2012.4.6 人口問題協議会・明石研究会シリーズ 「多様化する世界の人口問題:新たな切り口を求めて」 7 後編

2012年5月16日

  • 活動レポート
  • 明石研究会

金子副所長の講演を受けて、阿藤誠教授から「新人口推計の持つ政策的意義」として次のような補足と問題提起があった。

1.将来推計人口は、出生率、死亡率、国際人口移動率(を含む経済社会)の現状(あるいは趨勢)が変わらないとした場合に、将来の日本の人口がどのようになるかを数値的に示して見せるもの。それは、人口の予測的な意味合いもあるが、人口動態の現状を評価する手段と考えることもできる。

以下この2つの観点から見てみる。

2.人口動態の現状評価の観点から、動態の3要素について問題提起したい。

(1)出生率(少子化)について
1)現状評価としては、出生率を決める各要素(結婚のタイミング、生涯未婚率、夫婦出生力、離婚再婚等の要素)の趨勢からみて、現在の超低出生率からの大きな回復は望みがたい、ということ。この5年間の合計特殊出生率(2005年の1.26を底にしてその後反転し、2010年には1.39に上昇)のV字回復が続くのではないかという楽観論もあるが、それはないだろう。

2)とすれば、超少子化の現状を受け入れるしかないのか?子育て支援(少子化対策)は出生率にとって無益なのか?仮に有益であるとすると、何をすべきなのか?

(2)死亡率(長寿化)について
1)現状評価としては、最長寿命国日本の長寿化はまだまだ続く(平均寿命の限界はまだ見えない)ということ。
2)長寿化はどこまで続くのか?
長寿化の予想を覆す要素としては、どのようなものが考えられるか?(たとえば、公的医療保険の弱体化は寿命に影響するか?)

(3)国際人口移動(外国人労働・永住移民)について

1)移民政策に大きな変更がないにもかかわらず、この20年間に外国人の数・比率は徐々に増えており、その傾向は続く。
2)移民政策の将来は?どこで転機を迎えるのか?例えば、どこまで人口減少あるいは高齢化が進んだら、移民受け入れ圧力が強まるか?移民に関して大胆な政策転換が必要か?
政策担当者の判断によるので、予測は大変難しい。


3.人口予測の観点からは3つの問題提起をしたい。

(1)社会保障制度について
1)社会保障制度は、年金、医療、介護のいずれについても、多かれ少なかれ、所得のある者が所得の少ない者を支えていく、若い世代が高齢世代を支えていく制度になっている。
老年従属人口指数の動向からみると、今後50年間で、3人で1人を支える”騎馬戦型社会”から1人で1人を支える”肩車型社会”に変わっていく。
2)超高齢化の進展がほぼ必然的であるという推計結果を受けて、それぞれの制度をどのようにしていくことが必要かが議論されている。
また、医療・介護の需要が高まっている中で、看護・介護の人材をどのように確保するか?例えば、つい最近のインドネシア、フィリピン介護士の資格受験の問題もある。

(2)地域社会について
1)今回の全国人口の推計に続いて、都道府県、市区町村人口推計が行われるであろう。前回の推計結果からみると、首都圏ですら2015~20年に減少を始めるものの、首都圏への人口集中度はますます進むと見られる(2005~35年に27%から30%に上昇する)。
この傾向はそのまま放置しておいてよいのか。自治体の広域化(道州制)、首都移転など、首都圏以外の地域の大胆な活性化策は必要ないのか?

2)2035年までに、65歳以上人口割合が40%を超える市区町村は49%、同じく50%を超える市町村は13%、75歳以上人口割合が25%を超える市区町村割合は50%となる。
いわゆる”限界集落”、”限界市町村”の増大に対して何をなすべきか?

