2012.7.26 人口問題協議会・明石研究会シリーズ9 「世界の人口・RHの動向―リオ+20および家族計画サミットを踏まえて」 前編
2012.8.27
- レポート
- 明石研究会
国際家族計画連盟(IPPF)のテウォドロス・メレッセ事務局長の来日の機会に、2012年7月26日、同氏から、「ポストMDG開発枠組み」の策定プロセス、世界の人口・リプロダクティブ・ヘルスの最新情報について報告していただきました。「明石研究会」の共通テーマである「多様化する世界の人口問題:新たな切り口を求めて」の特別編として充実した討論が繰り広げられました。
■ テーマ:世界の人口・RHの動向―リオ+20および家族計画サミットを踏まえて
■ 講 師:テウォドロス・メレッセ(国際家族計画連盟(IPPF)事務局長)
■ 座 長:阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授・人口問題協議会代表幹事)
以下は、概要です。
阿藤
IPPFという国際的な組織と日本、そしてジョイセフの結び付きは設立のころから深いものであった。近年、日本からIPPFへの拠出も減少している状況にあり、日本政府への働きかけの意味もあっての来日と思う。本日はIPPFの活動やリプロダクティブ・ヘルスを巡る国際状況についてお話いただきたい。
IPPF:設立60周年
IPPFは1969年から日本のODA(政府開発援助)を受け、国民のみなさまからの長きにわたる支援によって、世界の女性のために活動を続けてきた。
1952年にインドのムンバイで産声を上げた際には、マーガレット・サンガーや日本の加藤シヅエなど「怒りをもって立ち上がる」8人の女性がかかわった。現在IPPFは、172カ国で活動する152の加盟協会から成る世界第2位の規模のNGOである。そして、2011年には世界に広がる6万5000カ所の施設で8960万件のサービスを提供してきた。今年11月には60周年を迎える。
2011年3月の地震と津波による東日本大震災に対して、世界各国のIPPF加盟協会からも支援が寄せられたのは、今までの日本の貢献への感謝の現れだと思っている。
ポストMDG開発枠組み策定プロセスと人口・リプロダクティブ・ヘルス~世界の情勢―危機に瀕している女性の命
今こうして私が話している間にも、世界のどこかで2分に1人の割合で女性が妊娠・出産を原因として死亡している。毎日およそ800人の女性が命を落としており、このうち99%が途上国の女性だ。
- 2012年中に29万1000人の途上国に住む女性が妊娠出産を原因として死亡する計算
- 妊娠出産は、途上国在住の10代少女の最大死因
家族計画によってこれらの女性たちの多くを救うことができる。2012年時点で、家族計画のアンメットニーズ(満たされていないニーズ)は2億5000万人(機関によって推定値には幅があり、グットマッハー研究所とUNFPAによれば、2億2200万人という数字もある)に及ぶ。家族計画が実行できれば、妊産婦の命だけでなく、乳児の命も救うことができる。さらに人工妊娠中絶に関連する死亡も削減でき、少女たちが学校に行き、卒業して、仕事を手に入れて力を発揮できるようになる。少女が教育を受けることは、家族、地域、ひいては国の発展や平和への貢献にもつながる。
家族計画の実施には、以上のように多くのメリットがあることがおわかりいただけると思う。
IPPFは、創立以来今なお、怒りをもって立ち上がり続け、女性の命を救うための事業を展開している。2011 年には、世界で116の政策と法律改正に貢献した。それによってリプロダクティブ・ヘルスサービスを提供しやすい環境を作り出したという成果があった。IPPFが提供しているサービスの70%は、通常のサービスから疎外された若者、社会的弱者や貧しい人々に届けられている。
IPPFの役割と実績
- 政治的なうねりをつくり、ミレニアム開発目標(MDGs)に続くポストMDGの開発枠組みで実現するための活動
- 長期的にリプロダクティブ・ヘルス関連物資供給の保障が持続可能となるように、ドナーと民間企業の連携促進
1994年のカイロ国際人口開発会議の「人口行動計画」から6年間はリプロダクティブ・ヘルスがフォーカスされたが、2000年のミレニアム開発目標(MDGs)では、リプロダクティブ・ヘルスをひとつの重要な柱として据えられないという問題があった。その後6年かけてMDGsの5番目の目標の中に「b」、すなわち「リプロダクティブ・ヘルスへのユニバーサルアクセス」が入れられた。この間、経済危機などもあり、必要とする国に対して支援が十分にできない、失われた期間があった。
