人口問題協議会・明石研究会新シリーズ  「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第5回(後編)

2013.10.17

  • レポート
  • 明石研究会

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阿藤
現在、責任者を務めておられる国立女性教育会館のご紹介が今日のテーマにつながるとともに、後半では男女共同参画の現状についてデータで示しながら、どうやってこの現状を乗り越えていくかのお話をいただいた。では、みなさまのご意見や、質問をいただいて討論を進めたい。

妹尾 正毅
企業の体質は社長というかトップ次第、トップが変われば組織が変わるという意見を多く聞くが、男性の中間管理職が変わることが必要なこと、クオータ制、男女共同参画と少子化との関連などについてもう少し伺いたい。

内海
確かに、女性の活用にとって企業がまずやらなければならないことは、経営者に本気になってもらうこと。経営者が本気かどうかが第一条件となる。社長が本気で女性活用を推進しているというメッセージが社内に浸透することや、女性活躍推進の専門組織をつくることが重要である。

その上で、中間管理職(粘土層)が女性の登用を後押しする存在になってもらいたい。安定した正規雇用が崩壊して、大黒柱として夫の働きに頼れなくなった現実があり、妻が働くか働かないかを選択できる層は限られてきている。今の日本では、男女とも働かざるを得なくなったことが考えられる。

20代のような若い世代は性別役割について保守化している。30代、40代と年を重ねて、自分が結婚・出産を経験すると意識も変わってくる。

クオータ制についてはいろいろな議論があるが、ノルウェーではクオータ制を導入し目標を掲げて強制力を持たせた。韓国はクオータ制によって今、女性が伸びている。女性を積極的に登用しているセブン&アイのように、「まず登用して、ダメなら落とせばよい」という考え方もある。このような人材登用が日頃から実施されていれば、もう少し女性の登用も増えるだろう。

1989年から4年間、私はNECで女性活用の仕事をした。当時は、まだ「少子化」という言葉はなかったが、「なぜ女性を活用するのか」と聞かれた時に、「子どもがだんだん減ってくれば優秀な男性社員をとれなくなる。ならば優秀な女性を今から育てていかなければ会社がもたない」と答えた。女性の勤続年数も延びつつある時期で、会社として長く勤めた女性をもっと活かさなければならないと思った。2000年代になるとダイバーシティ(多様性)の重要性が叫ばれ、質の観点から女性の活用をとらえるようになった。

明石 康

 

 

お話にあった、「リーダーに必要な3つの‘C’」は、女性向けたメッセージと思うが、身近な見聞から言うと、男性に対してこそメッセージを受け止めてもらいたいくらいだ。国際交流、国際社会で活躍する人材に関するセミナーなどで感じたのは、ディスカッションに積極的参加するのは、男性より女性の人数が凌いでいる。女性は、変化を恐れずに取り組む姿勢をもっている。この背後には親の方に長男が外国に行くことに対して、懸念や心配をするという過保護の傾向があるのかもしれないが、そのあたりについてコメントをいただきたい。

私はワークライフバランスについて以前、日本経済新聞の「領空侵犯」というコラムで意見を述べたことがある。ワークライフバランスの推進は多くの場合に適用されるのだろうが、一部の職業ではリーダーシップを目指すような時に、5~10%くらいは男女にかかわらずワークとライフのバランスを考えずにワーク中心に働くことがあってもよいかと思う。人生の重きを何におくかは人それぞれで、それを自ら選ぶのが大事であろう。

保育所の充実などが必要なのはもちろん明らかである。また、家に留まるようにという社会的プレッシャーは実態をつかみにくいが、日本、韓国、中国・台湾など東アジアの国々では儒教に根ざす考えが一部をなしているかもしれない。

内海
国際的な仕事で果敢に働く人材に女性が多いというのは私も感じている。背景の一つには、親の海外赴任の場合など、女子は高校や大学まで海外で過ごして国際的感覚を身につけるが、男子の場合、中学から日本に帰国し、日本での学歴社会から外れないようにすることがあると聞く。

優秀な女性たちが日本企業に入社しても、自分の力が活かされない現実にぶつかり、海外流出、または外資系企業へ転職するケースがある。日本の企業で女性の登用をしようとしても内部に人材がいないと言って外部から登用することがあるが、外資系企業で育った人材をリクルートすることが多い。日本の企業で女性を育ててこなかったという現実がある。

家に留まるようにという社会的プレッシャー、性別役割分担の考えが回りで多いと、会社の中でも家庭をもつ女性への風当たりが強い。あるいは過剰な気遣いからやりがいのある仕事が回ってこない。男女雇用機会均等法の施行以来、総合職が出てきてその人たちが活躍するようになって、その傾向は徐々に変わってきたと思うが。

ワークとライフのバランスについては、人によって違うし、長い人生の中でも変わるものだと思う。一人で活躍している働き手ならワークだけでよいかも知れないが、家庭をもつ人にとっては違ってくる。米国のある夫婦は「家事や育児の主体は妻だと考えて夫がヘルプするのではなくて、二人でシェアすることが必要だ。ヘルプではなくシェアだ」という。日本でも若いカップルが仕事時間の取り合いをしながら、子どもの迎えと家事を分担しているようなケースもあった。