(3)家族・世帯について
1)今回の人口推計に基づいて、いずれ世帯数の推計が行われるであろう。前回の世帯推計によれば、社会的に脆弱な高齢者世帯、とりわけ高齢単身世帯が今後激増することは明らかである(2005~30年に一人暮らし高齢者は390万人(高齢者の15%)から720万人(同20%)に増大する)。特に、今回の推計の仮定からは、生涯未婚の高齢者がおよそ20~25%(男性のほうが高い)、生涯無子の高齢者はおよそ40%になると見られ、今後、身寄りのない高齢者が激増するものと予想される。

2)家族を持たない高齢者の増加は、日本社会に何をもたらすのであろうか?家族介護、家族団欒を期待できない高齢者の増加は、介護制度のあり方のみならず、日本の家族観そのものを変えていくことになるのであろうか。
家族で和気あいあいと語り合うというような従来の高齢者の生きがいができなくなる。そうなったときに従来の親子重視の家族観が、このような現状でどう変わってくるのか。
以上、問題は多岐にわたるので、部分的にでも補足していただきたい。


以上のような阿藤教授の発言に対し、金子氏から次のような応答があった。

金子
少子化についての問題は、現状のデータを分析する限り、ここ6~7年出生率の回復傾向がさらに大きくなるという根拠は見られない。欧米を見ると、多くの国で出生率の回復傾向が明らかとなってきたが、それらは基本的には晩婚化・晩産化、つまり最初の子を持つ時期の遅れが一段落してきたことによる。家族主義などについて日本と状況が似ていたイタリアでも同棲が増え婚外子も増えてきて、フランス、イギリスのような国に歩み寄っていく傾向が見られ、これが出生率回復に寄与している。ところが日本ではそのような傾向は見られない。政策的対応については、北欧やフランスでは、継続的・安定的に手厚い家族政策をして来たことが一定の効果につながっていると見られる。日本で効果を期待するなら、やはり継続的・安定的な施策よって国民の信頼を得ることが重要だろう。

長寿化の問題について、医療制度等の弱体化が寿命に影響を与える可能性は考えられるが、今のところ実績データがないので、推計にはそれを入れていない。予測するのは難しいが、一方で、医療的な技術進歩(再生医療等)革新的な医療技術が普及する可能性もあるから、寿命に対しては延ばす方向の要素と、これを制約する要素のせめぎ合いになる。

国際人口移動については、日本の場合、まだ議論できておらず、島国ということもあり経験のない中で何をするのか、十分な議論が必要となる。労働力としてだけ外国人を入れるということではなく、社会保障などを含めた総合的な議論が必要である。

「人口オーナス」について人口の立場から言えることは、長寿化がそれへの対処になるという逆説的な面があるということである。高齢化による負担増に対しては長寿化によって対応する。ここで言う長寿化とは、高齢者の健康度の増進という側面である。高齢人口の健康度の比較を図に示す。

高齢人口の健康度(平均余命)の比較:1955~2055年

男性では、1955年の65歳の平均余命が2005年の73.8歳に相当する。同等の段階になるまでに8.8年の猶予があることになる。同じく女性は75.9歳、10.9年の猶予がある。つまり昔に比べて約10歳若返っている。

高齢化を考える際に、高齢者が昔に比べ健康となり、支えられる側から支える側に代わることを考慮に入れると、将来の見え方が変わってくる。

ただし、いかに若返ったとはいえ、75歳とか80歳以上になれば障害も多くなる。団塊の世代が、後期高齢になるまでの後10~15年の間に長寿化を活かした新しい社会が築けなければその後では難しい。

地域社会については専門外であるが、国勢調査の後に震災があり、被災地では大きな人口変動が生じているので、推計は大変難渋しており、公表は通常より遅れる見込みである。


家族・世帯については、阿藤先生のお話のとおりだが、人口が大きく変動することにより、われわれの人生そのものも変わる。一番大きいのは家族のことであり、家族を持たない人がこれだけ増えるのはこれまでの歴史上ないと思う。とりわけ日本社会は「家族」を前提とした制度構築をしてきたので、発想の転換が必要だ。個人の人生の選択に関わることなので微妙な側面を持っているが、一人ひとりの生き方が人口や社会の問題と密接に関わる新たな時代を迎えている。