家族計画へのニーズは非常に高いのにもかかわらず、国連人口基金(UNFPA)とIPPFは、巨額の資金を失った。たとえば、米国ではブッシュ政権時代に同分野への支援額が大きく後退したほか、日本政府からIPPFへの拠出金は、2000年の半分にまで落ち込んでいる。財政難の折にも、継続してご協力いただいていることには深く感謝しているが、IPPFへの資金が半減したことは大打撃である。リプロダクティブ・ヘルスへのニーズは、特に中東、南アジア、アフガニスタンや北アフリカなどで高まっている。紛争地域の少女のニーズへの対応など取り組むべき課題は山積している。
ロンドン家族計画サミット(2012年7月):リプロダクティブ・ヘルスの新時代の幕開け
2012年7月11日に、ロンドン家族計画サミットが英国政府(国際開発省)とビル&メリンダ・ゲイツ財団によって共催された。この日は国連の「世界人口デー」である。IPPFの事務局長である私は、サミットの参加グループの共同副議長として、市民社会のとりまとめ役を果たした。議長はUNFPAのババトゥンデ・オショティメイン事務局長、もうひとりの共同議長は途上国政府のとりまとめ役としてインドの保健大臣が務めた。
ロンドン家族計画サミット:主要官民ドナーによる新しい約束
- 日本政府代表(平松賢司・地球規模課題審議官)は、家族計画に対するコミットメントの再確認と、家族計画を第5回国際アフリカ開発会議(TICAD V)とポストMDGs開発枠組みの中心課題のひとつに据えると言明した。このチャンスをとらえて日本政府がモメンタムを失わないようにリーダーシップを発揮していただきたい。
- 同サミットでは、以下の機関を含む官民ドナーから、合計26億ドルの追加資金の調達に成功
- ビル&メンダ・ゲイツ財団:2020年までの8年間の年間拠出額を7000万ドルから1億4000万ドルに倍増
- 英国:2020年までの8年間に合計8億ドルを拠出
- ドイツ:4年間でリプロヘルスと家族計画に4億9100万ドル
- 韓国:2010年、の拠出額(年間540万ドル)を2013年までに1080万ドルへ倍増
- ノルウェー:2020年まで年間2500万ドルから5000万ドルへ倍増
- メルク・フォー・マザーズ:8年間で、合計2500万ドル
同サミットは、2020年までに、政府、ドナー機関、民間企業、そして市民社会から調達する資金によって、世界69カ国の1億2000万人の女性が新たに近代的避妊法を利用できるようにすることを目標にしている。それにより、各国のパートナーシップ関係も密になっていく。IPPFも、サービス提供件数を2020年までに3倍の50億件に増やすことを公約した。
IPPF:世界1300団体を動員
IPPFとそのパートナーの呼びかけによって、世界177カ国の1300あまりの市民社会団体が署名した「ロンドン家族計画サミット市民社会宣言」が2012年7月9日付けのフィナンシャル・タイムズに掲載された。。IPPFとしても今後の活動実施を通して、サミットの目標達成に貢献していく。
Source:http://www.ippf.org/news/IPPF-and-civil-society-Declaration-unites-1300
Rio +20の成果:SRHRを中心に
- 成果
- CPD達成の重要性が含まれた
- 行動のための北京行動綱領とカイロ行動計画の完全実施
- 後退したこと
- リプロダクティブ・ライツについての言及なし
- 女性の権利が開発の中心として認識されていない
- リプロダクティブ・ヘルスと持続可能な開発の間のリンクがない
- 教育、都市、食糧・水問題等におけるリプロダクティブ・ヘルスの主流化
次のステップと機会
MGDsの目標年である2015年は、すぐにやってくる。今のうちからポストMDG開発枠組みの策定に向けて準備と議論を始めていかなければならない。
- 世界銀行・国際通貨基金(IMF)年次総会(2012年10月 於:東京)
日本で開催される機会をチャンスとして、大きなリーダーシップを発揮してほしい。緊縮財政の時代において、最も大きな被害を受けるのは弱者だ。世界銀行・IMFが、家族計画を保健の柱として前面に出していくよう進めていただきたい。 - IPPF 60周年-政策対話+IPPFマニフェストの発表(2012年11月 於 南アフリカ共和国)
- BRICS・G20・イスラム圏(未定)
- TICAD V (2013年6月 於 横浜)
日本には単に拠出金を求めているのではなく、引き続き家族計画を中心に据えて、その推進に向けてリーダーシップを発揮していただきたいと節に願っている。日本は、設立メンバーのひとつの国としてIPPFの歴史に残っているが、今度は国民の世論を高めて、国会議員、政府も巻き込んで「圧力」をかけて新しい歴史を作るリーダーとなっていただきたい。