「Mama’s Determination」 HIV母子感染予防啓発教材 7月22日、ガーナで発表会開催~全国の保健施設での利用に向けて

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2014.8.25

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「Mama’s Determination」(ママの決意)は、国際協力機構(JICA)技術協力プロジェクト「ガーナ国HIV母子感染予防(PMTCT)にかかる運営能力強化プロジェクト」の一環として、ジョイセフとガーナ政府の協働で制作された新しい教材です。この教材は教育(エデュケーション)と娯楽(エンターテイメント)を組み合わせ、保健施設に来た妊産婦さんたちが、楽しみながらHIVの母子感染予防(PMTCT:Prevention of Mother-To-Child Transmission of HIV)の重要性を理解し、保健医療施設でPMTCTサービスを受けたいと思ってもらえるように制作されました。教材は、待合室で見せるビデオドラマおよびフォトドラマブック、そしてPMTCTカウンセラーが妊産婦さんたちにカウンセリングの際に渡す、双方向のコミュニケーションをサポートするためのメッセージカードの3点セットです。

【ドラマのあらすじ】

ある日、妻ナンシーから、産前健診の際にHIVテストで陽性反応が出たことを告白されるジョージ。泣き崩れる妻を見ながら、自分も過去に受けたHIVテストで陽性だったことがどうしても言えない。神に一心不乱に祈り続けていたナンシーだったが、病院に通うようになり、定期的に母子感染予防のための薬を飲み、徐々に生き生きとするようになった。一方、ジョージはナンシーに真実を告げることができず、自責の念にかられるようになっていった。太鼓奏者として所属するバンドのリーダーが、演奏に集中できないジョージを心配して相談にのってくれたが、病院に行くことができないジョージだった。
やがて、2人はかわいい女の赤ちゃんに恵まれる。心配されたHIVの母子感染も、ナンシーが薬を飲み続けていた効果があって、陰性だった。幸せを噛み締めていた矢先、ジョージがエイズを発症し、亡くなってしまう。悲しみにくれるナンシー。しかし、お腹にはジョージとの2人目の赤ちゃんが宿っていた。
それから20年。ナンシーの41歳の誕生会が催されている。家族からの祝福を受けるナンシーの腕には、娘が産んだ孫のジョージが抱かれている……。



この教材を制作するにあたり、ジョイセフは事前に実際に起きた出来事に関して現地での綿密な聞き取り調査を行いました。担当は技術移転グループ(J_CEU)の吉野と吉留です。話を聞いたのは、現場でPMTCTサービスに携わる保健スタッフや、実際にHIV検査や母子感染予防のための服薬をして出産を経験したお母さんたち、太鼓奏者など。とくに、HIV陽性の母親からは、夫との出会いやHIV陽性を知った時の気持ち、保健施設での応対の印象などを聞き取りし、彼女たちの具体的なエピソードを作品に盛り込むことで、観た人の共感が得られるストーリー展開を目指しました。また、主人公がガーナの音楽において、欠かすことのできない伝統的な太鼓の演奏家という設定であることから、太鼓の持ち方や種類についても細かく情報収集を行い、娯楽作品としても楽しめる内容を心がけました。

ガーナにおけるPMTCTに関する国家目標やプロジェクト目標から引き出した3つのメインメッセージ、

  1. HIV検査を受けて、自分の感染状況を知りましょう。
  2. HIV陽性の場合は母子感染予防や治療のための薬を飲みましょう。
  3. 不安や心配事は近くのカウンセラーに相談しましょう。

に、取材内容を盛り込み、台本が完成しました。

診療所によってはDVDプレーヤーやモニターがないなど、ビデオの上映が難しい施設もあることを考慮し、ビデオドラマと連動したフォトドラマブックも同時に作成することになりました。

取材で出会った助産師さんのお話から発想を得たのがもう一つのツール、メッセージカードです。産科クリニックで助産師として働くゾラさんは、HIV検査で陽性とわかったお母さんたちを、別の場所にあるHIV治療のためのクリニックに送り出す際、「オフィーリアおばさんに会いに行きなさい」というメッセージだけを書き記した小さなメモを渡します。そして、お母さんたちが移動している間にPTMCTカウンセラーのオフィーリアさんに電話で連絡をとり、お母さんが着いた時にはオフィーリアさんが迎え入れる態勢になっているということ。またオフィーリアさんは、いつでも心配なことがあったら自分に電話で相談できるように、お財布に入るサイズの小さな手帳に彼女自身の電話番号を書いてサービス利用者に渡しているということでした。

