらない(図3)。

※ わが国の将来人口推計では、2060年以降は2060年の状況が変わらないとした参考推計である。一方、国連の推計は、合計特殊出生率が2100年以降に人口置換水準(2.1程度)に回帰するという仮定に基づいている。

図3 世界各国の高齢化率の推移(1950~2100年)

資料:United Nations, 2011, World Population Prospects: The 2010 Revision, 日本は総務省統計局「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計[出生中位・死亡中位推計])」

人口高齢化の一番の問題点は、社会を支える生産年齢人口に比べて、支えられる老年人口が増大し、社会発展に必要な経済的余裕が失われる点である。支えられる側として年少人口を加え、生産年齢人口1人が支えるべき人数は、従属人口指数で表されるが、この指標は近代化の過程(人口転換の過程)において一度大きく下がり、やがて上昇することになる。前者は経済発展にとって有利な状況なので「人口ボーナス」、後者は不利な状況なので「人口オーナス」と呼ばれる。日本のボーナス期はすでに終焉を迎え、今後は世界に先駆けてオーナス期に向かう(図4日本-赤)。一方、遅れて近代化を迎えた途上諸国では今後次々にボーナス期を迎えることになる(図4アジア-ピンク、中南米-黄緑)。すなわち、日本のオーナスの高まりはこれらの国々のボーナス期の繚乱の中で進行する。

図4 世界の地域別にみた人口ボーナス・オーナスのうねり (1950~2060年)

Source: United Nations (2009) World Population Prospects: The 2008 Revision. 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計[出生中位・死亡中位推計])」

以下、わが国の人口高齢化の見方について注意すべき点をいくつか挙げたい。まずは高齢化の起こり方についてであるが、それは高齢な層ほど相対的な増大が著しいという特徴がある。そのことは高齢化の指標として用いられる高齢化率(65歳以上人口割合)は、高齢化の効果を過小にしか表していないことを意味している(例:65歳以上人口割合;23.0%(2010年)→39.9%(2060年)=1.7倍、85歳以上人口割合;2010年13.3%→32.5%=2.4倍)。言い換えれば「高齢層の高齢化」が進行するため、たとえば多くの疾病や要介護度など、年齢による違いが著しい事象を扱う場合には、このことに十分な注意が必要である。

また、社会を変える影響としては、たとえば有権者中の高齢者割合が増大する「意思決定構造の高齢化」に留意する必要が有るだろう。すなわち現在の民主主義制度に従えば、有権者割合が増大する高齢層向けの施策・制度が優先されることになり、若年層への支援は後回しになるだろう。有権者に占める65歳以上の割合は、1950年9.1%→2010年28.3%と実績においてすでに大きく変化しており、今回の将来推計によれば、2030年37.6%、2060年46.7%と拡大が著しい。

高齢層が優先されることは消費市場などにおいても同様であり、高齢者向けの市場が盛況となる反面、子ども、若年向けの商品・サービスは種類も質も見劣りしてくるに違いない(Preston効果と呼ばれる)。産科、小児科医療などへの影響はすでに顕在化していないか。政治的意思決定にせよ、市場の動向にせよ、子どもや青年層、さらには将来世代の利益を損なうことのないしくみの創設が求められる。

このように多くの問題をはらむ人口高齢化は避けられないのだろうか。日本は寿命が世界一だから高齢化も一番で仕方がないという声を聞くが、本当だろうか。平均寿命にほとんど遜色のないフランスで2050年の高齢化率は25%程度に収まっている(日本は同年38.8%)。その違いは主として出生率の違いである。今の日本にとって出生率をすぐさまフランスと同程度にすることはできないが、同じように数世代にわたる社会を変える努力は必要である。

また、長寿化(寿命の伸長)が高齢化を深刻化させるから困ったことだというのも誤った認識である。長寿化は健康な高齢者を増やすことによって、むしろ高齢社会の問題の多くを好転させる。現在の75歳は50年前の65歳と同程度の平均余命を持ち、50年後はその年齢は80歳前後まで上がると見られる。健康政策によつ長寿化の推進は高齢化克服の日本モデルとなり得る(ただしこれが有効なのは、団塊世代が80歳を迎えるまでの15年間と考えた方がよい)。

少子高齢化はすべての国が迎える歴史上の一段階であるが、わが国がその先頭を歩むという事実を踏まえ、21世紀モデルとしての日本モデルの構築に叡智を結集する必要がある。



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