ここで、出席者たちとの質疑応答が行われた。

◆ 1)健康寿命の推計を出しているが、WHOと同じ方式か。2)リーマンショックの時のように外国人が急にいなくなってくるのが何を意味しているかというと、日本経済の比較優位性が高い時には、アジアの人口ボーナスを日本に呼び込むことができることを意味している。経済の比較優位性が高い時に外国人の生産労働人口に相当する人を、どのような割合で日本の中に移動させ定着させれば一定の社会のダイナミズムを維持できるかを、ある程度シミュレーションで推計するのは可能か。

金子
ここでの計算は、健康寿命とは違う。健康寿命は、健康度とは何かについての定義が必要で、測るのが難しく国際比較も難しい。私が図表で示したものは、精度の高い平均余命の実績値を用いて計算した数字である。

2番目の質問については、経済を維持できる外国人労働力受け入れを定量的に検討するシミュレーション研究について、現在計画中である。

◆ 少子高齢化の問題は大変な問題であるから具体的アクションに結び付く必要があると思う。一票の格差を早くから問題視してきた友人がいたが、今になって注目されてきた。

今まで起こらなかったことが起こる。日本人の雇用の様式が変わる可能性があるのかないのか。予測しにくいが一人っ子になった場合、家族と生活できるほうがよいのか、老年になったら外国に行って介護してもらうのかなど、最大の問題のひとつだろう。統計で推計する場合に、外国人の受け入れ政策・雇用様式、研究生の制度など多方面の問題がある。行政や、議員など一緒に考えていくことが必要だろう。

金子
今後日本人の行動様式が変わっていく可能性があり、それを推計に反映できる方法を用いている。ただし、基本的に将来人口推計による将来像は、予測的側面はあるが、予言ではなくあくまで現在の反映である。現在の社会を将来というスクリーンに拡大して詳細に分析する行為である。連続的な時系列で予測できないことは、制度変更などを含め、リーマンショック、震災などと同様に想定が難しい。

行政や議員など政策担当者においては、大筋では少子化や人口減少のことはよくわかっているが、細かいところになると正確な理解は少ない。推計の使い方についても一歩進んだ理解をしてほしい。ただし、5年前の人口推計の時よりは、理解は進んでいる。

阿藤
難しい大きな問題であり、明石研究会そのものの使命であるので、多くの意見や提言を出して欲しい。

◆ 産婦人科医として医療の立場から、2060年の TFRが今と同じ1.35という根拠を聞きたい。全国で、産婦人科医院が急速につぶれている。限界集落・限界市町村には興味をもっている。何歳以上が50%になったら(75歳以上なのか、85歳以上か)市町村として成り立つのかどうかの数字は出せるのか。

限界集落・限界市町村に医療施設があるかどうかは大きな問題である。産科がないところでは出産ができないので人口が逃げていく。そういうところをどう集約化、再編していくか。過疎地が勝ち組、負け組に分かれていくのではないか。

無子の高齢者が増えているとのことだが、無子の高齢者はしがらみがないので親世代をみとった後は、友達同士で暮らすなどがしやすい。一人っ子が増えているので、現実的には4人の親を見るという場合のほうの負担感が大きい気もする。

「楽しい出産」を提唱しているが、なかなかうまくいかない面もある。出産が楽しくなれば、2.0まで戻るのではと妄想的に思う。家族を持つことがネガティブに語られている気がする。子育て支援というより、出産支援が弱い。それから、50人に1人が体外受精児という現実は、高齢出産の増加という現状もある。

金子
今回の推計では長期的TFRは 1.35であり、横ばいなので安定的に見えるかも知れないが、世代ごとにみるとその間も少子化は続いている。

限界集落の限界点についての指摘は、重要な視点かと思う。それは、インフラの整備次第で左右される。65~74歳の年齢層の健康度が上がっているが、75歳以上になると一概には言えない。個人差が非常に大きいので、「何%以上なら」という見方は難しいかもしれない。