このお話から、保健サービスを担うスタッフと利用者のコミュニケーションを強化するツールがあってもいいのではとの意見が浮上。メッセージカードが開発されました。センスのあるデザインに定評のある地元デザイナーにお願いし、思わず「かわいい!」と、とっておきたくなるような手の平サイズのカラフルで魅力的なカードが出来上がりました。

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ビデオドラマ、フォトドラマブック、そしてメッセージカードの3つのツールの制作が決まったら、いよいよドラマの撮影です。撮影チームは技術移転グループの吉野、吉留を中心に、プロジェクトの運営に携わる開発グループの山口、稲葉、そして現地にて保健の啓発教育を担うガーナ保健サービス健康増進課、ガーナ国家エイズ委員会、IPPFガーナ(ガーナ家族計画協会)のメンバーで構成されました。現地のスタッフの多くは、本格的な映像制作は初めてでした。

撮影はオンザジョブ・トレーニング形式で実践的に学びながら、作業を進めていきました。ジョイセフが開発途上国で映像作品を撮影する際は、台本の読み方、ロケーションハンティング、小道具・大道具、衣装、カメラワーク、演出、音声、照明にいたるまで、撮影に関するすべての技術を実際に作業を通じて指導し、習得してもらうようにプログラムを組みます。今後、彼らが独自に啓発教材を開発する時に役立ててもらうことを前提としているからです。また、撮影の際に集めた映像素材は、「Multi-Solution(マルチ・ソリューション)」と呼ばれる技術によって複数の教材制作に活用することが可能となるため、その技術の移転も同時に行われました。

撮影作業は9日間の日程で進みました。診療所の看板や車のペインティングといった小道具の準備も自分たちで行い、また夜のシーンの撮影もあり、時には夜10時を回ることもありましたが、チーム一丸となって作品づくりに取り組みました。

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完成した作品は、2013年10月から12月にかけて約2カ月間、ガーナ国内の23の保健施設で試験的に使用され、そこでフィードバックされた意見を反映したものが今年6月に完成しました。2014年8月からは順次、ガーナ全土の保健施設で3つの教材が導入されることになっています。それに先駆け、7月22日に首都アクラで大々的なお披露目のための教材発表会が行われました。

教材発表会にはガーナの政府関係者、全国10州の保健関係者、国連機関、NGO、メディアなど114名が集まりました。ガーナ国保健大臣代理、駐ガーナ日本国特命全権大使の二階尚人氏、JICAガーナ事務所所長代理も列席し、新たに制作された啓発教材への期待の高さを伺わせました。この新しい教材に対する反応は大変好評で、政府として正式に全国で使用されることがこの日宣言されました。また、会の模様は、ガーナ国内のテレビ2局、新聞3社で大きく取り上げられました。

産前健診でたとえHIV陽性が判明したとしても、適切なケアとアドバイスを受ければ、生まれてくる子どもへの感染を防げること、自分自身も健康に生きられることを前向きに謳った「Mama’s Determination」。ガーナはHIV陽性の妊婦が比較的多く、重要な国家目標のひとつとして、2015年までにHIVの母子感染ストップが掲げられています。妊娠した女性の90%以上が産前健診を受けるガーナだからこそ、保健施設でこの教材に触れる機会が増えれば、一人でも多くの命が救えるかもしれないと、大きな期待が寄せられています。
ジョイセフは、今回の啓発教材を通じて勇気づけられるお母さんを増やすとともに、保健サービスの質の向上を図ることで、利用者がより快適にサービスを活用できるように、この事業の強化を図っています。

完成した3つのツール

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現地TVで放送された教材発表会の様子

現場の声
すでに教材が使われている保健施設をモニタリングしたところ、ドラマを観て「たとえ陽性反応が出ても人生終わりじゃない」と、実際にHIV検査を受ける人が増えてきているとか!
自分だけでなく夫にもサービスの利用を勧めるなど、着実に妊産婦さんたちの行動変容につながっていました。現場で働く助産師からは、ドラマの登場人物になぞらえて利用者にPMTCTについて説明できるので、わかりやすく伝えられると高い評価もいただきました。メッセージカードもクライアントの心理的なサポートに大きく貢献し、電話で相談をしてくる妊産婦さんが増え、カウンセラーとクライアントの間のコミュニケーションが強化されているということです。また妊産婦さんのみならず、「妻の説明だけではよくわからなくてもっと知りたい…」と、利用者の夫が、カードに書かれた番号に電話をかけてきて、相談をしてくることもあるそうです。このように、行動変容に結びつくカウンセリングの強化に効果を発揮していることがわかりました。