池上 清子
この10年くらいの動きについて、「女性の参画」から「男女共同参画」へという流れの中でお話しいただいた。この点は日本のジェンダーの動きに関して核心をついたキャッチフレーズだと思う。ジェンダーというと女性の問題と思われがちだが、「男性にとっての男女共同参画」が重要だと思う。これをテーマにした10月5日の国際シンポジウムの意義は深い。登壇者をみると、この分野で男性研究者、特に若手が育っていないという印象があり、このあたりが日本のジェンダーの問題かと感じる。

1)NWECで女性に対する暴力についてのデータをどう扱っているのか、またそれについてどのようにアドボカシーをしているのかお聞きしたい。また男性のNWECへの参加割合について、男性をどれくらい巻き込めているのか伺いたい。

2)2、3年前の調査で出生率について、仕事をしている女性、管理職の女性、専業主婦で比較したものがあるが、専業主婦のグループより管理職の女性の出生率が高いという結果をどうお考えか。

3)「クオータ制」導入には私も賛成であり、特に政治・経済分野での導入が日本では必要ではないかと思う。これについて日本で唯一のナショナル・マシーナリー(国内本部機構)として、どのような戦略を考えているのか。

最近、安倍首相が女性の活用を盛んに強調しているので、これをひとつの追い風として、具体的な中身のあることに結び付けていただきたいと切に思っている。

内海
最初のご質問については、国際シンポジウムやセミナーにおいて、女性への暴力や人身売買の問題などを取り上げている。情報センターでは、女性に対する暴力に関する情報・資料を収集し、広く周知・提供している。男性の参加についてはまだ克服できない面もあるが、徐々に増えている傾向にある。

2番目の出生率について管理職の女性の方が高いというのは意外に思う。背景には、管理職になっている女性が長く働いていることも挙げられるかもしれない。逆に、一般企業の女性管理職には独身が多いという事実もある。20年前に発足した「女性管理職の会」では、一般企業の管理職は独身か子どものいない人がほとんどで、一方、公務員の管理職はほとんどが結婚して子どもが2人と、官民に大きな差があった。20年の年月を経て、企業の女性管理職も変わってきたということか、これについては、課題として考えたい。
3番目の「クオータ制」について、今の日本で共同参画を強力に推進するには、クオータ制をとることが一番の早道と思う。しかし、ヨーロッパ諸国の「クオータ制」と同じようにするには色々なところからの反感を買うだろうから、目標を掲げて到達努力するところから始めてはどうか。それすら日本はまだできていない。

尾崎 美千生
日本の男女共同参画が遅れている原因について、明石さんが指摘された伝統的な儒教の影響のほか、1960年代の高度経済成長期に経済の効率化のために、性別役割分担が固定化されたことも大きな影響があるのではないか。それと、最近の役割分担の逆転傾向は、女性の結婚難、非正規雇用の増大が背景となっているのではないか。

内海
どちらもおっしゃるとおりと思う。高度経済成長期に、男は外、女は家庭という役割分業の働き方の中で経済発展を遂げてきたことが、成功体験としてとらえられている。今はあの時代と違って、男性のある年齢層だけの発想ではなく、多様な知恵とアイディアが求められる。

また、女子学生向けのセミナーで、専業主婦を志向する人には、「専業主婦ほど難しい職業はない。2人分稼ぐことを男性だけに期待しても、病気、死亡のリスクもあるし、女性が自分の食べる分くらいの収入を得るようにしなければならない」と言うと、セミナーを始める前とは少し考えが変わってくるようだ。

私自身は仕事への意思と情熱を失わずにここまで来た。本人が子どもをもっても一生働きたいと思うなら、上司とコミュニケーションをとるのが大事で、自分を守るのは自分しかいないという思いがあった。男女雇用機会均等法ができた次の年に課長に昇進、均等法や男女共同参画基本法に助けられたことも多い。

女性の活躍を推進するのに何か理由をつけなければならないのはおかしい。男性は働きたいと思えば働けるのに、女性自身が働きたいと思ったら、なぜ壁があるのか。経済を発展させるためにダイバーシティを推進するのではなく、いろいろな人が力を発揮する社会をつくることが重要なことであって、その社会をつくるために経済発展が必要という、社会学者アマルティア・センの言葉に感銘を受けた。

【参加者の声から】
  • 安倍首相の経済成長戦略のなかで、女性活用が盛んに言われているが、職場で、子どもがいない女性は男性と共に働けても、子どもを持つと時間短縮などさまざまの問題を抱えることになる。会社によってはワーキングマザーで構成される部署をつくることもあるが、マミートラック(育児との両立は可能だが、出世とは縁遠いキャリアコース)一歩手前というケースもある。
  • お金のために働くのか、自己実現のために働くのかなど、いろいろな場面があるが、女性の人権に立ち返り、男女の人間の問題として考えるようにしたい。

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阿藤
日本の社会の未来にとって極めて重要なテーマを話し合えた。データが示すように男女共同参画の現状は厳しいが、中間管理職の問題も含めて、「文化」というか女性の進出を阻んでいる目に見えにくいバリアーを何とかみんなの力で取り除いていきたい。

文責:編集部 ©人口問題協議会明石研究会
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