◆ 新聞社で仕事をしているが、人口減少は最大の問題だと思って、日系ブラジル人の多い豊田市、大久保(東京)、農村花嫁の多い南魚市など取材してきている。人口減少に対しては画期的な改善は見られないと思っているので、移民受け入れと少子化対策をセットでやるべきである。日本人が外国人と多文化共生社会を作れるかについてテーマにしている、外国人については短期滞在などもいるので、推計ではどの数字をもとにしているのか。

金子
外国人人口については国勢調査と住民登録と2つの数字があり、かなり開きがあるが、人口推計では国勢調査をもとにしたデータを使っている。これは3カ月未満の短期滞在者は含まれていない。

◆ 黒田俊夫さん(元日大人口研究所名誉所長)が、75歳を定年にすれば高齢化は解決するということを述べておられた。団塊の世代の高齢化に関連して、これからの10年の間に行政として準備はしているのか。

金子
行政については答えられないが、個人差も考慮したうえで、団塊世代にいかに活躍してもらうのかという姿勢が大事だと思う。

阿藤
推計をめぐっては議論が広いが、これからの研究会ではもう少しテーマを絞って取り上げていけば、そこでの議論がしやすいのではと思う。

明石
金子先生と阿藤先生による、鮮やかな切り口と豊かなデータに基づいた問題提起はよかった。いくつかの質問にも出たが、我々がこれから考えるべきことは、データをベースにしながら、どのような政策提言ができるかを考えることだろう。

経済の観点が今まで入ってきていなかったが、推計のひとつの前提として名目3%(実質2%)の経済成長を前提にするかしないかで、人口動態も変わってくると思うし、いろいろな意味で、経済の問題と社会の問題はあい対立する面もあり、相関する面もある。

外国の例から学ぶことができるのかできないかについては、金子先生からはフランスのような外国の例を取り入れるのは日本には難しいとの指摘だった。フランスは第1次世界大戦で対ドイツへの対抗意識もあって人口政策を明示してきた。日本でも中国や東南アジア諸国の台頭を意識するようになって、かなり革新的な人口政策に向かわせる可能性もあるのではないか。

阿藤先生の家族制度に関する指摘は鋭いものがあり共感を覚えたが、以前からお祭りが盛んな自治体では大震災、特に津波による高齢者の犠牲者が少なかったという指摘もある。日本的な家族、コミュニティの連帯感が失われていくという見通しがあるとすれば、残念なことだと思う。

これからは問題領域を絞った議論が必要となる、少子高齢化は日本の最大の問題―one of the most important か、the most importantか―といえば、恐らくtheのつくほうだ。閉鎖的な日本人の心境は、ますます悲観的、超保守的になっていくのではないか。
移民の問題でも、今の閉鎖的な日本人の民族意識の結果、危険な方向に行く可能性がある。政策提言をしても政治家がとらえてくれるかどうかわからないが、国民意識はいろんな意味で変化してきている。

ある大学で「日本人のモラルから言って婚外子が2%以上になることはないだろう」といったら、学生が「私には婚外子がいます」と言っていた。このように足元で変わってきていることがあるかもしれず、統計に表れる前に時差があることも考えられる。1.35が未来永劫に我々を悩まし続けるということではないだろう。ここ数年の統計を見ても1.35よりちょっと上昇している。


お二人から有意義で興味深い指摘があった。その後の質疑も重要で根幹的問題があり、それについての明確な答えは出ていない。ある前提に立って想定内のことしか考えないというこの国の悪い癖が大震災で明確になった。その意味でも、大胆な思考をこの場で考える必要がありはしないか。

©人口問題協議会明石研究会
本稿の転載・引用につきましては、事前に明石研究会事務局宛てご一報くださいますようお願いいたします。
また、掲載後は、該当部分をPDFにてご送付ください。
(送付先:info2@joicfp.or.jp



←前編へ戻る

↑

寄付する

×閉じる